【インタビュー】日本でブラジル音楽シーンを形成する今井亮太郎、本場のノリ、ロマン、官能を知る新作完成。ピアニストの生態まで明かす。

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■問題点のひとつは、今のブラジル音楽業界の日本人に、魅力的なアーティストが少ないこと。
■小野リサさんのように、強いアーティストがもっと出てこないといけない。

── オリジナルについては、どんなイメージで作って行ったんですか。

今井:今回は、1曲目の「青い瞳のアドリアーナ」がアルバムを作るきっかけになってます。青をテーマに作ろうというイメージがまずあって、空があって海があって、古い映画みたいなシーンを写したアルバムを作りたかったので。異国の街をひとりで旅していて、音楽のあるバーに行って、美女と恋に落ちる。それで一夜を過ごすのだけど、二度と会わないふたりは連絡先を交換しない……という物語を作って、そういうイメージの曲を書いたんですね。異国の、海があって、空があって、白い壁の家があって、青い瞳のアドリアーナという女性がいる、その曲がアルバムの始まりになってます。そして「スカイブルーの肖像」という曲は、「青い瞳のアドリアーナ」の後日談なんですね。男の人のほうがやっぱり彼女が忘れられなくて、もう一回同じ街を訪ねるけど彼女には会えなかった……という物語。そして一番最後に入れた「月明かりのエンジェル」は、その状況を反対から見た感じで、アドリアーナさんもやっぱりあの日のことが忘れられなくて、あの日と同じ月の夜に、気持ちが昂ぶって、月明かりの下で裸足で踊りだすというシーンを思い浮かべて書きました。

── 連作になっているんですね。短編映画のオムニバスのような。



今井:大きく見ると、青い空と青い海のもとで繰り広げられる恋愛模様で、“愛”がテーマになっているので、「ミ・アモーレ」もそういう意味でははまるんですよ。「Carinhoso –カリニョーゾ-」も熱烈なラブソングなので、テーマに沿ってそういう曲を散りばめてみました。「湘南マランドロ」はご機嫌な曲ですけど、マランドロは“粋な遊び人”という意味で、もともとは僕が一緒にやっているブラジル人に、“亮ちゃんは湘南生まれのマランドロだから、「湘南マランドロ」という曲を書いてみれば?”と言われて書いた曲なんですけど(笑)。この曲に関しては“愛”というテーマからそれるかもしれないけど、自分の中のストーリーとしては、「青い瞳のアドリアーナ」の主人公の男も本来はマランドロで、でも突然恋に落ちてしまって……というようなイメージで、演奏したつもりなんです。

── つながりますね。いろんなことが。

今井:そして「色えんぴつ」という曲は、僕の母が亡くなった日に書いた曲です。最後の2か月ぐらいの間、水彩色えんぴつで絵手紙をたくさん書いていて、その作品が素晴らしかったので、病院から帰ってくる途中でパッと曲が浮かびました。生きる力に溢れた、楽しそうな絵ばかりだったんですよ。そのイメージで曲を書いたんですけど、その日の夕方に母は亡くなってしまった。この曲はショーロ・スタイルで書かれているので、去年セウシーニョが来日した時に一緒に演奏したバージョンがこれです。「紫陽花」も、母親の絵手紙の中に「紫陽花」という作品があって、そこに父との出会いのエピソードが書いてあったんですね。鎌倉の明月院で初めてデートした日のことを、とても素敵な思い出だからそっと胸にしまっておく、って書いてあるんですよ。

── それは……素敵なお話です。

今井:“青”というテーマにおいても、紫陽花は雨の中で青い花を咲かせますし、そういう意味もあります。「Sepia Rosa –セピア・ホーザー-」は去年、僕の地元の平塚市がプロモーション映像を作った時に入れた曲で、平塚市は昔、バラの生産高が日本一だった時期があるらしくて、“セピア色のバラ”というタイトルは、バラは色が褪せても輝きを失わないという意味で、それは恋愛にもたとえられるんじゃないか?と思って書きました。「Mais –マイス-」という曲は、23歳ぐらいの時、初めてブラジルに行って、帰って来てすぐに書いた曲です。僕が一番遊びほうけてる時期で、「Mais –マイス-」は“もっと”という意味なんですよ。だから、簡単に言ったらエロい曲ですね(笑)。「Feel Like Makin’Love」もそういう曲なので、オリジナル曲もカバーの曲も、テーマに沿って選曲しました。“青”“色”“愛”ということですね。

── 「青い瞳のアドリアーナ」のミュージックビデオ、観せてもらったんですけども。今井さんのマランドロぶりが遺憾なく発揮されていて、うらやましいぞと(笑)。




今井:観ちゃいましたか(笑)。あれは絶対、僕のお客さんたちが見たら“やっぱり”って言うと思う(笑)。昨日、ライブでブラジル人のドラマー・“アレックス”アレシャンドレ オザキと一緒にいたんだけど、“こういうビデオが出来たよ”って見せてたら、途中で“亮ちゃん、この女性を持って帰るんでしょ?”って、オチがバレてた(笑)。でもあれ、二段オチなんですよ。女の人のほうが実は遊び人だったという……あとはみなさんに見てもらうことにして(笑)。


── ああいう楽しい映像にも、ブラジル音楽の魅力が詰まってると思いました。カッコよくて官能的で、ダンサーの踊りも素晴らしいですし。

今井:潜在的に、ブラジル音楽が好きな方は日本にたくさんいると思うんですよ。ただいろんな問題点があると思っていて、一つには今のブラジル音楽業界の日本人に、魅力的なアーティストが少ないこと。それは本当に僕たちが悪いと思ってるんですけど、集客が埋まらないから、ライブハウスの現場からブラジル音楽が敬遠されて来たということがあるんですよ。そこで “ブラジル音楽は良いよ”と言ってもなかなか聴いてはもらえないと思うので、それよりも早いのは、アーティストが強くなること。それぞれにファンがついてくれれば、変わっていくと思うんですよ。具体的に言うと、小野リサさんを聴きに行く人って、ボサノヴァを聴きに行くんじゃなくて、小野リサを聴きに行くんだと思うんですね。アーティストが強いというのはそういうことで、そういう意味では、日本のブラジル音楽業界では、それが出来るのは小野リサさんぐらいしかパッと思い浮かばない。そういう強いアーティストがもっと出て来て、ブラジル音楽を紹介すれば、ストレートに入って来ると思うんです。この人の音楽がいいなと思って聴いてたら、それがブラジル音楽だったというのが、一番自然だと思うので。

── そう思います。

今井:それをやらないと、本当の意味でシーンは作れないかなと思ってます。僕はたまたま曲が書けるので、今井亮太郎として、ブラジル音楽のシーンを作るために攻めて行くことが大事だと思ってます。

── 今井さんのマランドロの才能を、ファンを引きつける方向で発揮していただければ……(笑)。

今井:社交の場でね。夜の世界ではなく(笑)。

── 実は、そこも教えを乞いたかったんですけど(笑)。ずばり、マランドロになるための心得というのは?

今井:それ聞きますか(笑)。マランドロになるためには……マメなことじゃないですかね。あと、出来るだけ御機嫌に接すること。で、その合間に“この人、意外と考えてるかも”という顔を見せる(笑)。


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