3月生まれのミュージシャンが結集すると、どんなライブになるのか?
3月生まれの会。要するに、3月生まれのミュージシャンたちが集まって、自分たちの誕生日ライヴを盛大にやっちゃおうぜ!という催しである。
◆<3月生まれの会>画像
発起人はシンガーソングライターの中澤"GATZ"ノブヨシ、ギタリストの星川薫、サックスの山本一という盟友3人。偶然にも3人とも3月生まれだったことから、ごく軽い気持ちで<3月生まれしばり>のライヴをやってみようかと、Facebookのカレンダーにあった3月生まれのミュージシャンたちに声をかけまくってみると、思いがけず豪華なメンツが揃ってしまったということらしい。その多くはレコードのクレジットでよく見かける名前で、日本の音楽シーンを陰から支えてきた実力派ばかり。よくこれだけのメンバーのスケジュールが合ったもんだと本人たちも驚くほどだった。おかげで当日のリハのみでの演奏となったそうだが、濃厚な演奏を聴かせてくれた。
ちなみに、出演者全員が3月生まれにもかかわらず、ライブ当日の3月12日生まれの人はいなかったそうで、GATZ曰く、その点では平等だそうである(笑)
僕は贅沢にもゲスト席で見ていたのだが、そこには(3月生まれではない)実力派のベテランミュージシャンたちが陣取り、僕は場違い感に恐縮する一方だった。鮫島秀樹さん(元ツイスト、ハウンドドッグ)やMy Little Loverのakkoさん、井手麻理子、ジョジョの主題歌で知られるTOMMYさんの姿もあった。そして、もう一人、すごいオーラを放つ人が。その時はまさかその人本人だとは思わなかったのだが。
2ステージ制の1ステージ目は、Kool & The Gangの「Let The Music Take Your Mind」でスタート。早速飛び出したギタリスト星川薫と佐藤純朗のソロ合戦では、エロさとセクシーさ対決のような、違った個性のぶつかり合いが楽しい。
そして、この日唯一の男性シンガーである中沢"GATZ"ノブヨシが音頭をとりつつ、ゆるりと客席を温めていく。MOMOGATZの名前でも活動する二人、元Cosa Nostraの鈴木桃子とGATZが、Incognitoの「Still A Friend Of Mine」で心地よく客席の耳をときほぐしていったのも束の間、早くもハイライトの1つが訪れる。次にリードを取ったのは、この日の最年少で唯一の20代、若い世代では別格の実力を持ったLyn(稲泉りん)。グラディス・ナイト&ピップス「夜汽車よジョージアへ」で聴かせたヴォーカルは、パワフルかつ絶妙な押し引きと共に、これまでの「日本人がいかにソウルを歌うか」という次元にはもはやないことを示した。ゲスト席で見ていたベテランたちも、「なんだ、あれ…」と驚くほど。新しい世代は確実にネクストレヴェルに到達していると確信した瞬間だった。
再びのMOMOGATZにB.B.クイーンズの坪倉唯子を加えて歌うは、スティーヴン・スティルス「Love The One You're With」。こういった場では締めの曲として演奏されることが多い曲だが、こんな前半に持ってきてしまうポテンシャルの高さ。追い討ちをかけるように女性シンガー5人によるビージーズ「Stayin' Alive」の盛り上がりから、再び登場したGATZが女性陣と共にディオンヌ・ワーウィック「That's What Friends Are For」を歌い、1stステージを柔らかに着地させた。
2ndステージは、ギタリスト5人だけでJB「Ain't It Funky Now」を演奏するという試みでスタート。サックスの山本一曰く「画面いっぱいに6人が並んでるのがかわいくて(笑)」という絵面は、妙に力の抜けていて和ませるものだった。続くハービー・ハンコックのファンク「Hang Up Your Hang Ups」では、一転して凄まじい演奏を聴かせる。物凄いテンションで迫り来る、名手、柿崎洋一郎のエレピソロ。それとは対照的に音数を抑えながらも凄みを感じさせるPenny-Kのピアノ。山本一と園山光博のサックスの掛け合い。それに負けじと炸裂する高田真のドラムソロには大きな拍手が送られた。これが本当にほぼリハなしの演奏なのだろうか。
そして、ここで本日初めて出演者全員がステージに。GATZがアレンジしたというバースデイソングメドレー、題して「Happy Birthday to Me and You」。定番の「Happy Birthday」にスティーヴィー・ワンダー「Happy Birthday」を織り交ぜ、緩いジャズコーラスアレンジをしたもので、「Happy Birthday to You and Me and Everyone」と歌われると会場は和やかな空気に包まれる。「まさか自分のオリジナル曲を挙げて来る人がいるとは」と、GATZがキーボードの"フラッシュ"金子隆博(米米クラブ)の「Hand To Hand~大切な君へ~」を歌うが、これがまるでGATZのオリジナル曲というくらいのハマり具合。このピースフルで温かなバラードはこの場にぴったりの選曲だった。
続いて女性シンガーたちがモータウンを2曲。大滝裕子、斎藤久美というAmazonsの二人に鈴木桃子でシュプリームス「恋はあせらず」を振り付きで歌う。これにはステージ上からも"かわいい~"の声が。女子は幾つになっても"女の子"に戻れるのですね。鈴木に変わって佐々木久美がマイクの前に立つと、唐突に振り付けの確認を始める。「こんなの久々だからさぁ~」という佐々木に、「この人は元スクールメイツで、キャンディーズのバックとかで踊ってたんですよ~」と大滝からまさか暴露(笑)。楽器のメンバーが一斉にステージを降りると、ステージには坪倉唯子、Lyn、GATZ、そして、キーボードの大山泰輝だけが残される。ここからが後半のハイライト。大山がおもむろにピアノで素晴らしいアドリブソロを弾くと、坪倉がお得意のベット・ミドラー「The Rose」を静かに歌い始める。2コーラス目でGATZがハーモニーを乗せ、3コーラス目でLynが加わった瞬間、ハッと息を飲むほどに世界が広がり、静かな感動が押し寄せる。GATZが巧みなMCでお客さんを立たせると、ここからはダンスタイム。クール&ザ・ギャング「Ladies Night」、アース・ウインド&ファイアー「September」と定番のダンスチューンをホンモノそっくりな音で演奏。意図したものではないのかもしれないが、こういったところにそのキャリアやルーツが透けて見えるようだ。最後は出演者全員の名前をコールして本編は終了した。
当然のようにアンコールがかかると、佐々木久美によってスペシャルゲストが呼び込まれる。「3月9日生まれの私たちの仲間です。未唯さ~ん!」僕がゲスト席で見ていたその姿は確かに未唯mieだったのだが、あまりの意外さにまさか本人だとは思わなかったが、かなりノリノリでステージを見ていた様子などからも、本人もすごく楽しんでいたようだ。その若さ、スタイルの良さに、坪倉唯子は思わず「細っ!」とマイクを通した(笑)。そして、そのオーラ。まさに"スター"とはこういう人を言うのだろう。歌った曲はスプリームス「Stop! In The Name Of Love」。大きなアクションと動きのキレは、魅せるということの意味を本当に分かっている人のもの。ある意味、ミック・ジャガーなどと同質のものを感じたと言うと言い過ぎだろうか。ここでメンバー全員をステージに呼び込むと、再びサプライズが。お店からバースディケーキの差し入れが。未唯、坪倉、Lynの3人でロウソクの火を一気に吹き消した。「最後はこの曲です!」そのイントロはやっぱりこの曲「UFO」。出演者みんなあの振り付けができるというのは驚きだったが、特に女性陣は子供の頃にマネしていたに違いなく、その馴れたことといったら。改めてピンク・レディーの偉大さを思い知らされたのであった。
それにしても、これだけステージの出入りが激しくてもゆったり緩やかに進行していく様は、3月生まれ独特のものなのだろうか。「こんだけ濃くてふわっとしてる人が集まってるのが3月生まれっぽい」という山本のMCは言い得て妙。
こういったベテランプレイヤーたちによるセッション感覚のライヴは、いわゆる<アーティスト>のライヴとは違って、その経験に裏打ちされた余裕と安定のプレイを楽しむもの。これだけの大物プレイヤーたちが集まっても、やはり初対面という人たちも多かったようで、そのへんのプレイの駆け引きも楽しめた。もう、音で会話してるのが手に取るようにわかって凄いんです。あと、ウィットに富んだ軽いジョークを飛ばしまくるMCも、これもセッション・ミュージシャンならではのコミュニケーションの1つで、楽屋でも笑い声が絶えないもの。こういった感覚が分かってくると、こういったライヴをより楽しめるかもしれません。
また来年もやるかもとのことなので、楽しみにしてもいいかもよ。
文:池上尚志
写真:岡部直美
<3月生まれの会>
・中澤"GATZ"ノブヨシ vo,g
・鈴木桃子 vo
・大滝裕子 vo
・斉藤久美 vo
・坪倉唯子 vo
・Lyn vo
・佐々木久美 vo,key
・柿崎洋一郎 key
・大山泰輝 key
・Penny-K key
・"フラッシュ"金子隆博 key
・市川祥治 g
・高橋圭一 g
・星川薫 g
・佐藤純郎 g
・古川昌義 g
・池間史規 b
・高田真 ds
・小林太 tp
・園山光博 sax
・山本一 sax
・未唯mie vo
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