【インタビュー】究極のエルヴィス・プレスリー・トリビュート。当時の機材で録音環境も再現

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── ROY(THE BAWDIES)さんは参加ミュージシャンの中で一番の若手ですが、ルーツ・ミュージックにかなり精通した方ですよね。SUGARさんはTHE BAWDIESとずっと仕事をしてきたんですよね。

SUGAR:彼らがまだ大学生の頃に、現在所属している事務所の社長さんからエンジニアリングとサウンドプロデュースをやってくれないかと相談されたんだ。それでライヴを観たときに4人が演奏したときに放つ華、オーラみたいなものがあって“こいつら本物だな”って思ったよ。だから2つ返事でやらせてもらうことにしたんだ。それからインディーズ時代の作品はほぼ全部僕が録って、メジャーに行ってから1枚目のシングルまでを担当しているんだ。だから彼らの初期の音作り・方向性というのは僕が構築したといっても過言ではないが、ただそれは彼ら、特にROY君がルーツ・ミュージックに対する理解と知識があったからこそ成立したことなんだ。この企画で声を掛ける時に、今やビッグ・アーティストになってしまったな……と思ったけど、声を掛けたらすぐに“是非!!“という返事が返ってきたよ。

── ROYさんというと、ウィルソン・ピケットのような声と歌い方が特徴ですけど、今回は普段の歌い方とはちょっと違う印象ですね。

SUGAR:じつは彼が目指している音というのが、ウィルソン・ピケットにしてもリトル・リチャードにしてもそうなんだが、厳密にはそういう声で歌っていたわけではないんだ。それは僕がヴィンテージ機材のレコーディング・エンジニアとしてわかっていることなのだが、レコーディング機材やレコードにプレスされたり電波に乗ったりした段階で付加されていたものなんだよ。

── そうなんですか!?

SUGAR:実はそうなんだ。ROY君はそこを過剰に表現しようとして頑張っていたんだが、僕から“そうではないんだよ、本来はそういう歌い方をおそらくしていないと俺は思う”と伝えたんだ。じつはこういう過程でこういうレコーディングをすると、本人が望む望まないに関わらず、いたしかたなく当時その音になっていたという経緯があるんだ、と。それを彼は今回僕の機材セットで痛感したようだ。“え!? こういう風に歌ってリトル・リチャードみたいな音が録れるんだ”と非常に衝撃を受けていたね。確かに現代のサウンドレコーディングで彼の良しとしているサウンドを得るには、今の彼の歌い方しかない。ただ、僕がやっているすべてをレイドバックしてリアルなものでやるとなると、じつは当時のミュージシャンはそうは歌っていないよ、というのが現実なんだ。

── ROYさんも結構キャリアを重ねてきた中でそんな発見があるとは思わなかったかもしれませんね。

SUGAR:彼自身もすごく驚いていたね。彼らが良いと思っているルーツ・ミュージックの音が今も作れるということに。

── 鈴木茂(exはっぴぃえんど)さんが参加しているのも話題になりそうですね。鈴木さんとはどのようなつながりがあったんでしょうか?

SUGAR:茂さんも、ものすごいヴィンテージマニアの方で、日本国内で有数の真空管機材のマニアなんだ。それはもう彼がはっぴぃえんどに入る前からのことで、幼い頃から機械に対する造詣が深いらしいんだ。僕はL⇔R(エルアール)の黒沢(秀樹)君と知り合う機会があって、黒沢君の仕事で茂さんが来ているときに僕がエンジニアで顔を出していて、そこで紹介してもらったんだ。そこからのお付き合いだね。自分ははっぴぃえんども大好きだし憧れの茂さんということと、同じ機材マニアということで、多いときには週1回家にきて色々機材を見て“このマイクはどうかな?”なんていう話をしていたんだ(笑)。

── そうだったんですね。鈴木さんが参加した「BURNING LOVE」のギターはラインで録っているんですか?

SUGAR:エルヴィスのオリジナルで言うと、この曲の作曲者がオーバーダブしているのが、右側に入っている一番初めに聴こえるカッティングのギターなんだが、これは作曲者がエルヴィスのカバー・アルバムに作者自らギターを弾きに来ているんだ。その部分をライン録音にしたんだが、残りは全部アンプとマイクだよ。

── 鈴木さん自作のダイレクト・ボックスを使っているそうですね。

SUGAR:そうなんだよ。茂さんはご自分のブランドも持っていらっしゃって、ペダルとかを作っているんだ。どれも音が最高に良いんだ。本当に素晴らしいよ。

── やはり音に造詣が深い者同士、つながるものなんですね。

SUGAR:それと、日本でエルヴィスといえば大滝詠一さんということもあって、僕も大滝さんのことが大好きなので茂さんに話したら、やはりエルヴィスからの影響は凄いんだという話をしてくれて。僕も機材に関しては充分、世界レベルで対等に話せる自信があったから、ぜひ大滝さんを紹介してください、と言ったんだ。それで茂さんが僕をレコーディングのときに連れて行ってくれて、大滝さんに紹介してくれたんだよ。それでいつかこういう企画で何かを一緒に、という話は数年前から出てはいたんだけど、ついに本格的なお声掛けをする前に亡くなられてしまって……。そういう経緯があって僕もこのアルバムを作る決意をして、茂さんにも“力を貸してください”と話して協力して頂いたんだ。

── そういう経緯があったんですね。ということは、大滝さんへのトリビュート作品という意味あいもあるわけですね。

SUGAR:じつはそういう気持ちはすごくあるんだ。どこにもそういう事は書いていないけど、気持ちの中でのその比重はとても大きいね。

── 本当にいろんなストーリーが想いが込められたアルバムなんですね。

SUGAR:うん、そうだね。
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