【ライブレポート】新山詩織、常にピュアで一生懸命な「もっと楽しんでいいんだよ」

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アーティストデビューから丸2年目となる12月12日、代官山UNITで新山詩織の2周年を祝う記念ライブが敢行された。その模様は速報レポートでお伝えした通りだが、その日に彼女は何を見せ、何を伝えようとしたのか改めて考察してみたい。

◆新山詩織 拡大画像

開演時間を少し回ったとき、ロックなオープニングSEが暗闇に吸い込まれるように途切れ、唐突にライブの開幕は告げられた。アコギを手にした新山がステージ中央に立ち、小さくため息をつくように息を吸い込むと、アカペラで「だからさ」の冒頭を歌い始めた。そのまっすぐな歌声に導かれるように、クリーンでどこか切なげなギターの音が彼女の手から放たれた。決して大仰なはじまりではないが、ピュアな歌声に誰もが瞬時に惹き込まれた。わずかでも聞き漏らすまいと熱心に耳を傾けるオーディエンスの、静かだが熱のこもった空気に会場は満たされていた。

開口一番、「アーティストとしてデビューしてちょうど2周年の日を皆さんと過ごせて幸せです」と伝えた新山。簡潔で飾り気のない言葉で謝意を伝える控え目なところも、実に彼女らしい。きっと心の中では、溢れる思いがあるはずなのに。

続いて、跳ねるようなリズムと開放感あるサウンドに心弾む「Looking to the sky」を歌い始めた。伸びやかな歌声で、サビの“Looking to the sky この空越えて”と歌うところでは、無意識に空を仰ぐような仕草をみせたが、その視線の先に青い空が広がっているような錯覚に、わずかだが陥った。

かと思えば、「ひとりごと」では少し諦めたような、どこか醒めたような歌声でやり場のない不安をつぶやくように歌い、大らかさをたたえたミッドチューン「今 ここにいる」では、内向きな自分を見限って、前に進むしかないと心に言い聞かせているように歌っているように見えた。

「2012年12月12日に「だからさ~acoustic version~」でアーティストデビューして、2年が経ちました。あの時にたくさんの人の名前を書いて贈りましたが、そのCDを持っている人はいますか?」と問いかけると、「持ってるよ!」の声があちこちから聞こえた。ちなみに、“そのCD”とは、アーティストデビュー時に0thシングルとして当時、メルマガ登録した人へ宛名とサインを書いて全員プレゼントした「だからさ~acoustic version~」のこと。中学時代に学校での鬱憤を綴った、彼女の原点ともいえる楽曲だ。

「デビューしてから2年間。壁に打ち当たっては、一歩一歩踏み出すことの繰り返しでした。言葉が出てこなくて、頭を掻きむしりながらも、目を閉じたくなっても前に進めたのは、皆さんからの温かい励ましやメッセージがあったからです。今年3月に学校生活から抜け出しました(笑)。学生時代には苦手だと思っていたことも今にしてみれば小さな思い出。皆と食べたお弁当や他愛ない会話をもう味わうこともないと思うと、スカッとしながらも愛おしくもあります。音楽と学校を両立して発見できたこともあり、良かったなと思っています。そんな学生生活の思いをギュッと込めた3曲を歌います」

そう言って、「午後3時」を弾き語りはじめた。つま弾くような、少しものうげなアコギとぽつりぽつりと語るような歌声から次第にテンポアップしていくさまは、何か起こりそうなドキドキ感を味合わせてくれた。「きらきら」では、ウォームでどこかノスタルジックなサウンドと、それに寄り添う歌声で楽曲の世界を表情豊かに歌いかけた。短編映画のために書き下ろすという初めての経験から生まれた「分かってるよ」は、重厚感のあるサウンドが遅々として進まないもどかしい時間を思わせつつ、サビでは圧縮した感情を一気に爆発させるように歌い切り、空気ががらっと変わるのを感じた。

以前、インタビューで「最近はアコースティック編成でのライブが多いから、強い歌を歌えるようになりたい」と言っていたが、この日の彼女はのっけから最後まで、その目標をきっちりと果たせていたと思う。単純にパワフルに歌うのではなく、悩みを語るときは内省的に歌い、未来を見据える歌では明るさを携えた声で歌ったりと、言葉に命を吹き込み言霊に換えていたように感じた。

ライブ中盤では、スペシャルライブらしくいつもと違った趣向も。その1つが、彼女が敬愛するThe Birthdayのカバー「ピアノ」での12弦ギターの演奏だ。この曲は4thシングル「今 ここにいる」のカップリング曲として収録されている。

「「ピアノ」はいつものギターと違う音がしているんですが、それ分かりましたか? 実は12弦ギターの音なのですが、今日はそのギターを弾いて歌います」

決して大きな体ではない彼女には、もしかすると12弦ギターのネックは太かったかもしれない。でも、そんなことを感じさせないくらい繊細さと深みのある音色を引き出していたし、緊張感のある鍵盤の音色と相まって、疾走感あふれるロックを見事に歌いこなしていた。そんな熱い余韻に浸っていると、今度は「たんぽぽ」のゆったりとした心地よいサウンド感と温かな歌声に、瞬く間に心が解き放たれた。

そんなふうにめくるめく世界を魅せながら、曲間では「すみません。お水飲みます」と丁寧に断りを入れたりする。あまりにぼくとつで謙虚な姿に、観客から思わず温かな笑いが起きたほどだ。いい意味で生真面目で居続けられるのも新山詩織という人の才能の片鱗を魅せる一場面でもある。こんなふうにいつだってどんな物事にも、真正面から向き合う嘘のない人だからこそ、心揺さぶる歌が歌えるのだろう。

「FM NACK5で『新山詩織のふたりごと』というレギュラー番組をやらせていただいていますが、そこで毎月1回カバーをする企画があって、今回は70年代から2000年代の、今まで歌ってきた曲を歌います」

カバーコーナーの1曲目はキャロル・キングの名曲「I feel the earth move」だった。出だしはゆったりとはじまったが、次第にテンポアップしていく曲調の中で、英詞をリズム良く自然に歌いこなすのは意外に難しい。特に新山詩織のように日頃、言葉を音符に乗せてはっきりと歌うシンガーには、譜割りのニュアンスが異なる英語のカバーは難易度が高かったのではないだろうか。だが、チャレンジしがいのある往年の名曲を、背伸びすることなく言葉をしっかり届けるように歌う新山の姿はとても好印象だった。

2曲目はザ・タイマーズの「デイ・ドリーム・ビリーバー」。これ自体が既に洋楽のカバーの日本語編でもあり、多くのアーティストが歌ってきた。曲の途中でミラーボールが瞬くドリーミーでキュートな楽曲の魅力そのままに、ガーリーな可愛らしさが詰まった歌唱となり、新山詩織の新たな一面が垣間見れた気がした。

3曲目「Raining」は、ある意味でオリジナルと対照的だったかもしれない。原曲を歌うCoccoは、野性的で個性的な歌声が魅力だが、新山は内に秘めた静けさと芯の強さを持っている。オリジナルでは個人的に青空が目に浮かぶイメージだったが、新山が歌うと教室の何気ない風景が目の前に鮮やかに広がったのには驚かされた。

本パートのラストは、これもカバーで人気の高いSUPER BUTTER DOGの「サヨナラCOLOR」。クリーンで少しひんやりするようなアルペジオから繊細な歌へと入るイントロ部分も聴き応えがあったが、徐々に歌い進むにつれ、歌もギターも強さを纏っていく流れが実に見事だった。センチメンタルな曲であることには変わりがないが、彼女が歌うことでより前向きさが際立って響いていた。

ライブも終盤を迎えると、「ラスト2曲です!」と告げ、オーディエンスに盛り上がる準備を促した。はじめは固唾をのんで見守ってきたオーディエンスも、いつしか思い思いに手を叩き、体を揺らしていた。性急なピアノやギターのフレーズに追い立てられるようにアグレッシヴな「Don't Cry」。熱を帯びたこの曲によって観客との距離がさらに縮まったのを感じた。叫びたいのに叫べない自分へ“どうすればいいの?”と、自分の心へ刃を突きつけるような内なる鋭さを持った曲も、その思いを共有する観客と繋がる絆へと変わるのだからライブとは何とも不思議なものだ。

本編ラストは、リリースされたばかりの「絶対」だった。中盤のMCで「言葉が出なくて頭を掻きむしりたくなった」と言ったが、学生生活に別れを告げた後に作られたこの曲も、今の自分らしい歌詞にたどり着くまでにかなり苦悩があったという。だからこそ、“逃げたりしない”“折れやしない”というシンプルで強い言葉は、もがき苦しんだ末に見えた確かな光のように、パワフルなサウンドにも決して負けない圧倒的な強さで会場中に響いた。

アンコールでは、バンドメンバーがクリスマスソングを演奏して、季節感とワクワク感を盛り上げる演出も。Tシャツに着替えて再登場した新山に、大きな拍手と歓声が贈られた。アンコールのお礼をしたあと、「「大丈夫」だって」ではギターを手放して両手を頭上に高々とあげながら、手拍子をはじめた。彼女らしく控え目に「もっと楽しんでいいんだよ」という言葉や、オーディエンスに向けた柔らかな笑顔、そして体全体を使った手拍子につられるかのように、観客もいつしか自然にもろ手を挙げて彼女と手拍子を合わせていた。その初々しいぎこちなさは、まるで勇気を出して初デートでようやく手を繋いだカップルのように見えて、どこまでもこの人はピュアで、常に一生懸命なのだなと微笑ましくなった。

オールラストとして、デビューシングル「ゆれるユレル」を選んだ新山詩織。再びギターを手にして歌い始めたが、鳴り止まぬ拍手のなか、プロとして本格的に歩み出したこの曲を、スタートを切った12月12日に歌った気持ちはいかばかりだっただろう。その真意は彼女と神のみぞ知るだが、その純粋かつ意志ある歌声からは、これからも偽りのない思いを言葉と音にして、多くの人の心の奥深くまで届けてくれるに違いないと確信した夜だった。

取材・文◎橘川有子

■新山詩織 アーティストデビュー2周年記念ライブ<しおりごと ~acoustic version~>
2014年12月12日@代官山UNIT セットリスト
01.だからさ
02.Looking to the sky
03.ひとりごと
04.今 ここにいる
05.午後3時
06.きらきら
07.分かってるよ
08.ピアノ(※The Birthday)
09.たんぽぽ
10.I Feel the Earth Move(※キャロル・キング)
11.デイ・ドリーム・ビリーバー(※ザ・タイマーズ)
12.Raining(※Cocco)
13.サヨナラCOLOR(※SUPER BUTTER DOG)
14.Don't Cry
15.絶対
encore
16.「大丈夫」だって
17.ゆれるユレル



■New Single「絶対」

2014年12月3日Release
【初回限定盤(CD+DVD)】JBCZ-6012 1,404円(税込) 1,300円(税抜)
※特典DVD:「絶対」ミュージックビデオ収録
【LIVE盤(CD+DVD)】※初回生産限定 JBCZ-6013 1,620円(税込) 1,500円(税抜)
【通常盤(CD)】JBCZ-6014 1,080円(税込) 1,000円(税抜)
・絶対 作詞&作曲 新山詩織
・分かってるよ 作詞&作曲 新山詩織
・絶対 -instrumental-
LIVE盤特典DVD(新山詩織1stライブツアー「しおりごと」2014.4.26@渋谷WWW)
・ゆれるユレル
・Don’t Cry
・ひとりごと
・今 ここにいる
・だからさ
※収録順は異なります。

■5thシングル「絶対」参加型カバー企画 『絶対宣言~キミは絶対に絶対に「絶対」を演奏出来る~』実施決定

※シングル「絶対」のリリースに伴い、新山詩織のファンの皆さんや、日頃音楽を演奏する全ての皆さんを対象とした企画の実施が決定しました! 
ギターを始めたばかりの人、また、日頃、仲間や同じ部活動で日々練習をしている人たちにも、今回の新曲「絶対」を通じて音楽を楽しんでもらいたい、
また音楽で自分たちを表現してもらいたいと、立ち上げられた企画です。
是非「絶対」を演奏してみて、お気軽にご応募ください!
●部門
・弾き語り部門(※ギター弾き語りのみ)
・グループ部門(※バンド、ブラスバンド、ボイスハーモニー等、形態問わず)
※弾き語り部門でのご参加は下記サイトにて歌詞、コード符をご確認頂けます。
http://www.ufret.jp/song.php?data=2053
●各賞
・最優秀賞 ― 総合1位
・詩織賞 ― 弾き語り部門優秀者
・絶対賞 ― グループ部門優秀者
●賞品
・最優秀賞
新山詩織使用モデルのアコースティックギター(GA-45SCE W/HC NAT)とアコースティックギター用アンプ(ACOUSTASONIC™ 90)※Fender 協賛
・詩織賞
ヘッドフォン&新山詩織ライブへご招待
・絶対賞
新山詩織サイン入りグッズ&新山詩織ライブへご招待
●エントリー方法
参加者それぞれ撮影したカバー動画をYouTube上にUPして頂きます。その際、動画タイトルは「絶対演奏してみた」から始めたものに限ります。その動画URLと必要事項を12月8日(月)午前0時からオープンする特設サイト上のエントリーフォームに記載し、応募下さい。なお、エントリー受付は2015年1月11日(日)24時までとなっており、その後に1次審査通過者を発表(2015年1月下旬)。最終審査は動画サイトの再生数および一般投票などの結果により、入賞者を決定します。
※楽曲の尺は問いません。(1番のみやフルサイズ等は自由)

■ライブ&イベント情報

■<rockin'on presents「COUNTDOWN JAPAN 14/15」>
2014年12月31日(水)幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール
開場:14:00 開演:15:00
※新山詩織は、21:20-22:55のASTRO ARENA/ASTRO SPECIAL枠に出演します。
[問]ディスクガレージ 050-5533-0888(平日12:00~19:00)

■<フラカン25周年記念トリビュートparty「WE ♥ FC MORE THAN EVER」>
2015年1月15日(木)赤坂BLITZ
開場:18:00 開演:19:00
出演:フラワーカンパニーズ、奥野真哉、うつみようこ、増子直純(怒髪天)、真心ブラザーズ、山田将司(THE BACK HORN)、コヤマシュウ(SCOOBIE DO)、新山詩織、牧達弥(go!go!vanillas)、ハルカトミユキ (順不同)
¥4,800(税込 / 1Fスタンド / ドリンク代別途必要)
[問]ネクストロード 03-5712-5232 (14:00~18:00)

◆新山詩織 オフィシャルサイト
◆新山詩織 オフィシャルYouTubeチャンネル
◆新山詩織 オフィシャルTwitter
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