【ライブレポート】初恋の嵐、髭、Analogfish出演イベントに「現在地点の歌」
初恋の嵐、髭、Analogfish出演のオムニバスライブ<THE SOFT PARADE>が、2014年12月14日にshibuya duo MUSIC EXCHANGEにて開催された。“腕に覚えあり”な面々が集った12月の夜をレポートしたい。
◆<THE SOFT PARADE> 画像
クリスマスムードに賑わう渋谷、夕暮れの雑踏を抜けると多くのライブハウスが集まる渋谷円山町のある通りに、お目当ての公演の開場を待つ人だかりが見えた。この日、shibuya duo MUSIC EXCHANGEではドアーズの4thアルバム『The Soft Parade』を冠したイベント<THE SOFT PARADE>が行われた。会場のドアを開けると早速ドアーズの曲が流れている。
ポロポロとギターがつま弾かれる。7割り方埋まったフロアの観客を一瞬で静寂感のある凛とした空気に引き込む。説得力のある“語れるギター”だ。1曲目の「きみのうた」が歌い出される。ハスキーで湿り気があって、情の深い声。「ヤバいもの」を目撃しているのがすぐに理解できた。噂は本当だった。“私、好きな人がいるの”とそっと告白しながら、母親とのすれ違いを歌った「母さんと私」、見えない明日への逃避行(旅立ち)を歌う「はなれてごらん」が続くうちに“業と情の世界”がどんどん深まっていく。
そして圧巻はラストナンバーの「光」。断言するには尚早かもしれないが、早川義夫や中島みゆきのような歌があった。震えのくる歌があった。磨いだ刃で心を切り裂き、人に悶え、愛する歌があった。“信じて、嘘つき、傷付き、傷付け”、“醜くていい、醜く歩け”、“信じろ自分を、信じろ声を”“声よ高く外に響け。笑われ貶されそれでも歌え”“わたしが君を見つけるから”。歌うことへの、生きることへの決意表明。そんな言葉が立て続けに繰り出されていく。尋常ならざる熱をもって増し続ける沖ちづるの声がフロアを制した。沖ちづるのステージが終るやいなやドアーズの「ブレイク・オン・スルー」が流れた。ふと会場の外を眺めると、彼女が特別な存在であることを象徴するかのように大粒の雹(ひょう)が降り散っていた…。
1月18日にはツアーファイナルのワンマンライブが渋谷7th FLOORで開催される。最後に歌われた「光」は2月にシングルとしてリリースされるという。沖ちづるはただ者ではない。今、ライブを目撃しておいた方がいい。
ステージは新曲「闇をひとつまみ」でスタート。彼らがロックバンドとして成長してきた証とも言えるスケール感のあるミドルテンポのナンバーだ。ダンスフロアの刹那なキラメキを伝える「ing」、艶かしいけだるさが徐々に骨太なグルーブに変化して迫る「三日月」が続く。“誰かおごって! ステージに持って来て!”という酒ネタのMCで笑いを取った後、ステージは後半戦に突入。
初期ガラージュ~ハウスミュージックに通じる16ビートの「ネヴァーランド・クルージング」ではギターの斉藤祐樹がステップを踏み、須藤が客席を煽る。4つ打ちダンスビートの「虹」で一気に畳みかける。ここで聴かせるダンスビートでは髭の武器であるツインドラムの編成がより生きてくる。そこから「王様のその後」「テキーラ!テキーラ!」を繰り出し、狂騒と刹那にまみれたロックンロールパーティに巻き込んだまま怒濤のステージは幕を閉じた。
続いて「抱きしめて」のアウトロでのフィードバックが響く中、ドラムスティックのカウントで「はなさない」に。ギターとベースのループフレーズが連なってユニークなアンサンブルが形作られる。曲の後半はシンフォニックな厚みを増し、まるでクレイジー・ホースのようなシルエットで轟音が鳴らされる。
ステージでは、ツインボーカルを含め、3人の編成で最大限のアンサンブル効果を求めてきた彼らの真骨頂が伺えるナンバーが続いていく。どっちつかずの恋心がじれったい「Good bye Girlfriend」、浮遊感のあるメロウ&ファンクネスをが心地よいアナログ版ヒップホップの「Nightfever」。メランコリックからヘビーネスなサウンドまで聴かせる「僕ったら」では、ソリッドで緊張感のある空気でフロアを支配する。が、ここから一転、ヌケのいいトーキングメロディの「There She Goes(La La La)」でフロアをダンスさせるメリハリは、さすがのライブ巧者だ。その勢いでラストナンバー「最近のぼくら」でさらに盛り上げてステージは終了。「最近のぼくら」を聴いていて思ったのだが、最近のAnalogfishは最近の30代の“どこにもいけないが故のここ”という立ち位置を上手く表現しているのではないだろうか。
2月の自主企画<対バンの嵐>、4月の<ARABAKI ROCK FEST.14>に続き、今年3回目となるこの日のステージ。約8ヶ月のインターバルにメンバーもリフレッシュしたようでリハーサルから快調、ステージに向けてテンションが高まっていた。
フロアが暗転し静寂が包む。オリジナルメンバーの隅倉弘至(B)と鈴木正敏(Dr)と共に、盟友・玉川裕高(G)を始め、伊東真一(G)、高野勲(key)ら馴染みのサポートメンバーが登場。手練の猛者たちがステージに揃った。まずは、じらすようにインストナンバーを演奏し、場の空気を慣らしていく。
インストナンバーのアウトロが鳴り止まぬ中、MO'SOME TONEBENDERの百々和宏がステージに現れ、すぐさま「君の名前を呼べば」を。ヘヴィなロックチューンに“もう終わったことだよ”という百々のシャウトが映える。ポップでラウドな「No Power!」まで一気に歌い切り、変わってロマンティックなイントロに乗って堂島孝平がステージに。初恋の嵐復活以来、度々ボーカルとして支えてきた堂島の十八番となった「nothin’」「罪の意識」をさすがの歌いっぷりで聴かせた。
そしてクライマックス。隅倉がボーカルをとった悲痛な名曲「Untitled」は圧巻だった。西山の闇と大きな愛情がこんがらがったこの曲を歌うのは、本職のボーカリストでもなかなか指南の技だが、情念のこもった隅倉の歌がフロアを飲み込んでいった。そして、ステージには隅倉の隣で空になったマイクスタンドが、えも言われぬ存在感を醸していた。
この曲で聴かせた荒ぶるバンドアンサンブルは、粘っこくもキレのある玉川のギターを見せ場に見事なまとまりを披露した。もろもと手練揃いだが、復活から4年経って、ますます初恋の嵐はロックバンドとして仕上がってきたようだ。これは、貫禄の演奏と言ってもいい。
最後の締めはセカイイチの岩崎慧によるバラード「真夏の夜の事」。思い入れたっぷりに、フロアが息をのむ熱唱を響かせていった。アンコールは天然キャラの鈴木のMCで和んだ後に、ポップなロックチューンの「初恋に捧ぐ」(ボーカルは岩崎)が繰り出され、笑顔でフィニッシュを迎えた。
恐るべき10代、10年を越える荒波を乗り越えたロックバンド、伝説になるよりも現役を選択したロックバンド…。ロックが似合う12月に骨のあるアーティストたちが“現在地点の歌”をしっかりと聴かせてくれたいい夜だった。
取材・文◎山本貴政
■<THE SOFT PARADE>
2014年12月14日@shibuya duo MUSIC EXCHANGEセットリスト
【沖ちづる】
1. きみのうた
2. 母さんと私
3. はなれてごらん
4. 光
【髭】
1. 闇をひとつまみ
2. ing
3. 三日月
4. ネヴァーランド・クルージング
5. 虹
6. 王様のその後
7. テキーラ!テキーラ!
【Analogfish】
1. 抱きしめて
2. はなさない
3. Good bye Girlfriend
4. Nightfever
5. 僕ったら
6. There She Goes(La La La)
7. 最近のぼくら
【初恋の嵐】
1. どこでもドア インスト.ver
2. 君の名前を呼べば
3. No Power!
4. nothin’
5. 罪の意識
6. Untitled
7. 真夏の夜の事
En.初恋に捧ぐ
◆初恋の嵐 オフィシャルサイト
◆Analogfish オフィシャルサイト
◆髭 オフィシャルサイト
◆沖ちづる オフィシャルサイト
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