ポップスファンも楽しめる『JAZZの100枚。』からおススメの必聴盤10+1枚
難しそう、敷居が高そう…、そんなイメージだけでジャズを敬遠してきた人も多いのではないだろうか。ジャズは現代のポップスやロックに影響を与えてきた音楽だし、ジャズの中にも様々な音楽がある。聴いてみれば、気に入るジャズが必ずあるはずだ。まずは、名盤といわれる作品から聴いてみるといいだろう。長い歴史を持つジャズには、名盤とされる作品も多いが、これらは多くの人の心を揺さぶったからこそ名盤になったわけなので、ジャズの扉を開けるには名盤から入るのが最適なのだ。
そこでBARKSが注目するのが、ユニバーサル・ミュージック・ジャパンから10月8日に発売された『ジャズの100枚。』と題されたジャズの名盤シリーズだ。元体操の田中理恵が、ソニー・クラークによる歴史的名盤『クール・ストラッティン』のミュージックビデオで美脚を披露したことで脚光を浴びたことは記憶に新しいだろう。
『ジャズの100枚。』は、ブルーノート、プレスティッジ、ECMなど、名門ジャズ・レーベルの作品100枚が一挙にリリースされるという、驚きの企画。もちろんどれもジャズの歴史を代表する名盤中の名盤ばかり。ジャズファンならすでに所有しているものも多いだろうが、これまでジャズに縁がなかった人は、この機会にぜひ聴いてみるといい。今回はその中から、BARKSがとくにロックやポップスのファンにおススメする、ジャズ入門のための必聴盤を紹介する。
■歌心たっぷりで明るくあたたかく気軽にサックスを楽しめる
『サキソフォン・コロッサス』ソニー・ロリンズ
ジャズの醍醐味の一つがアドリブだが、アドリブが難解であるためにジャズがあまり好きになれないという人も多いだろう。そんな人にぜひ聴いてもらいたいのがこの作品だ。ジャズ初心者向けとしてよく名前が挙がるとおり、気軽に聴ける肩の凝らないアルバムだ。軽やかでトロピカルな「セント・トーマス」の冒頭のテーマ部分は有名だから、きっとどこかで聴いたことがあるだろう。その後の展開ではアドリブ満載なのだが、ソニー・ロリンズならではの歌心がたっぷりで、いつでも明るくあたたかいから、聴いていてどこへ行ってしまうのか不安になるようなことはない。ピアノソロもドラムソロも、もちろん十分に熱いプレイなのだが過熱しすぎることはなく、まるで笑顔でプレイしている様子が浮かんでくるように楽しげだ。だからこちらもリラックスして楽しめる。テーマやピアノソロ、ドラムソロなどが終わってサックスに受け渡されたときのソニー・ロリンズのプレイにも注目して聴いてもらいたい。サッと空気が変わり、新たな世界が広がっていくところはゾクゾクしてしまう。
■とっつきにくいかもしれないが聴いていくうちに必ずハマる
『至上の愛』ジョン・コルトレーン
40歳という若さでこの世を去った天才サックス・プレイヤーのコルトレーン。ソロとして活躍した期間は10年ほどしかなかったが、初期はコード進行を基本にアドリブをプレイするビバップ、その後はそこから発展したハード・バップやモード・ジャズに移行し、晩年にはフリー・ジャズへと幅広い範囲で活動してきた。この『至上の愛』はフリー・ジャズに移行する直前の作品で、“神にささげた”とされる4部構成の組曲となっている。必ずしも聴きやすいジャズではないが、20世紀を代表するプレイヤーの魂のこもった演奏には圧倒される。伸び伸びと自由に吹かれる穏やかなサックスに始まり、次第に何かに乗り移られたかのように熱さを増していく全員のプレイ、そしてしつこいほど同じフレーズをサックスでリフレインした直後、同じフレーズを低い呪文のような声で“ア・ラヴ・サプリーム”とうなるヴォーカルが出てくる展開がクセになる1曲目の「承認」。そしていかにもモダン・ジャズらしいマッコイ・タイナーのピアノソロが聴ける「決意」、エルヴィン・ジョーンズの嵐のようなドラムソロをフィーチャーした「追求」と、スリリングで大人の香りのジャズが満載だ。“夜”とか“酒”といったジャズのイメージがこれほど似合うアルバムもない。とっつきにくさはあるかもしれないが、聴いていくうちに必ずハマる作品だ。
■アコースティックからエレクトリックへ変革を遂げたフュージョンの源流
『リターン・トゥ・フォーエヴァー』チック・コリア
チック・コリアがアコースティックからエレクトリックへ、ジャズのサウンドの大きな変革を図ろうとしていた時期の作品。この作品が契機となってバンド“リターン・トゥ・フォーエヴァー”(RTF)が生まれ、後の名曲「スペイン」につながっていくことになる。また、後のクロスオーバーや80年代に大ブームとなるフュージョンは、この作品に源流があるとされている。後のRTFに比べるとアコースティック色、ラテン色が濃いが、チック・コリアの代名詞のエレクトリック・ピアノ“ローズ”は全編に渡って妖しげなムードを生み出している。冒頭のタイトル曲は、軽やかなフルートとスキャットが絡んで軽快だが、途中のローズのソロあたりからムードが妖しくなり、スタンリー・クラーク(最近では上原ひろみとの共演でもおなじみの凄腕ベーシスト)のうねるようなベース、それとバトルするようなローズによって混沌とした世界に導かれると、聴いているほうもエキサイトしてしまう。最後の「サムタイム・アゴー~ラ・フィエスタ」はローズソロ、ベースソロからフルートやヴォーカルが登場してラテンの雰囲気漂う前半、そこから緊張感あるスパニッシュの世界へと一気に変化するドラマチックな展開で、23分もある大曲なのに一気に聴けてしまう。途中には「スペイン」に似たフレーズも複数登場、チック・コリアを知る上で欠かせない曲だ。
■コテコテのジャズのスタイルだがポップな雰囲気もあって力まずに聴ける
『処女航海』ハービー・ハンコック
ジャズファンでなくても、冒頭のタイトル曲の厳かな雰囲気のイントロを聴けば、“ああ、これか”と思う人も多いだろう。少し遠くでリズムを刻みながら、時おり嵐のようなロールで切り込んでくるトニー・ウィリアムスのドラム、ときにメロウに、ときに緊張感あるフレディ・ハバードのトランペットソロ、その奥で淡々とビートを刻むロン・カーターのアコースティックベース。そして目立ったソロは弾かないのに、抑揚や微妙な音遣いで全体をコントロールしているハービーのピアノ。超一流のプレイヤーたちが生み出す、まさに一分の隙もないようなアンサンブル。60年代の研ぎ澄まされたジャズの代表のような作品だ。いわゆる“コテコテの”ジャズのスタイルなのだが、それでいてポップな雰囲気もあるし、力まずに聴けるのもいい。海をテーマにしたコンセプトアルバムになっていて、タイトル曲で揚々と出航した後、2曲目以降では遭遇した嵐のような荒々しいソロや、孤独をイメージさせるトランペットとサックスによる沈痛なテーマ、生還の厳しさを表現したような荒々しいドラムソロなどを経て、最後には穏やかなテーマと優しいソロを持つ「ドルフィン・ダンス」で終わるという展開も見事。ぜひ一枚通して聴いてもらいたい。
■サッチモのフレンドリーな人柄がにじみ出ているあたたかい声を楽しめる
『この素晴らしき世界』ルイ・アームストロング
名トランペッターとしてジャズ界に多くの名作を遺した“サッチモ”ことルイ・アームストロングの、シンガーとしての魅力を堪能できる作品。タイトル曲は、ジャズに興味がない人でも知っているはずだ。なにせ、ダイアナ・ロスからロッド・スチュアート、B.B.キングにセリーヌ・ディオンと、ソウルからブルース、ロック界の大御所がこぞってカヴァーしているし、日本のテレビCMでも何度も使われた。また映画『グッドモーニング、ベトナム』ではベトナムの田園風景に重ねて流されたのも印象的だった。独特のダミ声で歌われると“この世界はなんて素晴らしいんだ”という歌詞の世界が胸に沁み入ってくるようで、いつまでも聴いていたくなり、わずか2分とちょっとで終わってしまうのが本当に残念に感じる。他の曲もみんなヴォーカルナンバーで、彼のフレンドリーな人柄がにじみ出ているようなあたたかい声、それにおどけたような明るさのあるトランペットもとても心地いい。聴いてみれば必ず気に入るはずだ。
■抑えたフレーズの中にギラリと光るものを隠し持ったようなマイルスがカッコいい
『バグス・グルーヴ』マイルス・デイヴィス
数多くの名演を残しているマイルスだが、その中でも評価が高いのがこの作品の冒頭のタイトル曲。ドラッグから立ち直った時期の作品で、淡々と進行するリズムに乗り、無駄のない研ぎ澄まされたマイルス節が炸裂するというスタイルが確立されている。決して暴れることがなくクールで、抑えたフレーズの中にギラリと光るものを隠し持ったようなマイルスもカッコいいが、このアルバムではやはりビブラフォンの名手ミルト・ジャクソンのプレイが華やかで目立っている。この音が聴こえてくるだけでモダンジャズの雰囲気がいっぱいに広がってくるから不思議だ。様々な伝説を持つマイルスだが、この作品が作られた1954年のレコーディングも、いわゆる“クリスマス喧嘩セッション”として有名だ。ユニークなピアノを弾くセロニアス・モンクに、“オレのソロのバックでは弾くな”とマイルスが言ったことで対立し、曲によってはモンクがソロを途中で放棄したとも言われている。真偽は定かではないが、そんなエピソードも合わせて楽しめるのがジャズの面白いところだ。
■ジャズの華であるインタープレイを堪能できる作品
『アンダーカレント』ビル・エヴァンス&ジム・ホール
凄腕のプレイヤーが丁々発止の掛け合いで、ときには火花を散らすスリリングなバトルを、ときには融合して見事な調和を見せるのがインタープレイだ。ピアノのビル・エヴァンスとギターのジム・ホールの二人だけのデュオで作られたこのアルバムは、まさに“ジャズの華”であるインタープレイを堪能できる作品だ。スタンダードナンバーの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は、ゆったりと歌い上げるのが一般的な解釈なのだが、この作品でのビル・エヴァンスは攻撃的なプレイから始まり、ギターソロのバックでもリズムを強調したパーカッシブなプレイ、そしてピアノソロでは反対にギターがザクザクと切り込んでくる。バックに回った楽器が熱いプレイで挑発し、そこからより熱いソロに発展するという、インタープレイの醍醐味をたっぷり味わえる斬新なアレンジが面白い。そうかと思えば、「ドリーム・ジプシー」では、あたたかみのある美しい音色を奏でる二人の調和で、とろけるように甘くムーディな雰囲気を作り出していて、うっとりと聴き惚れてしまう。ピアノとギターの作り出す美しい世界に浸れる名盤だ。
■ボサノヴァやポップ、ソウルなどを詰め込んだダンサブルな作品
『ソウル・ボサノヴァ』クインシー・ジョーンズ
今ではマイケル・ジャクソンの『ザ・ウォール』や『スリラー』のプロデューサーとして知られるクインシー・ジョーンズが、60年代に自ら率いたジャズバンドで作ったアルバム。ジャズにボサノヴァやポップ、ソウルなどを詰め込んでダンサブルに仕上げているのがクインシーらしい作風で、どの曲も明るく楽しい。イントロだけでもパッと明るい雰囲気になるのも彼らしく、タイトル曲は映画『オースティン・パワーズ』のテーマ曲になったし、日本でも数多くのテレビCMで使われ、今もバラエティ番組で多用されている。そのほかの曲もすべて、ファンキーなアレンジがとにかくカッコイイし、たくさんのパーカッションは華やかで、図太い管楽器が吠えまくる豪快なビッグバンドのサウンドが迫力満点だ。ビッグバンドというと、デューク・エリントンのような整然とした雰囲気のトラディショナルなバンドを思い浮かべる人も多いかもしれないが、それとはひと味違う。こんな派手で楽しいジャズバンドがあるということを、ぜひ知っておいてもらいたい。
■大ヒットナンバー「我が心のジョージア」も収録のオスカー入門盤
『ナイト・トレイン』オスカー・ピーターソン・トリオ
明るく軽快なビートに乗った単調な単音のリフレイン。そこから一転して超絶技巧のピアノが始まり、鍵盤全体を軽やかに駆け巡るいつものオスカー・ピーターソンの世界が開けていく。ベースのレイ・ブラウン、ドラムのエド・シグペンを従えた“黄金のトリオ”で作られたこのアルバムは、こんなゾクゾクする展開の「C・ジャム・ブルース」から始まる。重心が後ろにあるようなイナタいタイトル曲や、大ヒットナンバーの「我が心のジョージア」なども収録され、オスカー・ピーターソンのおいしいところをコンパクトにまとめたような曲ばかりでとても聴きやすい。長くても5分程度の曲ばかりなので、あっという間に最後まで聴けてしまうのだが、その最後の曲「自由への賛歌」は、人種差別に抗議した公民権運動に賛同して書かれた作品と言われている。そう聞くとちょっとへヴィなイメージがあるが、曲は優しく美しい。静かに始まり、荘厳な雰囲気も漂わせながら徐々に感情が高まっていくように盛り上がる、ドラマチックな名曲だ。これを聴くためだけにこの1枚を買っても損はない。
■8ビートのタイトル曲はジャズでは珍しくチャートを上昇するヒット
『ザ・サイドワインダー』リー・モーガン
70年代以降、クロスオーバーやフュージョンの一部を指して“ジャズ・ロック”と呼ぶことがあったが、その元祖がこれだといえるだろう。4ビートでスウィングすることこそジャズだった時代にいち早く8ビートを取り入れたタイトル曲は、ジャズとしては珍しくチャートを上昇するヒットとなったし、その後何度もカヴァーされ、日本でもテレビCMに使われたりしているので、テーマにはなじみがあるはずだ。ただ、8ビートといっても現在のロックやポップスのそれとは少し違って、これを聴いていると身体が縦に動くのではなく、腰が横に揺れてくる。実は8ビートなのにちゃんとスウィングしているのだ。そんな微妙なタイム感覚はジャズならではのもの。だから隙間だらけのトランペットソロでも、同じ音だけを繰り返すようなピアノソロでも、幅が感じられるのだ。緩急自在のアレンジが面白い「トーテム・ポール」やジョー・ヘンダーソンのサックスとの絡みが絶妙な「ゲイリーズ・ノートブック」など、タイトル曲以外も佳曲ぞろいだ。
■ギターシンセをたっぷり堪能できる初期の作品
『オフランプ』パット・メセニー・グループ
パット・メセニーといえば多くの人が想像するであろう、ギターシンセをたっぷり堪能できる初期の作品がこれ。盟友ライル・メイズと結成した“パット・メセニー・グループ”の名義での3作目だが、前作の『アメリカン・ガレージ』のロック的なアプローチとは趣が違う。軽やかなパーカッション、ギターシンセの幻想的なサウンドから静かに幕を開け、繊細なシンバルワーク中心のドラムと絡む控え目なパーカッションと、ライル・メイズならではの浮遊感のあるバッキング、そこに抒情的なギターシンセの世界がふわふわと漂うように広がっていく。この独特のメセニー・サウンドの代表曲とされるのが、名曲「ついておいで」だ。管楽器のようなニュアンス、起伏ある感情表現を持ったギターシンセのサウンドを聴いていると、異次元の世界に吸い込まれてしまうようだ。軽快なリズムにのった明るいソロがカッコいい「エイティーン」や、爽やかなテーマも実に楽しそうに弾きまくるソロもとても心地いい「ジェームス」など、いかにもジャズっぽい気難しさがないナンバーも多く、メセニー入門編としてもオススメだ。
◆「ジャズの100枚。」ユニバーサル ミュージックサイト
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