【インタビュー】ドラゴンフォース、最速にして濃密「好きでもない音楽を、15年も演奏し続けられると思うかい?」
暑い夏に熱いサウンドで拍車をかけているドラゴンフォース。先頃お届けしたインタビュー前編では「自分たちのことを好きじゃない人たちの意見を聞くことの重要さ」といった興味深い話も披露してくれたサム・トットマンとハーマン・リだが、今回の後編では、最新アルバム『マキシマム・オーヴァーロード』のより深い部分へと潜り込んでみることにしよう。
◆ドラゴンフォース画像
しかしとにかく、その音楽と同様、短時間のうちに密度濃い話を繰り広げてくれるこのギター・チームの超絶っぷりには、すさまじいものがある。さっそく、次の質問をぶつけてみよう。
――今作におけるもうひとつの大きな違い。それはイェンス・ボグレンの存在ということになるはずだと思うんです。いつものスタジオで、自分たちのプロデュースでアルバムを作り続けてきたあなた方が、今回こうして外部プロデューサーを起用したのは?
サム:主たる理由は変化を求めようとしたこと。それ以上の意図はない。これまで5枚のアルバムを基本的には自分たちの手でプロデュースしてきて、どの作品の出来栄えについてもハッピーな気持ちでいるし、もう一度同じことを繰り返すという選択肢もあったとは思う。でも同時に、新しいものを形にするために新たなチャレンジをする必要がある場合もある。何故なら俺たちは立ち止まりたくないからね。もちろん常にベストなものを作ってきたつもりだけども、そこにあぐらをかいていたくはないんだ。
ハーマン:あと、うちのマネージャーが外部プロデューサーを付けろってプッシュしてきてね。というのも、前作を完成させるのにえらく時間がかかったからなんだ。その原因が俺たちにあるって誤解されたんだよ。
サム:レコーディングに時間を要したのは、単純に新しいボーカリストを迎えたからだった。なのにうちのマネージャーときたら「おまえらの仕事が遅いからだ」とか言いやがって(笑)。
ハーマン:「おまえたちは史上最悪のプロデューサーだ!」とまで言われた(笑)。俺たちはこれまで5枚もプロデュースしてきたっていうのに(笑)。
――どちらにせよ今回、誰かを起用するにしても、誰でも良かったわけではないはず。イェンスを選んだ理由というのはどんなところにあったんです?
ハーマン:まず彼を選んだ最初の理由は、彼がこの手の音楽をこれまでほとんど手掛けてこなかったということ。敢えて言うなら、昔ながらのルールをたくさん抱えたままのドイツ人プロデューサーとかとは組みたくなかった。「俺はハロウィンと仕事をしてきた。レイジもガンマ・レイもよく知っている。パワー・メタルはああいうサウンドであるべきだし、そのためには……」みたいなことを言う人とはね。俺たち自身、そういうバトルを過去に経験してきた。1stアルバムを作っていたときにね。俺たちが「NO!」と言っていたにもかかわらずプロデューサーを立てなければならない羽目になって、デンマークに飛んでトミー・ハンセンとレコーディングすることになったんだ。だけどスタジオに入った3日後には、「この人とはこれ以上やりたくない」とレコード会社の担当者に電話していたよ。
サム:もちろん彼がハロウィンとかの素晴らしい作品に関わってきたことは知っているよ。腕が悪いとか言ってるわけじゃない。だけど俺たちとはうまくいかなかったのさ。
ハーマン:とにかくルールが山積みだったんだ。これはこうしなければならない。これはこうしたほうがいいに決まっている。ジャーマン・パワー・メタルはこういうものだ…。もう、うんざりだった。だけどイェンスはそういった種類の作品に関わってこなかった。この種の音楽の習慣というのが染みついていないのさ。同時に、さまざまな音楽を手掛けていて、いい評判を得てもいる。しかもね、常に締め切りに間に合わせてくれるんだ(笑)。
――ということは、マネージャーさんも今はハッピーなんですね?
サム:ああ、ようやくね。彼は過去4年間にわたって腹を立て続けていたから(笑)。
――この種の音楽に近し過ぎなかったイェンスだからこその新鮮なアイデアというのもあったんでしょうか?
ハーマン:イェンス自身も言っていたよ。「俺がこの仕事をやりたいのは、これまでこういうのをやったことがないからだ」ってね。
サム:そう。だから彼の側もまた俺たちから何かを学び取ったはずなんだ。
ハーマン:好都合だったのは、彼がこういった音楽のしきたりに縛られていなかったこと。たとえば「古めかしいキーボード・サウンドとかは欲しくない。むしろビデオ・ゲーム・サウンドをもっと」とか言っても、彼はそこで疑問を抱くことがなかった。
サム:「俺はこのパートをこんなふうにしたい」と言うと「おいおい、今は2002年じゃないんだぜ」と言い返されたり。そんなやりとりも何度かあったよ。俺たちはある意味、よりモダンな何かを求めている。もちろん古き良きパワー・メタルその要素もあるし、ビッグなコーラスなんかはまさにそれだけど、そのままの音楽をやりたいわけじゃないからね。そういう意味においても、同じようにパワー・メタルの因習に囚われていないイェンスと議論を交わしながら作業できたことは良かったと思う。とてもいい経験になった。
――結果、イェンスとの強力な制作チームが生まれたともいえるだろうし、ここでの経験を活かしながらまた次回からはセルフ・プロデュースに戻るという選択肢もあるわけですよね。どうです? またイェンスと組む可能性というのは?
ハーマン:それはイェンスの側に尋ねてみないとな(笑)。それに、まだその話をするのは時期尚早だよ。
サム:もう少し待つべきだろう。少なくとも俺たちはこのアルバムの出来栄えに満足しているけど、仮に誰も気に入ってくれなかったりしたら問題だからな(笑)。そうなったらまた改めて考え直さなけりゃならなくなるし(笑)。
ハーマン:そんなことにでもなれば、「やっぱり俺たちが最高のプロデューサーだ!」って言い始めるかもしれない(笑)。
サム:これから2年ほどを経たときに自分たちがどう感じているか次第、ということになるね。少なくとも今はとても満足している。2年後にもまだ同じように感じていたなら、またイェンスと組むことになるかもしれない。ただ、彼との作業を通じて学んだことを糧にしながら俺たちだけでやる可能性だってあるし、まだ何とも言えないよ。
――このアルバムにおけるもうひとつの新しい要素。それはこのバンドにとって初のカバー曲の登場ということになります。実は僕は、今回のアルバムに関する資料をもらう前に音を聴いていて、10曲目の曲を聴いたときに「どうも聴きおぼえのある歌詞だなあ」と思っていたんです。アレンジが違い過ぎるから、まさかそれがジョニー・キャッシュの「リング・オブ・ファイアー」だとは思いもしませんでしたけど(笑)。
サム:カバーをやることについては初期からずっと話してきたんだ。ただ、消極的だったのは、多くのバンドがカバーをやっていて、いずれもが退屈なものばかりだったからさ。たいがいは原曲と同じテンポで、オリジナルほど良くなくて、違いもさほどない。1~2回も聴けば用済みになるようなものばかりだ。だから俺たちが敢えてカバーをやるあかつきには、その原曲の好き嫌いや、その曲を知っているか否かを問わず、リスナーたちが楽しめるものにしたかった。オリジナル曲が好きじゃなくても、ドラゴンフォースの曲として楽しんでもらえるものにできなきゃ意味がないってことさ。たとえばソナタ・アークティカがスコーピオンズの「スティル・ラヴィング・ユー」をやったとき、俺自身、スローな原曲は好きじゃなかったけど、そのカバーが好きになった。それと同じように、聴き手がアルバムの一部として楽しめる曲にしなければ駄目だと思ったんだ。自分たちがカバーをやるからにはね。ボーナス・トラックにするためのカバーじゃなくて。
ハーマン:そして当然、ドラゴンフォースのサウンドに聴こえるようでなくちゃいけない。
サム:その通りさ。で、その曲を選んだ理由について言えば、頭のなかでこのバージョンが聴こえてきたから、ということになるかな。コード感とかボーカル・ラインの展開が自分のなかに浮かんできて、ドラゴンフォースならではのファスト・ソングになる図が想像できたんだ。どんな曲でもそうなり得るというわけではないからね。特に俺たちの楽曲にとってはコーラス・パートというものが重要だから、そこがうまくいくかどうかが鍵になってくる。いろいろと形を変えた部分はあるけども、それはほとんどコーラスを活かすための作業だったね。あとは原曲のイントロではトランペットだったパートをギターに置き換えて、メジャー・コードをマイナー・コードに変えて…。それをドラゴンフォース流の曲に仕上げるためにね。
――しっかりドラゴンフォースの曲として仕上がってますよね。誰も原曲がカントリーだとは思わないはずですよ、この曲自体を知らなければ。
サム:まったくだね。正直、カントリーが好きというわけでもないし、ジョニー・キャッシュや彼の曲のファンというわけでもない。確かにメタル好きなやつらのなかにも「ジョニー・キャッシュはクールだ!」という人たちは多いけども。同じカントリーの領域で言うなら、ガース・ブルックスは好きだし、ドリー・パートンはクールだと思うけどね。とにかくジョニー・キャッシュのファンというわけじゃない。でも「リング・オブ・ファイアー」は彼のなかでもいちばんいい曲だろうと思う。
――いやー、まさかあなた方のインタビュー中に、ドリー・パートンの名前が出てくるとは思ってもみませんでした。
サム:はははは!
――今回、他にもカバー曲の候補はあったんですか?
ハーマン:かなり酷い候補曲のリストがあったよ(笑)。
サム:各自3曲ずつ候補曲を挙げるようにっていう話があったんだ。
ハーマン:あり得ない曲のタイトルも挙がっていたよ。俺たちは基本的にルールを設けないけど、今回ばかりは「ドラゴンフォースの曲に聴こえ得るもの」というルールがあった。
サム:たとえばベースのフレデリック(・レクレルク)は、ラモーンズの「ペット・セメタリー」がいいんじゃないかと言ってきた。だけど採用されなかったのは、クールな曲ではあるけどドラゴンフォース的なファスト・ソングにはなり得ないからだ。
ハーマン:テンポを速めること自体はできるけど、ビッグ・コーラスがない曲だからね。それがイメージできない曲は俺たちの曲にはなり得ない。
サム:もちろんオリジナル通りにプレイすることも可能ではある。だけど、それだったら自分たちが過去に嫌ってきたカバーと同じになってしまうからね。しかも「リング・オブ・ファイアー」に関しては、歌詞の面でもドラゴンフォースの楽曲に通じるものがあった。なにしろ“火の輪”の歌なんだから(笑)。
――これで次回のツアーのステージセットに“火の輪”を用意すれば完璧ですね!(笑)
サム&ハーマン:わはははは!
――ところで『マキシマム・オーヴァーロード』というタイトルとこのアルバム・カバーについては、情報過多社会への警鐘めいた意味合いも込められているようですが…。
ハーマン:タイトルを思いついた発端はそこにあったけども、実はドラゴンフォースの習慣に則ったタイトルなんだ。これまでのアルバム・タイトルというのは、常に俺たちの音楽そのものの在り方を説明するものだった。過去の作品タイトルについて思い返してもらえれば、納得してもらえるだろうと思う。今回の『マキシマム・オーヴァーロード』についても同じことなんだ。要するに、極限まで目いっぱいの要素が溢れてくるアルバムだからね。ソロもいっぱい入ってるし。
――なるほど。実は僕自身、本当にこれが“情報過多社会への警鐘”なんだとすれば、「これだけ情報量過剰な音楽をやっているバンドがそんなことを訴えるのは面白いですね?」と言おうと思っていたんです。
ハーマン:素晴らしいね。キミが最初だ!
サム:うん。その点についての意味合いの重なりに指摘してくれたのはキミが最初だよ!(笑)
――それはそれは。とても光栄です(笑)。自分たちの音楽が情報過多だと認めるのはやや自虐的な気もしますけど、そこまでやらないと満足できないのがあなた方なんですよね?
ハーマン:そういうことだね。とにかく俺たちは、好きでこれをやっているんだ。嫌いな曲を作って演奏したいとは思わない。そんなことしたら、ツアーの日常なんて悲惨なもんだぜ。毎晩毎晩、不本意で大嫌いな曲を演奏し続けなきゃならなくなるんだから。もちろん、生活していくために好きでもない音楽をやるという場合もあるのかもしれない。だけど、好きでもない音楽を、15年も演奏し続けられると思うかい?(笑)
サム:もちろんエクストリームであればいいというわけではないし、“誰よりも速い曲を!”とか、そういうことを目指しているわけじゃない。気持ちのいい速さと、そうでないものというのがあるからね。
ハーマン:とはいえ、そういうことを言っておきながら自分たちの最速を更新するような曲を作ってしまうのがこのバンドだから、あんまりこういった発言は信じないように(笑)。
――どちらにせよ、このバンドがレイド・バックすることなんてあり得なさそうですね。
サム:ないね。多くのバンドがスロー・ダウンしていくのを見るとガッカリさせられる。それと同じようなことをしようとは思わないよ。
ハーマン:今回のアルバムのボーナス・トラックのいくつかはスロー・ソングだったり、さほど速くない曲だったりもする。そういう曲が皆無というわけじゃないからね。
サム:そういう曲もやらないわけじゃないが、ドラゴンフォースとしてのメインの部分にはならないってことだよ。だからこそ、あの曲たちはボーナス・トラックなんだ。
ハーマン:正確に言うと、あの曲たちはアルバム全体の流れに合わなくて、入れるべき場所がなかった。それでボーナス・トラック扱いになったんだ。
――そういった曲たちにも耳を惹くものがありましたが、敢えて“アルバム本編”にあたる部分から外したところに、バンドの意志を感じさせられます。さて、9月からはUKツアーが始まり、10月には<LOUD PARK 14>出演のための来日が控えているわけですが…それまでの間は入念なリハーサルということになるんでしょうか?
サム:そういうことだね。
ハーマン:1ヵ月間、みっちりとリハーサルをやるよ。新曲を練習しなくちゃならないし、ドラマーも替わったばかりだからね。今度のツアーでは新曲を…何曲ぐらいプレイすることになるんだっけ?
サム:たっくさん(笑)。
ハーマン:新作からの曲もたくさんやるし、久しくやらずにいた曲もやるだろうし。
サム:今の5人で合わせるのにはそれなりに時間もかかる。ギターのフレットを見つめながらプレイするような羽目には陥りたくないしね(笑)。考えずに弾けるぐらいの状態にしておかないと。
ハーマン:1ヵ月リハーサルを重ねて、1ヵ月のUKツアーをして、それから日本に行く。これはいい結果を披露できるはずだと思うよ(笑)。
サム:絶対にこのニュー・アルバムを気に入ってもらえるはずだと確信しているし、日本のファンからのサポートにはいつも感謝している。10月にまた会えるのを楽しみにしているよ!
――ステージ上に“火の輪”があることを期待していても良さそうですか?
サム:…ああ。もしかしたらね(笑)。
取材・文:増田勇一
ドラゴンフォース『マキシマム・オーヴァーロード』
2014年8月13日 日本先行発売
DVD付スペシャル・エディション WPZR-30584/5 / \3,124(ex.tax)
通常盤WPCR-15817 / \2,457(ex.tax)
※日本盤のみボーナス・トラック1曲追加収録
※日本盤のみ初回限定特典として3Dジャケットを封入
※通常盤に加え、ボーナス・トラックやボーナスDVDなどを付けた限定スペシャル・エディションも同時発売
◆【インタビュー】ドラゴンフォース、最速にして濃密「速過ぎる、コーラスが大袈裟、ギター・ソロ過剰…そういったことだろ?(笑)」