【インタビュー】Bloodest Saxophoneの驚くべきレコーディングを甲田ヤングコーン伸太郎が語る。「“さらば現代”(笑)」
~ここで「Ain't Nobody's Business」のレコーディングの様子を撮った映像を見ながら~
(板張りの壁の広い部屋でグランドピアノをゲストの伊東ミキオが弾き、そこにギターのShujiがフィンガー・ピッキングで流麗なフレーズを重ねて行く。吹き抜けの高い天井、クリアに音が響いている。ドラムのキミノリの前にはパーテーションが置かれ、マイクが一本。その近くでTHE TAKEOが弾くアップライト・ベースの生音をマイクが拾っている。ホーンの2人は横に並んで椅子に座り演奏。この曲ではトロンボーンのCohがヴォーカルを担当しており、中央に背丈ほどの高さで設置された集音マイクからかなり離れた位置で熱唱している。全員ヘッドフォンはしていない。ドラムと正反対の位置に陣取ったエンジニアのSugar Spectorのみ、ヘッドフォンをしてモニタリング中。その左奥に置かれたヴィンテージのテープレコーダーが演奏を記録している。)
── 完全に一発録りでマイクも数本しか立てていませんね。
甲田 : ドラムの前にパーテーションを立てて、響きとかを調整しながら録ってます。アンプを使ってるのはギターだけで、全部生音ですね。アップライト・ベースもマイクを立てて録音しています。マイクはピアノに1つ、ベースの前に1つ、ドラムに1つ、メインの集音マイクが真ん中にあります。ボーカルはそこめがけて、距離を取って、ここが絶妙だという場所に立って歌って録りました。
── これは録るまでの音決めに相当時間をかけないと出来ないんじゃないですか?
甲田 : そうですね。立ち位置は相当考えます。一曲目は大変ですよ。ちょっとずつずらしたりとか。でも数曲録り出すと、やってる方もなんとなく感覚でわかるんで。エンジニアも「ちょっと下がってみて」とかでなんとかなる感じなんですけど。最初の1、2曲は大変ですね。
── 真の実況録音盤という感じですね。
甲田 : 本当の一発録りですよ。かぶせも一切してないですから。
── 毎回レコーディングはこういう方法なんですか?
甲田 : そうですね。一回だけ現代的なレコーディングをしてみようと思って、プロトゥールズのあるスタジオに入って、ブースも使って録りましたけど。
── その時のレコーディングはいかがでしたか?
甲田 : 出来上がりは置いといて、TD(トラックダウン)作業とか全て入れると結果時間がかかりますね。倍以上時間がかかってると思うし、金額も高いし。それで出来上がりは楽器同士の音が被ってないのでどこか他人行儀だし、録れてる音は自分の音じゃないし。一発録りって凄く重圧があるんですけど、やっぱりそのほど良い緊張感がスパイスだと思うんですよね。人それぞれのやり方はありますけど、俺らのやり方ではないかなと思いますね。
── じゃあそれを機にまた今のやり方に戻って?
甲田 : そうですね。“さらば現代”(笑)。僕達は過去の一番良い所を突き進んでみます、という。
── アルバム収録曲はどのように決めているんでしょうか?
甲田 : 今回はビッグ・ジェイの曲は必ず入れようと思っていて。一曲目の「Deacon's Hop」っていうのは、ビッグ・ジェイ・マクニーリーの1949年のソロ名義のデビュー曲で、いきなり全米R&Bチャート1位獲得っていう、ロックンロール誕生前夜にしてこんだけヤバいものを、という衝撃作品なんですけど、それを敢えてビッグ・ジェイと共演した僕達が記録するっていう挑戦は凄い重圧があったんですけど、その反面やらなきゃな、っていう気持ちもあって。もう1つのビッグ・ジェイのカバーは「There Is Something On Your Mind」で、これはバンバンバザールの福島(康之)さんに歌って貰いたくて。バンバンバザールとは元々お互いのイベントに出たり出て貰ったりしてたんですけど、バンバンバザールデラックスという大編成のバージョンに僕とCohとドラムのキミノリが参加してたんです。その辺りで相当、より親密になりまして。バンバンバザールのお2人はもう、すっごい“喧嘩慣れ”というか、セッションの場数慣れしてますから。順応力も高いですし凄いですよ、彼らは。
── もう1人のゲスト、伊東ミキオさんとも交流は長いんですか?
甲田 : ミキオさんは僕が20歳くらいの時に、演奏を観て凄いなって思って。それからクラブチッタでおこなわれた『エルヴィス・プレスリー ナイト』というのに出演してミキオさんと何人かでセッションしたんです。そのリハーサルをやった時に、ミキオさんがお尻のポケットにスポーツ新聞を入れてフラ~っと入ってきたんですけど(笑)、演奏したら一気にスタジオの空気が変わったんですよ。僕はその時まだ20歳くらいだったんですけど、「あ、上手くならなきゃ駄目だな」って思って。「ロックはテクニックじゃねえんだよ、気持ちなんだよ」みたいな所がまだあったんですけど、理屈じゃねえって言うんだったら上手くならなきゃ駄目だって。そういう意味でも影響を受けていますね。ミキオさんは相当気心も知れてますし、最近ブラサキもここぞ、というライヴにはミキオさんに来てもらってます。
── リリース後に<Snuck 宇宙>というイベントがありますが、これはどんな内容なんですか?
甲田 : これはブラサキ主催のイベントなんですけど、コンセプトとして、ディズニーランドに行くとアトラクションに乗るまでの間にも楽しませるものがいっぱいあるじゃないですか?それっていいなって思っていて、演奏の間に料理を出そうと。お店の協力もあってワンコインでドリンクと僕の料理を飲食して映像を観て楽しんでもらいながら、開演を待つというのをやってるんです。
── 甲田さんは料理も作るんですね。
甲田 : やりますよ。昨日丁度北九州から帰ってきたんですけど、ライヴ会場のレストランの厨房で僕は昼間からずっと仕込みをしてました(笑)。この前は「ローストビーフのサラダ仕立て」と「チリコンカンクラッカー添え」と「ジャークチキン」と「ライスアンドピーズ」っていうジャマイカのご飯を作って。お客さんが来た時に一品出して、1バンド終わったらもう一品出して。それを作ってる最中にサウンドチェックやって。終わったらサックス置いて厨房で鍋振って、「そろそろお願いします!」って言われたら「は~い!」って手を洗って拭きながら行って。ライヴ本番が終わったら走って厨房行って、「どうぞ」って今聴いてくれてたお客さんに出して(笑)。
── 凄いですね(笑)。料理はどこで覚えたんですか?
甲田 : 独学ですけど、実家が居酒屋だったんですよ。だからわかんないことは聞いたりしてました。<Snuck宇宙>を始めてから改めて勉強しましたね。
── 料理も片手間でやらずに極めてるんですね。
甲田 : 今回の北九州に行ったのも、あちらからやってくれって招かれて、料理も込みで楽しみにして来てくれている人がいるんで嬉しいですね。ちょっと前まで、ミュージシャンが食べ物の事に執着してるって違和感あったんですよ。僕のブログは最初から料理ネタばっかりで、そしたらバンド仲間にも「ブログ見ましたけど、食べ物の事しかやらないんですか?」って変に思われてたんですけど(笑)。でも今ってそんなこと普通じゃないですか? 俺はそれをずっと貫いてるんで。
── 年内のライヴは他にありますか?
甲田 : 12月15日(日)の<Snuck宇宙>はアルバムリリース直後のリリース・パーティーとしてワンマンで開催して、料理も出ます。それと12月21日(土)には南青山のレッドシューズでイベントがあるんですけど、アルバムのジャケットを描いてくださった早乙女道春さんが演奏中にライヴ・ドローイングをおこないます。ライヴで演奏しているバンドの絵を描いてくれて、終わったら壁に貼るっていう凄くかっこいいイベントでして、その流れもあってアルバムのジャケットも描いて貰いました。それと来年は3月16日(日)に渋谷クラブクアトロでレコ発ライヴがあります。今回アルバムに参加している福島さん、伊東ミキオさんがゲストに決まってます。
── ではアルバムについて改めて一言お願いします。
甲田 : 今回8枚目のアルバムなんですけど、今までで一番良いアルバムが出来ました。今僕らが持っているものは全て聴けると思いますので、是非聴いてみて下さい。よろしくお願いします!
取材・文 岡本貴之
【ライヴ情報】
2013年12月15日(日)ブラサキpresents “Snuck宇宙”at下北沢440
出演 Bloodest Saxophone
料理 甲田伸太郎
開場 19:30 / 開演 20:00
前売 2500円 / 当日 3000円(1drink別)
イープラスもしくは440店頭にて(16:00~)
2013年12月21日(土)森永博志presents「第3土ヨー日」at南青山レッドシューズ
出演
LIVE Bloodest Saxophone D・O・T ALISA BAND and more...
DJ KAWATO(ROLLER☆KING) TOYO-P(JVC FORCE) UFO(CLUB No.6)
LIVE DRAWING 早乙女 道春
開場 20:00 ENTRANCE FREE
2014年3月16日(日)『Rhythm and Blues』レコ発ライヴat渋谷クラブクアトロ
出演 Bloodest Saxophone
ゲスト 福島康之(バンバンバザール)伊東ミキオ
※詳細近日発表
◆BARKSインタビュー
◆Bloodest Saxophone オフィシャルサイト