【インタビュー】Bloodest Saxophoneの驚くべきレコーディングを甲田ヤングコーン伸太郎が語る。「“さらば現代”(笑)」
アルバム『Rhythm and Blues』3曲目「Long Vacation」
2013年、結成15周年を迎えたインストゥルメンタル・バンド、Bloodest Saxophoneが8枚目のアルバム『Rhythm and Blues』をリリースする。徹底的にこだわり抜いた方法でレコーディングされたその音は、デジタル・サウンドに慣れた耳にはかなり新鮮だ。
今回、職人的とも言える演奏技術を持ちながらも、枯れる事のないスピリットと音楽に誠実にありたいというミュージシャン・シップを感じさせるその姿勢でバンドを牽引するリーダー、甲田ヤングコーン伸太郎に話を聞いた。音楽のみならず、主催イベントで料理をふるまう事もある彼のこだわりを感じてもらえるはずだ。
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── Bloodest Saxophoneは今年結成15周年ということですが、バンド結成の経緯から教えて頂けますか?
甲田ヤングコーン伸太郎(tenor sax以下・甲田) : 僕が以前やっていたジャックナイフというロックバンドが活動停止に入って、同じバンドでトロンボーンを吹いていたうちのメンバーのCoh(trombone、vo)と一緒にどうしようかと考えていたんですけど、ジャンプ・ブルースだとか、元気の良いジャズをやるインストバンドを作ろうってなって。丁度その頃、僕を以前から撮っていたカメラマンさんがレストランで僕の個展を開いてくれて、レストラン側からそれに合わせて演奏してくれないかという依頼が来たんです。じゃあもうそこでバンドをやって、お披露目ライヴをしようと思いまして。最初に“甲田伸太郎バンド”という名前で<Bloodest Saxophone>というタイトルのイベントを2回位やって、そこから正式にBloodest Saxophoneというバンド名にしました。
── Bloodest Saxophoneというネーミングの由来は?
甲田 : 前のバンドでよく渋谷西武のA館・B館の辺りでライヴをやってたんですけど、大晦日にカウントダウン・ライヴをやったときに僕がサックスのケースに“Bloodest Saxophone”という言葉をでっかく書いて持って行ったのが最初なんです。“Bloodest”っていう言葉から“血・最上級・サックス”っていうのが浮かんだんで、衝動的に殴り書きでブワ~っと書いたんです。それ以来、僕が吹くサックスのスタイルを“Bloodest Saxophone”と自分で呼んでいて、バンド名にもしたんですけどね。
── まさに血の気が上るような激しいサックス、という感じでしょうか?
甲田 : まあ、そんな感じですね(笑)。間違いなくクールではなくホットなイメージで。
── Bloodest Saxophone(以下・ブラサキ)を始めるにあたって、どんな音楽をやろうと思ったんですか?
甲田 : もう完全に、ジャンプとかリズム&ブルースです。僕はジャンプ・ブルースのアーティストとか、テキサス・テナーと言われる荒くれのテナー・サックス奏者全般に影響を受けていて。2012年、日本にお呼びして共演したビッグ・ジェイ・マクニーリーにしてもそうですし、テキサス・テナーのイリノイ・ジャケーとか、その辺は凄く好きですね。
── メンバーの方も同じような音楽が好きで、お互い自然に求めている音がわかるような感じでしょうか?
甲田 : それはもちろんあります。去年のビッグ・ジェイ・マクニーリーとの共演を経て、“言わずしてもこれが出てくる”というような絆はより強くなりましたね。
── ビッグ・ジェイ・マクニーリーはバンドのみなさんを中心に日本に呼んだそうですね?
甲田 : はい、最初はビッグ・ジェイ側からオファーがあったんですよ。ロスにいる日本人が、ビッグ・ジェイに「Bloodest Saxophoneっていう日本のバンドをバックにしてライヴをやりたいから連絡を取ってくれないか」って言われたらしくて。それで知り合いから「ビッグ・ジェイ・マクニーリーが一緒にやりたいって言ってる」っていう話が来て、「マジっすか!?」って。
── ライヴはいかがでしたか?
甲田 : ライヴの時、最初は僕らと伊東ミキオさんが前座で出て演奏して「いよいよビッグ・ジェイ・マクニーリーの登場です!」って呼びこんだんですけど、その時まだ楽屋でパンを食べてたらしくて(笑)。名古屋にある、『めん亭 はるもと』さんていう物凄く美味しいお店があるんですけど、そこの方が大量にチャーシューを差し入れしてくれて。ビッグ・ジェイがそのチャーシューをえらく気に入っちゃって。パンに挟んでクアトロの楽屋でバクバク食べてて。俺らが「ビッグ・ジェイ・マクニーリー!」って言った時もまだ食べてたらしいんですよ(笑)。
── ははははは!
甲田 : 「来ないなぁ~」って思ってたら、彼は足が悪いんでクアトロのの階段を自分のサックスを杖にして「ガーン!ガーン!」って登ってきて、客席の後ろからバーンって吹きながら登場したんですけど。だからサックスを音が出る鉄、くらいにしか思ってないんじゃないですかね?「便利な鉄よのう」みたいな(笑)。
── そんな人なんですか(笑)。
甲田 : だから、僕が彼のサックスを吹いても音出ないんじゃないですかね? コンディションが悪くて。サックスってデリケートな楽器で、普通はそ~っと置くんです。でも彼は「ガーン!」なんで(笑)。それでも演奏は凄かったですけど。まあビックリしましたね、色々(笑)。
── ニュー・アルバムが『Rhythm and Blues』という、そのものズバリなタイトルなんですが、これは世間的に呼ばれている所謂「R&B」というものへの反骨心みたいな気持ちもあったんでしょうか?
甲田 : いや、それはないですね。ただ、『Rhythm and Blues』というタイトルに決めた時に、「ああ、若干シニカルな部分もあるな」とは確かに思いました。でも元々それを意識して付けたわけじゃないです。
── 甲田さんにとってリズム&ブルースとはどんなものですか?
甲田 : “ロックンロールに直結する音楽”ですかね。ロックンロールの前というか。これもビッグ・ジェイ・マクニーリーから直接聞いた話なんですけど、ビッグ・ジェイって、ロックンロールを作った1人なんですよ。彼に「ロックンロールとはなんぞや?」と聞いたら、昔ビッグ・ジェイがやっていたリズム&ブルースの興業が、黒人差別でことごとく潰れていってたらしくて。要は黒人がやっている「リズム&ブルース」という音楽に白人のティーンエイジャーが熱狂しているというのが、行政としてはとても許しがたいことだったらしいんです。だからいろんな地方に興業に行くんですけど、ことごとく潰されたらしいんですよ。で、ある時どこかの土地のプロデューサーが、“R&Bがやってくる!”っていうような宣伝文句を、“R&R”に変えて「これは、ロックンロールっていう白人の為の新しい音楽なんですよ」って行政に申請したのが、ロックンロールの誕生らしいんですよ。
一同 : へぇ~!
甲田 : ビッグ・ジェイ曰く「だからR&BとR&Rって同じ音楽なんだよ」って。興行主がアドリブで考えたのが今に至るという。凄い話でしょ?
── 凄い話ですね(笑)。今回そのビッグ・ジェイのカバー曲も含めて全16曲収録、途中アナウンスが入りますが、ラジオ・ショーみたいなコンセプトがあったんでしょうか?
甲田 : 最初は無かったんです。山中湖の合宿で3日間で16曲録って、最終日に泊まってみんなで酒飲みながら聴いてたんですけど「なんか曲数多いよね?」って話になって。アナログ盤だったら途中でひっくり返したりできるけどCDで曲が並んだ時にどうなんだろう、と。間にアナウンスを挟んだら一回そこでリセットされるんじゃないかな、と思いまして。じゃあカバー曲だけ紹介を兼ねて、しかもノリノリじゃなくて淡々とした感じが本物っぽいなと。アナウンスをしてくれてるのはエンジニアのSugar Spectorなんですけど。
── Sugar Spectorさんとは長いお付き合いなんですか?
甲田 : 1stアルバムから全部お願いしています。今回使ったヴィンテージ機材も全て彼のものなんですけど、昔の古い機材を、メンテナンス込みで扱えるスペシャリストで、日本に出回ってるヴィンテージ機材はメンテナンスとかで彼が携わってる場合があるんですよね。ちなみに今回は現在THE NEATBEATSの眞鍋君のスタジオにある僕らが1stで使った機材を使いたいということで、お借りしてレコーディングさせてもらいました。
── レコーディングは一発録りで?
甲田 : 一発です。ブースも無いんで、バランスもその場で決めてます。だから演奏し終わった時点で残ってるのはマスタリングだけなんですよ。バランスもそこからまるで弄れないし手直しもできないので、もし間違えたらまた一から、ですね。