【インタビュー】高橋優、『BREAK MY SILENCE』リリース「自分だけが“沈黙を破る”だけでは終わらないアルバムにしたい」

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今歌いたいことを、包み隠さずに今歌う。“グッとくるかどうか?”という直感だけを信じて、演奏に没頭する。3rdアルバム『BREAK MY SILENCE』において、高橋優はついに本当の高橋優を発見した、といったら変に聞こえるだろうか。歌われるのはすべて“高橋優が思うこと”という、極めて個人的な視点で描かれた歌詞が、他人事ではない切実さをもって、より多くの人に届くという音楽の奇跡。好き嫌いは、あっていい。が、“これが高橋優です”と言いきる男の生き方を、否定することは誰にもできないだろう。

◆高橋優 画像

■テレビに映って、ちやほやされてる奴がヒーローみたいな
■そんな世の中を終わらせたいんですよ

──もう最初から、気になる曲についてどんどん聞いていこうと思います。まずは「人見知りベイベー」なんですけどね。ほんと、これ最高の曲だと思うんですけども。

高橋:意外ですね。昨日から取材を何本か受けてるんですけど、一番リアクションが大きいのが「人見知りベイベー」なんですよ。この曲は置いといて……って、見過ごされる曲だと思ってたのに(笑)。そしたら意外とみなさん、言われるんですよね。人見知りですか?

──いや、ずっとそうだと思ってたんだけど、40歳過ぎると、そんなこと言ってられないですね(笑)。

高橋:あ、僕もそうなんですよ。楽曲で歌うことはできるんですけど、たとえば呑み会の場とか、初めて会った人に紹介されて、「僕、人見知りなんで」とか言ったら、もうダサイじゃないですか。29歳にもなって。そんなこと言えないですよ。

──ですよね。

高橋:要は、その時にうまく立ち振る舞うやり方を覚えたんですね。でも、人見知りじゃなくなったか?というと、そうじゃない。心の中では、その人との距離を計ろうとしてるし、余計な鎧をまとってる部分が、自分にはあるなと思う。いつも心が丸裸であれたらいいと思うんですけど、なかなかそうなれないと。鎧をまとうのは、自分の弱さを隠すためじゃないですか。

──ですね。

高橋:だから、まだまだ弱いんだろうなと。強くなるためには、まずは自分が人見知りであることを、ちゃんと腹をくくって知らなきゃいけない。ごまかしちゃダメだと。その思いから、この曲を書いたんですよ。

──大事な曲だと思いますよ、これ。で、「人見知り」のテーマって、「蝉」にもつながるじゃないですか。弱い自分を見つめて、強い自分に変わっていこうというような。

高橋:だと思います。「蝉」は、「人見知りベイベー」よりは少しタフになってるんですよ。自分のコンプレックスとか、人からどう見られているとか、そんなことよりも、“自分の人生があとどれぐらいなのかわからないぞ”という危機感があるんですね。人って、まぁだいたい80歳くらいまでは生きるだろうという考え方で、生きてる人が多い気がするんですけど、僕にはそういう価値観がないんですよ。長生きすることを目指してるなら、歌なんか歌わなくていいし、薬草ばっかり食べて、必要最低限の運動と、山暮らしでもすればいい。身体のことだけ考えたら、こんなに無理して音楽なんかやらない気がする(笑)。僕がこうやって、身を削るように歌っているのは、本当に身を削ってるんですよ。そこまでやりたいと思うのは、なぜかというと、“今日死ぬかもしれないじゃん”という考えがあるからなんですよ。いつ何があるかわかんない。それを思うと、“コンプレックスなんか気にしてる場合じゃねぇよ”ってなってくるんですよ。

──ああ、なるほど。

高橋:100%、そうはなれてないですけどね。まだまだ人見知りするし、弱気になることもあるし、やりたいようにやれない時もあるんだけど。「蝉」に関して言うと、弱気になってしまう心に喝を入れる曲というか、“蝉のように、命が1週間しかないとしたらどうする?”と。変な話、僕は蝉に共感するんですよ。土の中で過ごしてる時間が長いというのも、僕がずっと路上ライヴをやってきたことと重なるし、やっと地上に出てきて、今は表舞台で歌っているというところもそうだし。“ラララ♪”をサビにしたのも、蝉の鳴き声に自分の歌をなぞらえてるところがあるんですね。

──あとはやっぱり、「CANDY」。いじめ体験をこれだけ赤裸々に歌うのは、今までになかったし、ものすごく勇気がいることだと思います。これはきっと、すごい反響が返ってくる曲だろうなと。

高橋:どういう反応が返ってくるか?というのも、もちろん大事なんだけど、まず僕が自分の経験を話せるようになった、歌えるようになったというのが、大事だと思うんですよ。今現在いじめられている人がいるとして、たとえば中学校3年間だったら、その3年間が永遠に感じるんですよ。ずっと抜けられないトンネルのように思って、“私は一生この人たちに呪われながら生きていくんだ”って、思っちゃってる人もいると思うし、僕も当時はそう思ったんですよ、間違いなく。でもきっと、そんなことはない。抜け出そうと思えば抜け出せるし、時間がたてば、いい意味でも悪い意味でも、人は絶対変化するんですよ。どうしたって、同じようには生きられない。実際にこの歌のように、絵の具を食べさせられたり、傘を壊されたりして、僕自身が壊されかけて、血を流した経験があっても、極端な話、明日はいじめっこになってるかもしれないんですよ。いじめられた経験と憎しみがつのって、やり返してやろうと思えば、どんどん別の歪んだ形になっていく可能性もあると思っていて。逆に歪まないで、その経験を生かして、まっすぐ生きていくこともできる。どうにでもなれる、と思ったんですよ。

──はい。

高橋:そう考えた時が、自分がいじめというものに少し距離を置いて見ることができた、初めての瞬間だったんですよ。それまでは僕、自分がいじめを経験したなんて、言いたくなかった。カッコ悪くて。だけど、人生、どんな時でも失敗するし、恥ずかしいことなんか誰にだってあるし。「CANDY」もそうだし、「人見知りベイベー」もそうだけど、恥ずかしいとか、弱いとか思ってることも、全部言ってしまおうと…それが『BREAK MY SILENCE』という意味で、今まで沈黙していたことを壊そう、すべて言おうと思ったんですよね。

──よくわかります。でもそれは決して、楽しい作業ではないでしょう。

高橋:楽しい作業ではないですけど、決意表明の文章を書いてるようなものですよ。自分にムチ打つみたいな。逆に、こういう歌を歌う人がたくさんいたら、問題だと思うんですよ。

──まあ、確かに。

高橋:みんながこんなこと歌ってたら、気持ち悪いですよ(笑)。そういう世界というのは。でも、もしも、そうじゃない歌がたくさん溢れている世界ならば、自分がこういうことを歌う価値があるはずだと思うんですよ。いつだって僕は、唯一無二でありたいし、“○○っぽい”と言われるのは嫌いだし。だからといって、自分を特別な人間だとは思ってないんですよ。

──それは、デビューの頃からずっと言ってますね。

高橋:僕はずっと、その他大勢の中のひとりでありたいんですけど、自分を唯一無二にすることで、その他大勢の人を際立たせたい、という気持ちがあるんですよ。テレビに映って、ちやほやされてる奴がヒーローみたいな、そんな世の中を終わらせたいんですよ。テレビをつけると、そういうのばっかりじゃないですか。ドキュメントとかでは、一般的な人を取り上げる番組もあって、面白いなと思うし、そっちのほうが好きなんですよね。だからまずは“自分の沈黙を壊す”ことで、自分を唯一無二のものにして、提示していくことをやりたいんです。

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