【BARKS編集部レビュー】ローランド、あの“バークリー”のプログラムで正しくボーカル・トレーニングを行えるローランド「VT-12」
ボーカルだって楽器と同じで、上達には練習あるのみ。そんなことはわかっているが、いざ練習しようと思っても、効率がよく、正しい練習法ってどうすればいいんだろう。スクールに行くのもいいが、まずは自分で練習したい。でも楽器のように教則本がたくさんあるわけではないし、なにより自分が正しく声を出せているのかもよくわからない。そんなボーカリスト(およびボーカリスト志望者)は意外と多いはず。そんな人たちの強い味方となってくれそうなのが、ローランドの「VT-12」だ。これは、“ボーカル・トレーナー”という名前のとおり、ボーカルの効率的な練習を手伝ってくれるマシンなのだ。
VT-12は、チューナー機能により音域や正確なピッチ確認ができることを基本に、ウォームアップから各種エクササイズまでの多彩な練習曲を内蔵していて、これに合わせて練習できるのが大きな特徴だ。自分の歌を録音して客観的に聴くことができるので、上達度も確認できる。内蔵の練習曲以外に、気に入った曲を取り込んで練習曲に使うことも可能だ。さらにはあの音楽の名門校「バークリー音楽大学」の出版部門「バークリー・プレス」が制作した懇切丁寧なボーカル教則本も付属していて、心構えから呼吸法、上級テクニックまで解説されているため、かなり本気のトレーニングをきちんと行なえる。このVT-12を使ったボーカル・トレーニング、どのような進め方をすればよいのか、実際に使ってみた。
■持ちやすいコンパクトなサイズに視認性抜群のインジケーター
写真からは結構大きく思えるVT-12だが、サイズは一般的なスマートフォンと同じくらい、重量は単三乾電池2本を含めても150グラムとかなり軽いので、片手で楽に持てる。中央部が内側にカーブした形状なので握りやすく、スマホと同じように本体を見るような姿勢で持てば自然に口元に向けられる。背面側には簡易的だがスタンドも組み込まれているので、テーブルなどに立てて使うこともできる。
前面は円が上下に並んだようなデザインになっていて、上の円がピッチ・インジケーターで、下の円には練習曲の呼び出しやピッチ変更などの操作系が集められている。トレーニングの際には、下の部分で設定を行なっておき、上のピッチ・インジケーターを見つめながら歌うということになるだろう。詳しくは後述するが、ピッチ・インジケーターは表示が大きく視認性がよいし、下部の操作もシンプルでわかりやすい。中央左側の小さい円形の部分がマイク、右側はスピーカーだ。側面にはOUTPUT/PHONE端子があり、VT-12の音をヘッドフォンや外部スピーカーで聴くことも可能だ。
■ピッチ確認しながら音感トレーニング
まずはチューナー機能で自分のピッチの正確さを確認してみよう。ピッチ・インジケーターにはA、A#、B...と12の音名が並べられている。A、Bといった音名の代わりにド、レミで音名を表示するための貼り付け用シートも付属しているので、わかりやすい方を使えばよい。使い方はギター用のクロマチックチューナーと同様で、発声した音のピッチが自動的に識別され、その音名の部分が赤く点灯し、同時に円の中央にある緑の三角形で微妙なズレを表示する。正確にジャストのピッチで発声できれば緑の三角形が両方点灯するが、低い場合には左、高い場合には右の三角だけが点灯する仕組みだ。
まずは余裕のある声域でE(ミ)の音を出してみよう。スピーカーのアイコンのついたボタンを押すと、基準音が再生される。その左右にある♭と♯のボタンでEを選べばOKだ。一度基準音を止めてから、この音を発声してみると、Eの部分は赤く点灯するものの、ちらちらと消えそうになっている。どうやらEに近い音程だがズレがあるようだ。緑の三角形は左側だけが点灯しているから、若干低く、安定していないということを示している。ギターのチューニングのように、声を出したまま徐々にピッチを上げていけば見事両方点灯までたどり着くのだが、一発でジャストの音程を出すのは思いのほか難しいことがよくわかった。ただ、一度ジャストを出せるようになれば、次からはすぐにぴったりの音程を出しやすくなるし、E以外の他のピッチでの発声も簡単にできるようになる。身体が覚えるとはこのことだろう。色々な音程で毎日やっていれば、正確な音程を身につけられそうだ。
この機能を使って、自分の出せる音域を確認することもできる。VT-12の基準音を徐々に上げたり下げたりして、ある程度の音量が出せて、ピッチが安定する音の上限と下限を見つければよい。筆者の場合は、下のF(ファ)から上のA(ラ)くらいまで。2オクターブとちょっとの音域であることがわかった。音域を把握していないと、無理な音程の歌を歌ってノドを痛めたりする可能性もあるし、キーの合わない曲はうまく歌えないから、音程は知っておいたほうがいい。
■ハーモニーの練習もできる2声の検出
VT-12のピッチ検出機能は、2声にも対応している。つまり、二人でハモったときでも、両方の声のピッチを検出して表示してくれるのだ。側面にはピッチ検出スイッチがあり、MONO EQUALなら一人の声、CHORD EQUALとCHORD JUSTにすると2声に対応するようになる。ちなみにEQUALは通常のピアノと同じ平均律で、JUSTは純正律(長調)だ。
試しに、声を出しながらギターで単音を弾いてみると、音名のインジケーターには2つの音名が表示され、両方のピッチをちゃんと検出していることがわかる。ギターの方はさすがに安定した表示だが、声のほうは不安定のようで、音名の赤い表示がちらついてしまう。このように、2声のどちらの音が正確なのか、どちらがどの程度高いのか低いのかが一発でわかるので、ハモりの練習には最適だろう。
▲側面のピッチ検出スイッチ。MONO EQUALは一人の声、CHORD EQUALとCHORD JUSTでは2声に対応するスグレ機能。
VT-12には、練習に最適な楽曲もたくさん内蔵されていて、これに合わせて歌うことで効率的なトレーニングを行なうことができる。内蔵の楽曲はジャズ、ラテン、ロック、R&Bなど多彩なジャンルから合計26曲があり、さらにクラシック用の「コンコーネ50番中声用」の全50曲も収録されている。ポップスもクラシックもバッチリ練習できるというわけだ。
VT-12では練習用の楽曲を“トラック”と呼んでいて、内蔵トラックを使った練習にはウォーム・アップとエクササイズの2つのモードがある。本格的なトレーニングに先だってノドを温めるためのウォーム・アップと、テクニックを磨くエクササイズのそれぞれに適したトラックが用意されているのだ。まずはウォーム・アップ・モードを使ってみよう。下の円形エリアのWARM-UPボタンを押してウォーム・アップ・モードを選ぶと、ウォーム・アップ用に用意された12のトラックを、左右にある上下の三角形のボタンで呼び出せるようになる。
▲ウォーム・アップ・モードは下の円形エリアの緑色のWARM-UPボタンを押す。
エクササイズ・モードも、比較的シンプルな音列のトラックが多いが、ある程度長さのある曲もあるし、ロックやラテンなど様々なジャンルの楽曲が用意されているので、楽しみながら練習することができる。また、歌詞が付いているものもあるのでより実践的だ。2声、3声のハーモニーに対応する楽曲もあるので、2人、3人での練習も可能だ。ただしウォーム・アップ・モードに比べて難易度が高い曲も多い。シンプルで簡単なものから始めてじっくり取り組む必要がありそうだ。エクササイズ・モードにはこのほかにクラシックの声楽の練習曲集として世界的なスタンダードとなっている「コンコーネ50番中声用」も収録されていて、本格的な声楽の練習にも対応できる充実した内容になっている。
VT-12では、練習中の音は毎回自動的に録音される。REVIEWボタンを押せば今歌った歌がレビュー再生されるので、歌っている最中にはわからないような細かい部分も確認することができる。かなりできていたつもりでも、聴いてみるとやはりピッチが不安定だということがわかったし、とくに音の初めの部分で音程を外しやすいといったようなこともわかった。自分で自分の歌を聴くのはちょっと恥ずかしいけれど、やはり客観的に聴いてみることは重要だ。また、ピッチ・インジケーターに自分の歌った音程も表示されるので、どの音が弱いのか、どういうパターンのときに外しやすいのか、などということが視覚的にもよくわかる。VT-12は、目と耳の両方から弱点をきっちり教えてくれるのだ。
■外部オーディオ機器から取り込んで好きな曲で練習できる
▲ミニジャックのREC IN端子に外部オーディオ機器を接続してお気に入りの曲を取り込む。ユーザー・トラックとして10曲(1曲あたり最大10分)まで利用可能だ。
取り込んだユーザー・トラックの使い方は、ウォーム・アップやエクササイズのトラックとまったく同じ。再生しながら一緒に歌って練習することが可能だ。内蔵のトラックと違って、メロディのデータは入っていないから、再生しただけではピッチ・インジケーターにはなにも表示されないが、一緒に歌えば自分の歌のピッチは判別して表示されるし、レビュー再生時にもピッチが表示される。カラオケの採点機能のように、自分の好きな曲が正確な音程で歌えているのかどうかが一目瞭然になるわけだ。エクササイズよりも実践での実力がよくわかるから、日々エクササイズをこなしながらスキルを上げ、時々はユーザートラックで上達度を確認してみるといいだろう。
■メトロノームでリズム・トレーニング
VT-12にはメトロノームも内蔵されている。メトロノームボタンを押してメトロノーム・モードにすると、下部のディスプレイにテンポが表示される。テンポは左右のボタンで変更可能だ。これで再生ボタンを押せばメトロノームのクリック音が鳴るから、これに合わせて歌えばリズムもトレーニングできるというわけだ。メトロノーム・モードでも、ピッチ・インジケーターは歌のピッチを表示してくれるので、リズムと音程の両方を意識しながらトレーニングすることができる。また、メトロノームを鳴らしている間はメトロノーム音も自動的に録音が行なわれるので、レビュー再生して、リズムに乗れているかどうかを確認することもできる。
■本格的なトレーニングを可能にする懇切丁寧な教則本
▲*Copyright (C) 2006 by Berklee Press
音程を正確に、といっても、自分で判断するのはとても難しいのだが、VT-12なら簡単にそれがわかる。また、レビュー再生で客観的に聴けるので、弱点や上達度をその都度確認することもできる。ピッチを安定させることを基本に、様々な基本トレーニングを行なうことができるVT-12は、効率よくボーカルを上達させてくれるに違いない。本格的なトレーニングというと腰が引けてしまう人も多いかもしれないが、VT-12なら自宅で気軽に始められる。ボーカルの上達を目指すなら、まずはVT-12を使ってみることをおススメする。
text by BARKS編集部 森本
●チューナー
測定範囲:C2(65.4Hz)~A5(880.0Hz)
内部測定精度:±1セント
基準音発音:基準周波数 A4=415~465Hz(1Hz単位)、発音範囲 A3~G#5(半音ごと、24個)
●メトロノーム
テンポ:30~250/分、精度±0.1%
●ユーザー・トラック
トラックの長さ:最大10分(1トラックあたり)
トラック数:最大10トラック
●入出力
規定入力レベル:REC IN端子=0dBu
入力インピーダンス:REC IN端子=9.5kΩ
出力レベル OUTPUT/PHONES端子=15mW+15mW(16Ω負荷時)
推奨負荷インピーダンス:16Ω以上
●その他
内蔵スピーカー:モノラル
接続端子:OUTPUT/PHONES端子(ステレオ・ミニ・タイプ)、REC IN端子(ステレオ・ミニ・タイプ)、DC IN端子
ディスプレイ:7セグメント3桁(LED)、ピッチ・インジケーター
電源:アルカリ電池または充電式ニッケル水素電池(単3形)×2本、ACアダプター(別売)
消費電流:380mA
連続使用時の電池の寿命:アルカリ電池=約6時間
※電池の仕様や使用状態によって異なります。
付属品:アルカリ電池(単3形)×2本、ドレミ・シート、取扱説明書、練習ガイド、トラック・リスト、保証書、ローランド ユーザー登録カード
別売品:キャリング・ポーチ(OP-RP1)、ACアダプター(PSB-6U)
※お買い求めの際は、PSB6U-100(PSB-6Uと電源コードのセット)をご指定ください。
●外形寸法 / 質量 (電池を含む)
70 mm(W) × 134 mm(D) × 28 mm(H)、質量 150 g
◆VT-12
価格:オープン(予想実売価格 1万5千円前後)
オプション:キャリング・ポーチOP-RP1、ACアダプターPSB-6U
◆VT-12 :: FrontScene :: ローランド
◆VT-12 製品詳細ページ
◆製品解説ムービー Vocal Trainer VT-12 Tutorial Movie
◆ローランド
◆ローランド チャンネル
◆BARKS 楽器チャンネル
この記事の関連情報
BOSS、豊かな低域を実現するギターアンプ「KATANA-MINI」の上位モデルを発売
ローランド、KDJ Recordsとのコラボによるサンプラー「SP-404MKII」の限定モデルを発売
打撃音と振動の発生を75%軽減したローランド史上最も静かな電子ドラムを発売
ローランド、いい音、軽量、簡単操作のライブ用シンセサイザー 3機種を発売
ローランド、ポケットサイズの電子楽器「AIRA Compactシリーズ」に本格的機能のサンプラーが登場
BOSS、ユニークなサウンドと新機能を搭載したディレイ・ペダルを発売
ローランド、プロ・ミュージシャン愛用のステージピアノ新モデル2機種を発売
BOSS、磨き抜かれた「Tube Logic」により表現力が大きく向上した「KATANA」の新モデル7機種を発売
ローランド、「FANTOMシリーズ」がアップグレードして登場