【ライヴレポート】lynch.“お前らの手で誇りある死を……!”@Zepp DiverCity 2013.3.2

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“お前らの手で誇りある死を……!”

◆lynch.@Zepp DiverCity~拡大画像~

本編ラスト曲「A GLEAM IN EYE」のクライマックス、葉月が力強く謳い上げるやフロアはドッと沸き、無数の腕がステージ目がけて伸ばされた。渦巻くカタルシスと、全てが浄化された後の清々しさにも似た晴れやかな想いが場内を満たす。それは2004年の結成から8年をかけて創り上げられてきたlynch.が死に、そして再び生まれ変わった瞬間だった――。

2012年6月にリリースしたアルバム『INFERIORITY COMPLEX』を掲げて、2012年2度にわたり行われた全国ツアー<THE FATAL EXPERIENCE>。そのシリーズ・ツアーを締め括るワンマン公演<「THE FATAL EXPERIENCE #3」-FINAL HOUR HAS COME->が、3月2日にZepp DiverCity Tokyoで行われた。しかし、それが単なるツアーの集大成でないことは、アンコール込み1時間半という彼らの通常サイズを大きく超える2時間半全32曲というボリューム。そして、その内3分の2がインディーズ時代からの楽曲で占められていたことからも明らかだった。最新シングル「BALLAD」のインタビューや当日のMCでも語られていた通り、そこで彼らが求めていたのは今ツアーに留まらない、“これまでのlynch.”の集大成だったのである。

よって彼らの飛躍のキッカケとなり、ファンとの絆を強く結んだアッパー・チューン「ADORE」での幕開けから、拳を振り上げるオーディエンスとのハイボルテージなエネルギーの応酬は止まるところを知らず、“頭からこんなにアゲて大丈夫か!?”と観ているこちらが不安になるほど。新調されたばかりの5弦Vベースから明徳の指が獰猛な音を轟かせれば、玲央と悠介はギター・プレイのみならずコーラスでも緩急豊かに楽曲を彩り、「-273.15℃」の間奏では晁直がパワフルなドラムソロを手数激しく叩き出す。その緊張感を引き継いでステージ中央で向き合い、呼吸と音を一つにする弦楽器隊を赤と青に明滅するライトがスリリングに照らして、炸裂するシャウトと共にムービングライトが客席を嘗め回す「I BELIEVE IN ME」へと繋げる展開も、まさしくドラマティックの一言! 3ヶ月ぶりの単発ワンマンにもかかわらず、その完成度と熱の高さに舌を巻き、胸が躍る。

そこからはlynch.の持ち味であるバンド・サウンドの激しさと、楽曲に内在する世界やメロディの美しさ、そして彼らの“過去”と“現在”がギッシリと交錯。葉月が妖艶な動きを繰り出す妖しさ満点の「melt」(2005年リリース)から、スラップベースと抑揚ない日本語詞がカオスを生む最新アルバム収録の「NEW PSYCHO PARALYZE」へと、新旧の楽曲が並ぶレアなメニューに場内は熱狂する。その歓声を“シーッ!”と鎮めて、ピアノをバックに葉月が歌い始めたのは最新シングル「BALLAD」。冬の情景を思わせる冷たく美しいオープニングが後に入るバンドサウンドを引き立て、消えゆくものへの怯えを纏わせた歌声が儚さから強い信念へと昇華する様に身が引き締まるが、そうして“歌”により創り上げられた世界を堪能するパートも、この日はしっかり用意されていた。薄紫の闇に落ちてゆくステージで歌声を浮遊させた最後、圧巻のアカペラで場内に息を呑ませた「BEFORE YOU KNOW IT」。さらに「AMBIVALENT IDEAL」では、重たく淀んだ空気を引きずるようにタメの利いたヴォーカルが痛い情念を滲ませ、オーディエンスとの肉弾戦状態となった後のセクションと見事な“静と動”の対比を描いて魅せる。

だが、いずれにせよ潜む激情の大きさに代わりはなく、殊に『INFERIORITY COMPLEX』の1曲目でもある「MOMENT」では、葉月が何度も下を指差しながら歌詞中の“あの場所”を“この場所”に歌い換えるシーンも。遂に辿り着いた“この場所”は、彼らのプレイとパフォーマンスに抜群のタフネスを与え、集った人々の歓喜を招き、国内最大規模のライヴハウスを二階席まで熱気で充満させてゆく。そして最後に贈られたのは、ライヴで演奏されるたびに感動を呼ぶ名曲「A GLEAM IN EYE」。“涙があふれても この手は離さないよ”と歌う葉月の声は優しく、か細く、だが、未来への誓いを確かに感じさせて、場内に大合唱を巻き起こした。「ADORE」に始まり「A GLEAM IN EYE」で終わる、このメッセージ力の高いパッケージに、“8年間の総決算を届けたい”という彼らの意図が隠れていたことは言うまでもない。

そんな特別な節目にこの日のライヴを定めた理由は、ようやくアンコールで語られた。6月のTOUR「LIMITED 3 DAYS」(男性限定 / 女性限定 / SHADOWS限定の3days×東名阪)と7月からの全国TOUR「THE NITE BEFORE EXODUS」を発表した後、明かされたのは現在、次の作品を制作中なこと。そこではメンバー全員で曲作りをしていること。“みんなで作ったほうが良いものが出来る可能性が高い。全員で一丸となって取り組んでいるんで、ワンマンは6月まで待ってください!”と葉月は気炎を上げたが、これまで彼の曲だけを発表してきたlynch.にとって、それはバンド史上最大のチェンジとなるに違いない。故に全25曲という掟破りな曲数がMCも挟まず本編に詰め込まれたわけで、“それでもやりたい曲があふれてるので、引き続き……行くぞ!”とインディーズ時代からの鉄板曲を次々と放出したラストは、昨秋リリースされたシングル「LIGHTNING」。“さぁ かけがえのない「現在」が過去にかわる”という頭の1行は、まさに今の彼らの心意気を表しているようであり、迷いのないパフォーマンスには未開の大地に踏み出さんとする彼らの覚悟が見え隠れして、観る者の胸を熱くさせた。

鳴り止まぬ歓声に応えた2度目のアンコールでは、明徳が客席にダイブした「DAZZLE」に続き、“お前ら全員の声で終わるぞ!”と「a grateful shit」で長丁場をフィニッシュ。晁直の重厚なドラミングがフロント陣を前に押し出して、オーディエンスと大合唱を繰り広げる光景に、lynch.というバンドが持つパワーと、それを増幅するファンの力を痛感させられる。その声に触発されてか、演奏後にはフロアに降りて下手脇から後方まで走り寄る悠介の姿も。さらに、ステージ上でリーダー・玲央とハイタッチを交わした葉月は“シメてって言われた”と笑うと、こう頼もしく宣言した。

“おい、次に観るlynch.は過去最強のlynch.だから覚えとけ。また6月に会いましょう!”

新たなる経験を経て、かつてない進化を遂げたlynch.が我々の眼前に現れる日は、そう遠くない。

取材・文●清水素子

「THE FATAL EXPERIENCE #3」─FINAL HOUR HAS COME─ @Zepp DiverCity Tokyo 2013.3.2 SET LIST
1. ADORE
2. I'm sick, b'cuz luv u.
3. -273.15℃
4. I BELIEVE IN ME
5. THE TRUTH IS INSIDE
6. ALL THIS I'LL GIVE YOU
7. THE BLASTED BACK BONE
8. melt
9. NEW PSYCHO PARALYZE
10. EXPERIENCE
11. EVILLY
12. BALLAD
13. CRYSTALIZE
14. BEFORE YOU KNOW IT
15. AMBIVALENT IDEAL
16. MIRRORS
17. THE FATAL HOUR HAS COME
18. MOMENT
19. 59.
20. alien tune
21. INFERIORITY COMPLEX
22. TIAMAT
23. UNKNOWN LOST A BEAUTY
24. pulse_
25. A GLEAM IN EYE
E1.UNTIL I DIE
E2.the universe
E3.STARZ
E4.discord number
E5.LIGHTNING
WE1.DAZZLE
WE2.a grateful shit

<TOUR’13 「LIMITED 3 DAYS」>
2013年6月3日(月)名古屋ZION (MEN’S ONLY)
2013年6月4日(火)名古屋ZION 名古屋ZION (WOMEN’S ONLY)
2013年6月5日(水)名古屋ZION 名古屋ZION (SHADOWS ONLY Vol.5)
2013年6月10日(月)心斎橋CLAPPER (MEN’S ONLY)
2013年6月11日(火)心斎橋CLAPPER (WOMEN’S ONLY)
2013年6月12日(水)心斎橋CLAPPER (SHADOWS ONLY Vol.5)
2013年6月16日(日)高田馬場CLUB PHASE (MEN’S ONLY)
2013年6月17日(月)高田馬場CLUB PHASE (WOMEN’S ONLY)
2013年6月18日(火)高田馬場CLUB PHASE (SHADOWS ONLY Vol.5)

<TOUR’13「THE NITE BEFORE EXODUS」>
2013年7月13日(土)札幌BESSIE HALL
2013年7月14日(日)札幌BESSIE HALL
2013年7月16日(火)仙台MACANA
2013年7月25日(木)江坂MUSE
2013年7月26日(金)岡山IMAGE
2013年7月28日(日)福岡DRUM Be-1
2013年7月30日(火)名古屋E.L.L
2013年8月23日(金)SHIBUYA-AX (追加)
2013年8月24日(土)SHIBUYA-AX

NEW SINGLE「BALLAD」
2013年2月20日(水)リリース
KICM-1433 ¥1,050(tax in)
M-1.BALLAD
M-2.CRYSTALIZE

◆lynch. オフィシャルサイト
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