【ライブレポート】コラージュ映像と音楽に溢れた演劇『ファウスト 第一章』
2013年1月13日(日)ドイツ、ハンブルクからフランクフルト(アムマイン)に向かう電車に乗る前に、本屋でゲーテの『ファウスト』原著を買う。劇場、Schauspiel Frankfurtにてシュテファン・プーヒャー(Stefan Pucher)演出による演劇『ファウスト 第一章』を見るまえに、約5時間かかる電車のなかで読んでおきたかったからだ。電車に乗り込むとケストナーの『エーミールと探偵たち』の挿画に書かれている、エーミールが悪人グルントアイスにお金をすられた客室と同じような客室で、ゲッティンゲンが故郷だという真面目そうな大学生とファウストの話になる。彼は中学生のときに一度、そして最近と合計2回読んだが、まだよく理解できないという。この彼や僕を含め、原著で読んだかどうか、理解できたかどうかは重要な問題でなく、僕たちは何かしらゲーテ『ファウスト』との関わりを持っていると思う。日本語訳を通じて、ファウストがモチーフとなったオペラや演劇を通じて、手塚治虫の漫画を通じて、あるいは宝塚を通じて、あるいは『デビルマン』を通じて。筆者も例外ではなく、1年ほど音響効果担当として参加した某テント劇団の公演の題材が『ウルファウスト』というファウストをモチーフとした作品であり、その際、場面場面に最適なBGMをつけようとして原作と台本をじっくり読み、考えさせられた。
◆演劇『ファウスト 第一章』画像
おそらく、このような“新訳ファウスト”とそれを巡る体験を数え上げたらキリがないだろう。しかし、プーヒャー演出によるファウストはコラージュ映像と音楽に溢れたとても楽しいものだ、と友人から噂を聞いていたのと、2012年日本に来日したアーティスト、マーシャ・クレラ(Masha Qrella)のほか、同じく2012年に来日したパフォーマンス集団Gob Squadの音楽監督、クリストファー・ウーエ(Christopher Uhe)など、ベルリンでセンスの良い音楽を創っているミュージシャンが多数参加していることから興味をもち、本公演をとても楽しみにしていたのだ。
公演開始!長い歴史と伝統からか、ドイツの演劇文化はかなり分厚い観客層を持っていることを満員の客席を見て体感。実際、1月は7回ほど公演があるのだが全てチケット売り切れている。さて、舞台は二階建てで、4~5つくらいのブロックを組み合わせたような複雑な構造になっていて、それが場面場面でクルクルと回転して、ファウストが悩むシーン、悪魔メフィストと契約するシーン、街娘グレートヒェンと恋に落ちるシーンなどで異なった舞台を役者に与える。白い舞台の平面には、あらかじめ撮影しておいた役者が出演する様々な実験的な映像や、アニメーション、だまし絵などが頻繁に投影・挿入され、これらが総合的に、基本的には原作に忠実に書かれている脚本に様々なスペクタクルな色彩感を与えて、いろんな味付けをつけているみたいで、否が応でも観客の想像力を最大限に開放してくれる。
音楽もしかりだ。劇中音楽はほとんどが生演奏によるもので、バンドは3人編成。ザ・ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌(Sympathy for the Devil)」とジョーン・バエズらが取り上げた象徴的なヒッピーソング「Wild Mountain Thyme」が効果的に引用されているのを除いては、作曲は音楽監督クリストファー・ウーエ(Christopher Uhe)によるもので、ゲーテの詩をベースとした曲が書かれており、ファウスト(マーク・オリヴァー・シュルツェ Marc Oliver Schulze)やメフィスト(アレクサンダー・シーア Alexander Scheer)ら役者陣、そしてマーシャ・クレラらミュージシャンがその歌詞を歌う。この日の編成は、マーシャ・クレラがギター、ベース、ボーカル、ベルリンのバンド Say Highthなどで活動しているアドリアン・デヴィッド・クロック(Adrian David Krok)がエルヴィン・ジョーンズ風のパワフルなドラムス、パーカッション、レオ・アオリ(Leo Auri)がキーボード、ベース。
マーシャ・クレラはこのステージで、いわばセッションギタリストとして他人の曲を演奏しているのだが、それだからこそ、ファンキーなカッティング、フォーキーなアルペジオ、アバンギャルドなノイズ、エレクトロニッシュな増幅などなど、彼女のギタリストとしての才能が浮き彫りになっていて非常に楽しめた。1月末の公演では、It's a Musicalのドラマー、ロバート・クレッツマー(Robert Kretzschmar)、マーシャ・クレラの2009年作品『Speak Low』のキーボード奏者、ミヒャエル・ミュルハオス(Michael Mulhaus)、マーシャの3人編成となる予定。これらの贅沢な生バンド構成を見るだけでも、このファウストのスケールの大きさが想像できるだろう。
プーヒャー演出によるファウストはコラージュ映像と音楽に溢れたとても楽しいものだった。なんとも贅沢でスケールの大きい(その言葉の本当の意味での)興行に、感動せざるを得なかった。このファウストが日本でも上演されることを願ってしまう。
文:Masataka Koduka
◆「ファウスト」公演オフィシャルサイト
◆マーシャ・クレラ・オフィシャルサイト
◆演劇『ファウスト 第一章』画像
おそらく、このような“新訳ファウスト”とそれを巡る体験を数え上げたらキリがないだろう。しかし、プーヒャー演出によるファウストはコラージュ映像と音楽に溢れたとても楽しいものだ、と友人から噂を聞いていたのと、2012年日本に来日したアーティスト、マーシャ・クレラ(Masha Qrella)のほか、同じく2012年に来日したパフォーマンス集団Gob Squadの音楽監督、クリストファー・ウーエ(Christopher Uhe)など、ベルリンでセンスの良い音楽を創っているミュージシャンが多数参加していることから興味をもち、本公演をとても楽しみにしていたのだ。
公演開始!長い歴史と伝統からか、ドイツの演劇文化はかなり分厚い観客層を持っていることを満員の客席を見て体感。実際、1月は7回ほど公演があるのだが全てチケット売り切れている。さて、舞台は二階建てで、4~5つくらいのブロックを組み合わせたような複雑な構造になっていて、それが場面場面でクルクルと回転して、ファウストが悩むシーン、悪魔メフィストと契約するシーン、街娘グレートヒェンと恋に落ちるシーンなどで異なった舞台を役者に与える。白い舞台の平面には、あらかじめ撮影しておいた役者が出演する様々な実験的な映像や、アニメーション、だまし絵などが頻繁に投影・挿入され、これらが総合的に、基本的には原作に忠実に書かれている脚本に様々なスペクタクルな色彩感を与えて、いろんな味付けをつけているみたいで、否が応でも観客の想像力を最大限に開放してくれる。
音楽もしかりだ。劇中音楽はほとんどが生演奏によるもので、バンドは3人編成。ザ・ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌(Sympathy for the Devil)」とジョーン・バエズらが取り上げた象徴的なヒッピーソング「Wild Mountain Thyme」が効果的に引用されているのを除いては、作曲は音楽監督クリストファー・ウーエ(Christopher Uhe)によるもので、ゲーテの詩をベースとした曲が書かれており、ファウスト(マーク・オリヴァー・シュルツェ Marc Oliver Schulze)やメフィスト(アレクサンダー・シーア Alexander Scheer)ら役者陣、そしてマーシャ・クレラらミュージシャンがその歌詞を歌う。この日の編成は、マーシャ・クレラがギター、ベース、ボーカル、ベルリンのバンド Say Highthなどで活動しているアドリアン・デヴィッド・クロック(Adrian David Krok)がエルヴィン・ジョーンズ風のパワフルなドラムス、パーカッション、レオ・アオリ(Leo Auri)がキーボード、ベース。
マーシャ・クレラはこのステージで、いわばセッションギタリストとして他人の曲を演奏しているのだが、それだからこそ、ファンキーなカッティング、フォーキーなアルペジオ、アバンギャルドなノイズ、エレクトロニッシュな増幅などなど、彼女のギタリストとしての才能が浮き彫りになっていて非常に楽しめた。1月末の公演では、It's a Musicalのドラマー、ロバート・クレッツマー(Robert Kretzschmar)、マーシャ・クレラの2009年作品『Speak Low』のキーボード奏者、ミヒャエル・ミュルハオス(Michael Mulhaus)、マーシャの3人編成となる予定。これらの贅沢な生バンド構成を見るだけでも、このファウストのスケールの大きさが想像できるだろう。
プーヒャー演出によるファウストはコラージュ映像と音楽に溢れたとても楽しいものだった。なんとも贅沢でスケールの大きい(その言葉の本当の意味での)興行に、感動せざるを得なかった。このファウストが日本でも上演されることを願ってしまう。
文:Masataka Koduka
◆「ファウスト」公演オフィシャルサイト
◆マーシャ・クレラ・オフィシャルサイト
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