ポール・ギルバート【来日直前インタビュー】ブルースは新たな言語を覚えるような感じで発見することが多くてすごく面白いんだ
■面白いコードなら他人にどう言われてもいい
■スタイルを気にせずやってみようと思ったんだ
――ポールが本当にやりたいことを表現したっていう感じだね。以前、ビブラートがポールのギターの表現の原点だって言ってたけど、これをアルバムタイトルにしたことで、ホントにやりたいことをやるっていう、ミュージシャンとしての原点に戻ったっていうことなのかな?
ポール:そうだね。8歳のとき、僕はまだギターは弾けなかったけどギタリスになりたいと思ってて、頭の中にはメロディがたくさんあった。実際にギターを持ってからは、そのメロディを再現しようと練習したんだ。それが僕の出発点だったのに、その後スケールを学んだりテクニックを身につけたりして、作曲のときにも、つい指をどう動かすかを考えちゃってた。でも今回は頭の中のメロディを大切にしたんだ。たとえばカズーで“トゥットゥットゥルー”ってメロディを吹いてみて、それをギターで弾く、とか。そういう意味では原点に戻ったアルバムだね。
――すごく世界が広がってるから、ポールがハードロック・ギタリストじゃなくなっちゃった、と感じる人もいると思うよ。
ポール:これまでだって、ABBAとかキャロル・キングとかをやって、HRファンを驚かせたと思うけど、確かに今回は今まで以上に幅が広がってる。「アトモスフィア・オン・ザ・ムーン」なんてデモを聴いたメンバーが“いったいこれはなんだ!”ってびっくりしてた(笑)。その頃ちょうどフィラデルフィア・ソウルをよく聴いていたんだけど、コードがすごく面白くて。たとえばこうジャーンって弾いたらただのGコードだけど、ボトムにAを足すとほら、違った深い響きになるでしょ? こういうのがホントに面白くて、もう他人にどう言われてもいい、スタイルを気にせずやってみようと思ったんだ。この曲は色々な人に気に入ってもらってるみたいだし、やってよかったよ。
――全体の音もすごく生々しくて、バンドの音が直接伝わる迫力がある。これはこのメンバーでやったことが大きいのかな?
ポール:もちろんそうだけど、スタジオの影響も大きいと思う。すごく狭いスタジオに4人のすべての機材、それにエンジニアも入って、近い距離感で演奏したんだ。実はMR.BIGの『ホワット・イフ…』のときにこういうやり方ですごくうまくいったから、今回もそうしたんだ。
――狭いスタジオって、デラックス・エディションのDVDで見られるあのスタジオのこと?
ポール:そう、そのスタジオさ。
――「バイヴァルブ・ブルース」の歌詞は、スタジオに籠りっきりのつらさから生まれたんだよね。機材がいっぱいで狭くても、雰囲気がよくて居心地よさそうなスタジオに見えたんだけど、実際はつらかったの?
ポール:ああ、あれはスタジオに閉じ込められた状況じゃなくて、狭さというより孤独感の歌なんだ。バンドのセッションをやる前の日って、歌詞を書いたり、必ず一人で最終作業をコツコツとやらなきゃいけないんだ。そのときの寂しさ、孤独感の話さ。スタジオはつらくなかったよ(笑)。
――歌詞といえば、ポールが子供の頃に書いた絵本がヒントになった曲が多いそうだけど。
ポール:これはすごい偶然なんだ。レコーディングの機材を色々と倉庫から出していたときに、奥のほうに知らない箱を見つけて、中から子供の時に書いた絵本がたくさん出てきたんだ。見てみたら意外に面白くて、これは使えるぞって思った。ホントにラッキーだったよ。たとえば1曲目の「エネミーズ」も絵本がヒントさ。ベースにあるのは、他人の不幸を喜ぶ気持ち。あまりいいことじゃないけど、基になってるのは僕が4歳のときに考えたことだから、人間の純粋な気持ちと言えるのかもね(笑)。
――それぞれの曲に、ポールが影響を受けてきた音楽が少しずつ見えるね。たとえば「エネミーズ」ならMR.BIGに通じるようなポールらしいポップさがあって、途中からポールの大好きなビートルズも出てくる。
ポール:ホント? それは意識してなかったけどうれしいね。
――イントロはジャジーな雰囲気だけど、このアイデアはどこから出てきたの?
ポール:これは実はチャカ・カーンの「チュニジアの夜」がヒントだったんだ。長年、あの曲のコード進行を不思議に思って、なんだろうこれはってずっと追求してたんだよ。あと、途中のしゃべってる部分はザッパだね。そしてコーラスの部分はゴスペル。でもゴスペルって普通はみんなを盛り上げるものなんだけど、そこの歌詞は“in jail”、つまり投獄しちまえ!って言ってる(笑)。ギャップがすごく面白いでしょ?
――後半のソロはスティーヴ・ルカサーみたいだし、2曲目の「レイン・アンド・サンダー・アンド・ライトニング」は全体の雰囲気がジェフ・ベックみたい。
ポール:もちろん彼らの影響は受けてるね。でも「レイン・アンド…」は、とくに何かっぽくやろうとしたわけじゃなくて、ホントにその場で思ったことを曲にしただけなんだ。それと、このフレーズ(「レイン・アンド…」に出てくる上昇フレーズを弾く)は、僕としてはオールマン・ブラザーズっぽいつもりだったんだけどな(笑)。
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