ポール・ギルバート【来日直前インタビュー】ブルースは新たな言語を覚えるような感じで発見することが多くてすごく面白いんだ
超絶技巧、正確無比のハードロックギタリストというこれまでのイメージを最新ソロアルバム『ビブラート』で思いきり覆したポール・ギルバート。コテコテのブルースで泣きまくったり、ジャジーなコード進行を使いまくったり、ファンキーなグルーヴに乗りまくったり、ファルセットでソウルフルに歌ったり、そしてもちろん超絶テクニックのギターも満載。そしてなによりどの曲もカッコいい。新たな次元のギタリストに進化したことを見せつけるような仕上がりだ。このアルバムについて話を訊いたところ、ポールはギターを弾きながら丁寧に解説、そしてなんと曲のネタ元まで次々と明かしてくれた。
■色々な音楽で一番魅力に感じるのはアレンジなんだ
■バラバラな各パートがまとまるってアートだと思う
――(ギターを持ったまま席に着くポールに)インタビュー始めるけど、そのままでOK?
ポール:うん。ギターとアンプがあれば僕は幸せなんだ!
――最近はギタークリニックで忙しいそうだね。
ポール:ヨーロッパなどでギタークリニックツアーをやったり、オンラインでもクリニックをやっていて、2012年は本当に教える機会が多かった。実際に生徒と接すると、今のギタープレイヤーたちがどんなことを考えているかわかるし、インスピレーションも受ける。とてもいい経験だよ。
――クリニックではどんなことを教えているの?
ポール:ギタリストって、どうしても指に集中しちゃうよね。でもホントに大事なのは、こうやって足を動かしてリズムをとって、身体全体で感じて、そして耳でよく聴くことなんだ。そういうことをもっと大事にしろって言ってる。
――この11月には日本でもクリニックツアーをやったんだね。
ポール:うん。いつもは地元のドラマーとベーシストを頼むんだけど、日本では僕一人のワンマンバンドだったんだ。足でリズムをとりながらギターを弾いて、ペダルでベースを入れて、歌も歌って。音楽って一人でもこうして楽しいことがたくさんできる。大事なのはギターだけじゃないってことを、伝えられたと思うよ。
――最新ソロアルバムの『ビブラート』、すごくよかったけど、今までの作品とはかなり違っていて驚いたよ。みんなにそう言われたんじゃない?
ポール:(ギターをジャーンと弾いて)新しいコードを覚えたからね!(笑)
――これまでと違うことをしようと意識したの?
ポール:アルバムを作るときは、いつだって何か新しいことをやろうと思うんだ。それってエキサイティングだけど、新しい領域に足を踏み入れるのはちょっと怖い部分もあるよね。今回は、たとえば(マイナー9thなどのコードをいくつか弾きながら)こんなコードを使ってみたいと思ってて、うまくいくかどうか不安だったけど、やってみたらすごくよかった。とくにこういうコードの使い方なんかで、新しいことを色々やってみたのがこのアルバムさ。
――クリニックをたくさんやったことの影響もあったのかな?
ポール:そうだね。クリニックの生徒って、僕をコピーしようとしているので、いわば鏡みたいなもの。速弾きばっかりで、ビブラートとか、表現にとってすごく大事なことを忘れていることが多いんだ。これはもちろん自分の反省にもつながるんだけどね。そういう人たちに対するメッセージもこのアルバムに込められている。たとえばタイトル曲なら、リズム。普通の縦ノリだけじゃなくてシャッフルビートとか、“ワン、ツー”ってビートのアタマだけじゃなくて、“ワン and ツー and”って裏を感じるとか、こういう(ギターでリズムを弾いて)シンコペーションとか。そういうのが音楽としてとても楽しいし、世界ももっと広がるってことを伝えたかったんだ。
――ギター中心ではなくて、曲の面白さやバンド演奏の面白さが前に出てるように感じるね。
ポール:色々な音楽を聴く中で、僕が一番魅力に感じるのはアレンジなんだ。各パートがバラバラなことをやっていても、それがアレンジでひとつにまとまる、これってひとつのアートだと思うんだ。だから今回、これまで以上にアレンジを大事にしたんだ。たとえば1曲目の「エネミーズ」なら、“テリラリラ…テリラリラ”ってギターのフレーズがあって、その間に“ダッダーン”ってキメ。合わせて聴くと、“テリラリラ、ダッダーン”というアレンジになってまとまるってわけさ。このアルバムで、アレンジの“ニューアート”に一歩近づけたんじゃないかと思ってる。ライヴで見てもらえればもっとそれがよくわかると思うよ。
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