MAY'S、みんなが笑顔になれる結成10周年記念アルバム『Smiling』リリース大特集

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MAY'S

4thアルバム『Smiling』、Remixアルバム『Remaking ~Remix Collection Vol.2~』2枚同時 2012.06.13リリース

レコーディング機材

MAY'Sサウンドの秘密を聴く
(かなりマニアックでハイレベルのため要注意。わかる人だけ読んでくださいね)

『Smiling』という新作アルバムは、レコーディングスタジオではなく、トラックメイカーである河井純一の自宅スタジオで作られた。トラックの制作のみならず、片桐舞子のボーカルのレコーディングもその自宅スタジオで行われたという。そこで作られたMAY'Sサウンドの秘密を機材の面から解き明かすため、河井純一に話を聞いた。
取材・文●高松靖博

結局なんか手が伸びちゃうのはハード
ソフトシンセよりもやっぱりハードが好き

現在の彼のトラック制作・レコーディングの中心となるのは、12コアのApple Mac ProとAvid Pro ToolsによるDAWシステムと、数多くのハードウェアシンセサイザー。また、ソフトウェアシンセサイザーも主要なものはほぼインストールしてあるという。はじめてコンピューターの導入もMacからだ。

河井純一(以下、河井):初めて制作に買ったMacが20歳くらいのときで、PowerMac G4。一式Pro Tools LEの002とかスピーカーとか含めて3年ローンで買いました。当時はMacもほんとに高かったですし。

──当時のシンセは?


KORG TRITON Rack:HIシンセシス・システム音源搭載のTRITONのラック版

河井:KORG TRITONですね。

──あらかじめ書いていただいた機材リストを見るとハードウェアが多いようですが。


KORG M3:サンプラー、KARMAやシーケンサーも内蔵したミュージック・ワークステーション

河井:今でもソフトシンセはほぼ主要なのは持ってるんですけど、やっぱ、ハードがなんか好きですね。結局なんか手が伸びちゃうのはハードっていうか。たぶん頭の中にインプットされてるから、どのカテゴリーにどんな音が入ってるとか身に染み付いちゃってるんで、どうしてもハードを使っちゃいますね。Macもけっこう今は12コアのものを使ってるんで、すごいパワフルではあるんですけど、やっぱりなんか実機を触ってる感じが好きっていうか。存在として音がある感じがするんですよね。ハードって。

──鍵盤付きよりもラックタイプが多い?

河井:もともと鍵盤のほうが多かったんですけど、やっぱ、そのへんは一回シェイプアップしようと思って。すごく場所をとるんで。メインマスターキーボードのKORG M3だけを残して、あとはラックに買い換えた感じですね。

──コルグ製品が多いようですね。

河井:もともとTRITONで始まったので。また、このジャンルってTRITONがいろんな名曲を生んでる感があって。今の子たちにはそういう印象はないかもしれないんですけど、僕らの世代だとやっぱりTRITONという感じがあるので。痒いところに手が届く音がいっぱいあるので。なんだかんだ使いっちゃいますね。

──パソコンでの音色管理などは?

河井:昔はやってました。今はリズム系の自分でサンプルしたキックやスネアとかはパソコンで管理しているんですけど、ウワモノは特にしてないですね。昔はほんと一発限りで録音して、もうリセットしてたんですけど、最近はメモるようにしてます。再現が必要な時は自分の音を耳コピしたりしてたんですが、それがちょと苦痛になってきたので(笑)。トラックごとにメモってます。昔はシンセもそんなに持ってなかったんで、覚えていられたんですけど、最近はシンセも増えてきたんで。たとえば、このピアノの音、どのシンセなんだろ?とか。

──ソフトウェアはいろいろ使ってるとのことですが

河井:一番使用頻度が高くて気に入ってるのがピアノのIvory。容量が大きいだけあって素晴らしいなと。ほぼ僕の曲でピアノの音が聞こえるのはIvoryですね。ちゃんとペダルを踏んだ時の弦が“ファン”って鳴っちゃう感じまで入ってて。“ガコっ”ていうところとか。細かいなあ、と。グランドピアノに関してはハードウェアも昔は使ってたんですけど、最近は全部Ivoryですね。

──ストリングスは?

河井:僕、すごい90年代とかのR&Bが好きなんです。当時ってけっこうアコギとかもそうなんですけど、なんか打ち込みっぽいのがかっこいいみたいな時代でしたよね。生々しくしないというか。だから、ストリングスとかは、ほんとそれこそ、ハードウェアシンセのプリセットの一番上にあるようなのを多用しますね。変に色気があるようなのは好きじゃない。だったら生でやればいいかなという感じ。ストリングスに関しては生々しくしたいときは生で録ればいいとかな思ってるんで。

──生と打ち込みの割合は?

河井:性格的にカッチリしてるのが好きなんです。グリッドにしっかり頭が合ってる感じで、ベーシックを作ることが多いので、生で録るのはギターと、バラードとかでストリングスくらいですね。逆にリズムだったりピアノを打ち込みでカッチリと作る分、ギタリストには人間味を出してくださいとリクエストするんですけど。そこでちょっと揺れを出してもらうというか。けっこうリズムとかまで手弾きで打ち込む人も最近多いんですが、僕はけっこうグリッドにぴったり合わせて並べてく感じですね。

──機材リストにはパッドで叩いて入力できるNative Instruments MASCHINEもありますが、リアルタイム入力は?


Native_Instruments_MASCHINE:パッド搭載のハードウェアとソフトウェアによるグルーブ・ツール

河井:思いっきりコンセプト的に揺れてるとき以外は使わないです。あまり手弾きをしないですね。ウワモノに関してもなんでも。もともと僕らが中高生くらいのときって、パソコンでの曲作りってもう高嶺の花だったんです。シーケンサーのヤマハQYっていうゲームボーイみたいので数値で打ち込んでったのが始まりなんで。ステップ入力がそんなに苦じゃないっていうか。今みたいなグラフィカルに見えるのが最初はやりづらいくらいで。もう数値でやってました。

──そのときに鍛えられた?

河井:そうですね。Pro Toolsを買った最初の2、3年もQYで打ち込んだデータを流して(笑)。なんか時代遅れの人みたいになってて。

ソフトシンセもアウトボードを通して
ミックスのチェックはカーステレオで


Millennia HV-3D:8ch仕様のソリッドステートマイクプリアンプ。4chバージョンもラインナップ

トラック制作においてシンセで作られた音は、Pro Toolsに取り込まれたあとでミックスされる。その際、すべてアウトボードを通すのが河合ならでは録音手法だ。スタジオではマイクプリアンプMillennia HV-3C(2ch)とHV-3D(8ch)の合計10chに全部シンセが接続されているという。

──アウトボードをいったん通す意図とは?


AMEK 9098 DMA:2ch仕様のマイク・プリアンプ

Universal Audio 1176LN:1チャンネル仕様のオールトランジス ターのリミッター/コンプレッサー

SONY C-800G:ボーカルに適した真空管式コンデンサーマイクロホン

河井:アナログフィールを加えるっていうのが一番大きいですね。ソフトシンセも一回外に通して戻してますね。MillenniaのHA(ヘッドアンプ)を通して。場合によってはわざと歪ませたりして。もともとはヤマハのちっちゃい16chの卓でやってたんですけど、現在はそれをちょっとレベルアップした感じです。AMEK 9098DMAとUniversal Audio 1176LNは、ボーカル用に購入したもの。その2つが舞子の必殺セットというか。ソニーのC-800Gがマイクで、AMEKのHA通して、76のコンプをかけるっていうのが昔からの録り方。エンジニアさんがそのセットでずっと舞子の声をインディーズ時代から録ってくれてるんですけど、その同じのを買って、自宅でも同じように録れるようにと。

──ボーカルは?

河井:全部自宅で録りました。ヤマハのアビテックスっていうボーカルブースを設置して。あれって演奏目的に作られてるんで、すごい響くんですよね。気持よく響くようになってて。レコーディングだとそれだとまずいんで、レコーディング仕様に吸音処理してブースとして使ってます。

──吸音はどんなふに?

河井:自分でやりました。吸音材っていう玉子ケースのパックみたいなスポンジみたいなのを買っていろいろと。やっぱり見栄えもいいほうがいいと思って。マンションで下の階の人へのクレームをなくすために、静音カーペットっていうのが1マスずつ売ってるんですけど。その上で足踏みするとほんと足音が消えるっていう。そのカーペットがすごく分厚いんですが、それを超強力なガムテープで壁に貼って、そうすると見栄えもよくなるというか。いろいろネットで調べて(笑)。同じようなことを考えてる人がいっぱいて。けっこう手作り精神という感じで。

──レコーディングスタジオを自宅スタジオに近づけるような工夫は?

河井:自宅スタジオのよさって、それこそ見栄えとか、リラックスできる雰囲気が大事だと思ってて。たとえば家具ひとつにしろ床・壁の雰囲気ひとつにしろ、いかにもスタジオっぽくすることはいくらでも可能なんですが、そういうつもりはぜんぜんなくて。やっぱり自宅スタジオのよさって、家っぽさだと思うし、リラックスできる環境だと思うんで。ほんとに殺風景なスタジオにするんだったら意味ないかな、スタジオでやればいいかなって。たとえばおもちゃを置いたりとか、そこは意識してますね。なんとなくお客さんへの配慮じゃないですけど(笑)。とくに舞子がリラックスできる感じにしています。

──ビクターのミニコンポEX-AK1は音づくりにも?


Victor EX-AK1:フルレンジのウッドコーンが特徴のコンパクトコンポーネントDVDシステム

河井:そうですね。スピーカーを切り替えるセレクターがあるんですが、曲を作ってるときから7割くらいはビクターをセレクトしちゃいますね。けっこう小っちゃいんですけど。でもなんか大きい音で聴いてると、かっこよくなっちゃうんですよね。なんでもかっこよく聞こえるというか。オッケーオッケー!いい!いい!と思うんですけど、あとでそれこそラジカセとかで聴くと、なんか“あれっ?”って思っちゃったりすることも多くて。なるべく大きい音で聴かないようにしているというか。そういうのもあってけっこう鳴らしてますね。最近、スタジオでもラジカセの代わりにこれを置いてあるところが多いですね。スタジオでは昔から大きいスピーカーと小さいラジカセが確認用に置いてあることが多かったんですが、最近はこっち。たぶん、最近の考え方だとそもそもラジカセで聴く人いるのか?ってとこもあると思うんですけど(笑)。

──iPod/iPhoneでのチェックなんかはしますか?

河井:スタジオでミックスとかをして帰りにチェックで聴くのは、自分が把握しやすいカーステレオですね。一番頻繁に聴いている音なので。リラックスもしてるし。カーステでの確認って好きですね。運転しながらすぐエンジニアさんに電話したりするときもあるし(笑)。やっぱり、クルマで聴いてたらバランスの悪さに気が付いたり、とか。出来立てのデモとかもドライブしながらあらためて聴いたりとかも好きですね。

HAやコンプはビンテージ
シンセは今のがいい

インタビュー終了後、最新シンセが多く並ぶ機材リストの中でも異彩を放つビンテージともいえるシンセサイザー、E-MU MO'PHATTとSTUDIO ELECTRONICS SE-1の2機種について話をを振ると興味深い答えが返ってきた。

河井:もともとシンセをいろいろ増やしたいなあと思った時に、ハードウェア・シンセで買ったのがその2つなんです。MO'PHATTは結局あまり使ってないですね。いかにもMO'PHATTの音みたいな音すぎて、使ったらバレバレみたいな感じで(笑)。SE-1については、もともと僕と舞子はDREAMS COME TRUEがすごい好きなんですが、ドリカムの中村さんがすごいそのシンセが好きっていうのをなんかのインタビューで見て。じゃあ同じのを買おう!って思って買いました。正直持っていながらもシンセに関しては、最近のが好きというか、ここ10年くらいのものが好きというか。HAとかコンプはビンテージの良さはすごくわかるんですが、シンセに関しては古いのがいいとは意外とあんまり思ってなくて。メーカーも努力していいものを作ってるんで、今のがいいと思っちゃいますね。


<河井純一:使用機材リスト>
レコーディング関連
・Apple Mac Pro 12-core
・Avid Pro Tools|HDX + HD I/O (DAWシステム)
・AMEK 9098 DMA (マイク・プリアンプ)
・Millennia HV-3C (マイク・プリアンプ)
・Millennia HV-3D (マイク・プリアンプ)
・Universal Audio 1176LN (リミッター/コンプレッサー)
・AVALON U5 (DIプリアンプ)
・SONY C-800G (コンデンサー・マイク)
・NEUMANN U87Ai (コンデンサー・マイク)

制作関連
・KORG M3 (シンセサイザー)
・KORG TRITON Rack (シンセサイザー)
・KORG microKORG XL (シンセサイザー)
・Roland Fantom XR (シンセサイザー)
・Roland XV-5080 (シンセサイザー)
・YAMAHA MOTIF-RACK XS (シンセサイザー)
・E-MU MO'PHATT (シンセサイザー)
・STUDIO ELECTRONICS SE-1 (アナログ・シンセサイザー)
・Native Instruments MASCHINE (ソフトウェア+ハードウェア・コントローラーによるサンプラー/グルーブマシン)
・その他ソフトウェアシンセサイザー類

音響関連
・KRK VXT8 (モニター)
・YAMAHA MSP5 (モニター)
・Victor EX-AK1 (ミニコンポ)
・PreSonus CENTRAL STATION (モニター・コントローラー)
・FURMAN HDS-6 (ヘッドホン・モニター・システム)
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