【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】 第27回「検証!ディラン版モノ・ボックス『BOB DYLAN The Original Mono Rrecordings』-その(2)-」
D.W.ニコルズの鈴木健太です。
今回は前回に引き続き、ボブ・ディラン『THE ORIGINAL MONO RECORDINGS』を取り上げます。前回は外観などから、おもにその仕様について色々と検証してみましたが、今回はいよいよ音について検証していきたいと思います。
しかし検証とは言っても、ディランの初期作品の“本物”のオリジナルMONO盤は、残念ながら『Highway 61 Revisited』しか持っていないので、このボックスセットに入っている作品すべてを“本物”と比べて検証するは不可能です。なのでここでは、STEREOミックスで聴き慣れていたものをMONOミックスで聴いたときの印象について、考察していきたいと思います。また、『Highway 61 Revisited』に関しては“本物”との聴き比べが可能なのでその聴き比べをしてみます。
なお、本来なら一作品ごとにじっくりと考察していきたいところではありますが、それをしていると尋常ではない文量となってしまいそうなので、ここではそこまで細かくは検証しません。全体としての印象で話を進めていこうと思います。
まず弾き語り作品のMONOミックスを聴いて感じたのは、迫力と奥行き感の凄さでした。言うまでもありませんが、MONOにはSTEREOのように左右がないわけですから、ミックスにももちろん左右の概念はなく、奥行き感に重点を置いてミックスがなされているのです。
前回でも少し触れましたが、STEREOが主流になるまでの作品、つまりこの『THE ORIGINAL MONO RECORDINGS』(以下『Mono Rec.』)に入っている作品では、基本的にレコーディングもミックスもMONOで行なわれたようですから(『BLONDE ON BLONDE』等ではSTEREOでレコーディングを試みるも収拾がつかなくなりMONOミックスにしたという話も聞いたことがありますが)、これらの作品の一般的に広く聴かれているSTEREOミックスは、MONOミックスを半ば無理やりSTEREOミックスにしたもの(擬似STEREOなんて言葉も使われます)だったり、エンジニア任せの「やっつけ」ミックスで作られたものだったりするようです。
そんなSTEREOミックスでは歌が片方に寄り、そしてギターはもう片方に寄っているために、不自然と言えば不自然な感じを受けます。ビートルズの初期作品などにみられる、ドラムや歌が片方に寄っているミックスもこういう理由からです。
しかしMONOミックスではもちろんその不自然さはありません。歌とギターは一体となり、一つの音の塊となって出てきます。もしディランがすぐそこで歌っていたなら、ギターは右、歌は左から、などではなく、こう聴こえるはずなのです。また、ディラン作品に限らずMONOミックスに共通して感じられるMONOならではの独特のリバーヴ感が、よりその臨場感を高め、まさにディランがそこで弾き語っているかのようにさえ感じさせてくれます。
そして迫力の凄さはミックスによるものだけではなく、声やギターの質感も大きく影響していると思います。声もギターも、線が太くパンチが効いている上に、体温が感じられるような生々しい質感を持っているのです。音の太さに関してはマスタリングによるところも大きいのかもしれませんが、この生身の質感や温もりはアナログだからこそより強く感じられる部分なのではないでしょうか。
また、MONOとSTEREOでの聴感上のわかりやすい違いの一つに、歌の聴こえ方が挙げられます。MONOではSTEREOミックスのものよりも歌の音量が小さいように聴こえます。STEREOミックスに慣れてしまっている人には聴きにくいと感じる人もいるかもしれません。音量自体に違いがあるのかどうかはわかりませんが、これは歌と演奏が混じっているか、混じっていないかの差だと思います。STEREOミックスの場合は前述の通り、歌と楽器は別のところから聴こえるのでどちらもはっきりと聴こえるわけです。これは弾き語りのものに限らず、エレクトリックバンドの作品に関しても言えることで、ドラム、ベース、ギター、鍵盤、そして歌が、左右のそれぞれの位置に配置されているので、演奏が盛り上がっても歌は比較的聴こえやすいのです。しかしMONOミックスでは左右はありませんから、歌と演奏が混じり合い、ディランがまさにバンドの中で歌っているように聴こえ、演奏が盛り上がればより歌と演奏とは一体となります。それが人によっては聴こえにくく感じるのかもしれませんが、これはMONOだからこその臨場感、一体感とも言えると思います。
『Bringing It All Back Home』以降の、いわゆるエレクトリック・ディランの作品では、そのMONOだからこその臨場感・一体感が作用して、STEREOでは体感することのできなかったグルーヴを体感することができます。
この時期のエレクトリック・ディランのバンドの演奏は、細かいアレンジやフレーズがどうこう、というものではなく、ディランの歌と言葉のリズムを中心としたセッションなのです。そのガチャガチャした演奏や、歌のたたみかけるようなリズムが、MONOではまさに渾然一体となって物凄いグルーヴを感じさせてくれるのです。
このように、僕はすでにこの『Mono Rec.』の音には十分満足しています。初めてMONOミックスで聴くディランの作品たちに違和感などはまったくなく、自然というか、あるべき姿に戻った印象を受けました。そして本来の姿を取り戻した曲たちは、なお一層生き生きとして、さらなる自由を持ってそこにいるのです。
▲左が“本物”のUSオリジナルMONO盤、右が『Mono Rec.』
聴き比べて感じたことの一つに「新品のレコードの素晴らしさ」があります。僕が集めているオリジナル盤たちは、たいてい40年位も前にプレスされ、人の手を渡り歩き、長い年月をかけて僕の手元にやってきたものたちです。その間にはたくさんの細かい傷がつき、ノイズがまったくないなんてことはまずありません。しかし、この『Mono Rec.』はまったくの新品。傷によるノイズは皆無なのです。ずっと、レコードにノイズはつきものだと思っていましたし、多少のノイズは気にならないと思っていましたが、こうして新品のレコードを聴いてみて、ノイズがないということがどれほど良いことか、改めて気付かされました。
では問題の、聴感上の印象はどうか。僕が聴いた限りでは、高音の伸びや低音のふくよかさに関しては、特に違いを感じませんでした。しかし、何かが違う……。微妙な違いではあるけれど、何かが違います。そしていろんな曲のいろんな箇所で聴き比べた結果、音の湿度が違うような気がしたのです。温度ではなく、湿度が。“本物”の方が、乾いている。『Mono Rec.』の方が、やや湿っている。音のヌケがどうとか、そんなはっきりしたものではないのですが、そう感じたのです。そして、その“本物”の方の音の、微妙な乾き具合がよりこの作品のサウンドに合っているように思えてしまうのも事実です。
▲同じく左が“本物”のUSオリジナルMONO盤、右が『Mono Rec.』
では結局、普段聴く場合にどちらの『Highway 61 Revisited』を選ぶのかというと、僕は『Mono Rec.』の方を選びます。前述の通り、『Mono Rec.』の音質には十分に満足している上に、何と言っても傷によるノイズがないというのが大きなプラス要因となって、普段聴く場合ならこちらに軍配が上がります。そして、腰を据えてじっくり聴きたいというときには、“本物”のUSオリジナルMONO盤を聴くのです。
僕は、ディランの初期8作品についてはこの『Mono Rec.』でひとまず大満足。これは十分、“本物”の代わりが務まる素晴らしいボックス・セットだと思います。しかし、『Highway 61 Revisited』での検証からわかるように、“本物”には“本物”にしかない音があるのもおそらく間違いないことだと思います。『Mono Rec.』で満足ではあっても、きっといつかは“本物”が聴いてみたくなり、探し求める羽目になる予感もしています。
これもオリジナル盤の魔力なのかもしれません。
オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。
text by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)
◆連載『だからオリ盤が好き!』まとめページ
◆鈴木健太 Twitter(D.W.ニコルズ)
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「イイ曲しか作らない」をモットーに、きちんと届く歌を奏で様々な「愛」が溢れる名曲を日々作成中のD.W.ニコルズ。
2005年9月に、わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。
その後、鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、2007年3月より現在の4人編成に。
一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W. =だいすけわたなべが命名。(※C.W.ニコル氏公認)
2ndアルバム『ニューレコード』
2011年1月26日リリース
曲目:01.バンドマンのうた 02.あの街この街 03.一秒でもはやく 04.チャールストンのグッドライフ 05.大船 06.風の駅 07.HAVE A NICE DAY! 08.2つの言葉 09.レム 10.Ah!Ah!Ah! 11.beautiful sunset
【CD+DVD】
価格:3,000円
品番:AVCH-78025/B
【DVD収録内容】“2 MUSIC SHOW! & 2 MUSIC VIDEO”
【CD only】
価格:2,500円
品番:AVCH-78026
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