アミューズメント・パークス・オン・ファイア、「聴く人達の心をこのサウンドで溶かしたいね」

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天才マイケル・フィーリック率いる若きシューゲイザー・シーンの旗手、アミューズメント・パークス・オン・ファイア。彼らのサード・アルバム『ロード・アイズ』が9月22日にリリースされた。レコーディングは順調に行なわれながらも、制作に4年もの歳月を掛け、究極のサウンドを目指すあまり14人のミキサーを試すことになったという当作品『ロード・アイズ』。「いいものができるまで作業を続けただけだ。」というマイケル・フィーリックに直撃したオフィシャル・インタビューをお届けしよう。

◆アミューズメント・パークス・オン・ファイア画像

――前作『Out Of Angels』から、すでに4年の月日が流れています。最新作『ROAD EYES』までの4年間を、どのように振り返っていますか?

マイケル・フィーリック:まず、こうして新しいアルバムが出来上がった事に、僕は本当に感謝しているよ(笑)。ただ、ある意味では僕たちはすごくラッキーだった。だって、レーベルから「早く次のアルバムを出せ!」とか、プレッシャーをかけられる事もなかったし、僕は急いで曲を書き上げる必要もなかったからね。だから4年も開いてしまったわけで、僕達はしばらくただ存在しているだけのバンドになっていた時期もあったんだけどさ。ただ、他のバンドでプレイしたり、そのバンドでツアーに行ったり、常に曲を書き続けていられる状態じゃなかったから、ストレスもそれなりに溜まったよ。でもその分、「本当に良いアルバムを作りたいんだ」って再確認する事が出来たし、「何故僕は、今の時代に音楽を作るのか」ということを、改めて考える機会にもなった。そして、良い結末を迎えられたってわけ。曲を書く段階で、このアルバムは僕の中から自然と滲み出してきたんだ。決して無理に引っ張り出したものではないね。ただ、濃厚な生産ペースの時と、煮詰まって長い時間止まってしまう時。その繰り返しの4年間だったという感じかな

――あなた方が、ここ数年の間に巻き起こっている「シューゲイザー・リバイバルの起爆剤」と言われることについて、どのような感想をお持ちですか?

マイケル・フィーリック:正直な所、そういう括りで語られているバンドに対して、取り立てて親近感を持っている訳ではないんだ。だって、そういうサブ・ジャンルってすごく退屈で、それらと比べられたり、関連して語られたりするのは時としてフラストレーションを感じるから。シューゲイザーって看板を背負っているバンドは、大概イメージ的な意味だけだし、僕からすれば単に「全曲にディレイを使いたい言い訳でシューゲイザーって言っているだけだろ?」なんて思っちゃうよ。僕にとってマイ・ブラッディ・ヴァレンタインはとても重要なバンドだけど、シューゲイザーと言われているバンドは、マイブラから安易にパクっているだけのバンドが多い。マイブラって、ダイナソーJr.とかハスカー・デューとか、僕がとてもインスパイアされたバンド達と比較されることも多いだろ? つまり、ただの気怠いUKシューゲイザーとは違う要素がマイブラにはあるということなんだ。今はシューゲイザーでくくられてるバンドがいくつもいるけど、Sarena Maneesh、A Sunny Day In Glasgow、 No Ageとかだったら、僕は同じ括りに入れられてもいい。彼らはオリジナルなサウンドを追求しているからね

――ちなみに、現在のバンド編成は?

「僕達は5ピースで、全力投球の絶妙なロック・アンサンブルだよ。まずはギター、プロダクション、ミックス担当のダン・ノールズと、ドラムのピーター・デール。ふたりとももう6年くらい一緒にやっているんだ。ダンは僕が18の時に作ったLPでレコーディングのミックス・エンジニアをしてくれた。ピートのドラムロールはアルバムの冒頭で聴けるけど、僕が教えたんだ(笑)。若い頃に、僕をバーボンとトム・ウェイツ、シュガーの「コッパーブルー」を爆音で聴く世界に引っ張ってくれたのが彼らで、今の僕を構成するのに欠かせない要素になっている。そしてキーボード、サンプリング、ギターその他を担当しているのがジョー・ハーディ。僕が8歳の頃から知っている、ノッティンガムのウーラトンの学校に一緒に通っていた。ジョーはファースト・アルバムのアートワークをデザインしてくれて、それ以降2枚のアートワークを手がけてくれたんだ。僕達は今までに、いくつものアートワークを一緒に作ってきたんだ。ニュー・アルバムのジャケット写真を撮ったのも彼で、僕の抽象的で、へんてこなアイデアを理解してくれる希有で不運な才能の持ち主さ。ギャヴィン・プールは弦楽器を弾いているのがもったいないくらいの才能の持ち主で、ベースを担当している。ノッティンガムで僕達の音響担当をしてくれていて、それがあまりにもラウドだったから、パリに彼を連れて行って野外でのショウで音響をやってもらったら、ピクニックに来ていたフランス人家族を怒らせたことがあってさ。その時に、どうせだったらバンドに入ってもらって世界中のオーディエンスを定期的に怒らせてみてはどうだろう?って思ったんだよ(笑)。そして僕は、歪んだギター弾き。ブレット・イートン・エリスと、ダグラス・クープランドの作品のある章のタイトルから名前をとって、マイケル・フィーリックと名乗っている。エコー・パークのバーでガンガン酒を飲んで、紙にインクをぶちまけながら、自分の現実世界と自分自身を乖離させようと日夜頑張ってるよ。人間らしさと、その視野を大事にしながらね

――前作から本作までの間で、生活環境や創作環境に変化は?

マイケル・フィーリック:環境の変化は、今回かなり重要な要素だね。常に面白い物を作り続けていく、鍵だとも言えるんじゃないかな。『Out Of The Angeles』を聴けば冬のアイスランドを感じるし、『Road Eyes』を聴けば夏のLAを感じるはずだよ。その二つの間には大きな隔たりがある。他のバンドでは考えられない程にね。

――共同プロデューサーに、マイケル・パターソンとニコラス・ジョーディンを起用した経緯は?

「マイケルはP.ディディの右腕みたいな存在なんだけど、「P.ディディと充分に渡り合えるなら、僕達とだって渡り合えるはずだ」って思ったんだ。彼らは強力にバックアップしてくれて、いろいろな面でサポートしてくれたよ。僕達が求めていた通りにね。ただ、最初の数週間はまるでブートキャンプのシゴキみたいだった(苦笑)。僕は自分に「彼らを信じて突き進めばいい」と言い聞かせながら付いていったよ。そして今、その選択は間違っていなかったと思っている。彼らは僕達と一緒に、ハリウッドのリハーサル・スタジオで曲を細分化したり、アレンジをしてくれた。ソングライターとして、そういう作業を他の人と一緒にやった事はなかったから、すごく新鮮だったよ。でも、僕の主張や曲を守るために、意見をぶつけ合うことも多かったけどね。「Inside Out」とかはそういう曲だね。だけど「like 'Wave Of The Future」とかは、2人のプロデューサーの手によって大幅にアレンジが変わったよ。格段にサウンドが良くなったね。音を足したり、贅肉を削ぎ落としたり…それぞれに意味があって、すごく面白い経験だったよ。ただ、ブレット・イートン・エリスの作品のある章のタイトルから取った「Water From The Sun」という曲名に対して、「今まで聴いた中で最悪のタイトルだな!」なんてマイケルは言うんだ。なんと言われようと、そこは譲れなかったね(笑)。

――「完成したアルバムに何度も何度もミックスをし直して、結果的に14回もミキサーを変えた」と聞きましたが。

マイケル・フィーリック:それはちょっとだけニュアンスが違うんだ。確かにミックス・エンジニアは14人試したけど、ちゃんとしたアルバムを作るんだったら、普通はそれくらいするべきだと僕は思うんだ。でも14人試してもどれもしっくりこなかったから、マイケルが2曲、残りをダンがミックスしてくれた。それでやっと完成したんだよ。何度も繰り返しミックスをしたっていうのは否定しないけど、「これだ!」っていうものが出来るまで作業し続けた、ということなんだよね。言葉にするのは難しいんだけど、具体的にどういう物にしたいっていうのは明確にあったから。でも、言葉にしつくせないくらい極々個人的な好みであり、テイストだからさ。一緒に仕事をしたミキサー達はみんなとても才能のある、今まで素晴らしいアルバムで仕事をしてきた人達ばかりだったんだけど、僕達が望むものっていうのがあまりにもピンポイントに決まった物だった。長い時間もかかったし、至って現実的に言ってしまうと予算も限られている訳で、その中での苦闘だったよ。だけど、例えばニルヴァーナの「ネヴァーマインド」やスマッシング・パンプキンズの「サイアミーズ・ドリーム」と同じくらいの予算さえあれば、時間さえかければそこまで出来るって事じゃない? たとえ予算がなくても、きっとマネージャーはこう言ってくれる。「必要は発明の母、金がないところにこそ美しい音楽と才能は生まれる」ってね

――アルバム制作前には、どのような青写真を描きましたか?

マイケル・フィーリック:今回は、「もっとオープンでいたい。あるべき姿に自然と成立していくように」と考えていたんだ。例えば「Echo Park // Infinite Delay」は、LAに行ってロックする僕らがロックスターになるっていう、ジョークで書いたような曲で、ボーナス・トラックとして収録するシークレット・トラックの予定だったんだ。それが結果的にはこのアルバムのセンターピースになっているんだからね。このアルバムはオーソドックスな意味でのロック・アルバムにしたかったから、それがブレないように注意を払ったね。ゴールはいつも、ダークで抽象的な物の中にポップで何か光る物を作る、ということなんだけど、最終的な目標は僕自身が聴いていて楽しい曲を作る事なんだよね。今回はそれが100%達成出来たと思っているよ

――前作はスタジオの環境も含めて、シガーロスからの影響が顕著だった作品でしたが、本作に影響を与えたものは?

マイケル・フィーリック:本当にいろいろあるよ。何しろ、そこにはL.Aっぽさっていう明確な環境の変化もあって、ブレット・イーストン・エリス、ニール・ヤング、ニルヴァーナ、それと僕達の仲間でもあるシルバーサン・ピックアップス、ジャイアント・ドラッグ…だけどいちばん大きいのは、数年前、ノッティンガムからバスで45分くらいのイーストウッドっていうヘンピな場所に住んでいた時、数年前に書いた曲だね。DHロレンス生誕の地なんだけど、そういう環境からすごく影響を受けた。このアルバムは僕の孤独な瞬間から生まれたものがいっぱい詰まっているんだ。僕の心の奥深くのね。

――音楽的には、ハードコアに根差したエクストリーム・ミュージックの影響も感じられたのですが、いかがでしょうか?

マイケル・フィーリック:そうなんだよ。実は日本のバンドにすごく影響を受けてるんだ。アシッド・マザーズ・テンプル、メルト・バナナ、ギターウルフ、ボアダムス…。それに、ソニック・ユースとノー・ウェイヴは僕の魂に刻み込まれてるからね! 最近のものだとSunn O))も大好きだよ

――大作『ROAD EYES』を完成させた現在、次に掲げている目標は?

マイケル・フィーリック:もう次のアルバムを考えているよ。次はプラハでケン・トーマス(シガー・ロスの数々の素晴らしい作品やM83等の仕事をしている人)と一緒にレコーディングしたいんだ。次作ではギターのディストーションやディレイは減らして、その代わりブラスやストリングス、クワイアを使ってウォール・オブ・サウンドを作りたい。その前にはもちろん、このアルバムを携えて世界中をツアーしたいよ。聴く人達の心をこのサウンドで溶かしたいね!

インタビュー:冨田明宏

『ロード・アイズ』
2010年9月22日発売
YRCG-90043 2,300円(税込)
1. Road Eyes
2. Flashlight Planetarium
3. Inside Out
4. Raphael
5. Echo Park//Infinite Delay
6. Wave Of The Future
7. So Naturally
8. Water From The Sun
9. Inspects The Evil Side
10. In Our Eyes (2008 Demo for 'Road Eyes' LP)※
11. Young Fight (2009 Featuring Leanne Narewski)※
※日本盤ボーナス・トラック
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