広沢タダシ、3年ぶりのアルバムは「売れてるアレンジとか音像とは違う」

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シンガー・ソングライター広沢タダシが、3年ぶりのオリジナル・ニューアルバム『雷鳴』をリリースする。アメリカン・ロックにブルース、ソウル、ファンクと、彼の音楽ルーツが色濃く出た本作は、“心の宇宙を旅する”を密かなテーマに、今まで以上に伸びやかに力強く、エスプリを効かせて、より純度の高い広沢ワールドを展開。待ってた甲斐のある一枚になった。まさに雷鳴に打たれるがごとく、素晴らしい音楽に打たれる衝撃と感動がここにはある。

取材・文●赤木まみ

   ◆   ◆   ◆

――3年ぶりのオリジナル・アルバムですが、いつ頃、制作に取りかかったんですか?

広沢:2009年、所属していたレコード会社を辞めたんですけど、辞めると決まった時、実はすぐアルバムを出そうと思ったんですよ。それまでに書きためてた曲も結構あったし。でも、じゃあ“どんなものを作ろう?”と思った時に、自分の土台がちょっと薄い気がしたんですよね。それまでに積み上げてきたものも自分の糧にはなってるんやけど、なんとなく土台がユラユラしてるイメージ…というのかな? それで、だったら1回ビルを壊して、土台をもう一度固めるイメージでやってみようと。“自分の音楽って何なんやろう?”とか、曲の書き方にしても、ギターのプレイにしても、もう一回見つめ直したところで作っていこうと思って。で僕は、ジェームス・テイラーとかキャロル・キングとかジョニ・ミッチェルとか、その辺が好きで、アコギも影響を受けてるんですね。あとはソウルとかブルースとかも好きで。だから、その辺をもう一回やってみようと思って、新たに作っていったのが今回のアルバムなんです。

――じゃあ今作は広沢くんのルーツ・ミュージックが色濃く反映したアルバム、と言ってもいいかもしれない?

広沢:かもしれないですね。その色を敢えて強く出してるし、アレンジもあんまりオーバー・プロデュースしないようにしたし。

――うん、シンプルだよね。シンプルなだけに曲の良さがまっすぐ伝わってきて、「LAST TRAIN」とか、泣きそうになりました。この曲、悲しいことなんか一つも言ってないのに…それどころか、広々としたイメージですごく気持ちがいいのに、なんだか胸締め付けられて。

広沢:あぁ…嬉しいです。自分はやっぱりそういうのが好きやなぁと思って。だから、日本で売れてるアレンジとか音像ってあるんですけど、そんなんではなく、“自分らしいもの”っていうところを基準に作っていった感じはありますね。それを作ることで、次に進める気もしたし。

――“自分らしい”と言えば、歌詞にも広沢くんらしさが良く出てますよね。例えばダブル・ミーニングが多く使われてたり、心の中とか人間の本質を何かにたとえながら表すのが、広沢くんの歌詞の特徴だと思うんだけど。

広沢:そうですね。そこはわりと意識してやってます。僕は曲を書き始めたのが20歳の頃で、当時、歌詞をどうやって書いたらいいんやろうと思って、結構本を読んだんですよ。もともと本好きだったのもあって、村上春樹とか安部公房とか芥川龍之介とか、いろいろ。そうすると、村上春樹さんなんかまさにそうなんですけど、ダブル・ミーニングとかメタファーっていう比喩の表現を使っていて、そこから学んだものも多かったんです。だから今回はその色も強いし、なるべく平易な言葉を使って違うことを言えたらいいなぁと思いながら書いていきましたね。

――だから、一般的なJ-POPみたいな歌詞とは違う、独特の世界観があるんでしょうね。

広沢:そうですね。ポピュラー・ミュージックというのは、どうしても芸術までは行きにくいと思ってるんですけど、でもちょっとでも奥深いものにしたいし、自分らしいものにしたいと思ってやってます。
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