P.T.P、ムック、Jがもたらした1+1+1=3以上の興奮<BARKS LIVE>レポート
いよいよフェスやイベントが目白押しのシーズンが到来。その先陣を切るかのように、去る7月11日(日)、ZEPP TOKYOにおいてBARKS発足10周年を記念するスペシャル・ライヴが開催された。とはいえ、そこにはBARKSの誕生日を祝うようなアトラクションやお祭りめいた趣向が用意されていたわけではなく、メインはあくまで純度の高いライヴのぶつかりあい。考えてみれば音楽情報サイトにとっても最重要なのは、個々の情報の確かさと視点の独自性、そしてライヴ感ということになるはず。揺るぎない芯と個性を持ったアーティストたちが種も仕掛けもないライヴで相乗効果を生んでいくようなイベントこそ、この日には相応しいといえるに違いない。べつに編集長からそんな説明を受けていたわけではないのだが、開演前、ステージ背景のスクリーンに映し出された「BARKS結成10周年」という文字を見ながら、僕はふとそんなことを考えていた。
宴の幕開けに仕掛けられたのは「Here I’m singing」。PABLOが掻き鳴らすギターに、T$UYO$HIとZAXの重いグルーヴが絡み、Kが歌い、叫ぶ。研ぎ澄まされたサウンドの炸裂感に身をまかせているうちに、曲は「Against the pill」へと移行。いきなりの波状攻撃に、フロア前方は激しく波打っている。
「ZEPP、一緒に楽しんでいこうぜ!」
Kの呼びかけに応えるように、場内はさらに一体感を増し、ステージ上の4人は単にヘヴィで攻撃的なばかりではない自分たちの持ち味を発揮しながら、さらなる揺さぶりを掛けていく。最新EPの表題曲にあたる「Pictures」のウタゴコロ。メディアに価値観を左右されがちな現代社会に警鐘を鳴らす「The Answer is not in the TV」。果ての見えない大観衆が合唱するのが似合いそうな「Butterfly soars」。いずれもヒット・チャートを賑わせてきた楽曲ではないが、このバンドを支持する人たちにとっての大切な曲ばかりだ。
「生きてる実感ってやつを、今日も感じてませんか?」
そんな言葉に導かれて始まった「Another day comes」についても、それは同じこと。P.T.Pの音楽について形容しようとするとき、どうしても無条件に“轟音”とか“混沌”といった言葉を用いてしまいがちなところがあるが、彼らのそれには、いつも希望の匂いが伴っている。過剰な閉塞感とは無縁なのだ。しかもキャラクターの強い各々の楽曲の余韻を引きずることなく、彼らはむしろそれを断ち切るかのようにして次々と殺傷力の高いチューンを仕掛けてくる。この夜、初めてこのバンドのステージに触れた人たちのなかには、その攻撃展開の見事さに舌を巻いた人、あるいはKがときおり聴かせるファルセットの美しさに象徴される“静”の部分での意外性に驚かされた人も少なくなかったことだろう。とにかくこのバンド、理屈抜きでカッコいいのだ。現に、僕の近くで観ていた某関係者の口からは、終演直後、「予想はしてましたけど、こんなにカッコいいとは!」という言葉が聞こえてきた。まだまだ“観られるべき人たちすべて”には観られていない気がするP.T.Pだが、逆に言えば、目撃者の数と同じだけ、中毒患者を発生させ得る力を持っているのがこのバンド。去る6月19日に東京・SHIBUYA AXで行なわれた自身のツアー・ファイナル公演も大盛況のうちに終わっているが、このサイズにとどまっているべきバンドでは、やはりない。僕はそれを、改めて確信させられることになった。
◆Pay money To my Pain セットリスト
SE
1. Here I'm singing
2. Against the pill
3. Unforgettable past
4. Pictures
5. The answer is not in the TV
6. Butterfly soars
7. Another day comes
8. Paralyzed ocean
9. Position
10. Terms of surrender
11. Out of my hands
「ZEPP、暴れようか!」
逹瑯の扇動に、場内の室温がさらに上昇する。それにしても、着物を羽織ったスナフキンのごとき彼のたたずまいは、もはや誰にも真似のできないもの。あれを着こなせてしまうのは彼自身の存在感が確立されているからこそであるはずだが、同じことが、さまざまなベクトルと質感を持った楽曲たちを自分たちのものとして消化/提示できてしまうムックというバンド自体についてもあてはまる。泣きのギターをイントロに据えた「アゲハ」でオーディエンスを激しく波打たせたかと思えば、「ファズ」や「オズ」ではその場をダンスフロアへと一変させてしまう。コア・ファンとムック初体験者が混在する場内を、こうして強引に一体感で包んでしまえるのもムックの強味なのだ。なにしろ彼らは、自分たちのことを知らない観客すらも無条件に身体を動かしてしまうような曲で会場全体をコントロールしながら、自分たちの掌のうえでライヴを転がし、しかも自分たちならではの世界というものを知らず知らずのうちに味わわせてしまう。これができてしまうバンドは、やはり強い。
「ムックです。BARKS10周年ということで、おめでとうございます。すげーアツいメンツが集まってると思うんで、最後まで楽しんでいってください!」
「約束」を歌い終えた逹瑯がそう告げる。直後、「思い切り暴れようか!」と叫ぶと、その先には「謡声」のピースフルな一体感が待っていた。さらにその先には、「茫然自失」から「蘭鋳」へと連なっていくカオス状態が用意されていた。そして最後、闇から光へと抜け出していく「リブラ」で締め括られたステージは、まさに「50分間で体感できるムックの世界」として凝縮されたものだった。さすが、百戦錬磨。与えられた場、与えられた時間枠のなかで、そうしたライヴを完遂してみせた彼らは、今後もこうした機会を有効に踏まえながら、より揺るぎない場所へと歩みを進めていくことになるのだろう。客席に向かって深々と礼をしながら去っていく4人の姿が、なんだか普段の彼ら自身のライヴのとき以上に頼もしいものに見えた。
◆ムック セットリスト
SE 球体
1. 咆哮
2. アゲハ
Inter SE
3. ファズ
Inter SE
4. オズ
5. 約束
6. 謡声
7. 茫然自失
8. 蘭鋳
9. リブラ
その流れを断ち切らぬまま襲い掛かってきたのは、火遊びの好きな彼と共鳴者たちにとっての定番中の定番、「PYROMANIA」。イベントだとはいえ、いや、イベントだからこその“皆殺しメニュー”の始まりだ。しかも今夜は、その濃縮版ということになる。「やっちまえ!」の号令を待つまでもなく、熱気渦巻くフロアは通常の彼のライヴにかぎりなく等しい“明るいカオス”と化している。
「こんな素敵なイベントに呼ばれて、光栄です!」
客席に向けてそう挨拶したJは、続けざまにこんな言葉を投げつけてきた。
「今夜、全部吐き出して帰ってくれ。俺が全部受け止めてやるぜ! もっとデカい声、出せんだろ、おい!」
挑発的で扇動的。しかもそうやって一方的に攻めてくるだけではなく、昨今の政治家たちにも見習わせたいようなフトコロの深さをこの男は持っている。しかもJは、彼のことを激愛している者たちも、興味本位で腕組みしている連中も、分け隔てなく同等に扱う。だからこそフロア後方の“偵察組”もいつのまにか腕をほどき、拳を突き上げるようになるのだ。
「Go Charge」の尋常ではないスピード感、「Reckless」の異常なほどの切れ味。繰り出されるすべてが強烈だ。しかし「Feel Your Blaze」で熱が最高潮に達したものと思われたステージには、まだまだ先があった。
「これじゃあ終われねえ。逃げも隠れもしねえから、最後におまえらのロックを見せてくれ! とことん跳ねてみろ。どうせ跳ねっ返りの人生だろ?(笑)」
次の瞬間、投下されたのは「CHAMPAGNE GOLD SUPER MARKET」。とてつもない爆音の快楽。まさにこの男にしてこのバンドあり。そしてこのファンあり。ただでさえ熱いこのイベントを、本当の意味での完全燃焼にまで至らせること。それを使命としながら登場したというべきJと“プロフェッショナルで凶暴な仲間たち”によるステージは、こうして本当のクライマックスを迎えた。
「またロックしようぜ! おまえら、次に会うときまで、何があってもくたばんなよ!」
午後8時、Jのこの言葉をもって、記念すべき画期的なこの一夜のプログラムはすべて終了に至った。タイムテーブル通りに進行せず、すべてが遅れ気味になるのがイベントの常であるはずなのに、この夜はすべてが予定通りに、過剰なくらいスムーズに進んだ。もちろんロックに必要以上の予定調和は要らない。が、そんな単純な事実にすらも、僕は3組のツワモノたちのプロ意識の高さを感じさせられた。しかもトータル3時間に及ぶイベント全体を通じて体感することのできた熱は、あらかじめ想定していた以上のものだった。
◆J セットリスト
SE
1. break
2. PYROMANIA
3. final call
4. ray of light
5. Go Charge
6. RECKLESS
7. Feel Your Blaze
8. CHAMPAGNE GOLD
相撲で言うところの「初顔合わせ」となった3組が繰り広げた、まさに灼熱のライヴは、心地好い疲労感に、それを重く感じさせることのない爽快感を余韻として残しながら幕を閉じた。フロアに集結していたオーディエンスにとっても間違いなく「1+1+1=3」以上の興奮と満足感をもたらしたはずのこのライヴは、BARKSが発足10周年を迎えた今年だからこそ実現したものではある。が、理由は何でもいい。こんな機会ならば毎年でも、毎月でも訪れて欲しい。もしも皆さんも同じように感じているのだとすれば、その熱意がきっと、何らかのカタチで“次”を実現させることへと繋がっていくに違いない。この熱が途切れずに継承されていくのを見届けていくためにも、僕自身もまだまだ、くたばってなどいられない。
文●増田勇一
写真●北岡一浩
◆Pay money To my Pain オフィシャル・サイト
◆ムック オフィシャル・サイト
◆J オフィシャル・サイト
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