いきものがかり、4作目だからできたハジマリの決意表明。『ハジマリノウタ』特集

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いきものがかり メンバー曰く“重心の低い”アルバム『ハジマリノウタ』堂々完成!

4作目だからできた、ハジマリの決意表明

INTERVIEW-1
「“こういうの好きなんです、いきものがかり”というのを提示したいなというのが動機かな」(山下)

──さて、さらにいくつかの収録曲について。まずはやっぱり表題曲の「ハジマリノウタ~遠い空澄んで~」に関して。

水野: このアルバムを端的に言い表してる曲だと思いますね。元々は山下が、「遠い空澄んで」という曲を持ってきて。こういう壮大な曲なので、当初はアルバムの終盤に持ってくるつもりでいたんです。で、曲もほとんど出揃って、レコーディング自体もある程度進んだ頃、そろそろタイトルを決めようということになって。そのミーティングのときに、ディレクターがボードに「てのひらの音」と書こうとして「はじまりの音」と間違えて書いてしまって。ただ、そこで“はじまり”という言葉は、すごくいいんじゃないかという話になって。今年、結成10周年になるんですけど、いつまでも新人のつもりでいたら、もうシングルを16枚も出してたりするわけなんですよね、今の僕らは。

──ええ。そんな“新人”はいません(笑)。

水野: ええ(笑)。で、デビューからもうすぐ丸4年になるし、これから5年目に入っていこうとしてる今は、“これから”を考えなきゃいけない時期でもある。これからどんなふうに自分たちを表現していこうかってことを。そんなときに作ってる4枚目のアルバムのタイトルにこの言葉を使うのは、なんだか決意表明みたいな感じもあって、すごくいいんじゃないか、と。その瞬間から、アルバム自体のコンセプトがより明確で具体的なものになってきたんです。だったらジャケット写真も、何も演出のない白い衣装を着たものにしよう。スペシャル・ブックレットには過去10年間の写真を使おう。そんなふうにアイディアが膨らんでいくなかで、この曲の歌詞が「ある程度、今までを踏まえたうえでの“これから”」を見据えたものだってことに改めて気付かされて。それが今の自分たちにすごく重なってもいるし、だったらタイトルも「ハジマリノウタ」にして、アルバムの1曲目に持ってこようということになったんです。結果、この曲で始まって「明日へ向かう帰り道」で終わることで、すごくアルバムとしての一貫性も出たと思うんです。

──というわけで、次はその「明日へ向かう帰り道」について。

吉岡: これはインディーズの頃に生まれた曲で。いつも3人きりでやってた曲なんです。知る人ぞ知る曲、というか。ライヴでもバンドでひとしきり盛り上がったあと、最後の最後に3人だけで、「いきものがかりはこんな3人です」みたいな感じでときどき披露してきた曲で。でも同時に3人の原点が見える曲でもあるし、だからこそずっと「いつかアルバムに入れたいね」って言ってたんです。ただ、今までのアルバムでは、かならず最後に入れるべきどっしりした曲というのが他にもあったんで、タイミングを逸してきて。それを今回ここに入れられたのは自分でも嬉しいし、この曲を聴いたことがある人たちも喜んでくれるだろうなって思う。これって、カッチリやる曲じゃないというか、3人で呼吸を合わせながら、そのときの気持ち次第で好きなように、伸びやかにやれる曲なんですね。そういうところが大好きで。だから今回、ストリングスと一緒にやってみようって話になったとき、「そういう空気が損なわれたら嫌だな」と思ってたんですけど、結果的には3人だけでやってたときの良さはそのままに、アルバムの最後を締め括るのに相応しい、どっしりとした感じが加わった感じ。本来の気持ち良さが、そのまま拡大されたというか。

──続いては「真昼の月」に関して。かなり“和”の風味のある曲ですが。

山下: うん。メロディも歌詞もそうですね。元々のアイデンティティとして“和”というか、歌謡曲のテイストというのは持ってるつもりなんだけど、今回は琴の音なんかも入ってきて、それがいい意味でエスカレートしてるというか。「こういうの好きなんです、いきものがかり」というのを提示したいなというのが動機かな。今までのアルバムでも少なからずやってきたことではあるけど、それをもっと突き詰めてみたかった。アウトロの琴の音なんか、“切腹!”みたいな感じで(笑)。琴の音をシンセじゃなく生で入れるのは本間(昭光/編曲を担当)さんも初めてだったらしいんですけど。プロの奏者の方をお呼びして、どんな人が来るのかと思ったら若い女性でした(笑)。でも、新鮮な体験でしたね。

──以前、「ちょっと演歌っぽいものにも興味がある」という発言をしていましたよね?

山下: この曲なんかにはそういう部分、ありますよね。歌詞の面でも古語みたいな表現を使ったり、漢字の表記を変えてみたり。聖恵の歌自体にも、ちょっとそういう手触りがあるかもしれない。「演歌っぽく歌って欲しい」とか言ったわけじゃないんだけど。

──吉岡さん的には、いわば着物に着替えて歌ったような感覚だったんでは?

吉岡: 確かに(笑)。普段の自分の、ワーッと騒いでるテンションとは、ちょっと違う感じ。でもなんか、曲自体にこう歌うべきだって感じさせられてたんでしょうね。自分の声の“下”の成分がなるべく出るといいなと思って。ふわふわした歌にはしたくないと思ったので。以前は「悲しい歌、暗い歌が、明るく聴こえる」のが私の良さだとか言われてたところがあって、「ふたり」ではちょっとそういった傾向を抑えてみることにも挑んでみて。この曲ではさらに、もっと声自体に、地に足の着いた感じが必要なんだろうなと思ったから。でも実際、この歌は私にとって、明るくもないし暗くもない。もっと複雑で曖昧なものが表現できたのかなっていう感覚があるんです。

──「真昼の月」というもの自体、明るいのか暗いのかわからない。そこにも重なっていますよね。それに「秋桜」という曲がありますけど、タイトルから連想されるのは“和”のテイストの濃いしっとりとしたものなのに、実際には違う。そういった裏腹な面白さも、このアルバムには散りばめられています。

山下: さだ(まさし)さんの同名曲の印象が、あまりにも強いですもんね。実はこれも、19歳ぐらいのときに作った曲で。“和”っぽいもの、歌謡曲的なものを書きたいと思いながら最初に作ったのがこの曲だったんです。だからこの曲は、結果的にはそれ以降のための布石でもあったというか。実際、「秋桜」の存在なくして「真昼の月」はなかったかもしれない。

──なるほど。ところで、歌謡曲というものについての解釈も、世代や嗜好によって違ってくるはずですよね?

吉岡: 私の考える歌謡曲って、ちゃんと歌詞が聴き取れて、どの世代の人が聴いても内容を自分に当てはめられるもの。そういうものじゃないかなと思ってるんです。メロディもおぼえやすくて、コドモたちでも違和感なく入っていけるような。

──今の言葉はそのまま、いきものがかりの音楽を指しているようにも思えます。

水野: ありがとうございます。というか、実際そうなれるように頑張りたいです。家族全員で聴けるような音楽を作りたい、という願望はすごくあるんですよね。やっぱり元々、路上ライヴで始まったバンドなんで。街を歩いてるのは若い人ばかりじゃないし、音楽がものすごく好きな人ばかりでもない。そんな人たちをどれだけ振り返らせることができるか、というところに出発点があるから。そこはむしろ変わってないのかもしれない。

「このツアーをちゃんと終えることができたなら、それは自分たちにとってもすごく糧になると思う」(吉岡)

──そこを出発点としながら始まったライヴ活動も、2010年はすごいことになりそう。すべての都道府県をまわることが皆さんの念願でもあったはずですけど、3月から始まる次のツアーは、それどころではない本数です!

水野: 全58本ですからね。半年がかりで。気持ちはもう、そこに向かいつつあります。

吉岡: まずは体力づくりから心がけないと(笑)。これまで、「ツアーをやるよ!」と言ったとき、いつも「でも私の街には来てくれないの?」という声がかならず聞こえてきてたんです。だけど今回は、みんなが日本に住んでさえいるなら(笑)、ちょっと待っていてくれれば私たちはかならず行くので。だから「うちの街に来てくれたら、絶対行くのに」と言ってた人たちには、かならず観に来て欲しい。このツアーをちゃんと終えることができたなら、それは自分たちにとってもすごく糧になると思うし。

山下: 積み重ねてきたものがあるからこそできるツアーだと思うんです。最初のツアーはたった7本だったけど、そこからいきなりこの本数になったわけじゃない。今年(2009年)は38本のツアーをやってきたけど、それを経てきたからこそこうなったわけで。でも、ツアーは本当に楽しいし、自分たちが楽しくないとやれないことですよね。だから、楽しみながら半年間、続けていけたらいいなと思う。

吉岡: だからこそ今回は、ツアーが始まる前にちょっとだけ休もうかなって。声の品質管理をしっかりしていかないといけないし。これまでの経験から“安心するための決まりごと”みたいなものがだんだんと見つけられるようになってきたし。せっかく休みをもらっても何だかんだと動いてしまうところがあったけど、そこで本当に休む勇気も必要かなって思うんで。

水野: 確かに。とはいえきっと、僕は休み中も曲作りをしてしまうんだろうなと思います(笑)。でも実際、楽しみなんです。自分のなかからどんな曲が出てくるのか、このアルバムができたことで“次”にどんなものが生まれてくるのかが。

取材・文●増田勇一

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