闇から光へ。アリス・イン・チェインズ、待望の新作登場

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アリス・イン・チェインズの新作、『ブラック・トゥ・ブルー』が、この9月30日にようやくリリースを迎える。いわゆるオリジナル・アルバムとしては実に14年ぶりとなるこの作品の原題は、『BLACK GIVES WAY TO BLUE』。中学校で習う英単語しか並んでいないのに今ひとつ意味がわかりにくいところだが、直訳すれば「“黒”が“青”に道をゆずる」ということで、もう少し噛み砕けば「それまで真っ暗だった闇に、少しばかり光が差し込むようになる」ことを言い表しているのだという。

実際、バンドの創設者のひとりであるレイン・ステイリー(Vo)が2002年4月に他界してからというもの、彼らはずっと“闇”のなかで呼吸し続けてきたともいえるのだろう。レインの歌声があってこそのアリス・イン・チェインズ。そうした成り立ちを当事者たち自身が誰よりもよく知っていたはずだし、それはファンにとっても同じ。だから心の底では復活を求めていても、それを誰も声高に訴えようとはしなかった。バンドがウィリアム・デュヴァール(Vo、G)という人物をレインの後任に迎えたとの情報が届いたときも、正直、それを素直に喜んでいいものか、僕にはわからなかった。

が、そのウィリアムを擁するラインナップでのライヴを初めて観たとき、僕は本当に震えた。涙が勝手に溢れてきた。2006年6月、ドイツの巨大フェス、<ROCK AM RING>でのことだった。ウィリアムの歌声に、僕はカケラほどの違和感もおぼえなかったし、こんな言葉を安易に吐くべきではないと思うが、そこにレインの魂が宿っているように感じたものだ。同じ年の7月、新生アリス・イン・チェインズは<UDO MUSIC FESTIVAL>への出演のため来日を果たしているが、そのステージを観た人たちの大半も、おそらくは同じような感覚を味わったに違いない。

そして、この『ブラック・トゥ・ブルー』は、そのときの驚きをもさらに超越する感動をもたらしてくれる。変化に逃げることなく、進化をモノにしている。そんな言い方をしてもいいかもしれない。過去とは明らかに違うはずなのに、どこからどう聴いてもアリス・イン・チェインズ以外のナニモノでもない。しかも、とにかく楽曲の充実ぶりが素晴らしく、ウィリアム・デュヴァールとジェリー・カントレルの歌声が織り成す化学反応の見事さには、思わず言葉を失ってしまう。

▲アメリカではこのアルバムからのリード・トラック、「チェック・マイ・ブレイン」がラジオで絶好調。『ビルボード』誌の“ROCK SONGS”チャートでも、パール・ジャムやリンキン・パークをおさえて首位を独走中だ。
ちなみにこのアルバムの最後(日本盤にはボーナス・トラックが追加収録されているため、最後から2曲目)には、レインに捧げられた内容の表題曲が収められているのだが、この美しいバラードでピアノを弾いているのが、かのエルトン・ジョン。かなり意外な顔合わせだが、この楽曲に込められたものについて知らされたエルトンは、バンド側からの“ダメモト”の依頼を快く受け入れたのだという。ちなみに遠い過去、筆者が『ミュージック・ライフ』誌の編集長を務めていた頃に、彼らにアンケートに答えてもらったことがあるのだが、その際、ジェリーは「影響を受けたアーティスト」としてエルトンをあげ、さらにレインは「初めて観たライヴ」の項目に彼の名前を書き込んでいた。

このアルバムのリリースを待たずして、すでに全米ツアーを開始しているアリス・イン・チェインズ。11月から12月にかけては欧州ツアーも行なわれることもすでに決まっているが、ここ日本への帰還についても、一日も早い実現を望みたいところだ。この『ブラック・トゥ・ブルー』を耳にすれば、おそらくあなたもそう感じるに違いない。もはや彼らを取り巻いているのは“闇”ではない。とはいえ、光が差し込んではいても、過剰な明るさとは無縁のままで、相変わらず青く濁っている。そんなアリス・イン・チェインズが、やはり僕は大好きでたまらない。

増田勇一
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