LIVE MUSIC ism<KICK OFF EVENT DAY#2> 鹿野 淳レポ
もっともっと素晴らしいアーティストやバンドがいる。もっともっと気軽に心を寄せられる音楽がここにある。もっともっとロックやポップと無邪気に遊べる場所がある――そんなことを目指して始まるマンスリー・ライヴイベント<LIVE MUSIC ism>。
6月6日の土曜日よりSHIBUYA BOXXにて毎月開催されるそのイベントを祝したキックオフ・イベントが、品川ステラボールにて開催されました。このキックオフは5月16日と17日の2日間開催。ロックという名の獣臭が漂いまくった前日とは打って変わり、この日は「ディーヴァ大集合!」。ヒップホップからR&Bからポップスから何から何までを妖艶にしてハードにキメる女性アーティストが、百花繚乱の如くステージを彩る日となりました。
まず最初のアクトは関西のクラブを中心に活動しながらアップリフティングされたラップ&ヴォーカルのツインズ、twenty4-7。姉御肌のラップと、切なさを前面に押し出した儚いヴォーカルのアンバランスのようなバランスが絶妙の刺激を醸し出していました。硬いビートと共に煽る2人に、フロアもアタマっから完全に臨戦態勢。早くも右手がフロント&バックへと頭を叩くように揺れ動いていました。
フロアがすっかりあったまったところに現われたのが、スィートなポップを歌とラップで繰り広げるガールズユニット、Lil'B。ラッパーのAILAは10代の頃からリリックを書いていたこともあり、リズムに乗って映える言葉が次々に乱発されていきます。R&Bなどから影響を受けると、とかく肩肘が張った音楽になりがちだったりするのですが、そこをしなやかにキャッチーに放つのがLil'Bスタイル! 軽やかに一気に30分のオンタイムを駆け抜けていきました。
3番目はトラックメイカーの河井純一とヴォーカルの片桐舞子によるMAY'S。本メンバーとしては本日唯一の男性メンバーである(バックダンサーの中には男性もいたりするので)河井は「楽屋で目のやり場に困るんですよね、皆さんの露出が激しくて(笑)」と若干苦笑いを浮かべていたが、いやいや、ステージではクールにビシっとブレイクビーツを打ち続けていました。ヴォーカルの片桐は民謡の家元に生まれ、両親は立派な師範を務め上げているというお家柄。彼女自身も幼少の頃に練習した民謡の影響なのでしょうか、曲によっては「尺八」のフロウがミニマルに流れ続ける伝統的にして画期的なトラックと、片桐の「演歌もR&Bもソウルを歌唱する意味で同じなんだ」を体現する歌の融合が、フロアを惹きつけていました。
流れるように華麗に進んでいくこの日のライヴ。ドラマティックなSEと共に派手に足音をたてて登場したのは、女性ラッパーの先駆けとしても多くのリスペクトを集めているMiss Monday。圧倒的なエネルギー、目が合って笑い合っただけでみんなが友達になれるようなオープンマインドの極み。そんな彼女ならではの奔放な人間性が、アタックの強いトラックと共に心を突き刺していきました。森山直太朗、Dragon AshのKj、そしてRIPSLYMEのPESなどとのコラボレートでも話題を集めた彼女でしたが、この日はフロアにいる大勢のクラウドとの一対一のコラボを見事に果たし上げ、最高のコール&レスポンスが何度も宙を舞っていました。
そして、フロアの視線はここにきて本日初の出番となりましたセカンドステージへ移動。5組目に登場するのは、大阪を中心に活動するR&BシンガーであるYOUNGSHIM(ヨンシン)。小さな身体の中からありったけの力を振り絞って、「切なさも喜びも一握りにした、すべての心象風景」を千切れそうな歌で綴っていきます。アルバムではBACK DROP BOMBの白川やCUBISMO GRAFICO FIVEの松田など、パンクシーンを形成してきた猛者をも招き豪快なトラックを展開した彼女の、ナイーヴな部分にまで手が届いたライヴでした。
再びメインステージに戻ると、そこにはこの日唯一の「生バンド」によるエモーショナルな演奏が響き渡りました(他のアクトのほとんどはDJによるトラック展開だったのです)。最近では某有名飲料のCMで御馴染みの福原美穂。圧倒的な歌唱力をもって、ソウルとブルースとラヴソングの力を演じきる彼女のライヴは本当のコミュニケーションを感じるものですが、その心臓がバクバクするようなライヴが突然ストップする瞬間が訪れました。――ん? 何があったんだ、こりゃ? 会場全体が真っ暗になり、そしてサウンドも歌もすべてが消えてしまったのです。そう、もうおわかりでしょう。「電源が飛んでしまいました!」――キックオフイベント最大の珍事が、ここで起こってしまったのです。修復後、再びライヴは再開されましたが、そこからが凄かった! ハプニングを力に変えて充電完了した福原の、さらなる爆発力が届くライヴが展開されたのです。合間に賛美歌である“アメイジング・グレイス”などを挟み込み、完全にフロアを自分のものにした圧巻のライヴでした。
さあ、サブステージ2組目は英語、スペイン語、ロシア語、トルコ語、そしてイラン語と、縦横無尽に言語を操るバイリンガル・アーティスト、May J.。まさに天使のように飛び跳ねながら、アスリートのような美しい動きと透き通った声でフロアを徐々に掴んでいく彼女のライヴは、ルックスの線の細さと真逆の逞しさに満ちたものでした。まるで歩きながら歌うような自然体の歌は、よく聴くとジャストな音程と張りのある伸びやかな声に包まれるもので、キマグレンをはじめとして多くの共演者が生まれる理由が示されたポップなライヴとなりました。
いよいよキックオフイベント最終日の大トリ、つまりグランドフィナーレの瞬間がやってきました。その大役を堂々務め上げたのは、ジャパニーズR&Bクイーンの座を欲しいままにしているDOUBLEのTAKAKO。この日は彼女の仲間であるダンサーの1人がNYに修行に行く前のラストライヴということで、今まで以上に熱の入ったライヴが進行していきました。何しろ一挙一動、そして一音一音、そのすべてが「ミス・パーフェクト」と呼ぶべき、完璧なスタイルとクオリティとストーリーに根付いたもので、まるで本当に会場全体が雪に包まれたり、真っ赤に炎上したりしているような気にさせる「リアルライヴ」が展開されました。さすが10年以上にわたってこの国のR&Bを牽引し続けているDOUBLE。その威厳に満ちたエモーショナルな姿を、茫然とした表情で立ち尽くしながら凝視している参加者の姿が印象的な、まさに「大団円」という言葉にふさわしいライヴでした。
さあ、2日間にわたって開催されたキックオフイベントが終わりました。6月からはSHIBUYA BOXXにて毎月、刺激的なイベントをお送りするつもりなので、これからのLIVE MUSIC ismを一緒に育て上げてってください! よろしくお願いします!!
鹿野 淳(音楽雑誌MUSICA編集長)
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