ASKA、CHAGE and ASKAの活動休止に触れた「L&R」
ASKAがニューシングル「あなたが泣くことはない」をリリースした。ここではタイトル曲ではなく、カップリングに収録された「L&R」を取り上げよう。なぜならこの曲、先日発表されたCHAGE and ASKAの無期限活動休止に関して歌われていると言われている楽曲だからだ。
◆「あなたが泣くことはない」のCD情報
「L&R」は、アーティストとしての歩みをフォークミュージックから始めたASKAらしい、非常にザックリとしたロックナンバー。音を聴いただけで、ライヴでマーティンのアコースティックギターを抱え、ポケットにブルースハープを忍ばせながら歌いあげるASKAの姿が目に浮かぶ人もいることだろう。
作詞作曲、そしてアレンジを手がけたのはASKA自身。耳なじみのよいメロディーとストレートな構成で曲が展開していくので、その分だけ歌詞に耳を傾けることができる。
シングル「あなたが泣くことはない」のプロモーション活動で各メディアに出演しているASKA。その中で、“CHAGE and ASKAの解散を一度決めたときに、ファンへ向けて書いた曲” というニュアンスでこの「L&R」は紹介された(誤解のないようにあえて記すと、CHAGE and ASKAはいったん「解散」を決断したが、“自分たちの母体はやはりCHAGE and ASKAである” というふたりの意思から一転し「無期限活動休止」を決定している)。
つまり、この曲の歌詞に、今回のCHAGE and ASKAの無期限活動休止に対するASKAの想いが込められている。歌詞を一瞥するだけでも、それに関するであろうフレーズを歌詞の中からいくつか抜き出すことができるだろう。
<素直に混ざらなかった “LとR”で守った / 何のために守った… / 守らなきゃ混ざり合う>
CHAGE and ASKAは、あくまでCHAGEとASKAというふたりのソロアーティストの集合体だ。<第15回 ヤマハ・ポピュラーソングコンテスト>(ポプコン)の福岡大会でグランプリを獲得したCHAGEが、同コンテスト九州大会に出場する際、当時のヤマハのディレクターから “(福岡大会で最優秀歌唱賞だったASKAと)2人で出場してみないか” という提案から、CHAGE and ASKA(チャゲ&飛鳥)というグループは始まっている。非常に乱暴な言い方をしてしまうと、この段階での “チャゲ&飛鳥” というグループは、彼らにとって、ポプコンで賞をとり、日本の音楽シーンに出て行くための手段だった、とも言えるのかもしれない。
そんなふたりだったからこそ、CHAGE and ASKAというグループで活動を開始し、デビューを飾ってからも、「CHAGE曲」「ASKA曲」と、楽曲はCHAGE、ASKAが個別に制作していた。たとえば、共作としてふたりの名前が並んでクレジットされている楽曲は、思いつくだけでも、アルバム『ENERGY』に収録された「ripple ring」の作詞や、アルバム『TREE』収録の「MOZART VIRUS DAY」の作曲など、30年の活動期間から鑑みると極端に少ない。制作の過程においてお互いの曲にアイディアを出し合うようなこともあっただろうし、ふたりが共作(共同で曲を書くといった形だけでなく、どちらかが作った曲にもう一方が歌詞を書くといった形での共作)することで、CHAGE and ASKAとしての楽曲に新たな服を着せることにも成功しているが、それ以上に彼らは “CHAGE、ASKAというソロアーティストの集合体としてのCHAGE and ASKA” というスタンスを、デビューしてから頑なに守っていたのだろう。
互いにソロアーティストとしての意識が強かった彼らが、CHAGE and ASKAの30周年という節目を迎えて、チャゲアスというバックボーンをなくして、アマチュア時代から描いていたソロアーティストとして力を試したくなった、というのも決して不思議なことではない。これまでは<時間は過ぎて行く>ものだったかもしれないが、お互いに50歳を過ぎ、アーティストとして、そしてひとりの人間としてのこれからを考えた時、その感覚に<少し違う気がする>と違和感を覚えた。そして<時間は消えて行く>という感覚に傾き、お互いにやり残してきた活動のほうへ目が向いたのではないか。
“思い上がりと笑われても譲れないもの”、もしくは “眠らせてたpride”。「 “CHAGE and ASKAの無期限活動休止” という決定は、アーティストとしての残りの時間をお互いがひとりのアーティストとしてチャレンジするために必要な決断だった」ということは、このフレーズだけからも読み取ることができるはずだ。
ところで、歌詞には<オレ><オマエ>という代名詞が用いられている。先に述べたように、この曲が書かれた背景から考えると、<オレ>=ASKA、<オマエ>=CHAGEということになるだろう。
<オマエはLを行く オレはRを行く>
<オマエ>という表現には、遠慮もなければ気兼ねもない。ASKAが、CHAGE and ASKAとして30年間にわたってともに活動してきたCHAGEに向けてだからこそ使うことのできる表現といえる。さらに、ファンの中には、CHAGE著『月が言い訳をしてる』の最後に掲載されたASKAのコメントの一節、<コイツをコイツ呼ばわりできるのは、私だけだ。>というフレーズを思い出した人もいるかもしれない。ASKAにとって、CHAGEは “コイツ” であり “オマエ” と呼べる関係、それは今も昔も変わる事はない。
「L&R」は、そんなオマエとオレがLとRに別れて行く、という曲。ただし最後には、<いつかまた並んだら Love&Rollさ>という、何やら “2m10cmの距離” に関するようなものを匂わせて終わっている。
<そこに立って/そのとき/分かることばかりさ>と、CHAGE and ASKAのアルバム『NOT AT ALL』のタイトル曲で歌われたように、何事もその場所に立ってみないとわからない。そして、今、ひとつの場所に立ったCHAGE and ASKAが下した決断が、無期限活動休止とソロ活動。「L&R」からは、そんなASKAの “ソロアーティストとしての決意” が感じ取れる。
そしてもちろん、この「L&R」という曲は、アーティスト活動30周年を迎えたASKAの2009年第1弾シングル「あなたが泣くことはない」のカップリング曲、という位置づけ以上の重みを持った曲である。
◆ ◆ ◆
ところで、「L&R」に出てくる “Love&Roll” とは一体何なのだろう。“Left&Right”ではなく “Love&Roll”。この言葉が示す意味は、実際のところあまりよくわかっていない。ASKAは何の気もなしにこの単語が出てきたのかもしれないが、ASKAの歌詞なだけに、ファンとしては、いろいろなことを想像してしまいがちだ。
たとえば、音楽に関連して “Love” といえば、“Love&Peace” というフレーズ。現在まで、数多くのアーティストが “Love&Peace”を訴えているが、中でもこのフレーズを最もポピュラーにしたアーティストといえば、やはりジョン・レノンだ。“Love&Peace” はジョンの代名詞のひとつといってもいい。
一方の “Roll” といえば、やっぱり “Rock'n Roll”。思えばビートルズの中で、Roll(=Rock'n Roll)の要素を一番携えていたのは、ジョージでもリンゴでもなく、そしてジョンよりもポール・マッカートニーだった気がする。ジョンも「ア・ハード・デイズ・ナイト」「デイ・トリッパー」といったナンバーをコンポーズしていたが、「キャント・バイ・ミー・ラヴ」「ペイパーバック・ライター」「マジカル・ミステリー・ツアー」「バック・イン・ザ・USSR」「レディ・マドンナ」「ゲット・バック」といった “ドライブする曲” を数多く書いたとされているのは、まさしくポールだ。
また、ポールはビートルズ解散後もポップメイカーの視点からロックを描き続け、ウイングスの作品の中でも特に名盤と言われる『バンド・オン・ザ・ラン』に収録されている「Let Me Roll It」などは、何度もライヴでプレイされた、ファンにとって、また彼自身にとってもお気に入りの1曲でもある。
“Love&Roll” というフレーズから、ジョンとポールの名前が浮かび上がってきた。すると、今度は次のようなことが連想されるはずだ。CHAGE and ASKAのファンならご存知のとおり、ジョン・レノンを敬愛しているのはCHAGE。そしてポールが好きで、本人はもちろん彼の娘さんとも運命的な出会い(それはロンドンでスタジオを間違えたことから始まった素敵な偶然なのかもしれないが)をしているのがASKA…。
つまりこの “Love&Roll” というフレーズが、すごい遠まわしに示していることって…。などと考えてしまうのは、きっと深読みのし過ぎ。そうに違いないのだ。
というわけで、ファンがいくらでも深読みできてしまえるような歌詞を書いてしまうASKAのソングライティング能力の高さを再認識しつつ、シングル「あなたが泣くことはない」とともに、3月20日から始まるライヴツアー<ASKA CONCERT TOUR 2009 WALK>を心待ちにしたい。
◆iTunes Store ASKA(※iTunesが開きます)
◆CHAGE and ASKA オフィシャルサイト
◆「あなたが泣くことはない」のCD情報
「L&R」は、アーティストとしての歩みをフォークミュージックから始めたASKAらしい、非常にザックリとしたロックナンバー。音を聴いただけで、ライヴでマーティンのアコースティックギターを抱え、ポケットにブルースハープを忍ばせながら歌いあげるASKAの姿が目に浮かぶ人もいることだろう。
作詞作曲、そしてアレンジを手がけたのはASKA自身。耳なじみのよいメロディーとストレートな構成で曲が展開していくので、その分だけ歌詞に耳を傾けることができる。
シングル「あなたが泣くことはない」のプロモーション活動で各メディアに出演しているASKA。その中で、“CHAGE and ASKAの解散を一度決めたときに、ファンへ向けて書いた曲” というニュアンスでこの「L&R」は紹介された(誤解のないようにあえて記すと、CHAGE and ASKAはいったん「解散」を決断したが、“自分たちの母体はやはりCHAGE and ASKAである” というふたりの意思から一転し「無期限活動休止」を決定している)。
つまり、この曲の歌詞に、今回のCHAGE and ASKAの無期限活動休止に対するASKAの想いが込められている。歌詞を一瞥するだけでも、それに関するであろうフレーズを歌詞の中からいくつか抜き出すことができるだろう。
<素直に混ざらなかった “LとR”で守った / 何のために守った… / 守らなきゃ混ざり合う>
CHAGE and ASKAは、あくまでCHAGEとASKAというふたりのソロアーティストの集合体だ。<第15回 ヤマハ・ポピュラーソングコンテスト>(ポプコン)の福岡大会でグランプリを獲得したCHAGEが、同コンテスト九州大会に出場する際、当時のヤマハのディレクターから “(福岡大会で最優秀歌唱賞だったASKAと)2人で出場してみないか” という提案から、CHAGE and ASKA(チャゲ&飛鳥)というグループは始まっている。非常に乱暴な言い方をしてしまうと、この段階での “チャゲ&飛鳥” というグループは、彼らにとって、ポプコンで賞をとり、日本の音楽シーンに出て行くための手段だった、とも言えるのかもしれない。
そんなふたりだったからこそ、CHAGE and ASKAというグループで活動を開始し、デビューを飾ってからも、「CHAGE曲」「ASKA曲」と、楽曲はCHAGE、ASKAが個別に制作していた。たとえば、共作としてふたりの名前が並んでクレジットされている楽曲は、思いつくだけでも、アルバム『ENERGY』に収録された「ripple ring」の作詞や、アルバム『TREE』収録の「MOZART VIRUS DAY」の作曲など、30年の活動期間から鑑みると極端に少ない。制作の過程においてお互いの曲にアイディアを出し合うようなこともあっただろうし、ふたりが共作(共同で曲を書くといった形だけでなく、どちらかが作った曲にもう一方が歌詞を書くといった形での共作)することで、CHAGE and ASKAとしての楽曲に新たな服を着せることにも成功しているが、それ以上に彼らは “CHAGE、ASKAというソロアーティストの集合体としてのCHAGE and ASKA” というスタンスを、デビューしてから頑なに守っていたのだろう。
互いにソロアーティストとしての意識が強かった彼らが、CHAGE and ASKAの30周年という節目を迎えて、チャゲアスというバックボーンをなくして、アマチュア時代から描いていたソロアーティストとして力を試したくなった、というのも決して不思議なことではない。これまでは<時間は過ぎて行く>ものだったかもしれないが、お互いに50歳を過ぎ、アーティストとして、そしてひとりの人間としてのこれからを考えた時、その感覚に<少し違う気がする>と違和感を覚えた。そして<時間は消えて行く>という感覚に傾き、お互いにやり残してきた活動のほうへ目が向いたのではないか。
“思い上がりと笑われても譲れないもの”、もしくは “眠らせてたpride”。「 “CHAGE and ASKAの無期限活動休止” という決定は、アーティストとしての残りの時間をお互いがひとりのアーティストとしてチャレンジするために必要な決断だった」ということは、このフレーズだけからも読み取ることができるはずだ。
ところで、歌詞には<オレ><オマエ>という代名詞が用いられている。先に述べたように、この曲が書かれた背景から考えると、<オレ>=ASKA、<オマエ>=CHAGEということになるだろう。
<オマエはLを行く オレはRを行く>
<オマエ>という表現には、遠慮もなければ気兼ねもない。ASKAが、CHAGE and ASKAとして30年間にわたってともに活動してきたCHAGEに向けてだからこそ使うことのできる表現といえる。さらに、ファンの中には、CHAGE著『月が言い訳をしてる』の最後に掲載されたASKAのコメントの一節、<コイツをコイツ呼ばわりできるのは、私だけだ。>というフレーズを思い出した人もいるかもしれない。ASKAにとって、CHAGEは “コイツ” であり “オマエ” と呼べる関係、それは今も昔も変わる事はない。
「L&R」は、そんなオマエとオレがLとRに別れて行く、という曲。ただし最後には、<いつかまた並んだら Love&Rollさ>という、何やら “2m10cmの距離” に関するようなものを匂わせて終わっている。
<そこに立って/そのとき/分かることばかりさ>と、CHAGE and ASKAのアルバム『NOT AT ALL』のタイトル曲で歌われたように、何事もその場所に立ってみないとわからない。そして、今、ひとつの場所に立ったCHAGE and ASKAが下した決断が、無期限活動休止とソロ活動。「L&R」からは、そんなASKAの “ソロアーティストとしての決意” が感じ取れる。
そしてもちろん、この「L&R」という曲は、アーティスト活動30周年を迎えたASKAの2009年第1弾シングル「あなたが泣くことはない」のカップリング曲、という位置づけ以上の重みを持った曲である。
◆ ◆ ◆
ところで、「L&R」に出てくる “Love&Roll” とは一体何なのだろう。“Left&Right”ではなく “Love&Roll”。この言葉が示す意味は、実際のところあまりよくわかっていない。ASKAは何の気もなしにこの単語が出てきたのかもしれないが、ASKAの歌詞なだけに、ファンとしては、いろいろなことを想像してしまいがちだ。
たとえば、音楽に関連して “Love” といえば、“Love&Peace” というフレーズ。現在まで、数多くのアーティストが “Love&Peace”を訴えているが、中でもこのフレーズを最もポピュラーにしたアーティストといえば、やはりジョン・レノンだ。“Love&Peace” はジョンの代名詞のひとつといってもいい。
一方の “Roll” といえば、やっぱり “Rock'n Roll”。思えばビートルズの中で、Roll(=Rock'n Roll)の要素を一番携えていたのは、ジョージでもリンゴでもなく、そしてジョンよりもポール・マッカートニーだった気がする。ジョンも「ア・ハード・デイズ・ナイト」「デイ・トリッパー」といったナンバーをコンポーズしていたが、「キャント・バイ・ミー・ラヴ」「ペイパーバック・ライター」「マジカル・ミステリー・ツアー」「バック・イン・ザ・USSR」「レディ・マドンナ」「ゲット・バック」といった “ドライブする曲” を数多く書いたとされているのは、まさしくポールだ。
また、ポールはビートルズ解散後もポップメイカーの視点からロックを描き続け、ウイングスの作品の中でも特に名盤と言われる『バンド・オン・ザ・ラン』に収録されている「Let Me Roll It」などは、何度もライヴでプレイされた、ファンにとって、また彼自身にとってもお気に入りの1曲でもある。
“Love&Roll” というフレーズから、ジョンとポールの名前が浮かび上がってきた。すると、今度は次のようなことが連想されるはずだ。CHAGE and ASKAのファンならご存知のとおり、ジョン・レノンを敬愛しているのはCHAGE。そしてポールが好きで、本人はもちろん彼の娘さんとも運命的な出会い(それはロンドンでスタジオを間違えたことから始まった素敵な偶然なのかもしれないが)をしているのがASKA…。
つまりこの “Love&Roll” というフレーズが、すごい遠まわしに示していることって…。などと考えてしまうのは、きっと深読みのし過ぎ。そうに違いないのだ。
というわけで、ファンがいくらでも深読みできてしまえるような歌詞を書いてしまうASKAのソングライティング能力の高さを再認識しつつ、シングル「あなたが泣くことはない」とともに、3月20日から始まるライヴツアー<ASKA CONCERT TOUR 2009 WALK>を心待ちにしたい。
◆iTunes Store ASKA(※iTunesが開きます)
◆CHAGE and ASKA オフィシャルサイト
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