DIR EN GREY、全国ツアーが濃厚・へヴィな“完璧さ”で閉幕

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「アタマじゃない! ココや!」

ステージ中央の京が、自身の胸を指しながら、鬼の形相と包容力の両方が重なった表情で、熱気の充満する客席にそう訴える。5月30日、午後8時58分。東京・新木場STUDIO COASTでの三夜公演の最終夜が幕を閉じ、同じ瞬間、約1ヵ月にわたり展開されてきたDIR EN GREYの今年最初のツアー<TOUR08 DEATH OVER BLINDNESS>が終了に至った。

終演直後、明るくなった場内で無人のステージを見据えつつ、僕はとてつもない疲労感に襲われながら、それ以上に濃厚な充実感を味わっていた。結果的に僕自身は、今回のツアー中、6公演を観ることになった。番外編ともいうべき<hide memorial summit>も含めれば1ヵ月に7回彼らのライヴを観たことになる。それを「多すぎる」と感じるか「たいしたことない」と思うかは読者のこのバンドに対する体温次第ということになるが、ごく最近、僕はある音楽誌の編集者からこんな指摘を受けた。

「よくそんな頻度であのバンドを観られますよね。あれだけストイックで精神的にもヘヴィなライヴ、1本観るだけでもものすごく消耗するし、2日連続で観るだけでもタイヘンなことだと思いますよ」

そう、まさにその通りなのだ。DIR EN GREYのライヴには、恐ろしいほどにエネルギーを奪われる。アンコールを含めても2時間を超えることが滅多にない彼らのライヴは、世の中の平均から考えても長い部類に入るものではないし、僕自身、超満員のフロアで人の波に溺れそうになりながら観ているわけでもない。が、実際、定位置で静観しているだけでも、その疲労感というのは半端なものではないのだ。ステージ上の5人とまっすぐに対峙しようとすると、真剣さを超越した深刻さめいたものに僕は押さえつけられてしまう。そうした精神的な重さが、ただでさえヘヴィな音楽そのものをいっそう濃厚で混沌としたものにしているのだ。が、前述したように、その過度に濃く重い混沌から抜け出した瞬間には、ノーマルな爽快感とは別種の心地好さを味わうことができる。そこに病みつきになってしまったからこそ、僕は彼らのライヴに通うことを止められないのかもしれない。

そうした僕個人の受け止め方についてはともかく、客観的な目で見ても、今回のツアーが充実度の高いものだったことは間違いない。ことにこの東京最終公演については、現在のDIR EN GREYのライヴ・パフォーマンスとしてほぼ“完璧”に近い状態のものが提示されていたと言っていいだろう。もちろんそう解釈する理由は十人十色だろうが、その結論自体は同じ時間を共有した多くの目撃者たちのなかで一致しているはずだ。

この夜のステージは「REPETITION OF HATRED」で幕を開け、「THE DEEPER VILENESS」で本編終了へと至った。どちらも2007年2月に発表された『THE MARROW OF A BONE』からの楽曲であり、2007年中に行なわれてきたトータル121本ものライヴのなかで幾度となく演奏されてきたもの。そこに新鮮味は、もはやほぼ皆無だと言っていい。しかし、このツアーを通過してきた楽曲たちは、ちょっと大袈裟な言い方をすれば、どれもが新しい生命を持ち合わせるようになった気がする。何度かにわたってこの<TOUR08 DEATH OVER BLINDNESS>について書いてきたなかで、「セット・リストの斬新さ」については触れてきたが、たとえそれがバンドとオーディエンスの双方にとってもはや定番曲とされているものだとしても、そのポジションや前後の流れといったものが変わるだけで、その曲自体が発揮するものの効力が違ってくることがある。単純に言えば「敢えてデザートを途中で食べてみたらすごく味覚的に新鮮だった」というのに似ているのかもしれないし、「起承転結」という4文字の配列を組み替えてみたら面白いことになった、という言い方もできるかもしれない。

具体的に言えば、この夜、オープニングの「REPETITION OF HATRED」に続いて演奏されたのは「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS」。重厚かつアグレッシヴきわまりない展開のなか、京の「クソったれ! かかってこい!」という扇動に導いて炸裂したのは、従来であればアンコールの最終場面を指定席としていることが多かった「THE ⅢD EMPIRE」。いきなりのスタート・ダッシュに、客席のヴォルテージも一気に沸点へと到達する。強引とも言えるその流れには、たとえば「持ち時間が15分しかない前座バンド」のような捨て身の潔さに通ずるものも感じられたし、「最初に必殺技を使った場合、自分はその後どう闘うのか?」といった格闘家的発想の匂いも伴っていた気がする。

が、忘れてはならないのは、DIR EN GREYが攻撃性ばかりが売りもののバンドではないということ。実際の演奏曲目/曲順については別掲のセット・リストをご参照いただきたいところだが、たとえば“山”の位置を動かすことで、“谷”の深さも、そこに至る道程の風景も違ってくる。僕は随所でそんなことを感じさせられた。しかも、いわゆるテンポの緩やかな楽曲、アグレッションを押し殺した部分がかならずしも“谷”とは限らないところに、DIR EN GREYの特性のひとつがある。冷淡な狂気めいたものを感じさせる「DOZING GREEN」の余韻がアタマのなかに残っている状態で聴こえてくる「CONCEIVED SORROW」は、普通の感覚で言えば、ストーリーの谷底の部分ということになるだろう。が、この夜の僕にはそこが、最大の山場に感じられた。

そうしたDIR EN GREYならではの特異な流れのなかで披露された2曲の新曲についても、改めて触れておきたい。現時点ではどちらも楽曲のタイトルが正式に確定していないため、単純に“新曲”としか表記することができないのだが、凄味あふれる「CONCEIVED SORROW」に続いて演奏された「新曲1」は、一般的にはバラードと大別されることになるのであろう楽曲。近年の彼らにはあまりなかったタイプのものとも言えるし、メロディ自体の手触りにはある種の懐かしさをおぼえなくもないが、同時に、今の彼らだからこそ体現可能な世界観を持った楽曲とも言えそうだ。そして、4曲目に登場したもうひとつの「新曲2」は、混沌感と機能美が背中合わせになったかのような実験的チューン。ツアー初日の大阪公演で耳にしたときに感じた「カテゴライズ不能としか言いようのない感触」は、この最終公演でもそのままだったが、その鋭利さが、特異なものとしての説得力が、数週間前とは明らかに違っていた。これはもちろん「新曲1」についても同じこと。この曲のたたずまいが、このツアー中、徐々に変貌を遂げてきたことを体感してきたファンも少なくないはずだ。

ちなみにこの2曲については、すでにファンの間でもさまざまな憶測が飛び交っているようだが、たとえばいずれかの楽曲が次のシングルになるのか否かといったことについても、まだ僕自身、決定項として聞かされていない。ただし、このツアーを終えた彼らが、すでに次なるアルバムを見据えながら、ふたたび地下作業期間に突入していることは事実であり、いくつもの「早く文字にして伝えたい情報の断片」が筆者のアタマのなかでうごめき始めていることも認めておく。同時に僕が感じているのは、彼ら自身もこの上ない充実感を堪能してきたはずの今回のツアーを経たことで、事前に描かれつつあったネクスト・ステージの設計図に新たに描き加えられることになったものが間違いなくあるはずだということ。さらに、ここまで徹底的に『THE MARROW OF A BONE』の世界観追求を重ねてきた今だけに、彼らの創造欲求は本当にキッパリと別次元へと向かうことになるのではないかということである。

本来であれば、今回のツアーを総括する原稿として、この場で触れておくべきことは他にもたくさんある。たとえば最新鋭の機器を駆使しての照明/映像効果が、各々の楽曲の存在感をさらに明確にしていたことと、それに伴う会場全体の風景の変化についても特筆すべきものがあったし、ことに「HYDRA-666-」が持ち合わせるようになった宗教めいた凄味のある空気感には、僕自身も絶句するしかなかった。公演によってたびたび登場したレアな楽曲たちに、もしかしたら“次”を解くヒントが隠されているのかもしれないと感じたところも、少なからずあった。が、そうしたひとつひとつの事実関係の重要さ以上に、「きっと、このツアー自体が、後々大きな意味を持つことになる」という確信が、今、僕のアタマのなかを埋め尽くしている。答えは、そう遠くない未来に提示されることになる。今の僕たちがすべきこと、それは「心して待つこと」だけである。

増田勇一

<TOUR08 DEATH OVER BLINDNESS>
5月30日 東京・新木場STUDIO COAST
01. REPETITION OF HATRED
02. AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS
03. THE ⅢD EMPIRE
04. [新曲2]
05. Merciless Cult
06. 凌辱の雨
07. DOZING GREEN
08. CONCEIVED SORROW
09. [新曲1]
10. THE FINAL
11. dead tree
12. 鴉-karasu-
13. OBSCURE
14. HYDRA-666-
15. GRIEF
16. THE DEEPER VILENESS
《encore》
01. 艶かしき安息、躊躇いに微笑み
02. THE FATAL BELIEVER
03. LIE BURIED WITH A VENGEANCE
04. GARBAGE
05. CLEVER SLEAZOID
06. 朔-saku-

●大きいサイズの写真
https://www.barks.jp/feature/?id=1000040815

●オフィシャルサイト
http://www.direngrey.co.jp/
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