増田勇一のライヴ日記【8】2007年7月4日(水)ウィズイン・テンプテーション@SHIBUYA-AX
すでに欧州ではスーパースター級の地位を確立しているオランダ出身のウィズイン・テンプテーションが、昨年10月の『LOUD PARK』出演に続いて初の単独来日公演を実現させた。
去る3月、最新アルバムにあたる『ザ・ハート・オブ・エヴリシング』のプロモーションのために来日した際には「フェスの大きなステージに立つのはエキサイティングなことだけれど、私たち自身のライヴでは、もっとこのバンドならではの空気感や多面性を味わってもらえるはず」と語っていた紅一点のシャロン・デン・アデル(vo)だが、実際、その言葉をそのまま具現化したかのような密度濃い公演となった。
最新作からの「アワ・サレム・アワー」で幕を開けたステージは、同作と、このバンドのサクセス・ストーリーを象徴する1枚となった2004年発表の前作、『ザ・サイレント・フォース』からの楽曲をあくまで軸として据えつつ、それ以前からの看板曲である「マザー・アース」や「アイス・クイーン」なども要所に配しながら展開された。そして、その90分を超えるライヴ・パフォーマンスを通じて僕自身が改めて感じたのは、何よりもシャロンの“温度感”がこのバンドの存在を独特のものにしているという事実だった。
ロックを歌う女性に対して安易に用いられがちな歌姫とか妖精といった呼称や、“男まさりの”といった形容詞は、どれもシャロンには似つかわしくない。これみよがしな粘っこいフェイクが売りもののディーヴァたちとは一線を画する、その透明度の高い歌声が感じさせるのは、たとえば柔らかな母性だったりもする。
しかも彼女は、いかつい野郎どもを従えてロックの女王様を演じるのでもなければ、彼らの構築する鋼鉄音の重厚さに金属的な響きで対抗しようとするわけでもない。いわば彼女は、説得力充分のゴシック・メタル・バンドを背後に従えた、広い意味でのポップ・シンガー。そこで無理矢理ロックなたたずまいを演出しようとはしない。そんなところに僕は惹かれ、同時にこのバンドが幅広い支持を集めている理由を再確認させられたのだった。
終演後、帰路に就こうとする観客たちの会話のなかからは、「サラ・ブライトマンみたいだった」「ケイト・ブッシュを連想した」といった声も聞こえてきた。ちなみに前回の来日取材時、シャロンは自らが幼少時からオリビア・ニュートン・ジョンに憧れていたことを認め、「シンガーとしてだけではなく、1人の女性としてとても素敵だと思う。そういった意味でのリスペクトは近年の彼女に対しても変わらない」と語っていた。
カントリーを歌っても過剰にカントリー臭くならず、セクシー路線に挑んでみたところで清潔感のほうが上回り、超人的な声量などは持ち合わせていない代わりにどんな曲を歌ってもポップスとして成立させる力を持っていたオリビア。同じようにシャロンの歌声には、すでにどんな曲を歌ってもウィズイン・テンプテーション然としたものとして提示することができる魔力めいたものが宿っているのだろう。
もちろん、映像を有効に用いつつも、華美さよりはシンプルな機能美が重視されたステージの上で、ある種“黒子”に徹しながら、落差の大きな楽曲たちを“堅実”以上のレヴェルで再構築してみせたメンバーたちにも、惜しみない拍手を贈りたい。が、やはり僕がウィズイン・テンプテーションに魅了される最大の理由はシャロンにあるし、同時に、このバンドが今後どれだけ大きくなり得るかも彼女にかかっているのだろう。そして、思う。もっともっと大きなステージでこのバンドを観てみたい、と。
最後に、蛇足ながらひとつだけ付け加えておきたい。今回のライヴを観損ねてしまった人、このバンドの欧州での人気ぶりについていまひとつ実感のわかない人たちには、先頃日本でもようやくリリースされた前作当時のライヴを収めたDVD、『ザ・サイレント・フォース・ツアー』をチェックしてみることをお勧めしておく。
■ウィズイン・テンプテーション@SHIBUYA-AX ~写真編~
https://www.barks.jp/feature/?id=1000032754
文●増田勇一
去る3月、最新アルバムにあたる『ザ・ハート・オブ・エヴリシング』のプロモーションのために来日した際には「フェスの大きなステージに立つのはエキサイティングなことだけれど、私たち自身のライヴでは、もっとこのバンドならではの空気感や多面性を味わってもらえるはず」と語っていた紅一点のシャロン・デン・アデル(vo)だが、実際、その言葉をそのまま具現化したかのような密度濃い公演となった。
最新作からの「アワ・サレム・アワー」で幕を開けたステージは、同作と、このバンドのサクセス・ストーリーを象徴する1枚となった2004年発表の前作、『ザ・サイレント・フォース』からの楽曲をあくまで軸として据えつつ、それ以前からの看板曲である「マザー・アース」や「アイス・クイーン」なども要所に配しながら展開された。そして、その90分を超えるライヴ・パフォーマンスを通じて僕自身が改めて感じたのは、何よりもシャロンの“温度感”がこのバンドの存在を独特のものにしているという事実だった。
ロックを歌う女性に対して安易に用いられがちな歌姫とか妖精といった呼称や、“男まさりの”といった形容詞は、どれもシャロンには似つかわしくない。これみよがしな粘っこいフェイクが売りもののディーヴァたちとは一線を画する、その透明度の高い歌声が感じさせるのは、たとえば柔らかな母性だったりもする。
しかも彼女は、いかつい野郎どもを従えてロックの女王様を演じるのでもなければ、彼らの構築する鋼鉄音の重厚さに金属的な響きで対抗しようとするわけでもない。いわば彼女は、説得力充分のゴシック・メタル・バンドを背後に従えた、広い意味でのポップ・シンガー。そこで無理矢理ロックなたたずまいを演出しようとはしない。そんなところに僕は惹かれ、同時にこのバンドが幅広い支持を集めている理由を再確認させられたのだった。
終演後、帰路に就こうとする観客たちの会話のなかからは、「サラ・ブライトマンみたいだった」「ケイト・ブッシュを連想した」といった声も聞こえてきた。ちなみに前回の来日取材時、シャロンは自らが幼少時からオリビア・ニュートン・ジョンに憧れていたことを認め、「シンガーとしてだけではなく、1人の女性としてとても素敵だと思う。そういった意味でのリスペクトは近年の彼女に対しても変わらない」と語っていた。
カントリーを歌っても過剰にカントリー臭くならず、セクシー路線に挑んでみたところで清潔感のほうが上回り、超人的な声量などは持ち合わせていない代わりにどんな曲を歌ってもポップスとして成立させる力を持っていたオリビア。同じようにシャロンの歌声には、すでにどんな曲を歌ってもウィズイン・テンプテーション然としたものとして提示することができる魔力めいたものが宿っているのだろう。
もちろん、映像を有効に用いつつも、華美さよりはシンプルな機能美が重視されたステージの上で、ある種“黒子”に徹しながら、落差の大きな楽曲たちを“堅実”以上のレヴェルで再構築してみせたメンバーたちにも、惜しみない拍手を贈りたい。が、やはり僕がウィズイン・テンプテーションに魅了される最大の理由はシャロンにあるし、同時に、このバンドが今後どれだけ大きくなり得るかも彼女にかかっているのだろう。そして、思う。もっともっと大きなステージでこのバンドを観てみたい、と。
最後に、蛇足ながらひとつだけ付け加えておきたい。今回のライヴを観損ねてしまった人、このバンドの欧州での人気ぶりについていまひとつ実感のわかない人たちには、先頃日本でもようやくリリースされた前作当時のライヴを収めたDVD、『ザ・サイレント・フォース・ツアー』をチェックしてみることをお勧めしておく。
■ウィズイン・テンプテーション@SHIBUYA-AX ~写真編~
https://www.barks.jp/feature/?id=1000032754
文●増田勇一
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