| ──今回のDVDには凄い映像がたくさん入っていますが、この中でもビックリしたっていう映像はありますか?
キース・エマーソン(以下、キース):この作品は、埋もれていた数々の映像を発掘するところから始まった。プライベートに撮っていた8mmフィルムが入った箱を僕の実家の屋根裏で見つけたんだ。そこから選んだものが今回のDVDに入っている。中でも印象に残っているのは、72年に東京・後楽園球場での初来日公演だね。ロンドンから機材やジャーナリストと一緒に専用機で来たんだ。そういうことも思い出されるね。イギリスと違う文化の国だし、当時は全く日本のことを知らなかったから、果たして僕たちのことを知っているんだろうか? とか、ロックそのものをみんな知っているんだろうか? とか、何もわからない状態で来たんだよ。飛行機が着陸する前に富士山が雲から突き出ているのを見て、みんなが感動したりね。どこをとっても貴重な映像が入っていると思うよ。
──特に印象的な映像は?
キース:EL&Pのものだけではなく、プライベートなものも見つかっていて、実は本当に面白いのはそっちなんだけど、それはプライベートすぎるからね(笑)。映像の中でも、記録として本当にEL&Pのキャリアにとって重要なものを入れるのが目的だから、あまり面白おかしい映像は、あえて入れなかったんだ。カールに口紅をつけて化粧させてカツラを被らせている映像なんかもあったんだけど(笑)、そういうものはあえて削除したよ。
──EL&Pは、クラシックとジャズなどあらゆるジャンルの融合が新鮮だったわけですが、この音楽性を当時のロック・シーンに投げかける時の決断というのは?
キース:あれは非常に自然なことだったんだよ。EL&Pを始める前にナイスもやっていたし、あとブルース・バンドやジャズ・トリオとかもやっていて、そういうところにクラシックを取り入れるっていうのは、ずっと以前からやっていたことだったんだ。そういうフォーマット自体は全く新しくなくて、僕が生み出したものではないよ。たとえばチャーリー・パーカーなんかもそうだし。ちょこっとクラシックの曲をジャズの中に入れると、それを聴いた人が“あれは何だったんですか?”なんて聞いてきて、“バッハのフランス組曲だったかな”って。それで、そのスタイルがすごくウケて、もっとやって欲しいっていう感じになって。、やっていたんだけど、コンセプトそのものは1920年代ぐらいからあったんだよ。たとえデューク・エリントンは「ペールギュント」をジャズ風にやったと思うし、ガーシェインの「ラプソディー・イン・ブルー」もクラシックの形態でジャズをやったりとか。ただ、僕のアプローチは若干違っていて、自分の好きなクラシックの曲を作曲家自体がさらに推し進めたらどうなってるだろうかな?っていう、そういうアプローチをしたんだ。実際に僕らが引用したクラシックの曲のコンポーザーで、生きていた人達には実際に会ったりもしたよ。バーンスタインなんかにもね。実際に会えなかった人からも手紙とかコメントをもらって、僕がやったことを認めてくれたよ。それはすごく嬉しかったね。
──ハモンドをあれほどアグレッシブに弾くのはあなただけだと思いますが、何台のハモンドを壊したんですか?
キース:3台かな?
──たったの?
キース:そうだよ(笑)。優秀なスタッフがいて、壊しても直してくれたんだ。でも、あまりにも毎回毎回壊していたので、彼が金属でハモンドを覆って強化させたんだ。“よし! これで絶対に壊れないから、何でもバンバンやって!”という感じでね。それで僕は、最後の曲で、いつもみたいに反対側からハモンドを弾いたり、ハモンドを自分の体の上に乗せて弾いたりしてたんだ。強化されたから、前は350ポンドぐらいだったものが、450ポンドぐらいになってて、重くなっちゃってたんだよね。それで、持ち上がらなくて“おい!誰かどけてくれ!”って助けを求めたりしたよ(笑)。
──あなたにとって、ハモンドのほかにもモーグという重要な楽器があります。他に創作意欲を刺激した鍵盤楽器はありますか?
キース:アコースティックピアノ、クラビネット、フェンダー・ローズくらいかな。メロトロンは好きじゃなかったよ。ただテープレコーダーを鳴らしているみたいでね。やっぱり自分にとって最初の鍵盤楽器はピアノだったから、一番ピアノに思い入れがあるよ。
──ヤマハのGX-1っていう重要なシンセサイザーがあったと思うのですが。
キース:そうだ、忘れてたよ(笑)。
──モーグの魅力とは?
キース:最初、ボブ・モーグ博士が作ったアナログ・シンセサイザーで、その時点で音楽の可能性っていうのは、すごく広がったと思うんだけど、さらに改善の余地があるということで僕と博士が一緒に開発したのが、ポリ・モーグだったんだ。最初は単音だけのモノフォニックだったのを、ポリフォニックにすることによって、最高8音ぐらい使ってコードが弾けたわけなんだけど。その後に出てきたのが、デジタルだよね。僕自身ももちろんデジタル・シンセサイザーを弾くけれど、プログラミングとかにはあまり興味が沸かないんだよ。やっぱりアナログは、目に見えているよね。特に昔のモジュラー・システムとかはワイヤーがあって、配線をつなげば音が出るし、外せば音が出ないっていう、すごく視覚的にも納得がいくものなんだ。
──ジョン・ロードがいて、リック・ウェイクマンがいて、あなたがいて、その後、2005年の今になっても、ロック・キーボーディストの大スターっていうのがいない。
キース:ジョーダン・ルーデス(ドリーム・シアター)がいるじゃないか。彼は本当にすごいプレーヤだと思うよ。
──では今後の抱負を。
キース:まだやりたい音楽はいっぱいある。これからも僕に注目していてほしいな。 取材・文●森本智 | -- 驚愕の来日コンサート・リポート -- '70年代からプログレッシヴロックを愛してやまないファンが詰め掛けた新宿厚生年金会館は、EL&P時代の楽曲が多数演奏されるという前情報もあり、熱狂的なファンで埋め尽くされた。ステージ上で存在感を誇るのは、やはりモーグ。キーボード群の後方に鎮座し、色とりどりのシールでパッチされた巨大なシステムに圧倒される。 1曲ごとにラウンドガールがカタカナで書かれた曲名のパネルを掲げてステージを横切る。そんなファンサービスを交えつつ、キースの変幻自在なキーボード・プレイに観客は酔いしれた。特に、「Hoedown」「Tarkus」でのファンの反応は抜群。随所で演奏されるモーグの野太い音色は、これこそがEL&Pだという郷愁と説得力に満ちている。バックを務めるミュージシャンもキースに負けないほどの腕達者ぞろいで、特にギタリストの凄腕は、時にはキースのプレイをも凌ぐと思われるほどだ。 今回リリースされたDVDの若かりし頃に比べると、明らかに手数もパフォーマンスも地味にはなっていたが、時間に咀嚼された作品の数々は、'70~'80年代とは違った輝きをもち、ファンを感動させてくれた。キースのプレイのひらめきと様式は日本のファンの琴線を確実に揺さぶり、2005年のキースの成熟を知らしめてくれたすばらしいものであった。 |
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