| ──オールドスタイルのポップミュージックというイメージの強いtahiti80だけど、いろいろな音楽がミックスされているね。どんな音楽に影響を受けてきたの?
グザヴィエ・ボワイエ(以下、グザヴィエ):僕らはフランス人で白人。そういう環境に育っているから、ギター中心のポップスを自然によく聴いてきたんだ。中でもやっぱりビートルズだね。両親も聴いていたし、もっとも影響は大きいね。彼らは音楽的な好奇心がすごく旺盛で、色々な音楽を消化している。もちろんギター中心のポップスもやってるし、実験的な音楽にも手を出したり、シンセを大胆に使ったり。だからビートルズを聴いていたことで、ほかの色々な音楽にも興味を持った。ブラックミュージックとかね。
──今回の『Fosbury』は、前2作とは少し色合いが違うけど、積極的に変えようという意図があったの?
グザヴィエ:今回は、前作『Wall Paper For The Soul』の反動でできたアルバムという感じなんだ。前作はオーケストラを使ったり、きちんとプロデュースして綿密に作り上げた。今回はその反対で、そのままのノリとかインプロヴィゼーションなんかを前に出したかった。それで、インプロヴィゼーションとグルーヴィなサウンド、この2つが大きなコンセプトになった。これは、自分たちのスタジオを作ったことが大きく影響してるんだと思う。曲を作ると同時にレコーディングしたり、時間をかけて色々なことができるからね。
──もっともパワフルでグルーヴィな「Big Day」が1曲目になっているのは、そのコンセプトの現われなんだね。
グザヴィエ:そうだね。『Fosbury』という世界、すなわち新しい僕らのサウンドを紹介するのにいいと思ったから1曲目にしたんだ。実はあの曲は、僕がベースラインを弾いてたら、シルヴァンがドラムでリズムを刻み始めたり、ペドロがパーカッションを叩いたり、そんな即興の中で生まれた曲なんだ。最後のほうに出てくるドラムって、実はファーストテイクなんだよ。このアルバム全体を象徴する曲って言えるかもね。
──ジャムセッションとか即興で作った曲は多いの?
グザヴィエ:ドラムとか、時にはドラムループなんかでリズムを先に作って、次にコードを決める。そのリズムとコードに合わせてプログラミングしたり、パートごとに他の楽器を即興的に乗せていったり、そうやって作っていったのがほとんど。普通のソングライティングとは違ったスタイルのはずなんだけど、最終的にはちゃんとした構成のある曲に仕上がってるから、ギター1本とかピアノだけでも聴けるものになってるはずさ。
──前作にもダンスミュージックやHipHopを感じる曲はあったけど、今回はそれがメインになっているね。こういったサウンドは以前からやりたかったの?
グザヴィエ:ずいぶん前から興味はあった。日本での1stシングル「Heart Beat」は、ビーチボーイズの曲をファンキーにアレンジしたら面白くなりそうだったので、改めてオリジナルとして作った曲なんだ。そのとき、伝統的なポップメロディをリズム主体の音楽に合わせていくのがすごく面白いと思ったんだ。そして今回は、ポップメロディとソウルのダイナミズムの組み合わせをもっと推し進めてみた。今回僕らがやってみたのは、普段よく聞いているビートルズの「リボルバー」とマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」、この2つのスタイルを組み合わせるってことだったんだ。
──今回は、前2作のアンディ・チェイスから離れてセルフプロデュースになっている。この理由は?
グザヴィエ:前作で、オーケストラを使ったポップミュージックや実験的な音楽を作ることに関してはすでにやりつくしちゃった感じなんだ。そろそろアンディから巣立つ時期かもしれないと思ったんだ。彼から学んだことは多かったよ。でも今回は、ペドロ(・ルスンド:B)がエンジニアもできるし、アレンジや全体のプロデュースも自分たちでやってみようと思ったんだ。ただ、音楽的には今までと少し違ったことをやってるから、ミックスはニール・ポーグとか外部の人にも頼んだ。ニールにはプロデュースも少し手伝ってもらったし、いい関係も築けた。
──楽器の音をかなり作り込んでいるみたいだけど、相当時間がかかったんじゃない?
グザヴィエ:今回は4ヶ月もかけたんだよ。時間については、いつまでに終えるかを自分たちで決めなければいけなかったのが、セルフプロデュースで一番難しかったところだね。でも前作みたいに、事前に完璧に曲を仕上げてからレコーディング、というわけじゃないから、そんなに大変でもなかったかなぁ。
シルヴァン・マルシャン(以下、シルヴァン):最終段階でニールが来てミキシングしてたときは、もう朝から晩までずーっとあれこれいじりっぱなしだったよね。
グザヴィエ:そうそう。完璧なのを作ろうと思ってすごく一生懸命やったよね。
──特に音作りで苦労したところは?
グザヴィエ:僕らの場合、すぐにオーバープロデュース気味になっちゃう傾向があって、ホイッスルを入れたり、ベルを入れたり、いろいろ足してたら最終的にごちゃごちゃになっちゃって、あとから次々取り除いたりっていうのがちょっと大変だったかな。
シルヴァン:曲はセクションごとに作って、あとから組み合わせて構成する方法でやってたから、どれをサビにするとか、どれをどの次に入れるとか、曲構成を並べ替える編集ではずいぶん悩んだよね。
グザヴィエ:そうそう。苦労したのは編集だね。曲によっては3つのヴァージョンを作っても気に入らなくて、ヴォーカルだけキープして他は全部変えたっていうのもあったよ。
──ループとかマシンビートみたいな、機械っぽいリズムの曲も多いね。シルヴァンはドラマーだけど、マシンを使うのに抵抗はないの?
シルヴァン:どっちがその曲に合ってるかで決めてるだけなんだ。曲によっては生のドラムが合わないと思ってマシンに換えたのもあるし、最初にマシンドラムを入れておいて、あとからそれに合わせてドラムを叩いたのもある。普通はドラムを最初に録るんだけど、今回は最後に録ったのもあったよ。
グザヴィエ:今回は、バンドというよりプロデューサー的観点でレコーディングしてた。シルバンはドラムだけじゃなくてキーボードも弾くし、僕もベースを弾いたりする。一般的なロックンロールバンドだといろいろ制限もあるけど、僕らはそんなつもりはないんだ。プロデューサー的立場でいろいろ試せたのが、いい結果になってると思うよ。
──歌詞は全部英語ですが、これは最初からの方針?
グザヴィエ:僕が初めて作った曲も英語の歌詞だったし、英語で歌うのは当初からの大前提なんだよ。僕自身はフランスの音楽ってあんまり好きじゃなかったしね。英語で歌ってるけど、イギリスとかアメリカの音楽とはちょっと違う。そこがtahiti80の特徴さ。
──歌詞で伝えようとしてるのはどんなこと?
グザヴィエ:常にポジティブなことを伝えたいね。歌詞もそういうものを目指してる。自分たちの個人的な経験をみんなに共感してもらえるように作ってるつもりなんだ。政治的なメッセージを打ち出そうとは思ってない。使う言葉はシンプルでも、いろいろな意味に解釈できるような歌を作っていきたいと思ってる。
──あなたにとって究極のポップソングって?
グザヴィエ:たとえば、KC&ザ・サンシャインバンドの「That's the Way(I Like It)」なんかがそうかな。馬鹿らしい歌詞なんだけど全体の雰囲気はすごくいいし、みんなが共感できて、みんながノリノリになれる。あとビートルズの「Happiness Is A Warm Gun」もポップですごくいい。究極のポップソングって、とにかくいいメロディがあることが条件だね。それと、実験的な要素とコマーシャルな部分のバランスがいいこと。メロディがコマーシャルな部分を受け持っていて、実験的な要素が曲のエッジになる。それが両立してなきゃだめなんだ。アウトキャストの「Hey Ya!」は、よく聴くとプログラミングが安っぽかったりもするんだけど、ホントにメロディがシンプルで、完璧なポップソングだと思うな。
取材・文●田澤 仁 |
|