──新曲は、映画のストーリーをふまえて作られたんですか?
河口恭吾: はい。まだ編集前の「MAKOTO」をまず観させてもらったんですね。それで書い
たのが「夢の真ん中」なんですけど、最初に観た時に、映画自体が明と暗とか強さと 弱さとか、相反するものの間に立って、人間の揺れ動く心情みたいなものを描いてる
映画だなと思って。その中でも、“出会いと別れ”っていうのが自分の心の中にグッ ときまして。それをモチーフに書きたいなと思いまして。
──曲の印象が、単純に“悲しい”とか“切ない”っていうんじゃなく、夜の暗さの中から抜け出せないでいるような曲といいますか、なんとも救いのない曲のように感じて。唯一、救いがあるとしたら河口さんの歌声だけだという。
河口恭吾: なんか、安直な救いのようなものはやりたいくないって、この曲を書く時に思って。本当のことを受け容れないと、次に進めないって事があると思うんですよね。だから……言っちゃえば、唯一、歌の最後の「夜空の月を見上げる」っていう見上げてる行為だけがちょっとだけ明るい材料かな(笑)。でも、こういう歌もあっていいかなという感じですね。救いがない歌ではあると思うんですけど(笑)、そこにどっぷりはまるのもたまにはいいんじゃないかな。落ちるとこまで落ちたら、あとは上がっていくしかないので。あと、映画も観てほしいですね。そこからインスピレーションを頂いて作るっていうことをした初めての曲なので。
──河口さんの中にそういうイメージを残す映画だったんですね。
河口恭吾: その編集前のものを見させてもらった後に、まだ曲全部は書いていなくて迷ってる部分もあったんですね。映画の中で印象に残った台詞を歌の中に取り入れたほうがいいのかな、とか思ってたんですけど、監督にお会いした時に、“映画に寄りすぎないほうがいい”って言われたんですよ。そのほうがうれしいし、作品も広がる、みたいなことおっしゃってくれて。それで自分も吹っ切れたんですね。最終的に映像に歌が重なったのを観た時に、監督が言ってた通りだなと思いましたね。
──カップリングの「胸の言葉」は、まるで「夢の真ん中」と連作のような仕上がり
ですね。
河口恭吾: ハイ。なんですけど、「夢の真ん中」よりも、もっともっと映画と切り離して作ってみようと思ったんですね。自分自身が、その時感じてるままの曲をぶつけてみたらどういうリアクションになるのかな、と思って書いた曲で。だけど、結局いちばん映像にハマッたという。映画の中のすごくいいシーンに使っていただいて。でもよくよく考えたら映画って人間のいろんな感情がちりばめられてできている作品なわけで、いろんなプロフェッショナルの人が集まってできる総合芸術で、曲のディレクションひとつとってもその仕事っぷりに“カッコイイな”と思わせられましたね。
──このシングルが発売される時期は、バレンタイン・デイが終わった直後なんですけど、そんな世の中の動きとは一切関係ない、荒涼としたものを感じさせる世界が描かれていますね(笑)。
河口恭吾: ……そう言われてみればそうですね。バレンタインかぁ……、全然考えてなかったですね。CD、売れないでしょうね(笑)。でも、満たされてる人よりも幸せじゃない人のほうが、音楽とか歌を必要としてると思うから、そういう人に届けばいいな(笑)。
──05年の第一弾シングルである「夢の真ん中/胸の言葉」を皮切りに、今年はどんなことをしようと考えてますか?
河口恭吾: 昨年は3枚のシングルと1枚のアルバムをリリースしたんですけど、自分でもすごくいいアルバムができたなと思っていて。でも、もっともっといい曲を書いていきたいですし、昨年感じたこととかをもっと突き進めてやっていきたいですね。
──河口さんにとってのいい曲とは?
河口恭吾: ちゃんと、ひとりの人に伝わる歌がいい歌なんだと思います。ひとりの人に届いたものが、結果としてみんなに届いていくってことなんですよね。最初から“ひとりでも多くの人に届けよう”とか、そう思って曲作りに向かった時期も正直あったんですけど、そうじゃないよなと思って。昨年はあくまで、「僕と君」っていう世界観の歌ばかりを作っていたんですね。それって、いちばん最小の人間関係だと思うし、それが社会を作っていると思うし、歌っていうのはそういうものだと思うんですよね。そこを見失わずにこれからもやっていきたいなと思います。
「MAKOTO」
2/19(土)より
全国松竹ピカデリー2系ロードショー
監督・脚本 :君塚良一
出演:東山紀之、和久井映見、哀川翔、ベッキー、室井滋
※詳細は映画「MAKOTO」オフィシャルホームページをご覧ください。
取材・文●梶原有紀子