――昨年10月に1stアルバム『PICK2HAND』を発売して以降、現在も怒濤のライヴ活動を展開中のPICK2HANDですが、ツアーの回数を重ねるごとに、バンドを取り巻く環境へも大きな変化や広がりが出てきてるよね。児嶋亮介(Vo&G/以下、児嶋):
確かにツアーを重ねるごと、バンドを取り巻く環境は大きく進化し続けてますね。もちろん、それまでにもバンドとしての歴史の積み重ねはいろいろとあるんですけど。僕らみんな1stアルバム『PICK2HAND』を発売してからが本格的なバンド活動の始まりという感触をもってるんですよ。というのも『PICK2HAND』という自信作を出したことによって、バンドの指針が明確に見えたこと。その想いが確実にファンの人たちへ届き、まさにバンドを取り巻く環境を大きく広げ、深く浸透させてることが、僕らの意識をそう思わせてゆく大きな要因にとなっているんです。
――そうなったのも、それまでのサウンド趣向で一方的に音を提示し続けてきた姿勢から、歌もの趣向を強め、少しでも多くの人と想いのコラボレートを心がけ始めたからじゃない?児嶋:
まさにその通りですね! 楽曲って自分の内側から沸き出た想いを形にしたものだから、自己完結や自己満足で終わってしまうことも確かにあるんです。だけどそれが、独りよがりの一方通行な音楽として結実してしまったら、広がるものも広がっていかない。それが、以前の僕らの音楽性だったんですよ。でも表現する意識を、聴き手の心へ届けてゆくという方向へシフトするだけで、歌い方ひとつを取っても“心へ響いてくように”という姿勢へと変わっていく。楽曲の作り方にしても、確実に“歌を届ける音楽性”へと進化していくんです。たとえば僕の大好きなバンド、ニルヴァーナにしても、いわゆる激しい音を求めゆくサウンド趣向の人たちにも共感を得たけど、同時に歌もの趣向の人たちへも幅広く支持を得たわけじゃないですか。そうなったのも、バンド自体が、詞やメロディを訴えかけようとしてゆく強烈な意思を持ってたからなんですよ。『LILY'S WORLD EP』(今年5月発売のミニアルバム)を含め、僕らの意識もそこへ向かって以降、全国各地同じ場所でライヴを重ねるたびに、1回観たお客さんがリピーターとなり、確実に動員を増やしてゆく力となっていくって実感してるんです。そうやって伝わり始めてゆく感触を得られてるのが、今は凄く嬉しいんですね。
――お客さんって、バンドが放つ“届けたいオーラ”へ敏感に反応してゆくものだからね。児嶋:
そう、自分が伝えたい想いをあきらめない限りは、それがしっかりと届き、大きな輪を作りあげていく。そこで一瞬でも挫けたらお客さんの気持ちが拡散してゆくというのは、これまでの経験上よくわかってますから(笑)。
――その“届けたい想い”こそが、今のPICK2HAND を形勢してる大きな要因だね。児嶋:
いわゆる、その場だけの話題性で終わってしまうのって、ハリウッド娯楽大作映画じゃないけど……、ただお客さんを盛り上げれば良いというだけじゃ、その作品や楽曲はけっして長く語り継がれてはいかないから。それよりも、盛り上がった後の何日後でもずっと心の中へ残ってゆく音楽でないと“届く音楽”にはならないんですよ。つまり、どんなに激しかろうが、どんなに静かな歌だろうと、すごく心へ残り続ける歌を伝えきれたときこそ、本当にその歌やバンドは長くみんなの心へ刻み込まれ、ともに長く歩んでいける。それをツアーの繰り返しや作品を重ねることで、俺らは見つけてきたし。それがロフトでのワンマン(9/30に実施)という形へも繋げていけたんだと思う。
――ライヴを通した体感的な高揚と、心へ残る歌を胸へ刻み込みたいがために、こうやって大勢のファンの人たちが、ワンマンへも集まってきたってことですね。児嶋:
そういう幾度もの繰り返しや積み重ねが、今の好況を作りあげてるんでしょうしね。確かにライヴを見てもらえれば虜にしてゆける自信はあるけど、なかなか現状では難しいのも確か。だから今回のように新宿ロフト・ワンマンのライヴを、間接的な形とはいえ触れて感じてもらえる機会を得られたことが、今の僕らにとっては嬉しいことなんですよね。そうやって音を届けてゆく姿の積み重ねこそが、前へと突き動かす、すべての道を築きあげてゆく大きな原動力になりますから。
取材・文 長澤智典