【インタビュー】Psycho le Cémuのseek、ソロプロジェクトという聖域とギャップを語る「自分の深層世界まで確実に聴いてもらえるアルバム」

■圧倒的なチャレンジだったのは
■ほとんどアップライトベースだったこと
──4曲目「白濁に酩酊、泥濘の睡蓮」は、味園のテーマなんですよね?
seek:そうですね。よく飲みに行っていた密室金魚というお店のマスターがとても優しい方で。僕はひとりで飲んでいて、ベロンベロンに酔って、ほとんど記憶が無いんだけど、ちゃんと帰ろうとしたことだけは覚えていて(笑)。意識が戻った時に「seekくん、あんまり深く考え過ぎたらあかんで」とマスターに言われたんです。帰りはずっと“……僕、何をしゃべったんやろ? 間違いなく心配されてるな”みたいな。何度かそういうことがあって(笑)。地下にあった味園ユニバース(ライブハウス)が元キャバレーで、僕の中学校の同級生が当時ボーイをしていて、そのボーイ仲間だったヤノさんという方が密室金魚のマスターなんですけど、それがきっかけでその友だちと飲みに行くようになって。残念ながら味園ユニバースビルが無くなることが一昨年決まったこともあって、歌自体はそのタイミングで作ってたんですけど、形としても残したいなと。2025年内いっぱいで建物が閉鎖されることになったので、リリックビデオも密室金魚で撮りました。お店の照明が緑色で、上からの定点カメラで、ただただ飲み続けてる画を撮っていて、僕の後ろ姿がずっと映っています。
──「白濁に酩酊、泥濘の睡蓮」は、《意識なくただただ酔って ただ漂って》という言葉選びも面白いです。
seek:語感的には同じように聴こえますけど、そういう言葉選びには結構こだわっています。このアルバムは“歌詞を読んでもらいたいな”という気持ちがすごく強かったので、トレーラー映像も曲のタイトルを映し出すよりは、ダイジェストなので短くはありますが、歌詞がずっと流れていくようにしたかった。正直、ご時世的にフィジカルとしてのCD作品を出すのが本当に難しくなっていることも、この数年ずっと感じていたんですけども、自分の初めての作品はやっぱりちゃんとCDにしたいなと。紙に惹かれる気持ちがあるので、昔雑誌で始めたエッセイを未だに月一でずっと書き続けていて、それも自分で3冊の本にしましたし。仕上がってきた時のインクの匂い、紙の匂いがすごく好きやから、今作も歌詞カードはちゃんと紙で残したいなと。歌詞を歌詞カードで読んでもらいたいですね。
──パワーハウスや味園ユニバースもそうですが、消えゆくものを残したい、匂いも含めて形にしたい、という想いは一貫しているんですね。
seek:パッケージしておきたい、というのはありますね。味園が無くなる時に特にそう思ったんですけど、いくら新しく同じようなものを作ったとしても、長年時間を掛けて染み込んできた匂いみたいなものはもう作れないんですよね。物理的なものだけではなく、下手したら霊的なものまであるんじゃないか?ぐらいな、人の念みたいなものが詰まって作られた魔窟みたいな場所やったから。老朽化も含めて無くなる理由はそれぞれあるんでしょうけど、やっぱり無くなるものへの寂しさはあるし、でもそれを曲にしてしまえば無くならないので。
──残して次世代に伝えていくこともできますね、永遠に。
seek:どこまで受け取ってもらえるかは分からないですけど、自分の中でそういう気持ちを込めて作ることができたのは良かったです。どの曲にも、その時の自分の置かれている状況も含めてこだわって、バンドでは使わないワードを使ったのもそうやし、9曲目「月と黒猫」では一人称を女性言葉にしてみたり。上田正樹さんややしきたかじんさんとか、関西のおっちゃんの作る女性目線の歌詞の世界観ってあって、マッチングがいいのかなと思ったり。逆に、3曲目「稀代の鼠」では“俺”という、今までバンドではあまり使ってこなかった強い一人称を選んだりもしてます。そういうダーティーな感じは、自分の中では扉を一枚開けるのに勇気が要って。「自分って“俺キャラ”なん?」 みたいな(笑)。急に暑苦しいやつになったみたいで恥ずかしいなと思ったんですけど、この曲なら使えるかなと。歌詞は一番ファンタジーな感じで、『赤ずきんちゃん』の男の子版みたいな創作物語的イメージで書くことができました。バンドの時はもっと時間が掛かるんですけど、フィクションだろうがノンフィクションだろうが、書き始めるとバーッと言葉が出てくるので楽しいですね。
──バンドよりも制約が無い中で、とはいえバンドでの経験値も活かしながら、増えた選択肢を駆使して自由に作れたという感じでしょうか。
seek:バンドではルールに則ってやることが多かったんですけど、パワーハウスもそうですが、スタジオでのレコーディングだとか、プロデューサーの方と一緒にやることを、ありがたいことに若い頃に経験させてもらえていたんですよね。だから、いろいろな選択肢がまず自分の中にはあったというか。今回、曲のアレンジの組み立て方自体にも発見があって。小雨さんとピアノセッションをした時に“あ、これをバンドでやったら絶対面白いし、もっといろいろできそうな気がする”と思ったのをきっかけに、小雨さんと僕のアコギと歌だけのアレンジを初めに骨組みとして作ったんですね。それに対して僕がまずドラムとギターとベースを入れて、何となくの設計図になるようなデモのデモみたいなものを作って。それをaieさんと晁直さんに送ったんです。
──そこからお二人がアレンジをさらに加えていくという?
seek:晁直さんとはそこからプリプロして、ドラムを叩いてくれた音源を送ってくれて、「こういうアプローチどうですか?」みたいな確認をしてくださったんです。aieさんはご存知の通り天才なので一切プリプロしないから、レコーディング当日まで何をどう弾くか、僕らに知らされないんですよ。一方で、晁直さんは名古屋在住なので、「今回レコーディングはどうしましょうかね? 東京に来てもらって録りましょうか?」とお訊きしたら、aieさんがちょうどその時期deadmanとkeinの活動がまとまって入っていて、ツアーにも出ていて、「いつどこにいるのかよく分からないけど、名古屋拠点ならどこにでも行けるかも」という感じだったので、「じゃあ名古屋で録りましょうか」と。ヴィジュアル系の名だたる方々が録ってこられた名門スタジオ“ミューテック”に連絡して、名古屋でドラムとギターを録ろうということになりました。
──レコーディングは実際、いかがでしたか?
seek:その段階ではベースとピアノと歌は仮の状態で。ドラムを録っている最中、ガイドとしてaieさんがギターを当てて弾くんですけど、その1曲の間に3パターンぐらいのギターを弾くんですよ。ワンコーラス、ツーコーラス、スリーコーラスの間に、布袋さんバージョンと誰々バージョンと誰々バージョンという感じで、弾くキャラクターがどんどん変わっていく。で、「誰が好き?」「あ、今の布袋さんが好きっすかね」「OK、じゃあそれで弾くわ」みたいな(笑)。 それでバーッと弾いて終わり…天才やなと思いました。
──面白いエピソードですね、aieさんらしいというか。
seek:そんなギタリストいませんからね(笑)。さっきお話した「永遠の微熱」の録り方もそうですけど、“この人はぶっ飛んでるわ、やっぱすごいな”って。僕の周りの仲間もそうですし、若い世代にも刺さる同世代のスーパースターやと思っていて。aieさんが山ほどバンドをやってるから、みんなから「何個バンドやってるんすか? それほどバンドをやりたいんすね」ってよく言われてるんですけど、それは逆で。aieさんとやりたいバンドマンが多過ぎて、aieさんの前にバンドマンが列を成して並んでるだけみたいな。“そうなるのは、こういうところなのかもな”って本当に思いましたね。今回aieさんのギター無くしてこのアレンジは完成しなかったし、ましてやそれが、綿密に打ち合わせして構築したものではなくて、引き出しを3つ開けた中から出てきたもので、そのどれもカッコ良かった。録ったものを小雨さんにまた戻して、ピアノとベースのレコーディングは一番最後にやりましたね。


──seekさんのXの投稿を辿ったら、2025年1月からベースを録り初めていらっしゃいました。“「相食む」から録り始めた”と書かれています。
seek:たぶん歌録りを同時進行でやってたのかな? MIMIZUQでタイに行った前後の時期に録ってた記憶があります。ベースに関して言うと、圧倒的なチャレンジだったのは、ほとんどアップライトベースだったこと。「永遠の微熱」と「not a spell」以外は全部そうですね。
──アップライトベースは曲のムードに合っていますよね。
seek:はい。自分の曲とのマッチングもたしかにあると思います。ヴィジュアル系バンドの方で、ベーシストでソロになられた方って何人かいらっしゃるんですけど、その方々は僕からしたらすごく個性もあるし、ベースも上手いし、キャラも立ってる。そういう方々と並んだ時に自分なりの戦い方をするには、“アップライトベースを武器に戦ってみたい”という気持ちも強かったですね。
──アップライトで演奏しながら歌うって、これは素朴な想像なんですが、すごく難しいでしょうし、やはり挑戦でしたか?
seek:めちゃくちゃ難しかったですよ(笑)。もちろんどの楽器も難しいとは思うんですけど、フレットレスで、かつ縦に指を動かすわけですから。

──なるほど。
seek:それにライブのことだけで言うと、ソロバンドのワンマンの時には“プロンプターを使いたくなくて。自分の中では歌詞がすごく大きなもので。ラブソングで“あなた”のことを歌う時に客席の“あなた”を見て歌うようなボーカルでありたいと心がけていました。
──強いこだわりがあるんですね。
seek:そこは“あなた”を見て、その言葉を言ってほしいのに、言い方は厳しくなりますけど、プロンプターに目が行ってたら歌詞が死ぬと思っていますから。“弾き語りの時は、歌詞だけでなくコードも併せて見てるから”みたいな言い訳があるんですけど、自分のソロバンドの時は“絶対何も見ずにやったろう”と思っていて。去年の誕生日の初ワンマンの時にそれを掲げてしまったが故に、もう全部がいっぱいいっぱいで。アップライトベースの話に戻ると、そのライヴでもかなり力が入ってたみたいで左手が腱鞘炎になってしまった。歌詞が覚えられているという確証は、いざ本番でステージに立つまでどこにもないじゃないですか? 本番2日前ぐらいに、全く歌詞が出てこなくなる夢を見て、すごく怖くなってひとりでリハーサルスタジオに入り、何も見ずに歌う練習を何回もしましたね。
──アップライトで弾き語りってあまり見たことないですし。
seek:そうですね(笑)。







