【インタビュー】BREAKERZのAKIHIDE、12thアルバムは一連のストーリー完結編にしてソロワーク集大成「すべての愛おしい人たちへ感謝を」

2025.10.23 15:00

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BREAKERZのAKIHIDEが10月15日、通算12枚目となるソロアルバム『MOON SIDE STORY』をリリースした。約20年前から思い描いていた壮大なコンセプトの断片を形にしたのが過去のソロ作品の数々であり、その創作の始まりとなった太い幹がアルバム『Three Stars』(2023年10月発表)、そして枝葉は『Fortune』(2024年10月発表)へと広がり、三部作完結編にして物語の結末にあたる今作が『MOON SIDE STORY』となる。

『MOON SIDE STORY』には、様々な音楽性を取り入れ、新たに吸収したものを注ぎ込み、ソロ活動の集大成と言っても過言ではないぐらいに自身を詰め込んだという。歌うことを想定した楽曲が中心の今作でAKIHIDEは、エレクトリックギター、アコースティックギター、クラシックギター、エレクトリックシタール、バンジョーなどなど、様々な弦楽器も演奏しているそうだ。物語の舞台“ムーンサイドシアター”は月の裏側にあるアミューズメント施設を意味するものだが、重力を超えて様々な場所に旅をしているような感覚になれる仕上がりはサウンド面にも顕著だ。

同アルバムを掲げて行われる全国ツアー<AKIHIDE LIVE TOUR 2025 –MOON SIDE STORY->は10月26日からスタートして、11月23日の東京・キネマ倶楽部でファイナルを迎える。ロックバンドBREAKERZで見せるミュージシャン像とはまた違う多彩な引き出しを持つAKIHIDEの世界観がうかがい知れるロングインタビューとなった。

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■完成した時には“終わってしまうな”
■という気持ちのほうが強かった

──ついに『Three Stars』『Fortune』から続く、三部作の最終章『MOON SIDE STORY』が完成しましたが、ソロ10周年から始まって約3年掛かりの道のりだったそうですね。まずは完成した今の心境から教えてください。

AKIHIDE:今思うと、あっという間だったというのが正直な感想ですね。自分としては20年以上前に胸の中に秘めていたストーリーを軸として、過去のソロ作品も作ってきたので。“いよいよそれが形にできる”と取り掛かった三部作は非常に楽しくて、長い間、温めていた分、3年という月日がすごく短く感じました。完成した時には“終わってしまうな”っていう気持ちのほうが強かったですね。

──完結してしまったことへの寂しさのような気持ちですか?

AKIHIDE:そうですね。月の裏側を描いてきた物語はこれで一区切りかな、と自分の中では思っているので。次に作る音楽や物語はまた違う出発点から始めたいんですよね。なので無事送り出せたことに、安心感と同時に寂しさも感じています。

──20年以上前、AKIHIDEさんがオフィシャルサイトを立ち上げた時から「“MOON SIDE THEATER”は月の裏側にあるアミューズメント施設で、経営しているのが平和を願う宇宙人という構想が頭の中にある」とおっしゃっていたそうですね。そこから物語をどこへ落しこむかは何となく見えていたんでしょうか?

AKIHIDE:大筋はだいたい決まっていました。それをどう補足してわかりやすくしていくかが『Three Stars』と『Fortune』の作業でした。ただ、『MOON SIDE STORY』の結末までは決めていなかったんです。

──そうだったんですね。

AKIHIDE:はい。僕自身、初めて出会う流れだったので、物語がどう進んでいくのか作ってみてわかった感じですね。

──今作はAKIHIDEさんらしさもありつつ、2枚のアルバムとはまた違うアプローチをされていると思いました。これまで以上に無国籍なサウンドもそうですし、歌詞も聴き進めるにつれ、胸に刺さってきました。2作目『Fortune』は“蝶”がモチーフになっていたり、“運命を幸運に変える”というキーワードがあったと思いますが、今作は?

AKIHIDE:『MOON SIDE STORY』には昔から知っているファンの方にはおなじみの登場人物がほとんど出てくるんです。一人一人のキャラクターに人生があって、“THEATER”という施設では笑っているけれど、その裏には紆余曲折がある。物語の中では抗争も起きたりするんですが、戦う相手にも人生があるので、今作のモチーフは“人それぞれに人生がある”。それもあって音楽性も今まで自分が培ってきたもの、やってみたかったことをカラフルに表現したいという想いがありました。それこそ小劇場というかシアターで演奏しているような感じ。表題曲の「MOON SIDE STORY」もそうですが、ロックだけじゃない。無国籍とおっしゃっていただきましたが、中近東の要素とか、和の方向だったり、いろいろな音楽性を集約させたかった。自分が興味のあるジャンルだったり、新たに吸収したものを注ぎ込んだ感じですかね。

──そういう意味ではチャレンジもありつつ、今までソロでやってきたことの集大成というポジションなんですね。

AKIHIDE:そうですね。最近、少なかったインストが半分ぐらい占めているアルバムという意味でもそうですし、エレクトリックギターもアコースティックギターも弾いていますし、集大成と言っても過言ではないぐらい自分を全部詰め込みましたね。

──近年、ギターを抱えて全国を廻っているツアー<Angya>が本作に影響を与えた部分はありますか?

AKIHIDE:作った後に気づいて不思議だなと思ったのは「MOON SIDE STORY」という曲の歌詞が<Angya>的だなと思ったんです。”世界の果てのライブハウス“というフレーズは、日本に置き換えたら極端ではありますが、<Angya>でいろんな場所に行って思ったのはその土地に住んでいらっしゃる方は”違う町に行きたい”、“こんな日々じゃないほうがいい”と思っているかもしれない。僕自身もそんな風に思って過ごしていたことがあったんですよね。でも、そういう場所に音楽がやってきて、みんなで歌って盛り上がったら、それが力になる。「MOON SIDE STORY」の歌詞でいうと“錆びれた街も ほら 楽園になる”とか“冴えない日々こそ Don’t stop! 歌に変えて”という部分に当てはまって、これは<Angya>的だなって。アルバムのストーリーとリンクさせて書いた曲ですけど、この曲はギターだけで廻るツアーで歌っても、すごく意味を持つなって。<Angya>の意味合いや景色が自然と今回のストーリーとリンクしているのかなって、曲を書いた後に思いました。

──ということは、本作の収録曲は最近書いたものが多いんですか?

AKIHIDE:歌ものに関しては最近なんですが、インストでいうと1曲目の「Theme of Theater」はオフィシャルサイトを開くと流れる曲なので20年以上前。5曲目の「蛍ヶ丘にて」と6曲目の「静かなる月光湖 II」も10数年前に、オフィシャルサイトのコンテンツのBGMとして使っていた曲なんです。最初はそのヴァージョンをそのまま入れようと思ったんですが、ディレクターの方からのアドバイスもあって、今の自分なりの味付けをしてみました。「蛍が丘」はAメロしかなかったんですが、サビを加えて幻想的な情景を想像してもらえるように膨らませたんです。「静かなる月光湖 」はモチーフだけ使って作ったので「静かなる月光湖 II」というタイトルにしました。他の曲に関しては書き下ろしですね。

初回限定盤A

──今作も3種類の各CDを購入した方は、そのコンセプトストーリーを読んで楽しめる仕様にもなっているので、このインタビューでは音楽的アプローチ、歌詞などを中心に楽曲解説をお願いします。オープニングのインスト「Theme of Theater」は、今宵のショーの始まり的なポジションですか?

AKIHIDE:まさに始まりのテーマソングです。オフィシャルサイトの“MOON SIDE THEATER”をクリックするとエレベーターに乗って各コンテンツに飛べるようになっているんですが、“ムーンサイドシアター”の扉が開くと満員のライヴハウスで、そこで演奏しているイメージ。1曲目はSE的な役割ですね。物語の世界に入るエントランスという意味合いで作った楽曲です。

──“ようこそ”的なボイスも入っていますよね。

AKIHIDE:あれはMacを使って宇宙人のような声に加工したんですが、歓声は<Angya>の時のお客さんの声なんです。「次の作品にライヴハウスのシーンがあるので、声を録らせてもらえませんか?」ってお客さんにお願いして録音したものを全て入れたんです。全部で30テイク近くあったんですが、お客さんと一緒に作ったものを入れたかったんですよね。

──なるほど。先ほど語っていただいた表題曲「MOON SIDE STORY」はサウンドがエキゾティックですよね。

AKIHIDE:フレンチジャズのテイストを入れたかった曲です。そこに僕の好きなギタリストであるジャンゴ・ラインハルト(ジプシー・スウィングの創始者)のエッセンスを入れて、フランスのアニメーション映画『ベルヴィル・ランデブー』の音楽や映像に通じるヨーロッパのレトロな雰囲気を醸し出したいなって。間奏のスパニッシュなパートはナイロンギターで弾いていて、フラメンコで用いられる手拍子、パルマも入れています。かと思うと、エレクトリックギターでロックなフレーズを弾いていたり、ごった煮感のある、今作を代表する曲になっていると思います。

──ミュージックビデオもノスタルジックで凝っていますね。

AKIHIDE:映像は、(自作の切り絵的な創作物を見せてくれながら)このキャラクターたちをミリ単位で動かしているんです。僕自身の映像は、スローモーションで撮ったものを通常のスピードにして無声映画のようなレトロな雰囲気にしています。モノクロの映像にしたのはコンセプトストーリーの主人公の画家が目の色彩を失ってしまったので、主人公が見ている世界というイメージです。

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