【インタビュー】植田真梨恵、3年ぶり独立後初アルバムに2025年現在の世界「結論は、やっぱり時間は止まりたがっているんです」

■私、何したらいいんだろう?って
■ずっと必死で探していました
──もう一つ、アルバムタイトルに関わる話として、“時間”という大きなテーマも、楽曲全体の根底に流れていますね。このテーマも、何かきっかけがあって生まれてきたものですか。
植田:時間について考えることは、以前からあったんですが、特にフォーカスが合ったのは最近ですね。それも自分の今のモードと直結していると思うんですけど、さっきの話の商店街もそうですけど、ノスタルジー=懐かしいということが私は好きで、“懐古厨だよな”という、ちょっと嫌だなと思う点もあるんですけど、「昔は良かった」ばかり言ってるなよという、そういう気持ちもあるんですけど、でも懐古厨なので。
──とうとう自分を認めた。
植田:そうです(笑)。だったら思いっきり懐かしい、ノスタルジックでレトロな曲を作ってみてもいいのかな?と思ったところから、『時間は止まりたがっている』が始まっていますね。
──なるほど。一つさかのぼると、3年前の前アルバムが『Euphoria』で、あれが構想何年という大作で。
植田:11年ですね。20歳過ぎの頃に書き始めた曲を集めたアルバムなので。

──あれを作って、大きな荷物を下ろしたみたいな、それもその後のノスタルジックモードに関係していますか。
植田:『Euphoria』は、死ぬまでにできたらいいやと思っていたアルバムで、あんまりマスに向けて作ってはいない意識だったので、極めて自己満足に近い1枚だったんです。でも意外とリリース後は「すごく好きです」「一番好きなアルバムです」と言ってもらうことがとても多かったので、特に同年代の方に。なので、“あー、すごいなー”と思って。
──何が?
植田:いや、自分の、ピントのずれというか(笑)。だから、“ちゃんと本音で素直に書いてくべきだよね”というところは、すごく『Euphoria』に教えてもらったことだったんです。なので、あれができちゃった時点で、“この後どうしよう”とすごく思っていました。
──はい。なるほど。
植田:『Euphoria』は特に、生ドラムの録音にすごくこだわって、いろんなスタジオで、どれだけ空気感を込めることができるか?ということを追求していたので。もうロック的なバンドアプローチは、一旦ここでやり尽くしたなという感じがあったんです。で、そこからどう進もうかな?ということを、ものすごく悩んでいたら、「恥ずかしい」という曲を書いた直後、独立が決まりまして。
──ああ、そういうタイミングでしたか。
植田:そうです。「恥ずかしい」ができて、独立タイミングで、一番にミュージックビデオを公開しました。なので、“この曲がちゃんと座るアルバムを作っていかなきゃね”と思いました。

──いろんなタイミングが重なって、一気に押し寄せてきている感じがしますね。『Euphoria』で音楽的に一区切りがあって、「恥ずかしい」で、制作環境的にも一区切りがあって。
植田:そうですね。
──それで、今回のアルバムで多用されているような、打ち込みのサウンドへ向かっていったわけですか。元々、自宅録音はしていたんですよね。
植田:いえ、作っていましたけど、私は何回もDTMに挑戦して、挫折しているので。でも独立のタイミングでMTRをゲットして、“MTR、いいやん”ってなったんです。
──MTRって、どの機種ですか。
植田:ZOOM R8です。8トラックで、SDカードで記録するやつです。それでデモを作っていって、それにハマりました。それ以前のメジャーの時期はアコギ1本で、ボイスメモ一発とかでデモを作っていまして。もっと前、インディーズの時はMTRでやっていたので、久々のMTRという感じでした。
──その、ZOOM R8の音を生かしながら。
植田:はい。なるべく余計な音入れずに、と思って作ったアルバムです。
──シンプルな音作りって、逆に難しい気もしますけど、何が大変でした?
植田:一番大変だったのは、マスタリングですね。最後の段階で、CD音圧の-10dbのところまで、グッと音量を詰めていく作業がものすごく大変でした。「Lady Frappuccino」みたいな、ものすごい音数の入ってる曲もあるので、音圧をグッと上げて行った時に、いろんなニュアンスが潰れちゃって、弱い子じゃなくなっちゃった、みたいな。「恥ずかしい」とかそうですね。
──ああー、最初のお話にあったような、弱い子が。
植田:しっかりしちゃった、みたいな(笑)。でも、“弱いままでいいのに”とずっと思っていたから、そのショボさと、カッコよさとのバランスで、すごく葛藤しました。
──微妙なニュアンスですよね。でもすごくうまく処理していると思います。誰か相談相手はいるんですか。
植田:『Euphoria』の時に一緒に作ってくれた、森良太と一緒にマスタリングまで全部やっています。かなりギリギリまで相談して、進めました。
──いい音だと思います。耳に馴染む音というか、言い方はアレですけど、流しっぱなしにして気持ちいい音だなと思いました。耳に当たる感じが、優しいんですよね。そして歌も、すごく優しく歌っているように聴こえます。
植田:そうですね。ギャーっと歌っている部分は、「SAD VACATION」のシャウトと、あとは「恥ずかしい」ぐらいですね。それは年齢の変化と、自分のテンションだと思うんですけど。ライブでどれぐらい、ギャーっと歌うことになるかはわからないんですけど、今回は心地よいもの、雰囲気がいいものがいいなと思って歌っていました。
──そこが今までのアルバムと違っていて、個人的にはすごく好きです。
植田:ありがとうございます。
──植田さん、何より歌うのが好きな人だけど、「私の歌を聴いて!」という感じともちょっと違うんですよね。特に今回のアルバムは。
植田:経ましたね、時を(笑)。
──経ましたね(笑)。話せば長いことながら。

植田:15歳までの私は、本当にただただ歌手になりたくて、圧倒的な歌手になりたかったんです。
──自己主張強めでしたよね。初期の歌は。
植田:はい。“とにかく歌なんだ”と思っていたんですけど、今は……。『時間は止まりたがっている』は、むしろ歌を大切に作ったアルバムなんです。
──なんだけど、むしろ優しい。歌に対する考えが変わってきたんですね。
植田:15歳以降は、音楽とか編曲とかがより好きになって、聴くようになって、いろんな知識や好みが積み重なって、こういう形に今はなったよねと思います。
──曲作りも、そんな感じがしますね。以前は、ちょっとヘンなコード進行とか転調とか、わざと入れてみたりしたとか、言っていたような気が。
植田:はい。
──今回は、そういうひねりがほとんどないと思うんです。
植田:コードは、あんまり凝らなくなりました。とにかく、コード感というよりは、真ん中に歌が主軸としてあって、それに必要最低限のアレンジを、ということでしたね。井上陽水さんの「リバーサイドホテル」という曲を聴いた時に、“何これ、すごい!”と思って感動したんです。詞もカッコいいし、音がすごく少ないじゃないですか。いい曲すぎて、目から鱗で、“これでいいよね”と思って、それきっかけで「田んぼ・トライアル・パチンコ屋」とかを書き始めました。

──なるほど! まさに、「リバーサイドホテル」の世界観は、今回のアルバムに近い感じがします。
植田:無機質なビートと、有機的な音と歌の組み合わせですね。最初はもうビートから、オングリッド(※機械的に正確に)にならないように、全部自分のビートを打ち込もうと思っていたんですけど、さすがにちょっと聴いていられなくて(笑)。アコギを叩いたりしてみたんですけど、それもさすがに……だったので。無機質なビートは、時間を刻む秒針みたいに、ピタピタピタピタと鳴っていて、その上で揺れている歌とか、エレピとか、ちょっと下手なベースとかが入っているほうが、むしろ有機的に感じるのかな?と思って、そんなふうにしてみました。
──面白いです。いつの間にそんな、自己流で進化していたとは。
植田:“私、何したらいいんだろう?”と思って、必死で探していました。「恥ずかしい」を作ってから、メジャーデビュー10周年ツアーが1年間続いている間、ずっと“私は何したい?”と、ずっと考えていたアルバムでした。







