【インタビュー】Ran、活動5周年の集大成アルバム『awkwardness』に「日常にあるさまざまな違和感」

■ずっと話に出ていたキーワードは
■ドリームポップでした
──「なんでもない人」は、7月31日からスタートするドラマ『もしも世界に「レンアイ」がなかったら』第1話のエンディング主題歌に起用されます。お話をもらったときはどう思いましたか?
Ran:最初は、ある意味制作しやすいのかなと思っていたんです。漫画が原作だから、セリフや台本が存在するところで曲を書けるのは大きいだろうなと。ただ、キーになる言葉をどうしようかな?ということはずっと悩みましたね。それこそタイトルになった「なんでもない人」もそうですけど、いろいろなフレーズがある中で。最後は直感に従って「なんでもない人」にしたんですけど、これは物語のナレーションだったかセリフだったかに、“普通”とかそういう言葉が出てきて。ドラマ主人公の乙葉は、“自分はなんでこうなんだろう? 普通ってなんだろう?”っていう思いを持っているので、普通の人とかなんでもない人、というのは最初に出てきた気がします。
──ドラマ『もしも世界に「レンアイ」がなかったら』は各話で主題歌が変わるというもので、その中でもRanさんは第1話のエンディング主題歌担当です。ここから物語が続いていくので、なかなか難しい立ち位置での制作でもあったと思いますが、実際どのように曲作りに向かっていきましたか?
Ran:まず台本をいただいて、それを読んで読んで読んで、というところからスタートしました。ドラマの内容は現実世界とは違って、恋愛がない世界とか恋愛をすることが普通じゃない世界を描いた作品なので、どういう曲にしたらいいかということはすごく考えましたね。ドラマの制作の方から「主人公の心情に沿ったものがいいです」という要望をいただいていたので。さらに台本を読み込んで書いていった感じでした。
──主人公の心情を理解するために、ですね。
Ran:はい。主人公の乙葉は、ひとりの人を好きになって恋愛感情を持つという、恋愛のない世界ではマイノリティの存在なんです。言わば、今の私たちと同じ価値観を持っている。だから、恋愛をする中での気持ちとか、うまく行動に移せないところとか、こうしたらこうなるだろうなと葛藤するところとか、それで心を閉じてしまうところとか……自分とも通じるところがあると思ってて。“言いたいことがある…でも言えない…けど言いたい…わー!”みたいな(笑)。
──共感できる部分ですね(笑)。
Ran:ただ、サビに“なにかあるような顔で言えば まだ知らないあなたを知れるの”という歌詞があるんですけど、“まだ知らないあなたを知れるの”という言葉は、作品のストーリーや乙葉の人物像が見えなかったら、自分からは出てこなかったと思う。そういうところは、調節しながら書きました。
──共感する部分がありつつ、自分にはない考えとか違いはありましたか?
Ran:乙葉は奥手な部分もありつつ、意外と行動派なんですよ。私はわりとスルースキルが備わってきたと思うので、そういう部分ですかね(笑)。私は恋愛関係においては、もうちょっとさっぱりした価値観なのかなと思うんですけど。
──そのスルースキルって、なかなか身につけるのが難しいものがあると思うんです。気にしないと思っていても誰かの意見や言葉って、目に入ってしまうとどうにも気になるものですよね。それをやり過ごしたり、スルーするワザがなぜ身についたんだと思いますか?
Ran:なんでですかね。思うのは、自分と近ければ近い関係性ほどスルーはできないもので。先ほどの「少女たち」も、元になった出来事が見ず知らずの匿名からのものだし、遠い関係の人からだったからこそ、ああいう曲も書けたのかなと思うんです。逆に自分に近い人がそういうことをやっていたら、たぶん私は相手とちゃんとぶつかるほうかもしれません。

──なるほど。話は戻りますが、「なんでもない人」の歌詞のなかで、愛を“アイ”とカタカタ表記しているのは、どういったところからですか?
Ran:ドラマの世界の愛もそうですけど、普段の私たちの世界の愛も、その形は人それぞれで、ちょっといびつで。きれいな丸い愛もあれば、トゲトゲしてるものもある…という意味も込めてカタカナにしました。あとドラマのタイトル自体も『もしも世界に「レンアイ」がなかったら』だったので。これはいいかもと思ってカタカナにしました。
──“アイ”とすることで、“i”=私を示すようにも捉えられるというか。自分とはなんだろう?ってところにもつながる感覚もあります。メロディはとてもドラマティックで、いろんな思いを投げかけてくれそうです。
Ran:「なんでもない人」はメロディも、こうしようああしようと試行錯誤を繰り返しましたね。いつもは大体メロディと歌詞を一緒に書くんですけど、この曲は最初、サビの尺が半分くらいだったんですね。で、スタッフの方と「もうひと節長くして、それで終わるほうがもっとドラマティックになるね」とか話をしながら、歌詞を付け加えていったりしました。メロディが先とか歌詞が先とかでもなく、いろんなことを並行してできた気がしてします。
──サウンド面についてはどうですか?
Ran:ずっと話に出ていたキーワードはドリームポップでした。ドラマ制作の方はリファレンスとして「sheets」(2022年アルバム『世存』収録)を上げてくれていたんですが、あの曲はわりとローファイ的なので、そこも踏襲はしつつ、よりポップにいけたらいいよねというイメージで、今回のアレンジになっていきました。
──「なんでもない人」という曲がドラマとどんな相乗効果を生むのか楽しみです。またコラボ三部作をはじめ、既発曲であるダンサブルなシンセチューン「シトラスを奪って」や、美しいバラード「あなたと」は、こうしてアルバムの中に入ることで、また新たな輝きを放っているようにも響きますし、作品のレンジを広げる曲になりました。改めていかがですか?
Ran:そう思います。「シトラスを奪って」も「すごく好き」と言ってくださるファンの方も多くて。最初にリリース(2023年10月発表)したときは、外角に踏み出す第一歩みたいな曲だったので、大丈夫かな?と思っていたんです。だけど、リリックビデオを制作したり、昨年のワンマンで初めてバンドセットで披露したことで、すごく新しい見せ方ができたし、私自身、改めていい曲だなと思ったところもあって。
──なるほど。
Ran:「あなたと」も自分では出せないメロディですし、そこにロマンティックな感じがあるんですね。このメロディがあったから、私はこの歌詞を書けたんだろうなと思います。そういう素敵な楽曲を収録できて嬉しいです。
──外部作曲者が手掛けたメロディラインは、それを自分に馴染ませていく難しさがあるものですか?
Ran:めちゃくちゃあります。普段は私、歌詞とメロディを一緒に書くので、たとえば“この言葉を入れたい”と思ったとしても、他の方が作ったメロディだと“どこにも入らないな”ということが起こるんです。という意味で、「シトラスを奪って」と「あなたと」も、背後には入れたいけど脱落した言葉たちがいっぱいあって(笑)、そういうところは難しかったですね。でもやっぱりメロディが完成していると先のことが見えるという利点があって。その分、書きやすかったと思います。なので、慣らす作業はそこまで大変ではなかった気もしますけど、「シトラスを奪って」に関しては歌ったことがないタイプの曲だったので、すごく大変だったかも(笑)。
──“こういうサウンドも面白いな”とか“こんな新しいことができそうだ”とか、可能性が広がった1曲にもなっていますね。
Ran:それこそ今、「トラックっぽい感じに、メロディと歌詞を乗せて作ってみたい」という話をしているんです。「シトラスを奪って」で吸収したものを次曲に生かしたいですし、この曲自体もライブでより良いものになってくれればいいなと思います。







