| 設立からそろそろ5周年を迎える日本初のメジャー・ヒップホップ・レーベル、フューチャー・ショックについて、僕がすぐ思い浮かべる大好きなエピソードは、おそらく日本で唯一と思われる“情報相(Primeminister Of Information)”がいる、ということだ。
……と、書いても何のことか分からない人に説明しておくと、ポリティカルなメッセージで一世を風靡したPublic Enemy、そこに在籍していたProfessor Grifが自らを“情報相”と名乗っていたことがあり、(で、僕が好きなのはここからなのだが…)Public Enemyが'98年末に来日した際、フューチャー・ショックで広報その他を担当する豊島一衛氏が、わざわざGrifに会って“情報相”の使用許可を正式に取りつけたのである。ゆえに、氏は日本で唯一、公認(?)の“情報相”を名乗ることができるようになった…という次第。
僕は何も、こうした身軽さ・自由さがこのレーベルの特色だ、と言いたいわけではない。しかし、Zeebraという日本のヒップホップ・シーンきってのトップ・スターを擁するこの偉大な先達が、こうしたある種の稚気を有している事実はとても心強く見える。以前、僕は(ほんの数日間ほどだが)Zeebraに密着取材したことがあるが、その時に見られた彼らスタッフ達のチームワークには幾たびも舌を巻いたものだ。
このレーベルが最初に発表した作品は、'97年夏のZeebraのシングル「真っ昼間」だと記憶するが、それ以前にも母体となるポリスター(及びアナログ専門のストリート・フレイヴァ)からは、問答無用のクラシック曲「証言」を収録したLamp EyeのデビューEPや、ZeebraやUziらのユニット、T.O.P.RankazとIndopepsykicksのカップリングCDである『Dubble Impact EP』などをリリースしている。
以降、Zeebraの2枚のアルバム(特に1st『The Rhyme Animal』)が及ぼすシーンへの影響力、あるいは重鎮Soul Screamが作り上げたコンセプト・アルバム『Positeve Gravity~案とヒント~』の日本屈指の完成度、これらをリリースしたという事実だけ見ても、このレーベルの重要性は推し量られようものだ。が、そういった制作以外の面でも、例えば日米アーティストの合作シリーズ『Synchronicity』を発表したり、横浜のOzrosaurusや大阪のWord Swingazら東京以外のアーティストをフック・アップしたり、最近では韓国のシーンと積極的に交流を図るなど、評価すべきポイントは、そのレーベルが目指すヴィジョン全体にまで及ぶだろう。
そう、重要なのは、このレーベルが何を理想としているか、そしてそれをどこまで成し遂げているか、ということだ。ここ5年、日本のヒップホップ・シーンは商業的にも内容的にも、爆発的な速度で肥大し続けている。日本初のメジャー・レーベルというその“高所”では、良しにつけ悪しきにつけ、我々には想像もつかないほどの突風が吹いているに違いない。しかし僕が現場、作品やインタヴューで見聞きした限り、例えばZeebraのクリエイティヴ・コントロールが失われたことは一度もないように思えるし、アーティストとレーベルが常に一体となって進む方針は相変わらず徹底されているように感じる。
そしてそれらを考えた時、冒頭の、自分の役職を憧れのヒップホップ・グループになぞらえてみたりする、その稚気が、また違った重みを持って僕の胸に響いてくるのだ。それはZeebraやストリート・フレイヴァ代表のBlooklyn Yas氏らが目標とする、アメリカのヒップホップ・ビジネスの理想的な在り方、そのひとつの象徴かもしれないが、それをこの日本で実践し、実現している様は、端から何も行動せず文句だけを言う輩の数倍もの説得力を持っている。
同レーベルの“裏ベスト”と謳われる『Shock To The Future 97-01』は、このレーベルがどういう試みをし、何を理想としているか、その一端が記録されている。更なる飛躍に向け、新たな局面を迎えるこのレーベルについて、今一度向き合っておくのも悪くないはずだ。何より、この盤に優れた曲が沢山入っている。そしてそれこそが、彼らの最大な功績であろう。 |
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