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'89年という年に、ロック・ファンの愛唱歌の1つとなった“Epic”をラジオで耳にした人々や、アルバム『The Real Thing』を手にした人々は、Faith No Moreが新人バンドだと思ったらしい。実際には、彼らが活動をスタートしたのは''82年、それより7年も前の話だった。さらに、Faith No Moreのアルバムはこの1枚だけだと考えている人や、彼らが解散したのではないかと思っている人も多いらしい。しかし、バンドは活動を続け、作品も作り続けている。ただ、聞く人の数が減ってしまっただけなのだ。

15年を越えるFaith No Moreの歴史の中で、彼らは歴史的成功も自己破壊も、共に運命づけられた存在だった。ロサンゼルスのパンク・バンドに在籍していたキーボードのRoddy BottumとベースのBill Gouldは、やがてサンフランシスコへと活動の場を移す。その地で、ドラムのMike "Puffy" Bordinが出していた求人広告に2人が反応したことから、''82年にFaith No Moreがスタート。さらに、スラッシュギタリストJim

Martinが加わった彼らは、集まった観客にヴォーカルを担当させる、まるでカラオケのようなスタイルのバンドとしてあちこちのクラブでプレイするようになる。

やがて、何度も彼らのライヴでに現れては、マイクを離そうとしなかったファンのChuck Mosleyが、ヴォーカリストに抜擢され、彼らは''85年に『We Care A Lot』をリリース。この作品が、やがてSlash Recordsの目にとまり、Slashとレコーディング契約を交わす。

''87年には『Introduce Yourself』をリリース。まだ、未開発状態のアート・ロックといった雰囲気のこのアルバムは、大した反応も得られずに終わったが、“We Are The World”のパロディの“We Care A Lot”はそれなりの注目を集めることとなった。

このアルバムの最大の問題点は、Chuck Mosleyの切れの悪いラップ調の“ヴォーカル”が、どうにも間延びした雰囲気になっていることにあった。有り難いことに、''90年の『The Real Thing』のころには、Mosleyに代わって、ほとんどメタル寄りといえそうな幅の広いヴォーカル・スタイルを持つMike Pattonが加入していた。彼らの作品の中で最も人気の高い『The Real Thing』は、200万枚以上の売り上げを記録。このアルバムには切れの良い、売れ筋のファンク・メタル“Epic”とBlack Sabbathのカヴァー曲“War Pigs”が収録されていた。

続く『Angel Dust』からヒットは生まれなかったが、アコーディオンによるDead Kennedys''の“Let''s Lynch The Landlord”が収録されていた。その後、『King For A Day/Fool For A Lifetime』(''95年)と『Album Of The Year』(''97年)をリリース。''93年にはラヴソングを集めたEPも発表したが、『The Real Thing』を超えるほどの評判を得ることは二度と出来なかった。''94年に病気のためという理由でMartinがバンドを脱退すると、ギタリストが何人も入れ代わることとなった。

''90年代になってからは、カリフォルニアで地震が起こるのと同じくらい頻繁に、Faith No More解散の噂が流れた。もしかすると、地震同様、解散の話も噂ですませるべきではなかったのかもしれない。この間もずっと、彼らの人気や面白味は下降線をたどっていたのだから。結局、“Epic”1曲では、本物にはなれなかったのだ。その後、さえないタイトルのアルバム『Album Of The Year』のリリースに合わせて、彼らは数回コンサートを行なっている。また、おなじみのサイド・プロジェクトも存在。

中でももっとも注目すべきは、Mike PattonがFaith No More加入以前から所属していたバンドMr.Bungleの2枚のアルバム(''91年『Mr.Bungle』、''95年『Disco Volante』)と、BottumのバンドImperial Teenの不思議な1枚(''96年『Seasick』)である。

その後、Faith No Moreは解散。Mike BordinはOzzy Osbourneのドラマーとして活躍した他、Kornのドラマーが負傷した際に、助っ人としてツアーに参加している。Mike PattonはMr.Bungleとしての活動を中心に様々なプロジェクトを行っている。Roddy BottumのImperial Teenは2枚目のアルバムをリリース。ちなみに、Bill Gouldは謎の覆面デスメタルバンド、Brujeriaのメンバーという噂もある。