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──前作(『I』)から今作に至る過程について、教えてください。
ムーグ山本(Turn Table):前作は歌もの中心のアルバムを意識して作ったところがあって。で、そのときから「次のアルバムではこれと全く逆のことをしたい」と思ってて。そうしているうちに、昨年の夏、僕らフジロックとかライジング・サンとか、ああいう大きなサマー・フェスに出演して。で、あそこの広大なステージに立ったときにすごく心地よい解放感を感じたんですね。それで、あのときの気持ちを大事にしたくなって、“ライブ感のあるものを作ろう”ということになったんです。
──制作はいつくらいから?
ムーグ:昨年の秋からですね。本当は夏が終わってすぐにでも、という気持ちもあったんだけど、メンバーがなかなか揃わなくて(笑)。スタジオにはコンセプトを特に決めずに入りました」。
──今回は即興による一発録りなんですか?
シュガー吉永(G&Vo):基本はそうですね。曲も長いことだし。録り直しは多くても3回。こういう即興性の強いものだと、はじめからルールを決め込んで臨むと、リハーサルでうまくいったテイクを絶対に超えられなくなるんですよね。だから、本番テイクの前には、大雑把にモチーフを決めるだけにしておくんです」。
──それにしても1曲が長くなっちゃいましたね。今回は5曲しか録音しなかったんですか。
シュガー:5曲だけです。最初から5曲にしようと思ったわけではないんですが、5曲録音した時点でちょうど50分ぐらいですから、「ちょうどいいから、この辺にしておこうか」という話になって。
──曲数を増やして2枚組にしようとは思わなかったんですか?
シュガー:そうなると、コンセプトがまた変わってしまうじゃないですか。プログレとは思われたくないし(笑) まあ、プログレ通に言わせると、リズムが四つ打ちなんでプログレとは違うらしいんですが(笑)
──今作をレコーディングするにあたって、「こういう音にしたい」という、サウンドの方向性はあったんですか?
大野由美子(B&Vo):それがほとんどなかったんですよ。レコーディング中、音楽も聴かなかったし、音楽の話もしなかった。それより、みんなの日常会話がそのまま音楽になって行ったんじゃないかな。
──では、今作はいわば、3人のおしゃべりを楽器に託したような感じなんですか?
シュガー:そうですね。「大野が犬を飼いはじめた」という話から(M-3の)『Chihuahua Punk(チワワ・パンク)』が生まれたし、ドラムのアツシ君に双児が生まれたという話から(M-4の)『S.O.I.D』が生まれているし。
──そういう制作過程を送るアーティストも珍しいんじゃないですか?
大野:今回学んだのは「テーマを決め込んで行かなくてもレコーディングは可能だ」ということですね。実際、メンバーがサイド・プロジェクトをやったり、エンジニア(ZAK)がほかの仕事でなかなか参加できなかったりで時間的に制約があって。だから、こういう作品にもなったんじゃないかな。
──バッファロー・ドーターのサウンドは、その瞬間瞬間の状態が素直に音に反映されるタイプなのでしょうか?
シュガー:そうですね。98年の『ニュー・ロック』は世界をツアーした時のテンションがそのまま詰ったようなアルバムだったし、前作は海外でやたらと貼られた「キッチュな日本人バンド」というレッテルを払拭するために、あえて歌ものに挑戦してみたし。あまりその点には気づいてもらえなかったんですが(笑) で、今回は元来が歌ものじゃない私たちがフェスに出演し、時間的な制約の中でアルバムを作ったらこうなった、という作品なんでしょうね。
取材・文●沢田太陽
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