ペテカンの本田とIn the Soupのヴォーカル中尾は、九州・宮崎県で一緒に過ごした高校時代の同級生。学校内でお笑いコンビを組み、笑いを得ていたのが好評で、吉本興業主催のコンテストでグランプリを獲得してしまうという経歴までアリ。
その後、別々の目的で上京した2人は東京で再会。一緒に“何か”やろう、というのがキッカケだった。今では、この2人に限らず、ペテカンとIn the Soupのメンバーそれぞれがかなりの仲良しとか。
公演、その前
演劇集団「ペテカン」と、ロックバンド「In the Soup」。 この2つのグループがひとつになって、4月に“公演”をすると聞いたのは、確か昨2001年の年末だった。九州は宮崎の高校時代に漫才コンビを組んでいたという、In the Soupの中尾諭介(Vo&G)とペテカンの本田誠人。この2人が東京で再び出会って、何かをするのは不思議じゃないな、とは思った。
けれど「一体どんなことをするんだろう」と思い、漠然と「演劇の舞台のバック音楽をIn the Soupが生でプレイしちゃうのかな」くらいにしか想像できなかった。In the Soupのパワーがバックで収まるわけがないと分かっていたはずなのに。
その後、In the Soupのメジャーデビュー2周年をテーマに中尾諭介へインタヴューしたのが、正月ムードも抜けきらない1月頭の頃。インタヴューの最後で「ペテカンとの公演はどんなものになるのですか?」と訊いたところ、「ライヴでも、演劇でもないものになるはず」と答えた。
後日、In the Soupの所属マネージメントに公演の取材をお願いし、ビデオ撮影の許可ももらえたので「よかったら、概要だけでも教えてほしいんだけど……」と尋ねたところ、「それがボクもうまく説明できなくて……」とのお答え。
客電が落ちると、ステージ中央に置かれたアコースティック・ギターにスポットライトが当たる。そこへ中尾が登場。「かわいい女」を弾き語りする。曲の中盤にさしかかると、In the Soupの他の3人も登場。舞台後方、一段高くなったステージに上がると、大音量のバンドサウンドへと切り替わった。そんな中、スーツ姿の男(濱田龍司)が現われ、ステージ中央に腰掛けると、深い眠りに落ちていく……。
そう、この内容は、ひとりの男の夢の数々(過去なのか、願望なのか、妄想なのか……?)を“演劇”と“歌”で表現したもの。簡単に言ってしまえば、そうなのだけど、ペテカンとIn the Soupが起こした化学反応は、「夢」を表現しつつも、「現実」を見据えていた。厳しい世の中で、どう生きていくか……。過去を表現し、感傷に浸りながらも、今を生きなければというスパイスが常に効いたパフォーマンスだったのだ。
そんな、いつもとは違った空間の中で、見慣れたIn the Soupのライヴはどうだろう……と思ったが、彼らも思いっきり、飛び越えてきてくれた。In the Soupというバンドは常にライヴにおいて、えも言われぬ緊張感を漂わせていたのだが、ペテカンの演劇に触発されたのか、緊張感が気迫となって観客に迫ってきた。その気迫でもって、In the Soupひとりが突っ走っているのではなく、観客を含むグローヴ座全体を包んで持ち上げている、そんな鬼気迫る感覚。特に「グリーン グリーン」がすばらしく、ペテカン・ファンであろう観客も完全クギ付け。曲が終わったときには、劇中にもかかわらず、拍手が巻き起こっていた。
公演終了後、ロビーには興奮を引きずって声高らかに雑談するペテカンのメンバーと、同じ興奮を引きずりながら、逆にまだ眉間にシワをよせているかのようなIn the Soupのメンバーたち。私が観たこの日は公演初日で、彼らはまだ明日の公演(2回廻し!)も控えている。けれど、初日を無事、成功で終えたと実感しているメンバーたちの姿がみられた、公演、その後だった。