米オルタナ・シーン最後の砦、堂々の復活!
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J Mascisが帰ってきた! ささくれだった爆音ギターとハードコア魂を内に秘めた性急なビート、そして異様にキャッチーな歌メロで’90年代のオルタナティヴ・シーンを牽引したDinosaur Jr.の中心人物である。 個人的な話で恐縮だが、Dinosaur Jr.が’88年にインディレーベルから出した『Bug』を聴いたとき、寂寥感と荒々しい衝動がとめどなく溢れ出すサウンドに、当初はとんでもない「負のエネルギー」を抱えた奴らが出てきた、と思ったものだ。ところが、マスコミで紹介された彼らの実像は、アメリカのごくごく平均的な街に住み、スキーもやればゴルフもするただの学生(中退?)だった。つまり、これといった不満もないはずの連中が退屈をやり過ごすためにバンドを組んだら、こんなにも凄まじい音が出てきちゃったのだ。これは当時同じように大学で無為な日々を過ごしていた私にとって、かなり衝撃的だった。はっきり言って、とんでもなくリアルだったのである。 その後、グランジ/オルタナ・ブームの流れに乗ってメジャーへ移籍した彼らは4枚のアルバムを発表。インディー時代の荒々しさやざらついた音の感触は整理されたものの、アメリカの荒野にぽっかり空いた穴に向かって、淡々と泣きのギターを掻きむしるJ Mascisの風情はそのまま変わらず。それどころか、年を経るごとに枯れた味わいやポップな面さえ見せるようになったアルバムは、多くのギター・バンド・ファンにとって常にマスターピースであり続けた。ところが、’97年にバンドは突如解散。もともとやる気があるのかないのか分からない人だけに、ひょっとしてこのままシーンから姿を消してしまうのでは、と思ったファンは少なくなかったはずだ。 ところがどっこい、Jは2000年に入ってJ Mascis+The Fogとして復活を果たした。しかも素晴らしい新作『More Light』を引っ下げてである。訊きたいことは山とあるが、こと音楽や自分のことになると、極端に口が重いことで有名なJ。そこで、20代をDinosaur Jr.とともに無気力に過ごした私が、積年のあれやこれやをとりとめもなくぶつけてみたのが、このインタヴューである。 |
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ロンチ・ジャパン:’97年のDinosaur Jr.解散から3年経ちますが、その間はどのような活動をしていましたか? J Mascis:「うーん、曲を書いてた……。’98の11月くらいからレコーディングをして、それが’99年の6月頃に終わったんだけど、それからまた曲を書いて……」 ロンチ・ジャパン:自宅の地下室にスタジオを作ったそうですけど、それもこの3年の間に? J Mascis:「いや、スタジオはもっと前に出来てたんだ。Dinosaur Jr.の最後のアルバム(『Hand It Over』 )はここで録った。スタジオっていっても、ただ地下室に機材やら道具やらを詰め込んだだけなんだけど」 ロンチ・ジャパン:今年の5月から6月にかけて、何カ所かでライヴを行なってますよね。特にニューヨークのライヴにはDinosaur Jr.のオリジナルドラマー、Murphと元MinutemenのMike Wattが参加したようですが、どんな内容だったんですか? J Mascis:「あー、それは僕のライヴってよりも、Mike Wattのライヴに僕とMurphが参加したってことなんだ。その時はStoogesのカヴァーを演った。バンドとしてショウをやったのは、それとヴァーモントかどこかでやった1回だけかな。練習がそのまま本番っていう」 (ここでなぜか録音用のテレコがとまったため、代わりのMDレコーダーをあわててセットアップ) J Mascis:「日本にはMDのソフトってあるの?」 ロンチ・ジャパン:いや、あまりないです。ほとんど録音用の生ディスクです。 J Mascis:「そう。僕としてはMDのほうがいいな。CDはなんかの拍子に引っかいたり、傷ついちゃったりするから。MDはそんなことなさそうだしね。……CDって皮肉だよな……、僕なんかが聴いてると1週間ともたないんだ」 ロンチ・ジャパン:そうとう扱いがラフなんですね。 J Mascis:「まぁCDなんて、最初からそんなもんだと思ってるから。あんまり大事にしないし」 ロンチ・ジャパン:じゃあ、アナログ盤はどうです? J Mascis:「うん、やっぱりアナログ盤のほうが好きだ。もしアナログで出ていたら、そっちを買うようにしている。アメリカではまだ多いんだ。とくにインディーは……」 ロンチ・ジャパン:音がいいの? J Mascis:「そう、僕は好き」 ロンチ・ジャパン:ところで、アルバムジャケットに載ってるバンド名やタイトルは、昔からずっと同じような手書きですね。あと、ライナーもそうですけど、あなた自身が書いてるのですか? J Mascis:「自分の字だよ。(ライナーを指しながら)左右の幅に合わせて、文字の大きさを考えてさ(笑)」 ロンチ・ジャパン:そういえば、インディから出た3枚のアルバムカヴァーを手がけているMaura Jasperってどんな人なんですか? J Mascis:(こちらが名前を“モーラ”か“マーラ”と発音するのを聞いて)「訛りによって変わるんだけど(笑)。本人は自分のこと“マーラ”って言ってるなぁ。でも“モーラ”って呼ぶ人もいるし。彼女の住んでるところは訛りがきついから、彼女のほうが間違ってるのかもしれない(笑)」 ロンチ・ジャパン:昔からの知り合いなんですか? J Mascis:「そう。彼女は“アーティースト”(“ティ”の部分にアクセントをつけて訛る)だよ。自称だけど。昔からの知り合いでさ。でも、最近、普通に絵を描いたりするのはつまんないって言って、そこから超越したことを始めるようになっちゃった。彼女の最新作は「カラオケを歌う人々」っていうフィルムでさ、ははッ。……彼女は絵を描かなくなってるし、僕の知り合いのアーチストってだいたいそうなんだよね。みんな、絵を描いたりするところから、どっか飛んでいっちゃうんだよ(笑)」 ロンチ・ジャパン:確か『Hand It Over』のジャケットも彼女でしたよね? J Mascis:「いや、あれは俺」 ロンチ・ジャパン:あ、そうなんですか。それはすいませんでした。 J Mascis:「7歳くらいの時から俺の図工って成長してないけど(笑)」 ロンチ・ジャパン:さて、あなたのキャラクターについて、よく英米ではスラッカー(Slacker;怠け者、いいかげんな奴)、日本でも「無気力」なんて表現されてますが、自分ではどう思ってますか? J Mascis:「ハッ。確かに最初の頃はね……。でも、今僕は何か作ったらすぐまた次のレコーディングって具合に、ずっと動いているわけだけど。まぁ、当初の僕の振る舞いを見て、とくにイギリスあたりでそういうことを言われるようになってさ、で、誰かがどこかで書き始めたことがどんどん大きくなっていった、ということだろうね。確かにムカつくことはあるけど。だって、こういう人間は1日中テレビを観てるんだろう、とか言われるけど、実際はテレビなんか全然観ないしさ。そういう実状と違うところに関しては、たまに腹の立つこともあったけど」 ロンチ・ジャパン:他のバンドはプロデュースするし、映画には音楽だけでなく出演もしたりして、充分に活動的ですよね(笑)。 J Mascis:(ふと思い出したように)「あのさ、この間イギリスに行ったときにKevin(Shields)と話したんだけど、なんで、こうもスラッカー扱いされるのかと……。で、しゃべりがのろいからなんじゃないの、っていうのが彼の分析なんだよね」 ロンチ・ジャパン:(当たってるだけに返す言葉がない……)Kevinってどんな人なんでしょう? あなたと似たところがあるんでしょうか。あまりマスコミに登場しないし、謎の人物なんですけど。 J Mascis:「すごくおしゃべりだ(笑)。とりあえずクールな奴っていうか、もちろん個人的に好きだから付き合ってるわけだけど。自分と似た性格なのか、反対なのかっていうのは分からないな」 ロンチ・ジャパン:では、音楽の話をしましょう。Dinosaur Jr.であなたが書いてきた曲には、いつも寂しげなトーンがつきまとってますね。何かが無くなったり、誰かが去ってしまって寂しいとか。そういう詩でありメロディは、やはり自分の経験が基になっているんですか? J Mascis:「うーん……(しばらく無言)。考えてみれば父親の亡くなったのが『Where You Been』が出る前だったし、母親が亡くなったのは『Youre Living All Over ME』が出る直前だったし……、そういうのは、うん、大きかったかもしれない」 ロンチ・ジャパン:分かりました。それで今回、新作の『More Light』が完成したわけですが、聴いていると、これがまさに新たなスタートというか、活動の仕切り直しというか。 J Mascis:「そのとおりだね。一応、気持ちをアップするために自分でも努力したんだよ。要するにベターな気持ちになりたいってことで、メディテーションをやってみたり、いろいろ試してみてさ。まぁ、以前の心境が憂鬱っていう言葉で言えるかどうかは別としても、その頃よりもっといい気持ちで過ごしたいって、そう思うようになった」 ロンチ・ジャパン:2曲めの「Waistin」ですけど、これからの日々を無駄にしたくない、っていう歌詞ですよね。これこそ現在の心境なんでしょうか? J Mascis:「そう。やっぱり無駄に日々を過ごすのは嫌だなって思うから。今までも無駄にしてきたのだろうか…、そうじゃなきゃいいけど、って気持ちも含んでるんだ」 ロンチ・ジャパン:ギターは相変わらずヘヴィなディストーションサウンドですが、リフが軽やかになってたり、シンセっぽい音が入ってます。これなんかは、これまでと違ったことをしたいという考えがあったんですか? J Mascis:「あぁ、うーん。全然変わってないって人も多いけど(笑)。確かにギターシンセサイザーを使ったりとか、あと、曲の一部をピアノで書いたりした。その辺りは今まで演ったことがない点から、それによって曲の仕上がりというか、フィーリングの違うものが出来たかもしれないな」 ロンチ・ジャパン:他に、これまでと違った試みはあります? J Mascis:「あーん。あとは、最近いろんなエフェクターが出てきてるんで、そういうのを買って試してみたりとか、かな。ただ、そのへんのことは僕よりもKevinのほうが上手くてさ。エフェクターをいろいろ組み合わせたりするのはけっこう辛抱を要する仕事だけど、Kevinは僕以上に我慢強くて、頑張ってやってくれる。あと、僕はどうしてもベースをおろそかにしちゃうところがあるんだけど、今回はKevinがずいぶんベースに気を配って音作りをしたこともあって、Dinosaurのアルバムよりも音がいいんじゃないかな」 ロンチ・ジャパン:Kevinはこのアルバムで、具体的に何をしたんでしょう? J Mascis:「基本的には機材面だね。こんなペダルはどうだ? って感じで。じゃ、やってみてくれって言うと、適当に組み合わせて音を出してくれる。で、僕はそれを耳にしてああだこうだ言っていればいいという。あとは、細ごまとした曲のパーツなんかもいろいろと考えてくれたんで、それが最終的なサウンドの強化にすごくつながったんじゃないかな。基本的にKevinは、曲にあと何が必要かってことをすごく考えて動いてくれる人なんだ」 ロンチ・ジャパン:Dinorsaur Jr.と同様、My Bloody Valentine(Kevinのバンド)も日本ではとても人気が高くて、ファンに新作を待たれています。あなたに触発されて、自分の作品を作ったりしないのでしょうか? J Mascis:「作る話はいつもしてるよ(笑)。とりあえず作るかどうかは様子を見ないとね。いつかはやるんじゃないの?」 ロンチ・ジャパン:ところで、日本盤のボーナス・トラックでJohn Denverの「Leaving On a Jet Plane」を採り上げてますね。これまでにも、いろんな曲をカヴァーしてますけど、曲選びの基準はあるんですか? J Mascis:「とくに基準はないけど。どっちかっていうと、あるものをメチャメチャにしてやりたい、っていう動機が多いかな。オリジナルが気に入っていれば、自分でプレイする必要はないわけで。まあ、オリジナルよりも悪くならないようには心がけてるよ(笑)」 ロンチ・ジャパン:ロンチはWebサイトなんですけど、インターネットは使います? J Mascis:「んー、eBay(編注:オークションサイト)」 ロンチ・ジャパン:(笑)エフェクターとか買っちゃうわけですか? J Mascis:「何でも(笑)。レコードとか、スタジオ機材とかね。あとはメールだね」 ロンチ・ジャパン:コンピュータによって、音楽活動がやりやすくなった面はありますか? J Mascis:「創作面では特にないな。レコーディングで使ってるわけじゃないからね」 ロンチ・ジャパン:Napsterで音源ファイルが自由に交換されていることについてはどう思いますか? J Mascis:「それほどネガティヴに捉えてないよ。いろんな人が手軽に聴けて、たくさんの人に聴いてもらえるって意味では、すごく前向きなことだと思うから。必ずしも悪いことじゃないんじゃないかな」 ロンチ・ジャパン:分かりました。さて、この後アメリカでツアーが始まりますが、どんな内容になるんでしょう? J Mascis:「日本から戻ったらすぐ始まるね。さっき言ったように、この間、1回だけ練習を兼ねて演ったところだけど、とりあえず新作から9曲くらいとDinosaur Jr.の曲をいくつか入れる。ほかに何をやるかは決めてないけど、Mike(Watt)が歌うってのもありかもしれない」 ロンチ・ジャパン:日本でのライヴは? J Mascis:「うん、たぶんあると思うよ。まだ調整中だけどね」 ロンチ・ジャパン:最後に現在の目標を言ってもらえますか? J Mascis:「はぁー、目標かぁ……。今はツアーだね。できるだけたくさんの人に聴いてもらいたい。で、次にまたアルバムを作ったら、きっと同じことを繰り返すんだろう。それを続けていくこと、それが目標だな」 ロンチ・ジャパン:いい作品を作るために、自分に課していることってありますか? J Mascis:「これは自分で決めてることなんだけど、“自分が好きなものを作る”ってことだね。ほかの人がどう思うかってのはいいから、自分の好きなものを作る。それを気に入ってくれたら、それで万歳っていうさ。その姿勢を忘れないのが、たぶん長続きの秘訣なんだろうな……。ていうか、作ってる側はそうするしかないんだよね、ほんとのところ」 (取材・文●佐伯幸雄) |



好物だという稲荷寿司を食すJ
ガリがなくて寿司が食えるか! 本体をしっかと包むJ
アッ、ソファで手拭いた……



