【ライブレポート】異なる個性がひとつの“温かさ”へ、<滴音録-Tekinroku->が描いた音楽の輪

9月19日(土)、音楽事務所クラウドナインによる初の音楽フェス<Cloud Nine Fes 2026『滴音録-Tekinroku-』>が開催された。ひとつの音楽事務所に所属するアーティストが一堂に会するフェスでありながら、出演者たちの音楽性や活動スタイルは実にさまざまだ。それでも、この日ステージに立った多くのアーティストの言葉からは、不思議なほど共通する空気を感じることができた。
ゆとりくんは「楽屋でみんなでゲームをした」と語り、栗林みな実は事務所について「本当に温かい」と話す。shallmのliaは、この日所属アーティストたちに会えることを「同窓会みたいな感じ」と表現した。それぞれ活動の形は違っても、所属アーティスト同士の距離の近さが伝わってくる言葉だった。また、夜々や大宮陽和からは、音楽そのものへの感謝も語られていた。
ジャンルもキャリアも活動の形も異なる。それでも、同じ場所に集まった彼らの間には、どこか友人や仲間のような距離の近さがある。そしてその根底には、音楽を続けられること、誰かに届けられること、同じ場所で仲間と音を鳴らせることへの感謝が流れているように感じられた。
そうした人と人とのつながりや、音楽に対する真っ直ぐな思いまでを含めて、栗林みな実が語った“温かさ”という言葉こそ、この日の「Cloud Nine Fes」を表すものだったのかもしれない。そして、その“温かさ”はステージの上だけに留まらず、客席にも自然と広がっていた。
通常、ホールで複数のアーティストが入れ替わりながら出演するフェスでは、目当てのアーティストの出番が終わればロビーへ出たり、次の出演者まで休憩を挟んだりする観客も少なくない。しかし、この日は、多くの観客が大きく入れ替わることなく、その場に残り続け、それぞれのアーティストが届ける音楽を楽しんでいた。初めて触れる音楽に身体を揺らし、ときにはステージからの呼びかけに応え、出演者とともに会場の空気を作っていく。終演後には「ずっと立っていたのは久しぶりかもしれない」と、笑いながら話す観客の声も聞こえてきた。
それだけ、一組一組が届ける音楽には人を惹きつける力があり、同時に、その個性の奥に流れる“温かさ”を観客も感じ取っていたのだろう。Cloud Nineが育んできた人と人との距離感であり、音楽を愛し、届けることへの感謝であり、この日同じ場所に集まった出演者と観客の間に生まれたものでもあった。
約4時間にわたり、ジャンルの異なる音楽が次々と鳴り響きながらも、会場に大きな隔たりが生まれることはなかった。むしろ、音楽が重なるたびに出演者と観客の距離は少しずつ近づき、最後には会場全体がひとつの温かな輪でつながっていく。
音楽性も活動の形も違うからこそ、それぞれの個性がより鮮やかに輝き、それでも最後にはひとつの“温かさ”へとつながっていく。そんな時間こそが、「Cloud Nine Fes 2026『滴音録-Tekinroku-』」というフェスを象徴していた。
会場となった恵比寿ガーデンホールには、開演時間の17時30分を迎える頃には、フェスの幕開けとは思えないほど多くの観客が集まっていた。それぞれの“推し”のグッズを身につける人、ペンライトを手にする人など、開演前から期待に満ちた空気が広がっていく。
その幕開けを飾ったのは、アーティスト同士によるコラボレーション。
まずはアヤセミサキの「坂道を下って」を、夜々とともに披露した。互いのピュアな歌声が爽やかなサウンドの上で交互に重なり合うと、客席からは自然と手拍子が起こり、サビでは多くの手が上がる。まるで自転車で坂道を駆け下りていくような爽快感に包まれた、フェスの始まりにふさわしいオープニングとなった。

続いては、ゆとりくんによる音楽プロジェクト“69(無垢)”の「pool(feat.さらさ)」を、大宮陽和、梟note、ゆとりくんの3人で届ける。先ほどの爽やかな空気から一転、会場は一気にムーディーで大人びた世界へ。低域から高域まで巧みに操る大宮陽和のボーカル、ゆとりくんのフロウが冴えるラップ、そして会場を貫くような梟noteの芯のある歌声。それぞれ異なる個性が混ざり合い、この日だけのグルーヴを生み出していく。観客も自然と身体を揺らし、手拍子を重ねながらその音に身を委ねていた。

爽やかなポップナンバーから、深みのあるグルーヴィーな一曲へ。オープニングを飾った2つのコラボレーションだけでも、この先「Cloud Nine Fes」でさまざまなジャンルの音楽が交差していくことを予感させる幕開けとなった。
ここから各アーティストがそれぞれのステージを展開していく。

ソロのトップバッターとして登場したのは梟note。姿を現すなり会場から大きな歓声を浴びると、1曲目「オボツカナシ」からステージを左右に行き来しながら、観客一人ひとりを見渡すように力強く歌い上げていく。
続く「正偽」「patience」「彩られた理想へ」では、ミステリアスな雰囲気をまとったナンバーから爽やかな楽曲まで、異なる表情を次々と披露。その歌声とステージングに呼応するように、客席からは自然と手拍子やハンズアップが広がっていった。MCでも観客との距離を縮めながら会場をさらに温め、フェス序盤から高い没入感を作り上げていく。
ラストの「女王」では、「皆さん、拳を突き上げてくれますか?」と呼びかけると、客席いっぱいに拳が上がる。梟noteも観客に応えるようにステージを大きく使い、全身で躍動しながらパフォーマンスを展開。
トップバッターとして会場をひとつにまとめ、「Cloud Nine Fes」の熱を一気に立ち上げるステージとなった。

イントロとともに登場したアヤセミサキは、疾走感あふれる「ぱっぱーらたった☆」からスタート。この日は、後のMCでも語っていたように、自身初となるバンドセットでのステージとなった。
観客へ歌声を届けながら、ときおりバンドメンバーへ視線を向ける姿からは、バンドとともに音を鳴らすことへの喜びがそのまま伝わってくる。ステージ上では何度も笑顔を弾けさせ、その楽しさに引き寄せられるように、客席からも自然と手拍子が起こっていった。
「夜」「夕暮れ、茜空に」「それは光になって」と、アップテンポからミドルテンポまで、それぞれ異なる表情を持つ楽曲を披露。明るく元気なナンバーからクールな一面まで見せながら、ストレートな言葉を乗せたメロディと、ピュアな感情がそのまま届くような真っ直ぐな歌声で観客を惹きつけていく。初のバンドセットを心から楽しむ姿も含め、会場を爽やかな空気で包み込むステージとなった。

ギターのイントロが鳴り響くと、客席から大きな歓声が上がる。大宮陽和は、TVアニメのエンディングテーマ「キミ攻略ゲーム」からステージをスタートし、計4曲を披露した。
重厚かつ疾走感のあるバンドサウンドの中、ステージを自由に動きながらダイナミックに歌声を響かせていく。サビでは観客が一斉にジャンプし、会場は瞬く間にロックな熱気へ。大宮自身も身体全体でリズムを刻みながら、その勢いをさらに加速させていった。
「東京Noisy」「404」では観客へ力強く煽り、それに応えるように客席からも声が返ってくる。低域から高域まで行き来する歌声と、エネルギッシュなステージングで会場の熱を押し上げていった。
そしてラストに披露したのは、「誰かの背中を押すのではなく、寄り添う思いで作った楽曲」と語った「泡沫」。それまでの熱量を保ちながらも、楽曲に込めた思いを情感豊かに歌い上げていく。先ほどまで身体を揺らしていた観客が、今度はじっとステージを見つめながらその歌声に耳を傾ける姿が印象的だった。

夜の街を思わせるようなサウンドが会場に広がる中、ステージに姿を現したのは夜々。「0:00」からスタートし、「Lonely Night」へと続く流れでは、R&BやJazz、Funk、City Popを思わせるグルーヴィーなサウンドに、彼女の美しい歌声が溶け込んでいく。
右手を使ったしなやかな手振りや所作も音楽と美しく呼応し、まるで夜の空気そのものに吸い込まれていくようなステージを作り上げていった。観客も自然と身体を揺らし、一部ではオリジナルグッズのペンライトを振りながら、その世界観に身を委ねる姿が見られた。
「Nonsense」では観客へクラップを求め、その手拍子までもが楽曲の一部となって会場全体を包み込む。「Let go」ではラップも巧みにフロウし、ラストの「Ray」では一転して4ビートのポップなサウンドへ。最後まで美しい所作と歌声で魅せ、静かに観客の心を惹きつけるステージとなった。

ミクスチャーサウンドとともに登場したのは、ゆとりくん。「fashion」からステージをスタートすると、イントロでは思わず「気持ちいい!」と声を上げ、ホールライブを心から楽しんでいる様子を見せた。その言葉に応えるように、観客も歓声と頭上でのクラップを返していく。
続く「VintageTee☆」では、一気にゆとりくん独自の世界観へと会場を引き込み、ステージの熱をさらに高めていった。MCでは、この日の楽屋で出演者たちと過ごした様子にも触れ、イベント全体に流れる親密な空気を客席とも共有していく。
「ハグレモノ」では会場後方まで多くの手が上がり、「スピってる」ではローからアッパーへと声のテンションを巧みに使い分けながら、楽曲ごとに異なる表情を見せる。そして「バブりたい」では、会場全体がゆとりくんに合わせて手を振り、ステージと客席をひとつに。自身の言葉と音楽で観客を巻き込む、彼らしいステージとなった。

「Sympathizer」のイントロが鳴った瞬間、ファンから大きな歓声が上がる。その熱に引き寄せられるように会場全体も拳を突き上げ、コールを重ねていった。疾走感あふれるギターサウンドの中、栗林みな実の伸びやかな高音と力強い歌声が響き渡り、序盤から圧倒的なボーカル力で会場を掌握。その勢いのまま「dream link」へとつなぎ、さらに熱を高めていく。
MCでは、クラウドナインに所属したことへの感謝を伝えるとともに、事務所に流れる温かな空気にも触れた。
自身が“ガンダム楽曲”として紹介した「君の中の英雄」では、ギターソロでプレイヤーを前へ迎え入れるような仕草を見せ、そのやり取りにも客席から声が上がる。ラストは「翼はPleasure Line」。会場全体が拳を掲げながら応える光景には、世代やジャンルを超えて愛されてきたアニソンシンガーとしての存在感が刻まれていた。フェスの熱量をさらに一段押し上げる、力強いステージだった。

バンドメンバーとともにボーカルのliaが登場し、ハイテンションなロックナンバー「G2G」から幕を開けた。激しいギターサウンドに力強いボーカルを重ねながら、liaは笑顔を見せてパフォーマンス。その勢いのまま「何なんですか?」へとつなぐと、間奏ではliaの合図に合わせて観客とのコール&レスポンスが繰り返され、会場全体がひとつになっていく。
MCでは「楽屋がめちゃくちゃ楽しい」「友達まみれ」と、この日のフェスを象徴するような言葉も飛び出した。続いて披露された「短夜の星」では、先ほどまでの熱量から一転、優しさと温もりを感じさせるバラードを丁寧に歌い上げる。続く「コンビニアイス」では、爽やかさを感じさせるサウンドで、会場の空気を鮮やかに塗り替えていった。
ラストは「まっさかさマジック!」。タイトルが告げられると、観客はハンズアップとクラップで応え、ステージと客席が楽しさでつながるハッピーな空間が広がっていく。アウトロでは再びコール&レスポンスが響き渡り、5曲のステージはあっという間に駆け抜けていった。
と思いきや、ここでliaがギターを置き、そのままステージに残る。そして呼び込まれたのは栗林みな実。ここから、この日ならではのコラボレーションが始まった。
披露されたのは、栗林みな実の「ZERO!!」。イントロが鳴り響くと、客席から大きな歓声が上がる。liaと栗林みな実が交互に歌い継ぎ、サビでは二人の声がユニゾンで重なっていく。それぞれ異なる個性を持つ歌声がひとつになる瞬間に、観客も声援と掲げた拳で応えていった。

互いに視線を交わし、呼吸を合わせながら楽しそうに歌う二人の姿からは、普段の関係性まで垣間見えるようだった。所属アーティスト同士だからこそ生まれる距離の近さと、このフェスでしか味わえない特別感。その両方が詰まった、温かくも力強いコラボレーションとなった。

BGMとともに登場したIVYJCTは、4人それぞれが異なるポーズを取りながらクラップを始め、クールかつ独創的なスタイルで一瞬にして会場の視線を集める。そのまま「Merry-Go-Round」へ突入すると、トラップやドリルを取り入れたダークなヒップホップテイストから、サビでは一気に華やかな展開へ。テンポも次々と変化する楽曲を的確に捉えながら、多彩なフォーメーションとダンススタイルを見せていった。
指先まで揃った緻密なパフォーマンスが際立ち、その高い完成度に客席からも感嘆の声が上がる。続く「Super Girl」「Hop!! Step!! Jump!!」では、楽曲ごとに異なる表情を見せながら、ときにはクールに、ときには元気でパワフルにダンスと歌声を届けていく。「Piece of Cake」では一転してハートフルなナンバーを明るく披露するなど、4曲を通して異なる色合いを次々と提示した。
ジャンルを横断しながらも、そのすべてをIVYJCTらしいスタイルへとまとめ上げ、独自の存在感で会場を惹きつけていった。

本公演のソロパート最後に登場したのはファントムシータ。BGMとともにメンバーが姿を現すと、会場からは大きな歓声が上がる。BGMが終わると「ホラークイーン」がスタート。レトロホラーをテーマにした独自の世界観の中、激しく力強いダンスを披露。艶やかさ、狂気、キュートさといった異なる感情を、表情や身体の動き、多彩な声色を使い分けながら表現。そのすべてが楽曲とリンクし、観客を一気にファントムシータの世界へと引き込んでいった。
続く「おともだち」「キミと××××したいだけ」でも、低音からハイトーンまで幅広く使い分ける歌声と圧巻の表現力を披露。その一挙手一投足に惹きつけられながら、観客も手拍子やコール&レスポンスで応え、会場全体が独自の熱気に包まれていく。
ラストの最新曲「にんぎょひめのうた」では、楽曲のストーリーとともに移り変わる心情を、歌声とパフォーマンスで丁寧に描写。まるで演劇を観ているかのような表現力で、最後まで会場全体を釘付けにした。
そして本公演のラストには、IVYJCTとのコラボレーションが実現。披露されたのは、ファントムシータの「botばっか」だった。
合計8人がステージを広く使い、入り乱れるようにフォーメーションを変えながら、息の揃ったダンスを展開していく。初めてのコラボとは思えないほど完成度は高く、メンバーが交互に歌い継ぐ場面や、声がユニゾンで重なる場面では、それぞれのグループの個性を残しながら、ひとつのパフォーマンスとして成立させていた。
表情も次々と変化し、8人それぞれの魅力が交差するたびに客席の熱も高まっていく。この日が初披露とは思えないほどの完成度に、観客も驚きと興奮を声や拍手で返していった。
楽曲が終わると、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。2組それぞれの個性が重なり合い、この日だけの特別なステージへと昇華された。華やかで力強いコラボレーションとともに、本フェスはフィナーレを迎えた。

ジャンルも世代も活動のスタイルも異なるアーティストたちが集まり、それぞれの音楽を届けながら、最後にはひとつの空気を共有していた「Cloud Nine Fes 2026『滴音録-Tekinroku-』」。約4時間にわたるステージを通して感じられたのは、単に所属アーティストが集まったというだけではない、クラウドナインだからこそ生まれる”温かさ”だった。
それぞれが自分の世界観を存分に表現しながらも、コラボレーションでは自然に互いの個性を受け入れ、ひとつの新しい表現へと変えていく。そして観客もまた、目当てのアーティストだけに留まることなく、さまざまな音楽に触れながらその輪の中へと加わっていった。
音楽性が違うからこそ生まれる発見があり、違う個性が集まるからこそ生まれる一体感がある。そのすべてを包み込んでいたのが、このフェスに流れていた“温かさ”だったのではないだろうか。
出演者と観客、それぞれの音楽と想いが交わり、ひとつの大きな輪となった一日。「Cloud Nine Fes 2026『滴音録-Tekinroku-』」は、クラウドナインという場所だからこそ生まれる音楽の広がりと、人と人とのつながりを存分に感じさせる、温かなフェスとなった。
Text:山田規裕
カメラマン:柴本雄太、シェイクソフィアン
<Cloud Nine Fes 2026『滴音録-Tekinroku-』>
2026年9月19日(土)
@恵比寿ザ・ガーデンホール
1.坂道を下って / アヤセミサキ × 夜々
2.pool(feat.さらさ)/ 大宮陽和 × 梟note × ゆとりくん
梟note
3.オボツカナシ
4.正偽
5.Patience
6.彩られた理想へ
7.女王
アヤセミサキ
8.ぱっぱーらたった☆
9.夜
10.夕暮れ、茜空に
11.それは光になって
大宮陽和
12.キミ攻略ゲーム
13.東京Noisy
14.404
15.泡沫
夜々
16.0:00
17.Lonely Night
18.Nonsense
19.Let go
20.Ray
ゆとりくん
21.fashion
22.VintageTee☆
23.ハグレモノ
24.スピってる
25.バブりたい
栗林みな実
26.Sympathizer
27.dream link
28.君の中の英雄
29.翼はPleasure Line
shallm
30.G2G
31.何なんですか?
32.短夜の星
33.コンビニアイス
34.まっさかさマジック!
35.ZERO!! / shallm × 栗林みな実
IVYJCT
36.Merry-Go-Round
37.Super Girl
38.Hop!! Step!! Jump!!
39.Piece of Cake
ファントムシータ
40.ホラークイーン
41.おともだち
42.キミと××××したいだけ
43.にんぎょひめのうた
44.botばっか / ファントムシータ × IVYJCT