【ライブレポート】PassCode、10周年イヤーのキックオフ公演<Liberator>は未来へ向かうための走馬灯

3月4日にリリースされたシングル「Liberator」の名を冠したツアーだが、重要なのは、本ツアーがメジャーデビュー10周年イヤーのキックオフでもあるということだ。厳密にはこのツアー終了と同時に発表された<PassCode UNLIMITED X>(※9月からスタートするツアー)がアニバーサリーを飾る旅になるわけだが、2025年11月に行なった神奈川・YOKOHAMA BUNTAI公演<YOKOHAMA BUNTAI 2025 “DESTINEX”>以降初めてのツアーであることも含め、この<Liberator Release Tour 2026>は明確にPassCodeの歩みを振り返って、次なるフェーズへ進むための杭を打つべく開催されたものだろう。
名古屋1公演、東京、大阪はそれぞれ2公演ずつというコンパクトな日程で実施されたツアーだったものの、その中身は超濃厚かつ獰猛。最新曲はもちろんインディーズ時代の楽曲も散りばめつつほぼインターバルなしで突っ走るライブには、ファンと共に作り上げる空間への信頼が満ち満ちていた。終始ぐちゃぐちゃのピットを見た南は、その混沌具合を笑っていたが、この混沌こそ10年の歩みの賜物だろう。アイドルがラウドミュージックに乗って舞い踊るというミスマッチが個性になっていた頃とは違う。感情の暴発装置としてのサウンドと、そのサウンドにただ導かれて衝動を解放する観客と、そしてその人間カオスを受け止めながら自在に乗りこなしていく4人の姿がただ在るだけ。
実際、「Liberator」リリースに際したBARKSインタビューで南は「女の子が踊りながら重たい曲をやっていたら面白いでしょ?っていう部分が抜けて、純粋にPassCodeとして確立されてきた」「用意された個性ではなく、自分達の意志を表現する場所がPassCodeになった」という言葉を残している。メジャーデビュー10周年──つまり彼女らがラウドミュージックを自分達の音楽言語にする覚悟を強固にしてから今年10月で10年を迎え、PassCodeは演出されたキャラクターを踊るものではなく、そこにある音を牽引し続けるストイックな人間集団としてステージに立つようになった。

そしてリリースされたのが「Liberator」であり、本楽曲でかつてなくストレートなポストハードコアに振り切れたのも、「アイドルがダンサブルでハイな変化球ポストハードコアをやる」というユニークネスを押し出さずともPassCodeはPassCodeなのだと4人自身が思えたからだろう。そう考えると、この10周年イヤーは現在の確信に至るまでの道程を丸ごと振り返り、走馬灯の上を全力で走ることによってPassCodeの特異性を改めて浮き彫りにする1年になるはずだ。本ツアーはそのキックオフであり、だからこそ、この10年で「女の子が踊りながら重たい曲をやっていたら面白いでしょ?っていう部分が抜けて」いったことで生々しくソリッドな人間表現になってきたPassCodeをリスナーと共有することが重要な企図だったのではないかと思う。
代官山UNiTとOSAKA MUSEとElectricLadyLandというヴェニューが選ばれたのも、至近距離でリスナーと激突するようなライブによって信頼感を確かめ、その信頼を武器にして次なる侵攻を始めるためだろう。実際に3月17日の代官山UNiTでも、PassCodeの4人だけではなく今このライブに集っている全員でフェスシーズンに向かっていこうという旨のMCがなされていた。「フェスにはデカい声のお客さんが多いけど、みんな負けたらあかんで。ハッカーが一番声デカいって見せつけるんやで」というオカン的な口調でフロアに語りかける南の姿は面白かったが、その柔らかな語り口はまさに仲間に対するものだなと思った。

3月17日の代官山UNiT公演は、前述したように一気呵成に走り抜ける超ストイックなライブだった。グリッチと高速のビートが転がるイントロからメタリックなギターに移行し、さらに2ビートに傾れ込む「Every time, I Knew」がオープニングナンバー。シングル「Liberator」のカップリング曲ではあるものの、表題曲「Liberator」と通ずるのは、シンセよりもギターがモノを言うストロングスタイルな楽曲であることだ。PassCode節とも言える急激なトランジションはあるものの、ダンサブルなセクションで接着するのではなくヘヴィなブレイクダウンへと降っていく展開で見せていくところがPassCodeにとって新鮮だ。もちろんラウドでハードな楽曲はPassCodeがPassCodeたる所以のひとつだが、その中にあっても「Every time, I Knew」は脚色を削いだ無骨さが際立つ。そういった楽曲をオープニングに持ってくることもまた、現在のPassCodeのモードを表しているのだろう。アゲるよりも走る。踊りながらも落とす。寄り添うよりも引っ張り上げる。一貫してストイックでストロングスタイルな姿勢がステージの4人から伝わってくる。
続いて「DESTINEX」でシンガロングを巻き起こし、「GROUNDSWELL」ではメタリックなギターとシャウトの応酬を叩き込み、ピットは果たしてモッシュと呼んでいいのかもわからない狂騒的な押し競饅頭状態である。この「GROUNDSWELL」が収録されたアルバム『INSIGNIA』以降は有馬のデスボイスだけではなく南と高嶋もシャウトを掛け合うようになり、まさに「Liberator」の冒頭は、3つのシャウトが交錯することで声そのものがビート感をもって聴こえてくる。そもそも急激な展開を繰り返すPassCodeの楽曲達が奇天烈に聴こえないのは4人で歌い繋げるからであり、歌のリレー自体が楽曲を繋ぎ止めているとも言える(サウンドプロデュースを担う平地孝次も計算づくだろう)。そう考えると、3人のシャウトという新たな武器が導入されたこと・声のアイデアの増加によって、音楽的に混ぜられるものはさらに増えていくはずだ。

実際、「MIRAGE WALKER」のイントロでシャウトに掛け合う声のアイデアは、ハイパーポップ界隈の“歌”の在り方を感じさせるものであり、音楽的な幅はすでに“ラウド”といった括りを超えた闇鍋になっている。もっと言えば、日本独自の概念である“アイドル”と、ラウドロックの競走性をダンスミュージックに変換する音楽性を掛け合わせて始まった“変化球×変化球”なグループがPassCodeだと考えれば、そもそも音楽的な立ち位置はあるようでないのである。その特性を10年以上突き通したことで自分達だけの直球にして見せたのが今であり、ゆえに「GROUNDSWELL」や「Every time, I Knew」のようにアグレッション一発の楽曲も自由に表現できるようになったのだと思う。「VIRIVIRI」のようにトランシーなダンスチューンもあり、あるいはPassCodeの歩みを長らく支え続けるアンセム「Ray」もあり、立て続けにドロップされる楽曲はどれも音楽的に極端だが、しかし振り切れていること自体が一本の筋になっているのが面白い。
合間のMCでいきなり有馬えみりの誕生日を祝い始めることも、祝われた時にどう反応したらいいのかわからないという話からお互いの人間性を語り始めることも、楽曲とは裏腹の緩いMCに脱力したかと思ったら野太い声で「準備はいいか!」と絶叫する南の姿も、すべてが極端。しかしその全部が自然体だから凄い。上述した南のインタビュー中の言葉を借りれば「身軽にどこへでも行ける状態になれた。自然体でいられることが今の自信に繋がっています」ということだろう。軽やかにうるさくて、激しく楽しい。そんなライブが延々持続していった。

「Liberator」「A certain Motor-Heart is not working right!」を続け、「Taking you out」とゴリゴリの楽曲を続け、「Club Kids Never Die」で跳ね、さらにはインディーズ時代の楽曲「Kissの花束」を繰り出す。「Kissの花束」は今と音楽性が異なる楽曲だが、だからこそ、そこにデスボイスが挿さる瞬間にPassCodeの異様さが浮かび上がってくる。そして同時に感じたのは、4人の歌が楽曲の展開を“繋いでいる”のと同時に、4人のダンスが楽曲を“翻訳”しているということだ。たとえば「GROUNDSWELL」のように急激な展開の楽曲も、トランジションを招くようなダンスが聴く人の扉になっている。逆に「Kissの花束」はキュートな歌がバンドサウンドとのギャップを生み、その違和感を楽しむ時間であることを歌以上にダンスが表している。歌っていないメンバーのダンスが手の動きを重視しているのも、ダンスが指揮棒になってリスナーを導いていると自覚しているからだろうか。何にせよ、歌とダンスがそれぞれの役割でもって楽曲の扉になっているのだ。爆音の中で舞い踊るというより、楽曲を引き連れている。そんなパフォーマンスがノンストップで爆走していく様はアスリート的とも言っていいだろう。
新曲「AWANE」でもシンガロングをリフ的に用いた展開で観客を巻き込み、「WILLSHINE」では全力の歌心を聴かせ、「Maze of mind」ではデスボイスとモッシュパートの連打でさらにギアを上げ、ラストは「ONE STEP BEYOND」と「MISS UNLIMITED」を連打し、アンコールはなし。メジャーデビュー楽曲である「MISS UNLIMITED」で終演することにも大きな意味があったのだろう。歴史を総ざらいしながら今で塗り替えていくようなライブ、しかも一直線のスプリント。思考を真っ白に飛ばしてひたすらPassCodeの歴史に没入していくアクトは、まさに未来へ向かうための走馬灯だった。
取材・文◎矢島大地
撮影◎森 好弘
■<Liberator Release Tour 2026>
01.Every time, I knew
02.DESTINEX
03.GROUNDSWELL
04.VIRIVIRI
05.Ray
06.Liberator
07.A certain Motor-Heart is not working right!
08.Taking you out
09.Club Kids never die
10.Kissの花束
11.AWANE
12.WILLSHINE
13.Maze of mind
14.ONE STEP BEYOND
15.MISS UNLIMITED
■SiM主催<DEAD POP FESTiVAL 2026>
4月4日(土) 神奈川・川崎市東扇島東公園特設会場
4月5日(日) 神奈川・川崎市東扇島東公園特設会場
▼DAY1出演者
SiM / Chevon / dustbox / Fear, and Loathing in Las Vegas / ハルカミライ / HAWAIIAN6 / HEY-SMITH / マキシマム ザ ホルモン / BABYMETAL [NEW] / PassCode / SHADOWS / SHANK / しけもくロッカーズ
▼DAY2出演者
SiM / 04 Limited Sazabys / ANKOR (ESP) / coldrain / Crystal Lake / Good Grief / HIKAGE / MAN WITH A MISSION / THE ORAL CIGARETTES / See You Smile / SKA FREAKS / THORNHILL (AUS) / WANIMA
▼チケット
一日券 ¥11,000 / 二日通し券 ¥21,400 / 二日通し券セーフティーゾーン ¥23,000







