【ライブレポート】BAND-MAID、2025年の集大成──さらなる成熟へと向かう洗練

2025.12.19 20:00

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どんなに成長や進化を続けていこうと、そのスピードは徐々に緩やかになっていき、いつかはある種の限界点に達するものだ。ただ、そこに甘んじることなく洗練の過程を重ねていくことで、今度は成熟、深化へと向かっていくことが可能になってくる。12月7日、超満員の東京ガーデンシアターでBAND-MAIDの年内最後の単独お給仕の一部始終を目撃しながら、僕はそんなことを考えていた。

BAND-MAIDの2025年は「Zen」、「Ready to Rock」、そして「What is justice?」というアニメ関連の3曲連続タイアップを軸としながら進んできた。それはこのバンドの稀有さについてこれまで以上に広く知らしめることに繋がるのみならず、各曲が彼女たちにとって新鮮なチャレンジの場となり、そうした流れを汲みながら去る10月22日に登場した最新EP『SCOOOOOP』には、さらなる飛躍に向けての拡張端子が仕掛けられていた。しかもそうした創作活動とシンクロしながらツアーも重層的に展開され、そこで5人は自ら設定した壁を飛び越え続けるようにしながらロックバンドとしての筋力を高めてきた。そしてこの夜のお給仕は、まさにそうしたひとつの物語の集大成というべきものだった。

開演定刻の午後5時を7分ほど過ぎた頃、会場内は暗転。それまでBGMで流れていたMUSEの楽曲が止み、ダークでミステリアスなオープニングSEが聞こえてくる。屏風のように設えられた10面のスクリーンには<BAND-MAID TOUR 2025>のアートワークが浮かび、それがゆっくりと上昇していくと、そこにはすでに戦闘態勢の整った5人が並んでいた。次の瞬間、閃光のようなKANAMI(Gt.)のギターに続き、雷鳴のごときAKANE(Dr.)のドラムが炸裂する。オープニングに据えられたのは「Ready to Rock」だ。

この全国ツアーは「メイドの日」にあたる5月10日に東京・LINE CUBE SHIBUYAで幕を開け、6月28日の仙台公演をもってFIRST ROUNDが終了。その後、7月から8月にかけて実施されたSECOND ROUNDを経て、『SCOOOOOP』のリリース直後にあたる10月24日にFINAL ROUNDがスタートしている。そしてこの「Ready to Rock」は、FIRST ROUND以来ずっとお給仕のクロージング曲という大役を担ってきた。ツアー初日、リリースからわずか1ヵ月というタイミングで初披露された際には、この曲が持って生まれたロック・アンセムとしての訴求力の強さを感じさせられたものだが、今ではお給仕の幕開けと同時に大観衆をしっかりと巻き込み、合唱させる曲として絶大な効力を発揮している。そうした事実自体が、このツアーがいかに充実度の高いものだったかを裏付けているように思う。

その「Ready to Rock」が着地点に至ると、次の瞬間にはKANAMI(G)のギターがギュワーンと唸りをあげ、『SCOOOOOP』に収録のアッパーチューン「SUPER SUNSHINE」へと雪崩れ込んでいく。まさに序盤からクライマックスのような盛り上がりだ。その後も畳み掛けるように必殺曲が続き、彼女たちにとって2025年のスタート地点となった「Zen」をもって最初のブロックが終了。そんな序盤5曲が終わった時点で、僕はフェスでの全力疾走のパフォーマンスを観終えた時のような痛快な充足感をおぼえていた。

「お帰りなさいませ、ご主人様お嬢様。やってまいりましたっぽ。<BAND-MAID TOUR 2025>、ツアーファイナルっぽー! 嬉しいことに本日、そして全公演ソールドアウトですっぽー!」

小鳩ミク(G, Vo)の挨拶と歓喜の声が空気を一変させ、「今日は盛りだくさん、今しか見られないBAND-MAIDの魅力の詰まったお給仕になっております。最高に楽しい夜にする準備はできてますかっぽ?」という言葉が、次なる流れへの期待感を煽っていく。するとそこで爆裂したのは「What is justice?」。この時点で一連のタイアップ曲3曲がすべて披露されたことになるわけだが、それが現在の彼女たちがどれほど多くのキラーチューンを備えているかを物語っている。しかもまだリリースから4ヵ月半ほどだというのに、この曲がすでに熟成されつつあるのが伝わってくる。

この曲には高音部での歌唱が長く続く難所が含まれているが、そこでのSAIKI(Vo)の歌声には空間を切り裂く力強さが備わっているというのに、けたたましさとは無縁だ。加えて、この曲から続いていくセッションパートのあり方が実に興味深い。AKANEが笑顔で心地よさそうにビートを繰り出し、それが加速していくと、ステージ下手側ではMISA(B)のベースがうねりをもたらし、上手側では小鳩ミクが切れ味のいいリフを刻む。すると中央のお立ち台へと躍り出たKANAMIがジャーンとギターを掻き鳴らし、次なる「Shambles」へと繋いでいく。そうした流れはまさにBAND-MAIDのバンドサウンドの基本構造と機能性を見せつけるものでもあった。

こうして始まった二番目のブロックは、そうしたセッションパートの魅力と、BAND-MAIDの音楽的な多面性を強調するものになっていた。ことに小鳩が日ボーカルをとる「Brightest star」を経て「The one」から「SION」へと続いていく展開においては、敢えて目立った演出が控えられていたことで丁寧な演奏と歌唱ぶりが際立ち、説得力のさらなる向上を実感させられずにはいられなかった。また、セッションパートにおいては、リズムセクションがしなやかな強靭さ、KANAMIのギターワークがきらめきを増しているばかりではなく、小鳩の刻むギターリフの精度がいっそうの高まりをみせていることも印象的だった。そうしたリフの効力が各曲のキャラクターを際立てていくことになるのだ。1曲のなかでのドラマ性が濃厚な「Forbidden tale」、SAIKIの「みんな、歌ってくれる?」という言葉に導かれながら実際に大きな合唱に彩られることになった「endless Story」においても、このバンドがもはや「大人へと向かって行く成長過程」ではなく「さらなる成熟へと向かう洗練の過程」にあることを実感させられた。

その「endless Story」の合唱を受けてSAIKIは「みんな歌えるね。ありがとう、歌ってくれて」と感謝の言葉を口にする。すると今度は「今日はツアーファイナルですから、みんな、肩も腕も膝も喉も傷めて帰りなさい!」と笑顔で挑発してみせる。そして彼女と小鳩とのやりとりのなかで、彼女たちのお給仕における演奏中とそうでない場面とのギャップの大きさについて触れ、「BAND-MAIDはこういうスタイルだから、みんな慣れていこうね!」と呼びかける。実際、お給仕初心者にとってBAND-MAID特有のこうした一面はある種の驚きを伴うものだろう。正直なところ僕自身も最初は面食らったものだし、初めてインタビューした際に小鳩の発言を聞いた時には思わず「本当に“ぽ”って言うんですね?」と口走ってしまったものだった。しかし今ではお給仕における「おまじないタイム」にも違和感をおぼえることはないし、それもまたBAND-MAIDならではの様式の一部なのだと思えている。SAIKIと小鳩が緩いやりとりをしながらグッズ紹介をしたり、そんな時に他3人がステージ後方でおしゃべりしていたり、MISAが缶ビールの開封音を口真似してみせたりすることも、ごく当たり前のように受け入れることができている。それは確かに“慣れ”のためかもしれないが、同時に、そうしたなごみ系の空気が演奏中には皆無だからでもあるように思う。しかもプログラムの中盤にそうした時間が設けられていることによって、彼女たち自身も張りつめていた空気から一旦解放され、後半に向けてさらに気分を高めていくことができているのではないだろうか。

そして実際、緩やかなひとときを経た後の展開にはすさまじいものがあった。なにしろ後半の幕開けに用意されていたのは、「Lock and Load」からそのまま「without holding back」へと連なっていくインストゥルメンタル曲の2連発。しかも以前ならばこうした場面においてオーディエンスの視界から消えていたSAIKIがステージにとどまり、鍵盤を操っているのだ。実際、『SCOOOOOP』に収録の「Lock and Load」では彼女がキーボード演奏に携わっているわけだが、こうした音楽的な広がりをバンドにもたらしたのも、「Ready to Rock」がオープニングテーマに使用されたTVアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』におけるモーションキャプチャー体験だった。

同作品とBAND-MAIDとの関わりがいかなるものであったかについては過去のインタビュー記事なども参照して欲しいところだが、いわゆるタイアップがバンドや音楽の認知度拡大ばかりではなく、新たな可能性、発展性にも繋がったのはとても貴重で意義のあることだといえるし、BAND-MAIDにとっての2025年はまさにそうしたことの連続だったのだと思う。それこそメイドの日にツアーが始まる以前には、番外編お給仕やアコースティックでのお給仕もあった。そこでの経験がツアー本編に活かされているのも間違いないし、たびたび披露されてきたボリューム満点のメドレー演奏によって培われてきたものが、この夜におけるセッションパートや各曲の繋ぎにも確実に反映されていたように思う。ひとつひとつの経験を、単純に通過していくのではなく、しっかりと消化してきたからこそ、BAND-MAIDはこうして行き止まりのない成長と進化を続けてこられたのだろう。

驚愕のインスト2連発以降も、5人の猛攻は続いた。「Toi et moi」の際には、前述の10面スクリーンが彼女たちの前に降りてきて、まるで1人ひとりが光の檻のなかにいるかのように見える視覚効果を伴いながらの演奏となった。『SCOOOOOP』の収録曲のなかでもひときわ実験的だった「Dilly-Dally」はオーディエンスを踊らせ、これまでのお給仕にはなかった新たな風景をもたらしていた。それは文字通り「ライブにおいて楽曲が本当の意味で完成する」ということが目の前で実践された瞬間でもあった。さらに「Unleash!!!!!」、「NO GOD」から「Magie」へと続いていく容赦のない展開は、まさしく火に油を注ぐかのように観衆にエキサイトメントをもたらしていく。

そしてツアーファイナルはいよいよ大詰めへ。「バンドをやって良かった。BAND-MAIDをやってきたから皆さんに出会えた。ツアーファイナルだけどまだまだ歩みを止めません。来年も楽しみにしていて。みんな、ついてこれるか? ラストスパート、行こうか!」というSAIKIの呼びかけに導かれながら「HATE?」が始まった時、会場内の温度がさらに高まるのを感じた。しかもその「HATE?」にも、続く「DOMINATION」にもセッションパートが盛り込まれていて、現在形のお給仕仕様にアップデートされているのだからたまらない。曲が着地点へと至る直前にはSAIKIの「最高!」という歓喜の声も聞こえてきた。

すると今度は「Choose me」が披露され、10面のスクリーンには白地に黒、黒字に白のリボンのシンボルマークが浮かぶ。鉄板中の鉄板というべきこの曲を歌い終えたSAIKIが「次でラスト。みんなもっと行けるか? 出し切れるか?」と扇動すると、一瞬の静寂を挟んで「Present Perfect」が始まる。『SCOOOOOP』の収録曲の中でも「今現在のBAND-MAIDなりの、新たな代表曲。新たな名刺となるもの」を意識して作られたというこの曲を最後に、この夜のお給仕は幕を閉じた。スクリーンに映し出された5人の表情は、まさにすべてを出し切ったかのような達成感に満ちているように見えた。現在完了を意味するこの曲で締め括られたこと自体からも、彼女たちがこのツアーファイナル公演をいかに重要な意味を持つものと捉えていたかがうかがえようというものだ。

すべての演奏が終わると5人は笑顔で観衆に、そして配信を通じてこの夜を見守っていた世界各地のご主人様お嬢様たちに向けて手を振り、SAIKIは「またお会いしましょう。来年もついて来いよ! 楽しい景色をもっと見ような!」と呼びかけた。その言葉は、未来を信じる者が同胞たちに対して投げ掛けているかのように僕には聞こえた。そして最後の最後は小鳩の口から「それでは行ってらっしゃいませ、ご主人様お嬢様。またお給仕でお会いしましょうっぽ。BAND-MAIDでしたっぽ! バイバイっぽ!」という定番の挨拶が聞こえてきた。こうしてすべてが終わり、5人がステージから消した頃には、すでに開演時から2時間20分ほどが経過していた。そして場内はすぐには明るくならず、スクリーン上では2026年のワールドツアー実施が発表された。

2025年、日本列島を駆け巡り、ひとつひとつ確実にハードルを飛び越えながら、誰の目にも耳にも明らかな飛躍を遂げてきたBAND-MAID。そして2026年はそれがワールドワイドなスケールで実践されていくことになるのだろう。もはやこのバンドが目指すのは、昨日までできずにいたことを鍛錬によって習得していくかのような次元の成長や進化ではない。今現在の状態からさらに根を深く伸ばし、幹を太くし、枝を広げなら花をたくさん咲かせていくことである。2026年もその先も、BAND-MAIDは我々に新たな刺激を届けながら飛躍を続けていくに違いない。そして、次なる展開に向けての特ダネをスクープできる日の到来を、楽しみに待っていたい。

取材・文◎増田勇一
写真◎伊東実咲

セットリスト
1.Ready to Rock
2.SUPER SUNSHINE
3.Protect You
4.alone
5.Zen
6.What is justice?
7.Shambles
8.you.
9.Brightest star
10.The one
11.SION
12.Forbidden tale
13.endless Story
14.Lock and Load(inst)
15.without holding back(inst)
16.Toi et moi
17.Dilly-Dally
18.Unleash!!!!!
19.NO GOD
20.Magie
21.HATE?
22.DOMINATION
23.Choose me
24.Present Perfect

BAND-MAID TOUR 2025 セットリストプレイリスト
https://lnk.to/BAND-MAID_TOUR_2025

■<BAND-MAID WORLD TOUR 2026>

開催地:ASIA、EUROPE、NORTH AMERICA
詳細はこちら:https://bandmaid.tokyo/contents/1019187

■<BAND-MAID番外編お給仕 “Sessions Selection”>

2026年2月11日(祝水)・LINE CUBE SHIBUYA
2026年2月21日(土)・なんばHATCH

チケット情報
お盟主様(オフィシャルファンクラブ)最速抽選先行チケット受付
受付期間:12月7日(日)21:00~12月21日(日)23:59
公演詳細:https://bandmaid.tokyo/contents/1020038