【コラム】MADMEDの深淵へ──EP『僕の暴力カルテ』レビュー

2025.11.28 12:00

Share

MADMEDが10月1日にデジタルリリースしたEP『僕の暴力カルテ』は、タイトルが想起させるように、歪(いびつ)な愛情表現をバイオレンスに楽曲へ落とし込んだコンセプト作品である。グループのコンセプトとして掲げてきた「狂おしいほど、依存して」がここに極まれり、というほどに“狂依存”の世界を全6曲で描いている。

「フルスウィングバットと子猫」は、合唱のように淡々とリフレインされるタイトルメロディが耳に残るも、そうしたキャッチーとは対照的な猟奇性が暴走する曲だ。そのコントラストは楽曲が進むにつれて色濃くなっていく。電子的な鼓動がインダストリアルミュージックやゲームミュージックサウンドを呑み込み、MADMEDの音楽ベースにある“ゴシック×デジタル”が引き起こす無機質な融合がけたたましく耳を襲う。その様相は、本作の狂いっぷりを象徴するものだ。

同曲のMVは、そうした猟奇性を帯びた世界観を聴覚だけでなく、視覚として生々しく伝えている。MADMED楽曲MVの大きな特徴であるストーリー性を持たせた内容である。体当たりで挑むメンバーとキャストが織りなす不気味な物語が、リスナーを同曲ならびに『僕の暴力カルテ』の世界へと引き摺り込んでいく。顔の表情で訴える6人の迫真の演技はもちろんのこと、細やかな場面描写、小道具に仕込まれた小ネタや伏線?の数々……など、見れば見るほど深読みと考察が捗ることは言うまでもないだろう。

メランコリックなメロディを携えながら、バンドサウンド的なプロダクトで攻めていく「バイオレンスラブ」。おなかぺこのしっとりとした歌い出しが印象的だ。緩急のついたリズムアレンジ含めて、MADMEDとしては正攻法なプロダクトではあるものの、サウンドバリエーションの幅を広く極端に取ることで“歪”な音世界を作り出ている。さらにボーカルの癖が楽曲をさらにアクの強いものにする。〈愛してるって 想えば想うほど〉からの、架空使てんる、甘噛ミ妖メ、那月邪夢へと流れるCメロはその極みつきであり、もはやアイドルとはいえぬほどの邪気を持ち、妖しさを放つ。

J-POP的なポップなサビメロディとノリのよいダンスビートで攻めていく「歪ナ愛」、不可思議な映画のような世界に迷い込んだ「執着少女はまた汚れる」は、これまでのMADMEDにはなかったアプローチだ。それでいて、前曲は符割の大きくおどろおどろしい平歌を、後曲では次々と挟み込まれる不協和音風の不穏なサウンドの壁によってMADMEDらしさを体現。ひとつの楽曲に対して情報過多で不釣り合いな素材を容赦なく注ぎ込み、ギクシャクとした齟齬を敢えて生み出すことによって、MADMEDの色に染め上げている。

那月邪夢は以前、MAD MEDiCiNEからMADMEDへの進化を“バグ”と表現していたが、そうしたバグ、歪み(ひずみ)がMADMEDの持つ、謎めくダークオーラとして炸裂しているのが本作といえるだろう。「執着少女はまた汚れる」における、てんるの表情が読めない少女の呟きのような歌声と、〈フリフリを着る 君が振り向くまで猫を被る〉と口開く歯に衣着せぬ猿馬虎の立ち位置も、MADMEDの掴みどころのない難解な世界を大きく差配している。

「誰も知らない痣」は、ストレートな病みソング。これまでMADMEDにはなかったタイプの曲というよりも、わざと避けてきたような美麗なメロディと正攻法なアプローチである。だが、この猟奇的なラインナップの中では、優しくすっと耳に入る存在。柔らかな耳あたりで痣、痛みに寄り添う共依存。

ラストの「ヒステリックトリック」は言うまでもなく、MAD MEDiCiNEのキラーチューン。鬱ロックなビートに乗せて自虐台詞を明るく叫ぶ“メンヘラ口上”も健在。MAD MEDiCiNE楽曲がMADMED曲へとアップデートされる際、海外アーティストによるリミックスが施されたようなサウンドへ昇華されるが、同様にEBM(エレクトロ・ボディ・ミュージック)要素が追加されている。

また、各ボーカルにおけるエフェクト処理も施されているが、同曲のみならず本作の大きな特徴のひとつにもなっている。クリアなミックスバランスと明瞭なボーカルが、MADMED楽曲音源特有のものであったが本作では敢えてザラついた音像でコンセプチュアルな作風の空気感を醸している。

ゲーム中の隠しトラックのように突如現れた、追加パートはアルバムテーマに投げかけるアンチテーゼのようになっており、これは新たなる疑問なのか、はたまた救いになるなのか、ラストに相応しい締めになっている。

よくも悪くも楽曲が複雑、難解と言われることもあるMADMEDだが、そこには何度も聴かなければ理解できぬほどの奥深さが存在している。それは詞、音楽性、サウンド……そのすべてだ。そしてそのすべてをアバンギャルドに、エレガントに表現していく6人の力量によって、知らず知らずにMADMEDの深淵へと我々はいざなわれていくのである。

   ◆   ◆   ◆

【メンバーによる楽曲コメント】

・フルスウィングバットと子猫(from 猿馬虎)

曲調としては、アップテンポでのりやすいと思います。それに加え、野球要素、猫ちゃん要素たっぷりの振り付けになっているので、わかりやすいし覚えやすいため、ぜひみんなに踊っていただきたいなと思っています。思うように上手くいかない、素直になれない、そんな恋愛の部分を猫要素多めで伝えています。ぜひ沢山聴いてください。

・バイオレンスラブ(from おなかぺこ)

ぺこはバイオレンスラブのプロモーション映像担当だったんですけど、バイオレンスラブは、曲調はすごいポップなのに歌詞はすごく独占欲を感じて凄い好きです。個人的に、Cメロの「酸いも甘いも〜」からめちゃくちゃ歌詞が苦しくて好きなのでいっぱい聴いてほしいなと思います!
その人に出会うまで知らなかった感情ってのがいいですよね。暴力的なのも全部愛情って受け入れてるのが歪んでて、MADMEDらしさを感じて好きです。

・歪ナ愛(from 深ゐ沼)

「歪ナ愛」の聴きどころは、今までのマドメドにはない、ドラマのエンディングで流れるような感じで曲が始まる感じ?と思ってるんですけれども、これ自分めっちゃ好きなんですよね! サビから始まるみたいな!「うおー!!」となります。
あと歌詞全部良いんですけれども、〈私達なりに歪んだ愛の形を探しているんだ 邪魔をするな!!!〉って歌詞が特に好きで、ここの歌割りを自分に任されたとき、本当に嬉しくてどう歌ったら感情が込められるかをボイストレーナーの先生と相談して……みたいな、いろんなこだわりがあるので是非聴いてみてくださいよね〜!

執着少女はまた汚れる(from 架空使てんる)

この曲は僕が歌い始めです。アカペラに近い声のみが聞こえてくる部分かと思います。
言葉ひとつひとつに声で色をつけるイメージで歌いました。“執着少女”を演じる様な、未練たらしくてちょっとこわいけど切ないというか、儚いこの曲のイメージを冒頭で一気に感じて欲しくて。とってもとってもこだわって歌いました。
どうしても振り向いて欲しい少女の想いが苦しくて、だけど聴いていてすごく癖になる一曲だなって思います。この曲で皆さんの事をマドメドの沼に突き堕としたいです。

誰も知らない痣(from 甘噛ミ妖メ)

「誰も知らない痣」は妖メがメインの曲にさせていただいたのですが、私的に1番アルバムの中で歌詞が好きな曲です。
貴方は誰かに殴られた事はありますか?妖メは今まで沢山殴られて来ました……(笑)
痣自体は消えてもその時とトラウマって、一生付き纏うんですよ。まるで心の痣そのものですね。その心の痣を抱えて強く生きていきたい葛藤を描いたこの曲は、そんな誰かに寄り添って、絆創膏みたいな曲だと思います。

ヒステリックトリック(from 那月邪夢)

「ヒステリックトリック」は那月邪夢がアイドルとして初めて披露した、MAD MEDiCiNEから引き継いだ思い入れの深い曲です。ポップでダーク、情緒不安定な世界観が魅力で、Cメロ〈狂おしく依存した代償は〉は新体制で加えた大切な一節。歌詞に込めた想いを聴く人にも感じてほしく、傷ついた心に寄り添える曲でありたいと願い、歌い続けています。

   ◆   ◆   ◆

EP『僕の暴力カルテ』
配信リンク:https://linkco.re/PVxFTnne?lang=ja

トラックリスト
1.フルスウィングバッドと子猫
2.バイオレンスラブ
3.歪ナ愛
4.執着少女はまた汚れる
5.誰も知らない痣
6.ヒステリックトリック