映画『aftersun/アフターサン』で見事なシンクロを見せる「アンダー・プレッシャー」

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5月26日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほかにて全国公開となった映画『aftersun/アフターサン』は、クイーン&デヴィッド・ボウイ、ブラー、R.E.M.といった名曲の数々が登場する話題作だ。

派手な演出があるわけでもなく、多くを語らずにミニマリスティックな演出で観る者に深い余韻をもたらす本作だが、そこには監督が脚本を書いていた数年間の中で、映画のイメージと音楽が醸し出す彩りをひとつひとつシンクロさせていったことが、これらの名曲の登場につながったという。





本作の登場人物の心情を代弁するかのように、音楽そのものが重要な役割を担っている当作品だが、登場する楽曲群は、1990年代に青春時代を過ごしたというシャーロット・ウェルズ監督の音楽的バックボーンをそのまま表しているものでもあり、音楽そのものが監督の自伝的要素を持つこの物語の隠れた主役にもなっている。

例えば、ソフィとカラムという父娘のかけがえのない瞬間に寄り添うように流れてくるのは、クイーン&デヴィッド・ボウイの「アンダー・プレッシャー」だが、そのシーンが伝える心情は、書き下ろし楽曲のように歌詞とメロディが映像とシンクロし、まるで初めて聴いたかのような新鮮な感情を呼び寄せてしまう。


監督にとって、このシーンとこの楽曲のマッチングは、編集の時にひらめいたものだったという。監督にとってインスピレーションが欲しい時にいつも愛聴していたのは「アンダー・プレッシャー」だったということもあり、自分の作品と愛聴楽曲が脅威のシンクロを見せたことは無類の喜びだったことだろうが、内心では「権利的に使用することは難しいだろう」と思っていたらしい。

しかし、奇跡は起こる。楽曲使用の許諾に関わったルーシー・ブライト(話題作『TAR/ター』、『aftersun/アフターサン』のミュージック・スーパーバイザー)は、「ブライアンに許諾が下りるか訊いてみるわ」と監督に伝えた。「え?ブライアンって?まさかのブライアン・メイ?」と、監督は驚きを隠せなかったようだ。

「監督が編集段階で『アンダー・プレッシャー』を劇中に当てていて、あれほど象徴的な曲を一度はめてしまうと、他の選択肢が考えられなくなるの。だからあとは、“いかに実現させるか”だった。予算は限られているし、それも共に超ビッグなアーティストよ?ストーリーの内容や曲の使い方を詳しく説明し、原曲に手を加える(劇伴として、オリヴァー・コーツのチェロと融合させている)理由もすべて伝えて交渉したら、快諾してくれた。多くの人が、“あの曲を二度と同じようには聴けない”と言ってくれるのはうれしいわね。緻密な交渉を行う必要があったけど、みんな本当に寛大だった。今となっては高く評価されている映画だけど、当時はまだ小さなインディペンデント作品だったからね。でも誰もがこの物語に可能性を感じていたのよ。すべての許諾が下りた時は本当にうれしかった」──ルーシー・ブライト

監督のビジョンに理解を示してくれたアーティストや原盤権者に多大な謝意を示しながらも、もし「アンダー・プレッシャー」の使用が許諾されなかったらどうしていたか分からなかった、という心情も吐露してくれた。楽曲と映像とが噛み合い、他の選択肢を寄せ付けないパワーを発する作品は、あらゆる人の心を揺れ動かすということだろう。

あの印象的なシーンに「アンダー・プレッシャー」が流れると、作中、多くを語らずとも父親の心境を理解し、「彼に何があったのか」「彼はこれからどうするのか」という背景に我々は大きな想像力を掻き立てられてしまう。

誰しもが感じ、大切な人とのかけがえのない記憶を揺り起こす『aftersun/アフターサン』の魅力には、音楽を愛する監督の心模様も大きく作用しているようだ。


映画『aftersun/アフターサン』

11歳のソフィが父親とふたりきりで過ごした夏休みを、その20年後、父親と同じ年齢になった彼女の視点で綴る本作。2022年カンヌ国際映画祭・批評家週間での上映を皮切りに評判を呼び、話題作を次々と手掛けるスタジオA24が北米配給権を獲得。昨年末には複数の海外メディアが<ベストムービー>に挙げ、毎年映画ファンが注目するオバマ元大統領のお気に入り映画にも選出されるなど、本年度を代表する1本となった。その波はアワードシーズンを迎えてなおも押し寄せ、父親を演じたポール・メスカルがアカデミー賞主演男優賞のノミネートを果たす。監督・脚本は、瑞々しい感性で長編デビューを飾った、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。ソフィ役には半年にわたるオーディションで800人の中から選ばれた新人フランキー・コリオ。愛情深くも繊細なカラムには、ドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが抜擢された。また、A24製作、第89回アカデミー賞作品賞など3冠に輝いた『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスが脚本に惚れこみ、プロデューサーに名乗りを上げている。

多くを語らず、ミニマリスティックな演出で観る者に深い余韻をもたらす本作は、誰しもの心の片隅に存在する、大切なひととの大切な記憶を揺り起こす。陽光注ぐ海辺、アフターサン(日焼け後)クリームの香り、大きな波音、そして今も残るカラムの手の感覚……。クイーン&デヴィッド・ボウイ「アンダー・プレッシャー」、ブラー「テンダー」等のヒットソングに彩られながら、まばゆさとヒリヒリとした痛みを焼きつける、いつまでも忘れ得ぬ一編となることだろう。

◆映画『aftersun/アフターサン』オフィシャルサイト

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