【コラム】映画音楽は名曲の宝庫~BARKS編集部の「おうち時間」Vol.048

ポスト

おうち時間に映画にどっぷりとハマってみることも、エンターテインメントを楽しむ一つ。地上波やBSでは、ここぞとばかりに公開されてさほど時間がたっていない映画の放送もあるし、CSでは過去の名作がズラリとラインアップされていたりする。それらを録画しておいて、気の向くままに夜の一人時間に鑑賞するのもよかろう。また、買ったまま封すら切っていないDVDやBlu-rayを引っ張り出してきてこの際だからとじっくり観るのもまた一興だ。

ここでは、個人的に好きな映画の中で、特に音楽(テーマ曲や挿入曲)が気に入っている作品を挙げてみた。恋愛ドラマからコメディ、社会派作品などジャンルはバラバラであるが、その音楽があったからこそ、その映画のファンになったという印象的な作品を羅列してみたい。

音楽と映画は切っても切り離せない。印象的な場面に魅力的な音楽が乗ってこそ、受け手側の感受性が刺激されるのである。もちろん、音楽が先にありきで、それをベースに作り出される映画も多々ある。一方で、映画とは直接関係ない曲がエンディングに流れて違和感を感じることもあるし、違和感があるからこそその曲に引っかかって、サントラやシングルなどを購入してしまうこともある。でもやっぱり映画の内容に寄り添う曲に魅力を感じてしまうことの方が多いかも。そんなことはいまさら言うまでもありませんね、ハイ。面倒な前フリは置いておいて、何本かの映画を挙げてみたい。

●『あやしい彼女』

高齢の女性がとあるキッカケで若返り、家族を養うために楽しめなかった青春を謳歌、しかしいままでその家族のために犠牲にいたと思っていたことが実は素晴らしいことだと気づくというコメディドラマなのだが、ここで若返った主人公の多部未華子が劇中で披露する音楽が素晴らしいのです。「見上げてごらん夜の星を」に始まり、バンドで「真赤な太陽」「悲しくてやりきれない」など60年代の名曲たちを熱唱する。クライマックスで歌われる「帰り道」は曲としての出来栄えも高く、多部未華子の歌声が透明感に溢れているうえに魂のこもった歌唱で、歌の実力に感心するとともに、映画の世界観にハマって涙を催してしまう。

「帰り道」は、anderlustによるもの。小林武史をプロデューサーに迎えてこの曲でデビューを果たした。

●『僕は明日、昨日のきみとデートする』

七月隆文の恋愛小説の映画化。福士蒼汰と小松菜奈が共演した、時間のパラドックスによる切ないラブストーリだ。この主題歌が、backnumberの「ハッピーエンド」。映画の内容と絶妙にリンクしていて、切なさ満点のエンディングが魅力的なものになっている。これもプロデュースは小林武史。

●『地下鉄(メトロ)に乗って』


堤真一、岡本綾、常盤貴子、大沢たかおが出演した、これもタイムパラドックスもの。戦後の世界にタイムスリップし、嫌っていた父親の本当の姿に出会って、家族とは何かを考えさせてくれ、そして衝撃の結末が訪れてしまうという内容になっている。このエンディングで流れるのがSalyuの「プラットホーム」。映画と直接リンクするわけではないのだが、その美しい旋律とSalyuの強弱を踏まえた歌唱に圧倒され、映画の余韻に静かに浸れる。名曲だ。なんとこの曲も小林武史プロデュース。曲の途中で微妙に転調するのが心地良く、バックのピアノ演奏も控えめながらツボを押さえたコードワークを聞かせてくれる。

●『アヒルと鴨のコインロッカー』


伊坂幸太郎の小説が原作で、2007年に濱田岳と瑛太の主演で映画が公開された。なんとも不思議な雰囲気を持つ作品であるが、このストーリー上に重要な意味を持つのがボブ・ディランの「風に吹かれて」なのである。ボブ・ディランの「時代は変わる」や「風に吹かれて」が映画に取り入れられると、とかく若者の反体制的な生き方を描いたり、1960年代~1970年代の学生運動のベースに使われるのが多いと思うが、この作品ではそういうアバンギャルドさとは違うモチーフとなっている。何十年も前の曲なのに、いまでも心に響く名曲中の名曲だ。

●『下妻物語』

嶽本野ばら原作。深田恭子と土屋アンナが縦横無尽に暴れまわる爽快作だ。劇中ではロココを象徴する「美しく青きドナウ」や、ヤンキーのテーマとして尾崎豊の曲などが随所にちりばめられていて、その選曲に思わずニヤリとしてしまう。痛快な深田恭子の活躍の後のエンドロールにかぶさるのが、サディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにお願い」。映画の内容とは関係ないが、その小気味良いリズムとエロチックでバイオレンスなヴォーカルに快哉を叫びたくなる。ちなみに、テーマソングはTommy heavenly6「Hey my friend」である。それと子役の福田麻由子が面白すぎて…。

●『道』


ちょいと渋いところも攻めてみたい。『道』は1954年に公開されたフェデリコ・フェリーニ監督のイタリア映画である。映画の中でたびたび流れるテーマ曲はニーノ・ロータが担当している。悲しみを秘め抒情的で印象的なメインメロディーは、ジュリエッタ・マシーナ演じる主人公ジェルソミーナの純朴な魅力と悲しすぎる最期。一晩中でも繰り返して聞ける昔の、これぞ“映画音楽”とも言うべき不朽の名作である。

●『ニュー・シネマ・パラダイス』


映画音楽といえばこの曲が100%出てくるほどの有名な曲。往年の映画のキスシーンが何度も映し出されるラストシーンと相まって、声が出るほど涙を流した人も多いはず。メランコリーでロマンチックなメロディーは、「映画音楽リクエスト大賞」などの企画では上位の常連で、聴いたことのない人はいないだろう。映画は1988年公開のイタリア映画。監督はジュゼッペ・トルナトーレである。テーマ曲はイタリアの作曲家エンニオ・モリコーネ。『天国の日々』(1978年)、『ミッション』(1986年)、『アンタッチャブル』(1987年)、『バグジー』(1991年)、『マレーナ』(2000年)など、何回もアカデミー賞にノミネートされている巨匠だ。ちなみに、この曲を本田美奈子.もカバー。その美しくもはかない歌声にも涙を誘われること必至。

●『砂の器』


説明の必要もなかろう。松本清張の長編推理小説の映画化。ここでクライマックスに演奏される、劇中での作曲者である和賀英良の「宿命」が、彼の持つ悲劇的な人生をたどり、その悲しみと文字通りの“運命”に感動してしまう壮大な曲となっている。作曲は菅野光亮。クライマックスの部分を中心に二部構成に再構成した『ピアノと管弦楽のための組曲「宿命」』としてリリースされてもいるので、こちらでもたっぷり楽しみたい。

●『赤い風車(ムーラン・ルージュ)』


1952年に公開された画家ロートレックの伝記映画。舞台は19世紀末のフランス・パリ。この世紀末には、モネ、ゴッホ、ルノアールやドガなど壮絶な人生を送った人が多いが、このロートレックも数奇な運命をたどった一人。この頃の絵画に興味がある人は、より以上に楽しめる映画だ。音楽はジョルジュ・オーリックが担当。代表作に『自由を我等に』(1931年)、『美女と野獣』(1946年)、『ローマの休日』(1953年)『悲しみよこんにちは』(1958年)などがある。パリのキャバレー“ムーラン・ルージュ”で歌手がこの曲を歌うシーンは、微妙に俳優の口と歌がズレていて、なんとなく微笑んでしまうのもご愛敬。

映画音楽といっても、ポップス、ロック、ジャズ、クラシック、お国によってはシャンソンやカンツォーネなど、ジャンルで括ることはできない。時代や地域によって、さまざまな音楽が使われている。またいつの機会にか、“ロック映画の金字塔”、“こんなところにクラシック名曲が”などを紹介してみたいものだ。

文◎森本智

【コラム】BARKS編集部の「おうち時間」まとめチャンネル
この記事をポスト

この記事の関連情報