<インタヴュー後半 スタート>

――藍と青は似てるといえば似たような色ですよね。
浅倉:そうなんです。藍から青に移る瞬間が難関でした。青はめちゃめちゃ身近じゃん、真っ青って空とか海じゃんみたいな。そういうイメージがあったんでガラリと変えて、僕の中のイメージでは、真っ青な景色のスケッチを音で表現しようと思いました。『Blue
Resolution』を作って面白かったのは、真っ青をイメージしたときに、音が聞こえてこなかったんですよ。“大変だ、これは音楽が作れない”ってことになっちゃって。それで、『ハリーポッター』の試写会を観に行った帰りに日比谷公園で食事をしていたんですが、空が真っ青で気持ちの良い日だったんです。そこで耳を澄まして聞こえてきたのが、葉っぱがこすれ合う音や街の喧騒などのノイズだったんです。その中に風が吹くことによって音が共鳴して音程がふっと出てきたとき、これが“青”の音なのかなと思ったんです。オープニングとエンディングにインストが入っているんですが、それはそういう音色のカタマリです。
――既存の音を組み合わせたんじゃなく、けっこう作り込んでいるんですね。
浅倉:サンプラーはもちろん、ジュピター、プロフィット、モーグなんかのアナログシンセも使いました。最近ではバーチャル化されてソフトウェアシンセでできてしまうんで滅多に登場しないんですけどね。2/3はソフトシンセで残りはハードで作っています。
――音の完成形が頭の中で鳴っていて、それに近づくように音を作るわけですね。
浅倉:音楽を始めたときからそうですね。10数年キーボードに携わっていると、もう何万音色を聴いたかわからないくらい色々な音は知ってるんですが、それらとはまた違う音が聞こえてきて。半分くらいは今までの方法論で作れちゃうんですけど、あとは試行錯誤を繰り返したり、一回[DELETE]を押してやり直したりですね。それがまた音楽の未知の部分で面白いところなんです。
――今回で3枚目まできましたが楽しいですか、苦しいですか?
浅倉:すんごい楽しんでます。苦しみながら(笑)。物理的な時間の制約はどうしても動かせないんで苦しいですけど、基本的には自分が納得できるまでやれていますからね。自分の新しいスタジオを作って、マスタリングまでの全過程を一人でやっちゃってるんです。だから、1枚作るごとに“もういいだろ”みたいな(笑)。3色でいいんじゃないかなんて冗談で言ってますけど。
――7作という過酷な作業の中で一番面白いのは?
浅倉:1枚で完成じゃなくて、7枚を通して完成させられるという余裕というか、ゆとりを与えられたクリエーターの気持ちって新鮮ですね。アルバム中の「Quantum
Mechanics Rainbow」というシンフォニックなアプローチをしているものは、7枚を通して1つの楽曲になるようにしています。前々からやりたいとずっと思ってて、クラシックの古き良き作曲家はそういう作り方だったんだろうなと僕は思っているんです。こだわり抜いた作品を生涯かけて作り込んでいったり。だから、7枚を通して1年という時間のなかで、1つの大きな楽曲を作れる大きな器を得たように感じています。一日に4小節くらい書ければOKみたいな、一番時間のかかる曲です。フルスコアを用意してアンサンブルを考えながら音をやり繰りしてね。またそれとは全然違う思いっきりクラブ向けのトランスもあるし。
――1枚の中でのバリエーションの豊かさに驚かされます。
浅倉:このシリーズの中には“etude”というタイトルを付けた曲がすべてにあるんですが、on
Aとかon Bとかいうふうに、ドレミファソラシで虹の7を表現しています。これはもう即興で、音程が持っているイメージからリアルタイムで弾いたものもあります。テクノロジーを使っているんですが、人間的な部分も残すアプローチをしています。
――ブルーはA(ラ)なんですね。
浅倉:僕の中ではAでしたね。鍵盤のキーノート一個一個に自分のイメージがあるんです。Gは勇気があったり、Fはやさしくなったり、Aだと哀愁が出てきたりとか。
――歌詞はどういう風にでき上がっていくんですか。
浅倉:基本的にはでき上がった曲を渡して、イメージだけです。キーワードも言わないです。かなり遊びもあるんですよ。「’Deep
Blue’ Resolution」なんかは、今僕の中でF1がブームなので、そういうスピード感もあったりして。また、この“Deep Blue”というのはIBMのコンピュータのニックネームなんです。初めてチェスで人間のチャンピオンに勝ったという。一番気に入っているのは「青い花」の歌詞です。青い薔薇っていうのは存在しませんよね。それで、この歌詞ができ上がってきたときに、サントリーが遺伝子操作で青い薔薇を作ることに成功したっていうニュースが飛び込んできたんです。歌詞の中では現在進行形と過去形が巧みに組み合わされていて、自分がどの時間軸にいるのかわからなくなるんです。じっくり読んでみてください。
――最近の音楽的な大きなテーマは。
浅倉:21世紀になって今必要な音って何かなって考えたときに、人が欲しがる音楽じゃなくて、人が必要な音楽を作ることが重要だと思っています。欲しがる音楽って、“好きなのはこんなのでしょ”って簡単に作れちゃうんです。だからこそ、本当に必要とされる音楽っていうのをこの虹シリーズで作っていきたい。
――次は緑ですね。