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「サンプルを全く使わない音楽だけのレコードを、ずっと作ってみたかったのよ」
MaryJ. Bligeは’99年のダブルプラチナム・アルバム『Mary』についてこう語る。このメロウなレコードで彼女は、“クィーン・オブ・ヒップホップ・ソウル”の称号を彼女にもたらした脈打つようなビートから手を引いた。ここにはLauryn Hillのプロデュース曲、Aretha Franklinとの素晴らしいバラード、他の女性との間に設けた子供のことを認めようとしない男との別れを描いた感動的な作品などが収められ、Maryはより静謐な音楽の領域へと移行したものと思われた。だが、彼女としてはヒップホップのルーツを放棄するつもりなどまったくなく、’01年にはDr.Dreプロデュースによる「Family Affair」でダンスパーティにカムバックしたのである。これは6枚目のアルバム『No More Drama』からのファーストシングルであり、彼女にとっては初のナンバーワンヒットになった。
『Mary』ではより成熟したサウンドを模索したのに対して、『No More Drama』は人生を祝福している。「Family Affair」はMaryが馬鹿げたでっち上げの言葉を投げ掛ける楽しい作品で、「Poem」は彼女の自己尊厳が改善されたことを謳い上げ、タイトル曲は人生から無意味なものを追い出そうという彼女の決断を祝福するものだ。
ソングライターでプロデューサーのJimmy JamとTerry Lewisが「No More Drama」を聞かせたとき、彼女はその歌が自分のために特別に書かれたものだと気付いたという。ソープオペラ『The Young And The Restless』のテーマ曲をバックに、“痛みはもういや、ゲームはたくさん、ドラマはいらない……、涙はもういや、恐怖もたくさん、ドラマはいらない”と懇願する歌詞に彼女はすぐに共感を覚えた。この曲は彼女の人生を回顧するような内容だ。アルコール、ドラッグ、深夜のパーティ、そして男といった有名人のお決まりコースを生き抜いてもなお、Maryの容貌や声に衰えはなかったが、内面ではひどく落込んでおり、それに気付いてくれる人は誰もいなかった。
「誰もいなかったって言ったら、本当に誰もいなかったんだから」とMaryは説明する。
「みんなが同じときに同じボートに乗っていたのよ。家族から友人に至るまで、私と一緒に飲んだくれてハイになることを望んでたわけだからね。“Mary、ショウの後のジンはなし。出歩くのもダメだ。ツアーが残っているじゃないか、仕事があるんだ”なんて言ってくれる人はいなかった。私が出歩きたいと思えば、みんなが毎晩でも付き合う気でいたし、私が死ぬほど疲れていたときでも“死ぬほど疲れているけど、やっぱり出掛けるわ”って言えば、誰も気に留めようといなかったの」
自分が問題を抱えているとMaryが理解するためには、あるボーイフレンドとの出会いが必要だった。この“彼女が惹かれた外からやって来た人”という無名の恋人が、彼女を抑えつけることなくパーティとドラッグのダークサイドに目を開かせてくれたという。楽しんだりハイになったりすることがそんなに重要なのかと彼から訊かれて、彼女は考え直したのだ。
「それからイヤな気分になり始めた。“私っていったい何をやってるの?”って感じでね。そんな思いにどれほど必死に抵抗を繰り返してみたところで、自分がいかに無知で高慢だったかを思い知らされるだけだったわ。彼が私を貶めることは一度だってなかったの。アルコールを口にするたび、コカインに手を伸ばすたび、とにかく何かをやらかすたびに、自分で自分を貶めていたということに気がついたのよ」
こうしたプライオリティの見直しによって、彼女は人生における神との関係、とりわけ9月11日のテロリストの攻撃に導かれて、最も重要であると認識するようになったという。そうした生活改善の一環として、彼女は聖書を毎日読むようになった。そのためブッシュ大統領が事件の当日の演説で、彼女のお気に入りの文句である詩編23を引用したとき、Maryにはその言及のポイントが理解できたという。
「詩編23が言っているのは、主こそが羊飼いであって大統領ではないということなのよ」 「だから基本的に大統領が言いたかったのは、“もし貴方たちが自分と神との個人的な関係を理解できなければ、ビルを破壊する連中から貴方たちを救うことはできない”ということでしょう。だから、彼は国民を戦争に送り続けるつもりだし、テロリズムとの戦いを継続する決意なのよ」
Maryは過去の誘惑に抵抗する戦いを続けるかたわら、もっと元気のでる活動にも時間を割くようになった。例えば南カリフォルニアのハイスクールを訪ねて生徒を前に講演したり、自身でピアノとギターの演奏を学び始めたりしているのだ。
「もう“No More Drama”や“The Young And The Restless”にはトライしたけどキーは下げたわ」と、家にあるピアノの練習ぶりをMaryは笑いながら話す。
「Al Greenの曲もギターで練習してるの。ツアーの準備をしてるところだから、それまでに覚えられればかっこいいけど、間に合わなくても充分クールなことよね。どれも難しいわ、ピアノもギターも。でも、何かを学習するんだみたいに考えないで、第二の天性だと信じて頑張れば、ずっと簡単にできるはずよ」
これまで新たなジャンルの音楽を開拓したという経験はもちろんのこと、ドラッグ、アルコール、人間関係などの問題を乗り越えたことを考えれば、彼女は間違いなくピアノとギターも征服してしまうだろうし、心に思い描いたことなら何でも実現させることだろう。近いうちに。
By Billy JohnsonJr/LAUNCH.com |