27曲、79分08秒で振り返る脅威の記録
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今年もビートルズ関連のニュースは賑やかだった。まず3月にはジョン・レノンの「イマジン」がリミックス/リマスターを経て“ミレニアム・エディション”として蘇ったのをはじめ、各メンバーのアップル時代のソロアルバムが相次いで再発。10月9日にはさいたま新都心に「ジョン・レノン・ミュージアム」がオープンし、「ジョンの魂」「ダブル・ファンタジー」がやはりミレニアム・エディションで再発された。また、足掛け5年に及んだアンソロジー・プロジェクトも、10月5日に書籍が発売されたことで1つの区切りをみたようである。 ファンにとっては浮き足だってばかりの1年だったわけだが、そんなこんなのミレニアム・イヴを締め括るのが、この「ザ・ビートルズ 1」というベスト・アルバム。ビートルズの全活動を総括するベストとしては「赤盤」「青盤」があるが、この「1」は英米チャートで1位を獲得したナンバーばかりを集めたもの。当然、シングルで発売された曲だけで、全27曲、79分というCDフォーマットいっぱいのヴォリュームである。 音のほうは24bitデジタル・リマスタリングに加え、NoNoiseシステムというものも採用されているということで、当たり前だが格段に良くなっている。特に初期の作品になるほど違いが顕著で、ジョージのギターはギンギンに立ってるし、ビートルズ・サウンドの要であるハーモニーもとてもクリア。『イエロー・サブマリン』のリミックス/リマスターで実績は保証済みだったが、リマスターだけでもこれほど印象が変わるとは正直思っていなかった。もちろんアナログ盤のように丸みを帯びた音ではなく、音に粒立ちを感じるところもあるが、どうせCDで聴くのであればやはりこれくらい抜けのいい音がいい。 リミックスやリマスターについては否定的な向きもあるようだが、今回のアルバムを聴いて感じたのは、やはり聴き馴染んだ音をいい音で追体験できるというのは、とても幸福だということ。昔は今よりもずっと貧弱なシステムで不満を感じつつ聴いていたわけで、ほとんどのリスナーも同じような状況だったと思う。CDプレーヤーの性能がほぼ上がりきった今、ソフト側もそれにマッチした音であってほしいというのは、当然の欲求ではないでしょうか。 ただ1つ難を言うとすれば、すでにいろいろなところで指摘されているように選曲だろう。もうリマスター/リミックスが出ている「イエロー・サブマリン」は抜いてでも、2ndシングルの「プリーズ・プリーズ・ミ ー」を入れたほうがコンプリート感は上がったような気がする。まぁ、この後全アルバムがリマスタリングされれば問題ないわけだけど、一体いつになるのかなあ。 ■「ザ・ビートルズ 1」全曲リスト ※チャートは英がミュージック・ウィーク、米がビルボードによるもの。( )内はNo.1を獲得した週あるいは最高位です。
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M-01 Love Me Do ラヴ・ミー・ドゥ ご存知デビュー・シングルだが、実際にはポールが’58年頃に完成させていたといわれる。発売当初、英国では地元リヴァプールを中心に売れたものの全国的にはまだまだで、スマッシュ・ヒットにとどまった。米国では人気に火がついた後の64年4月に再発され、ナンバー1を獲得。ドラムスにセッション・ミュージシャンのアラン・ホワイトを起用したアルバム・バージョンと、リンゴが叩いたシングル・ヴァージョンが存在するが、今回収録されているのはもちろんリンゴのヴァージョン。
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M-02 From Me To You フロム・ミー・トゥ・ユー ’63年1月のシングル「Please Please Me」、3月に同タイトルのデビューアルバムを経て発売された英国第3弾シングル。当時人気のあった歌手、ヘレン・シャピロのコンサート・ツアーに同行した際、移動中のバスの中で書かれたジョンとポールの完全な共作である。ジョンの黒っぽいヴォーカルとポールのハーモニーが絶妙なブレンド具合。この時期から英国での人気は全国に広がり、一気に加熱していく。
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M-03 She Loves You シー・ラヴズ・ユー ポールによる“かけ合いの歌”というアイデアが基になった初期を代表する名曲。予約だけで50万枚売れたということからも、すでにビートルズの追っかけファンが存在していることがわかる。“I”ではなく“She”という3人称を使った間接的な愛情表現、“Yeah”“Woo”にメロディを付けるなど、今でこそポップ・フォーマットのスタンダードとなった手法はこの曲から始まった。
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M-04 I Want To Hold Your Hand 抱きしめたい ジョンとポールが一緒に書き上げた、これも初期の代表作。米ではこれがデビュー・シングルとなり、7週間トップに居座り続けた。英でも「She Loves You」と入れ替わりで1位に輝いた、ほとんどバケモノのような曲である。今回のリマスターで右チャンネルのジョージのギターが随分クリアに聞こえるようになった。
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M-05 Can’t Buy Me Love キャント・バイ・ミー・ラヴ
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M-06 A Hard Day’s Night ア・ハード・デイズ・ナイト 初の主演映画『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』の主題歌。前のシングルはイントロなし、この曲ではジョージのリッケンバッカー12弦ギターによる“ジャーン”である。自由奔放ながら、なんとも心憎い演出。ダイナミックな曲調がサビに入ると一転して寂しげになるところなど、ホントうま過ぎ。パーカッションの大幅なフューチャーも画期的だった。
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M-07 I Feel Fine アイ・フィール・ファイン カントリータッチのギター・リフとR&Bテイストが上手く組み合わされたジョンのナンバー。これもギターのフィードバックによるイントロが印象的だが、ジョンがギブソンのJ-160E(アコースティク・ギターだがピックアップが付いていてアンプから音を出すことができる)をいじっていたときに偶然飛び出したもの。こういうハプニングをそのまま素材にしてしまったのも、ビートルズが始めてじゃないだろうか。あと、このフィードバックの後ろでくしゃみみたいな音が聞こえるけど、なんだろう?
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M-08 Eight Days A Week エイト・デイズ・ア・ウィーク
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M-09 Ticket To Ride 涙の乗車券 硬質なギターの音色とタイトなドラムをバックに、憂いを帯びたジョンのヴォーカルが聴けるナンバー。イントロの12弦ギターはもちろんジョージ。リード・ギターはポールが弾いている。起伏に富んだベースラインにも注目したい。ジョンはこの曲を“最も早いヘヴィ・メタル・レコード”と後述している。
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M-10 Help! ヘルプ 2作目の主演映画『Help!』の主題歌。ジョンの個人的なお気に入りナンバーでもある。タイトルを叫ぶ歌い出しから畳みかけるようにコーラスの掛け合いに入る。最初に聴いたときはほんとにビックリして、何でこんな曲ができるんだろうと思ったもんだ。こういうかけ合いコーラスは今となっては古いのか、最近の曲では聴かれないけれど、ハマッてるとやっぱりかっこいい。
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M-11 Yesterday イエスタデイ 夢の中でインスピレーションを得たというポールの超名曲。メンバーに弾き語りで聴かせたところ、リンゴが「この曲にドラムを入れるなんてナンセンス」と言い、ジョージ・マーティンがポール1人でレコーディングすることを勧めたというエピソードが「アンソロジー」に紹介されている。ともかく、この1曲でビートルズは、彼らのことを単にうるさい音楽をやる連中と考えていた人達に完全に勝利してしまった。
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M-12 Day Tripper デイ・トリッパー ビートルズが飛躍的な成長を遂げたアルバム『ラバー・ソウル』と同時期に作られたシングル。ジョンが作ったフォーク・ナンバーがベースだが、結果的にはとてもアグレッシヴなロックに。なんといってもギターとベースのユニゾンによるリフがかっこいい。浮気な女性を題材にとった歌詞だが、実はドラッグ・ソングであることをジョンは認めている。
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M-13 We Can Work It Out 恋を抱きしめよう ジョンが演奏するハーモニウムの音色と、それをバックに歌うポールのソフトなメロディが独特のムードを醸し出す。ジョンが書いたサビではそれが一転して寂しげで悲痛なメッセージに。サビとエンディングの変拍子が効いているが、これはジョージのアイデアだという。
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M-14 Paperback Writer ペイパーバック・ライター 数あるビートルズ・ナンバーの中でも、最高にスリリングなイントロを持つ曲の1つ。ドライヴしまくるポールのベースも秀逸。売れない小説家が自分を売り込む詩はユーモラスだが、彼らが単純な恋愛沙汰を歌うことから卒業したことを如実に示している。コンサートで演奏された最後のシングルとなったが、メンバーはもはやこの曲をライヴで再現すること限界を感じていて、宣伝用の映像を撮影している。これが、まさしくプロモーション・ビデオの先駈け。
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M-15 Yellow Submarine イエロー・サブマリン
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M-16 Eleanor Rigby エリナー・リグビー 「Yesterday」で成功したストリングを再び取り入れたポールの格調高い名作。当時ポールはヴィヴァルディなどのバロック音楽を愛聴していたという。エリナー・リグビーという名前は、映画「Help」の共演者とブリストルにある店からとったらしいが、リヴァプールの墓地には実際にリグビー、歌詞に登場するマッケンジーという人物の墓がある。
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M-17 Penny Lane ペニー・レイン タイトルはジョンが幼い頃住んでいた家のそばにあるバス通りの名前。歌詞に登場する建物や店は実在し、現在はファンの巡礼スポットになっている。多彩なホーン・セクションを用い、晴れやかな中にも哀愁を帯びた曲に仕上がっている。カップリングの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」もジョンの家に近い孤児院のことで、図らずも故郷の思い出がモチーフになったシングル。
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M-18 All You Need Is Love 愛こそはすべて
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M-19 Hello Goodbye ハロー・グッドバイ
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M-20 Lady Madonna レディ・マドンナ ポールのオールド・タイミーなヴォーカルがたっぷりとフューチャーされた豪快なロックンロール。サックス・ソロとともに入るコーラスは、薄い紙を口に当てて歌っているそうで、いわば草笛のようなもの。なお、このシングルのB面には初めてジョージの曲「ジ・インナー・ライト」が収録されている。
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M-21 Hey Jude ヘイ・ジュード
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M-22 Get Back ゲット・バック 「レディ・マドンナ」の流れを受けたストレートでタイトなロックンロールナンバー。ライヴで録音されたため、初期のような生々しいサウンドに回帰している。キーボードにはジョージが連れてきたビリー・プレストンが参加し、スタジオ内の張り詰めたムードを一気に和やかにしてしまったという。
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M-23 The Ballad Of John And Yoko ジョンとヨーコのバラード
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M-24 Something サムシング 「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」「ヒア・カム・ザ・サン」と並ぶジョージの大傑作。美しいメロディと穏やかな曲調、ひたひたとサビに向かって盛り上るところなど、まさにジョージの真骨頂だ。ポールのベースについてジョージは音が多過ぎると言っているが名演だし、リンゴのドラムスも効果的。『アビイ・ロード』の中でもとりわけ完成度の高い曲になっている。
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M-25 Come Together カム・トゥゲザー
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M-26 Let It Be レット・イット・ビー
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| M-27 The Long And Winding Road ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード 英:発売なし 米:70年5月11日発売(70年6月13日から2週間) 日:70年9月5日発売 ビートルズ有終の美を飾る、感動的なバラード。ポール以外のメンバーとフィル・スペクターが無断でストリングスを入れたため、ポールとジョージ・マーティンが激怒したという哀しいエピソードはあるが、作品自体はそんなことが嘘のように美しい。 |
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(文●佐伯幸雄)
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