フロアで体感、“Music Speaks Itself”
~ | |
フロアで体感、“Music Speaks Itself”
|
“アンダーグランド”と“ポップ”、その2つを奇跡的に取り戻す |
しかし、もちろんのことスカムの哲学が揺らぐことはない。 寡作なボーラにゆっくりとしたペースで作品をつくる環境を与え、プッシュ・ボタン・オブジェクツやチーム・ドヨービ、ウェーヴィー・ストンダーといった新しいアーティストの発掘も、彼等は熱心に行なう。相変わらずジャケットはシンプルだが、それはその中に入っている音楽の素晴らしさからくる自信の表われでもあるのだ、ということも今や常識となった。 そして2002年5月25日、スカムは日本で初めてのレーベル・パーティーを行なった。事前に出演者は一切公表されず…頑なである。飾りっ気のない会場となった新宿LIQUIDROOMの内装もスカムにぴったりだ。彼等も気に入ったことだろう。 まず日本側のゲスト:リョウ・アライが2時間という長いセットを終えると、ゲスコムのDJが始まった。ゲスコムはオウテカも出入りするセッション・ユニットだが、同時にスカムのスタッフによるDJユニットでもある。この日はアンディ・マドックスとロブ・ホールがゲスコムとして来日した。変則的なビートのエレクトロニカを使ったプレイが終わると、ボーラがステージに登場。彼の傑作と呼び声の高い2ndアルバム『Fyuti』のジャケットも担当したインギーによるVJと、ボーラのラップトップ+シンセによるライヴは、意外にもいい意味で大衆的な感動が後に残るものだった。ハリウッド映画のようなざっくりとしたメランコリーではあるのだけれど、その明解さが逆にエレクトロニカの中では新鮮だったかもしれない。 その余韻に浸っていると、再びゲスコムのDJがスタート。今度はバッキバキのエレクトロだ…と思うとビートが複雑になっていったり……、そしてまたダンサブルになったりと、その緩急のつけ方が絶妙。さすが年期の入ったDJ。フロアはそれから3時間以上、揺れっぱなしだった。ボーラのライヴにしても、ゲスコムのDJにしても、彼らへの間違ったイメージ、つまりヘッド・ミュージックもしくはベッド・ルーム・ミュージックとしてのエレクトロニカを代表するレーベルだという、日本でのスカムに対するイメージを見事に修正してくれるものだったと思う。 まさに「Music Speaks Itself」。 スカムは“アンダーグラウンド”にこだわっているからと言って、多くの人に聴かれること、つまり“ポップ”を拒否しているわけではない。彼らはそのふたつを奇跡的に両立させた初期のレイヴ・カルチャーが持っていた可能性を、もう一度取り戻そうとしているのだとさえ言えるだろう。それは5月22日のLIQUIDROOMにおいては、見事に成功していた。 文●磯部 涼 |