鍛え上げられた余裕のパフォーマンス

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鍛え上げられた余裕のパフォーマンス

彼らが置かれている立場は、たった半年の間にこんなにも大きく変化した

最新 Album

『クリスマス・イブ Rap』

ワーナーミュージック・ジャパン HDCA-10077
2001年11月07日発売 1,050(tax in)

1 クリスマス・イブ
2 クリスマス・イブ (instrumental)



Kick The Can Crewを渋谷CLUB QUATTROで観るのは2回目になる。

前回の5月に行なわれたライヴでは、Kick The Can CrewにとってQUATTROは初めて踏むステージで、メジャー・デビュー後、初のワンマンだった。その日は完全招待制で、応募して来たのは主に彼等を昔から支えてきた熱心なサポーター… Kick The Can Crewが池袋のBEDというクラブで毎月やっているイベント“ダイナマイト”に通う人達であったのだろう。

その既に6年を越える歴史を持ったイベントに漂うアット・ホームな空気と近いものが11月2日のQUATTROを満たしていた。その時Kick The Can Crewは顔なじみのお客さんを前にして、いつもとは全く違ったトラックを使った、冒険的なライヴ・ステージを披露する。

それはまるで彼等なりの、新しい挑戦に対するための肩ならしとも、最後の羽目外しとも感じられたものだ。

今回QUATTROの前に着いてまず驚いたのが、その人の多さだ。ソールド・アウトした会場は入場のスピードを制限しないと危険な程だったのだ。そしてこの日のお客さんは前回より平均年齢がずっと若かったように思う。確かにクラブを中心に活動を行なうKick The Can Crewのライブを観るなら、中高生にとってはこういう早い時間に始まるイベントしかない。この日の幼さの残る客層が、夏に「イツナロウバ」をスマッシュ・ヒットさせて以降、RIP SLYMEに続いて、ヒップホップ・シーン以外からも注目される事になったKick The Can Crewの、今のファンの代表なのだ。Kick The Can Crewが置かれている立場はたった半年の間にこんなにも大きく変化したのだ。

ライヴは前回と同じく“ダイナマイト”を主宰するDJタツタのプレイで始まった。前回それは“ダイナマイト”を再現し、和んだ雰囲気をさらに盛り上げるために機能したと思うが、今回は、ヒップホップという音楽に興味を持ちはじめたばかりの子達に、その楽しさを伝えようとしているように僕には聴こえた。事実、選曲後半は殆ど日本語ラップだった。既にその前振りの段階からステージに上がって煽っていたKick The Can Crewは、本編も相変わらず余裕の、鍛え上げられたパフォーマンスで乗りこなす。

「カンケリ01」「スーパー・オリジナル」とメジャー後のシングルで始まったライヴは、ツアー・タイトルでもある“3MCs+1DJ”、1stアルバムからアッパーな「X-amount」「エルニーニョ」と続き、壮大な「LIFE LINE」で1つ目のクライマックスを迎える。ステージ上に設置されたバーカウンターから強制的(?)に渡されるアルコールをガソリンに、「KA・RU・KU FICTION」「灼熱舞踏会」「今日カラ明日」とパーティーな雰囲気のパートに。そして「ユートピア」「タカオニ2000」でヴェクトルはもう一度センチメンタルな雰囲気に戻り、観客全員が待っていただろう「イツナロウバ」で最大のクライマックスが…いや、さらにラスト曲として定番の「GOOD TIME !」で絶頂に達し、終了。練られた構成で、文句無しの出来だった。

今回は全てオリジナル・トラックだったのと、曲間のMCが多めだったのも、この日の客層には良かったに違いない。ただ、アンコールなしは清くていいとしても、最後に「アンコールをやらない代わりに…」と言って流した新曲「クリスマス・イブRap」はちゃんと歌うべきだった。この日は少なかったのかもしれないが、確かに居た昔からのファンのために、彼等が今どこに向かおうとしているのか、なぜこの曲をリリースするのか、ちゃんと歌って説明するべきだったと思う。

今後ファンの二分化は、来春の2ndアルバム発売以降にますます進むだろうし、前に進む事で精一杯の彼等には口うるさく感じるかもしれないが、言っておきたい。

僕達はもちろん期待もしているが、不安もあるのだと。

文●磯辺 涼(01/11/23)

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